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ダメ人間、服を買う ②
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夏休み中ということもあり、駅前のショッピングモールはかなりのにぎわいを見せていた。
基本的に家に引きこもっている俺と日向にとってこの人混みはなかなかにこたえる。
「うわぁ、人やばいね」
と、うへぇーと聞こえてきそうな表情で日向。
「家族連れとカップルばっかりって感じだな」
「傍から見たら私達もそのカップルの一組だと思われてるんじゃない?」
日向はそれなりにちゃんとした格好をしているが、俺は寝間着と間違われてもおかしくない短パンとTシャツのため、なんとも釣り合いの取れていない二人組に見えていることだろう。
「いや、それはないんじゃないか?俺の格好じゃ」
「もうちょっとおしゃれしたら、環くんは結構いい線いくと思うんだけどな」
珍しく日向が俺を褒める言葉が口にした。
「まじ?信じちゃうからね俺は。もう撤回はできないからな」
ここぞとばかりに調子に乗る俺に対して、
「いくら着飾っても、隠しきれない陰のオーラがあるからそこはどうにもならないけどね!」
日向は容赦なく突き刺してくる。俺って陰のオーラ出てたんだ…。陽の者ではないけれど、まあ陰の者でもないだろうという自己評価だっただけにショックをかくしきれない。
陰とか陽とかそんなこと言ってる時点で俺はだめなんだ、気にしない気にしない、と頭の中で自分を納得させて気を取り直す。
「そんな陰のオーラすらも抑え込めるような服を、日向さんのお力で探していただけると…!」
恥を忍んで日向に頭を下げる。ダメ人間の俺に今更失うものなんてない。恥やプライドなんてクソくらえである。
「まあまあ、任せときなって!」
おだてられてご機嫌な日向とともにショッピングモールを見て回る。
「環くんはいっつも黒のパンツに白のTシャツしか着てないよね。しかも、サイズも合ってないし」
「はい、おっしゃるとおりです。」
「とりあえず、ちょっと明るい色の服を探そっか。」
「仰せのままに」
すべて日向の言うことに従う。実際に日向の言ってることは正しいと思う。普段は何も考えずに黒のパンツに白のTシャツを着ている。なんとなく明るい色の服を着るのは避けてきていた。
日向の指導の元、何軒か服屋を見て回って上下二着ずつ着回しやすそうなものを選んでもらった。
実際に日向の見る目は確かで、ファッション素人の俺から見てもこれまでの服よりもはるかに見れる服装になっていると思う。
「うんうん、なかなかいいんじゃない?さすが私!」
日向もご満悦の表情だ。しかし、なにかに納得がいかないようで、顎に手を当てて、うーんと唸っている。
「いや本当に助かった。一人だったらいつもと同じような服を結局選んでしまってたと思うし。ありがとうな」
「悪くない、悪くないんだけど…。やっぱりにじみ出る陰のオーラが隠しきれていない…!」
「それはどうにもならないだろう…」
「うーん…。やっぱり髪型じゃないかな?」
「髪型かぁ。あんまり気にしたことなかったな」
2ヶ月に一回くらい、家の近くの散髪屋で適当に切ってもらっているだけで、なんのこだわりもない。今も、かなり伸びていて前髪で目が隠れそうなくらいになっている。もちろんセットもしておらず、やっていることといえば寝癖を直しているくらいだ。
「髪型が一番大事と言っても過言ではないよ!私が行ってる美容室教えてあげるから今から一緒に行こ。あそこなら美容師さんもほとんど話しかけてこないから環くんでも大丈夫だよ!」
ニコッと優しい笑顔で日向は俺を見る。なんとも悲しい気遣いをされている。優しさが人を傷つけることもあるのだと教えてやりたい。
「コミュ障は日向も一緒じゃ…」
ボソッと口から出た俺の言葉に日向が応じる。
「そのおかげで、行きやすい美容室を知れるんだから、環くんは私に感謝すべきだと思うんだけどなー」
そのとおりである。実際に自分一人でオシャレ美容室を探して美容師さんとコミュニケーションを取ることを考えると…。日向に感謝してもしきれない。
「日向さん…!本当にありがとうございます…!日向のコミュ力が低くて本当によかった!」
俺は心からの感謝の意を込めて、日向に深く頭を下げる。
「言い方だよ!」
「冗談だって、でも助かったのは本当だから、ありがとうな」
