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6 不穏
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翔太の試合後、順調にトーナメントは進み、大会1日目は幕を閉じた。未来を支える若き魔導士の卵たち。しかし、光あるところには影が生まれるのが世界の道理。その影は悪意を持ち、着々と力をつけていることに誰も気づけずにいる。
―とある家の一室―
魔導高校はヒノミナの中心、最も栄えている街に位置する学校である。ここはそんな中心街から遠く離れた、人気の少ない場所。周りには自然が広がり、家が点々と建てられている。
その男は椅子に座り、手に取った何枚かの紙を一枚一枚めくりながら不敵な笑みを浮かべている。
年齢は30代後半、少し長めの前髪を真ん中で分けている。服装も含め男の全体的な清潔感とは裏腹に、声色や眼には形容しがたい怪しいものを感じさせた。特にその赤黒く濁った眼には。
「今と昔、皆はどれだけ成長し、魔法というものを高めていけたのかな。」
そんな言葉に返すのは眼鏡をかけた一見どこにでもいそうなスーツ姿の男。
「情報は渡した。俺はお暇させてもらうよ。」
眼鏡の男はそう言うと出口のドアに向かって歩き始めた。ドアのぶに手をかけ、開けようとするが開かない。鍵は開いているはずなのにびくともしないそのドア、男は瞬間、最悪を脳によぎらせる。
「答えは何も成長していない。それどころか弱まっている。もちろん今の時代にも強き者たちはいる。魔法全盛期、その最上位の魔導士と渡り合えるような者たちがね。だけどそれもひと握り。いや、もはや存在していないに等しいぐらい数を減らしている。」
椅子に腰を掛けたままドアの方向に体を向け、何かを楽しむかのように意気揚々と話し始めた。眼鏡の男は一刻もこの場から逃げなければならないと本能で感じ、ドアを強い力で押し続ける。
「そんな化け物じみた者たちがはびこる魔法全盛の時代、その中にいた一人の男。力のままに皆を服従させ、思うままに力をふるい続けた魔王のような存在。結局封印されてしまったけどね。」
長々と話し続ける彼に、脱出経路を見出すために時間を稼ごうと苦し紛れに言葉を絞り出す。
「何の話をしてるんだ、、、お前は。」
「喋りすぎたね。僕の悪い癖だ。」
男は話し終わると、立ち上がり少しづつドアの方へ足を進める。
「いい仕事ぶりだったよ。」
ぷつん。最後に見たのは自分が逆さまに落ちていく光景だった。違和感があるとすれば自分の体が目に入ってくることぐらいで他に変わった様子はない。
頭頂部付近に強い衝撃を感じた。
完全に息絶えたその眼鏡の男の前に依然立ち続ける男。
「まだやることは多くある、リスクは排除しないとね。後の処理は頼んだよ。」
ドアの鍵が開き、数人の人間が入ってくる。彼らは男の命令通り速やかに死体を処理。その部屋の中は先ほど起きたことを感じさせることはなかった。
―魔導高校―
一回戦で負けてしまった翔太はその結果にひどく落ち込み、大会の1日目が終了し、皆が下校する中一人教室で考え込んでいた。
「あと2年、、」
自身に残されたこの学校での期間は2年と8か月ほど。その中で果たして魔導士になれるだけの力を示すことができるのだろうか。今日の試合で痛感した魔法をもつ者の可能性とそうでない者の可能性の差。
「頑張らなきゃ。」
落ち込むことも悲観することも必要ない。ただ今やれることをやるべきだと己を奮い立たせ、翔太は帰りの支度をし始めた。
「あの~」
そこには数人の生徒が立っていた。彼らは確か自分と同じクラスメイトの人たち。しかし、なぜ自分の目の前に現れたのか見当もつかない。翔太が何も言わずにただ黙っていると、彼らの中の1人がしゃべり始める。
「翔太君だよね、僕らずっと翔太君がいじめられてるの知ってるのに、、、、でも何もしなかった。正直あの江島って子怖かったし。今日の試合見てたんだけど、1人でも、あんなに頑張ってるのに、本当にごめんなさい。突然出し、なんか変に思うかもしれないけど。もし許してくれるなら僕らのこといつでも頼ってほしい。」
もっと長く続くと思っていた嫌な学校生活。そんな生活も3年もすれば無くなる。最高の人を師に持ち、自分の中では満足できていたはずだった。
ほんの少し眼がじんわりと熱くなる。本当は友達が欲しい。競い合えるような仲間がいればといつも考えていた。
「ありがとう。ごめん、用事あるから早く帰らないと。また明日。」
「うん。また明日。」
