魔導士の弟子

赤丸

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4 来たる大会

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魔導高校ではあと1か月もすれば大会が開かれるため、多くの人がそれに向けて準備に専念していた。3学年、4クラス各16名で構成されているこの学校では、2日間に分けてトーナメント形式で進行する。1日目では各学年並行して残り4名となる準々決勝まで行い、2日目に残りの決勝と準決勝を1年生、2年生、3年生の順に進める。大会には現役の魔導士が多く観戦に来るため初戦で敗退しようと勝ち進んでいこうと、試合の一挙手一投足が判断材料となる。

「なぁ、誰が優勝すると思う?」

「俺ら1年じゃ新光かなぁ、父親が第0魔導士だもん。別格感すごくね?」

「確かになぁ、2年3年はあんまり分からんよな。でも3年の試合めっちゃ楽しみやなぁ、参考にしよっと。」

1年生の各クラスでは誰が優勝するのか、上級生たちがどんな試合を見せてくれるのかでにぎわっていた。しかし、そんな生徒とは裏腹に周囲のことなど意にも介さず淡々と修行に励む者、ひどく考え込む者もいた。

―放課後―
「江島―!放課後飯行こうぜー!」

「いや、今日はいい。」

「りょうかーい。」

公園での一件以降、彼の頭の中にはあの一戦、正確には戦いにすらなっていないがそれが深く刻み込まれていた。どこにでもいる普通の生徒、この学校では底辺にも等しい存在のはずだ。そんな人間に用事があるとやってきた遥か高みにいる者がいたのだ。どういう関係か、偶然出くわしただけなのか、何か裏があるかもしれないと脳内の隅にこびりついていた。

「くそが、、、」

やり場のない感情をすぐにでも発散しようと彼はいつもより早足で家に帰った。


―大会二週間前―

翔太はいつものようにマドイの家で修行に励んでいた。
「少し慣れてきたんじゃないか。」

「いや」

彼女に返事をしようと言葉を出した瞬間、衝撃とともに後方に吹き飛ばされた。

「集中集中。」

少し理不尽だと感じつつも、修行とはこのようなものだと自分に言い聞かせることで再び気合を入れなおす。しかし、入れなおした気合も彼女の休憩と言う言葉によって再びどこかに行ってしまった。

「どうだい、戦う相手はもう決まってるのか?」

「一応は決まってますね。」

つい先日の金曜日に配られたトーナメント表。出来るなら推薦組や名のある人たちとは当たりたくはないが、そんな希望は表を見た瞬間にあっさりとへし折られてしまう。

「君の一回戦の相手は~」

そんなことはつゆ知らず、彼女は呑気にトーナメント表を見ていた。

「九津見暁波(くつみあきは)。どうだい?この対戦相手は。」

「正直勝てる気がしません、、、」

弱弱しい声で発した言葉だった。彼、九津見もまた江島と同様に推薦組の一人である。さらに九津見家は水魔法の使い手の中でも最高峰の一族であり、そんな中で将来有望と謳われた彼との戦い。その結末は誰が見ても同じ、自分が負ける。
試合前から敗北を認めざる負えないが、今の自分は違う。やれるだけやる、今持てる自分の力を全て出し切ろうと強く拳を握りしめていた。

「言葉の割には随分明るい顔をしてるね。」

彼女は自分のやる気に応えようとしてくれたのか、今日の修行はいつもより辛いものだった。

それから時は経ち、大会当時を迎えた。

「それでは校長先生からの開会の挨拶です。」

出てきたのは思いのほか普通のおじいちゃんであった。立派な髭があるわけでも、大魔導士のような様相をしているわけでもない。きれいなスーツに整った白い髪、そんな男が老眼鏡をかけて登壇した。少し特徴的な点があるとすれば随分と体格がいいという点だろう。

「生徒の皆さん。今大会では多くの現役魔導士の方々があなたたちの試合を見に来られています。3年生の諸君にとっては非常に重要な2日間です。持てる全てを出し切れるよう励んでください。1年生、2年生諸君にとっても当然重要な場であり、当然結果に固執する者もいるでしょう。しかし、結果だけでなく試合そのもの。自分の試合から学び、友の試合から学び、上級生たちから学ぶ。この2日間が最大限自分を成長させる学びの場だと思って望んでください。」

校長の言葉が終わり、大会の進行が進むといよいよ第1回戦の試合が始まろうとしていた。

―第1回戦1年生の部―

試合は順調に進み、1回戦最後の試合で自分の出番が回ってきた。

「それでは第1回戦最後の試合となります。日野翔太君。九津見暁波君。」

アナウンスの声に促され、試合の場へと足を進める。目の前に彼がいる。他の生徒とはまるで違う威圧感を肌にビリビリと受けていた。

「それでは試合を始めてください。」
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