「はいはい、ほら美容室いくよ」
~~~~~~~~~~~
ショッピングモールを後にした俺と日向は、同じく駅前にある美容室に来ていた。それなりの客入りではあったが、なんとか予約無しで入ることができた。
大学生にもなって付き添いありで髪を切りに来ていることは大変恥ずかしかったが、そんなことを言っていられる立場ではない。
今日はどうしますか?と美容師さんが訊ねてくる。俺は、…いやちょっと初めてで、どんな髪型っていうか、切るというか、えっーと、とひたすらにアワアワしていた。美容師さんは困った顔をしている。見かねた日向が、小さくため息を付いて助け舟を出してくれた。
「あの…、この人に似合いそうな短めの髪型で、セットが簡単にできるものでお願いします」
美容師さんは、はいっ!と明るく返事をして、助かった~という感じでカットを始める。
俺も内心助かった~という気持ちでいっぱいだった。超恥ずかしい。あとで日向にお礼言わなくては。
30分ほどでカットが終わり、こんな感じでいかがでしょう?と美容師さんがなぜか俺ではなく日向に話しかける。完全に日向が保護者だと思われているなこれ。間違っていないから何も言えないけど。
「いい感じです。これで大丈夫です。」
日向のOKが出たので、カット終了である。シャンプーをして、簡単にセットしてもらう。
会計をして、小さくなりながら店を出る。
「はぁ、環くん、次からは自分で頑張ろうね?」
「はい。本当にありがとうございます…。」
「でも、見た目は結構いい感じだよ。これからは多少は見た目も気を使ってくれると嬉しいな」
「うん、一緒に歩いて日向が恥ずかしくないくらいには頑張るよ」
「っ、そうだよ!これからも色んなところ一緒に行くんだからね!」
日向は少し照れているようだ。夕焼けの赤みが差して、俺も照れていることはきっとバレていない。
ずっと先の将来のことはわからないけれど、日向の描く少し先の未来に俺の姿があることが嬉しい。
こんな日々もいつかは終わりが来る。
俺も日向も今は社会のレールから外れたダメ人間としてモラトリアムを過ごしているけれど、きっと遠くない未来まともに生きていかなければいけないときが来る。
その時に俺は日向の隣にいられるかはわからないけれど。きっとこの時間は忘れないだろう。
「日向、夕飯どうするよ?」
「たまには環くんの野菜炒めでもいいかなー」
基本的に家に引きこもっている俺と日向にとってこの人混みはなかなかにこたえる。
「うわぁ、人やばいね」
と、うへぇーと聞こえてきそうな表情で日向。
「家族連れとカップルばっかりって感じだな」
「傍から見たら私達もそのカップルの一組だと思われてるんじゃない?」
日向はそれなりにちゃんとした格好をしているが、俺は寝間着と間違われてもおかしくない短パンとTシャツのため、なんとも釣り合いの取れていない二人組に見えていることだろう。
「いや、それはないんじゃないか?俺の格好じゃ」
「もうちょっとおしゃれしたら、環くんは結構いい線いくと思うんだけどな」
珍しく日向が俺を褒める言葉が口にした。
「まじ?信じちゃうからね俺は。もう撤回はできないからな」
ここぞとばかりに調子に乗る俺に対して、
「いくら着飾っても、隠しきれない陰のオーラがあるからそこはどうにもならないけどね!」
日向は容赦なく突き刺してくる。俺って陰のオーラ出てたんだ…。陽の者ではないけれど、まあ陰の者でもないだろうという自己評価だっただけにショックをかくしきれない。
陰とか陽とかそんなこと言ってる時点で俺はだめなんだ、気にしない気にしない、と頭の中で自分を納得させて気を取り直す。
「そんな陰のオーラすらも抑え込めるような服を、日向さんのお力で探していただけると…!」
恥を忍んで日向に頭を下げる。ダメ人間の俺に今更失うものなんてない。恥やプライドなんてクソくらえである。
「まあまあ、任せときなって!」
おだてられてご機嫌な日向とともにショッピングモールを見て回る。
「環くんはいっつも黒のパンツに白のTシャツしか着てないよね。しかも、サイズも合ってないし」
「はい、おっしゃるとおりです。」
「とりあえず、ちょっと明るい色の服を探そっか。」
「仰せのままに」
すべて日向の言うことに従う。実際に日向の言ってることは正しいと思う。普段は何も考えずに黒のパンツに白のTシャツを着ている。なんとなく明るい色の服を着るのは避けてきていた。
日向の指導の元、何軒か服屋を見て回って上下二着ずつ着回しやすそうなものを選んでもらった。