彼らは笑顔でさよならをしてくれた。翔太は彼らの顔を見ずに、ただひたすら急いで家に向かう。走っている自分は今どんな顔をしているだろう。通行人は少ないが、少し不思議そうな目で皆こちらを見ていた。悔しくて、落ち込んで、でも涙が出るほど嬉しくて笑顔になれた今日という1日は、翔太にとって一生忘れることはない1日となった。
―とある家の一室―
魔導高校はヒノミナの中心、最も栄えている街に位置する学校である。ここはそんな中心街から遠く離れた、人気の少ない場所。周りには自然が広がり、家が点々と建てられている。
その男は椅子に座り、手に取った何枚かの紙を一枚一枚めくりながら不敵な笑みを浮かべている。
年齢は30代後半、少し長めの前髪を真ん中で分けている。服装も含め男の全体的な清潔感とは裏腹に、声色や眼には形容しがたい怪しいものを感じさせた。特にその赤黒く濁った眼には。
「今と昔、皆はどれだけ成長し、魔法というものを高めていけたのかな。」
そんな言葉に返すのは眼鏡をかけた一見どこにでもいそうなスーツ姿の男。
「情報は渡した。俺はお暇させてもらうよ。」
眼鏡の男はそう言うと出口のドアに向かって歩き始めた。ドアのぶに手をかけ、開けようとするが開かない。鍵は開いているはずなのにびくともしないそのドア、男は瞬間、最悪を脳によぎらせる。
「答えは何も成長していない。それどころか弱まっている。もちろん今の時代にも強き者たちはいる。魔法全盛期、その最上位の魔導士と渡り合えるような者たちがね。だけどそれもひと握り。いや、もはや存在していないに等しいぐらい数を減らしている。」
椅子に腰を掛けたままドアの方向に体を向け、何かを楽しむかのように意気揚々と話し始めた。眼鏡の男は一刻もこの場から逃げなければならないと本能で感じ、ドアを強い力で押し続ける。
「そんな化け物じみた者たちがはびこる魔法全盛の時代、その中にいた一人の男。力のままに皆を服従させ、思うままに力をふるい続けた魔王のような存在。結局封印されてしまったけどね。」
長々と話し続ける彼に、脱出経路を見出すために時間を稼ごうと苦し紛れに言葉を絞り出す。
「何の話をしてるんだ、、、お前は。」
「喋りすぎたね。僕の悪い癖だ。」
男は話し終わると、立ち上がり少しづつドアの方へ足を進める。
「いい仕事ぶりだったよ。」
ぷつん。最後に見たのは自分が逆さまに落ちていく光景だった。違和感があるとすれば自分の体が目に入ってくることぐらいで他に変わった様子はない。
頭頂部付近に強い衝撃を感じた。
完全に息絶えたその眼鏡の男の前に依然立ち続ける男。
「まだやることは多くある、リスクは排除しないとね。後の処理は頼んだよ。」
ドアの鍵が開き、数人の人間が入ってくる。彼らは男の命令通り速やかに死体を処理。その部屋の中は先ほど起きたことを感じさせることはなかった。
―魔導高校―
一回戦で負けてしまった翔太はその結果にひどく落ち込み、大会の1日目が終了し、皆が下校する中一人教室で考え込んでいた。
「あと2年、、」
自身に残されたこの学校での期間は2年と8か月ほど。その中で果たして魔導士になれるだけの力を示すことができるのだろうか。今日の試合で痛感した魔法をもつ者の可能性とそうでない者の可能性の差。
「頑張らなきゃ。」
落ち込むことも悲観することも必要ない。ただ今やれることをやるべきだと己を奮い立たせ、翔太は帰りの支度をし始めた。
「あの~」
そこには数人の生徒が立っていた。彼らは確か自分と同じクラスメイトの人たち。しかし、なぜ自分の目の前に現れたのか見当もつかない。翔太が何も言わずにただ黙っていると、彼らの中の1人がしゃべり始める。
「翔太君だよね、僕らずっと翔太君がいじめられてるの知ってるのに、、、、でも何もしなかった。正直あの江島って子怖かったし。今日の試合見てたんだけど、1人でも、あんなに頑張ってるのに、本当にごめんなさい。突然出し、なんか変に思うかもしれないけど。もし許してくれるなら僕らのこといつでも頼ってほしい。」
もっと長く続くと思っていた嫌な学校生活。そんな生活も3年もすれば無くなる。最高の人を師に持ち、自分の中では満足できていたはずだった。
ほんの少し眼がじんわりと熱くなる。本当は友達が欲しい。競い合えるような仲間がいればといつも考えていた。
「ありがとう。ごめん、用事あるから早く帰らないと。また明日。」
「うん。また明日。」
彼らは笑顔でさよならをしてくれた。翔太は彼らの顔を見ずに、ただひたすら急いで家に向かう。走っている自分は今どんな顔をしているだろう。通行人は少ないが、少し不思議そうな目で皆こちらを見ていた。悔しくて、落ち込んで、でも涙が出るほど嬉しくて笑顔になれた今日という1日は、翔太にとって一生忘れることはない1日となった。
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