実際に日向の見る目は確かで、ファッション素人の俺から見てもこれまでの服よりもはるかに見れる服装になっていると思う。
「うんうん、なかなかいいんじゃない?さすが私!」
日向もご満悦の表情だ。しかし、なにかに納得がいかないようで、顎に手を当てて、うーんと唸っている。
「いや本当に助かった。一人だったらいつもと同じような服を結局選んでしまってたと思うし。ありがとうな」
「悪くない、悪くないんだけど…。やっぱりにじみ出る陰のオーラが隠しきれていない…!」
「それはどうにもならないだろう…」
「うーん…。やっぱり髪型じゃないかな?」
「髪型かぁ。あんまり気にしたことなかったな」
2ヶ月に一回くらい、家の近くの散髪屋で適当に切ってもらっているだけで、なんのこだわりもない。今も、かなり伸びていて前髪で目が隠れそうなくらいになっている。もちろんセットもしておらず、やっていることといえば寝癖を直しているくらいだ。
「髪型が一番大事と言っても過言ではないよ!私が行ってる美容室教えてあげるから今から一緒に行こ。あそこなら美容師さんもほとんど話しかけてこないから環くんでも大丈夫だよ!」
ニコッと優しい笑顔で日向は俺を見る。なんとも悲しい気遣いをされている。優しさが人を傷つけることもあるのだと教えてやりたい。
「コミュ障は日向も一緒じゃ…」
ボソッと口から出た俺の言葉に日向が応じる。
「そのおかげで、行きやすい美容室を知れるんだから、環くんは私に感謝すべきだと思うんだけどなー」
そのとおりである。実際に自分一人でオシャレ美容室を探して美容師さんとコミュニケーションを取ることを考えると…。日向に感謝してもしきれない。
「日向さん…!本当にありがとうございます…!日向のコミュ力が低くて本当によかった!」
俺は心からの感謝の意を込めて、日向に深く頭を下げる。
「言い方だよ!」
「冗談だって、でも助かったのは本当だから、ありがとうな」
「はいはい、ほら美容室いくよ」
~~~~~~~~~~~
ショッピングモールを後にした俺と日向は、同じく駅前にある美容室に来ていた。それなりの客入りではあったが、なんとか予約無しで入ることができた。
大学生にもなって付き添いありで髪を切りに来ていることは大変恥ずかしかったが、そんなことを言っていられる立場ではない。
今日はどうしますか?と美容師さんが訊ねてくる。俺は、…いやちょっと初めてで、どんな髪型っていうか、切るというか、えっーと、とひたすらにアワアワしていた。美容師さんは困った顔をしている。見かねた日向が、小さくため息を付いて助け舟を出してくれた。
「あの…、この人に似合いそうな短めの髪型で、セットが簡単にできるものでお願いします」
美容師さんは、はいっ!と明るく返事をして、助かった~という感じでカットを始める。
俺も内心助かった~という気持ちでいっぱいだった。超恥ずかしい。あとで日向にお礼言わなくては。
30分ほどでカットが終わり、こんな感じでいかがでしょう?と美容師さんがなぜか俺ではなく日向に話しかける。完全に日向が保護者だと思われているなこれ。間違っていないから何も言えないけど。
「いい感じです。これで大丈夫です。」
日向のOKが出たので、カット終了である。シャンプーをして、簡単にセットしてもらう。
会計をして、小さくなりながら店を出る。
「はぁ、環くん、次からは自分で頑張ろうね?」
「はい。本当にありがとうございます…。」
「でも、見た目は結構いい感じだよ。これからは多少は見た目も気を使ってくれると嬉しいな」
「うん、一緒に歩いて日向が恥ずかしくないくらいには頑張るよ」
「っ、そうだよ!これからも色んなところ一緒に行くんだからね!」
日向は少し照れているようだ。夕焼けの赤みが差して、俺も照れていることはきっとバレていない。
ずっと先の将来のことはわからないけれど、日向の描く少し先の未来に俺の姿があることが嬉しい。
こんな日々もいつかは終わりが来る。
俺も日向も今は社会のレールから外れたダメ人間としてモラトリアムを過ごしているけれど、きっと遠くない未来まともに生きていかなければいけないときが来る。
その時に俺は日向の隣にいられるかはわからないけれど。きっとこの時間は忘れないだろう。
「日向、夕飯どうするよ?」
「たまには環くんの野菜炒めでもいいかなー」
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