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第四夜 心の在処
廿八 夜が明けて②
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「は……」
欲を言えば行水ではなく、湯浴みをしたかった。
しかし庵に風呂場はなく、篤実は一度目と同じように沸かした湯で身体を拭い汚れを流す。
「……腹が…」
一晩中、十兵衞の魔羅と子種汁漬けにされた腹は、抜き取られても未だ違和感が残っていた。
一人、庵の裏で裸になりながら、篤実は己の身体を見下ろした。
――こんなはしたない身体になって、沢山の人の期待を裏切ってしまった。
元より背も高いとは言えず、骨から細かったのか鍛えても然程大きくはならなかった。それでも、あの戦の頃は一目見れば男と分かる身体であった。
今はどうだ。
肋を覆う胸板に、なだらかな傾斜のある微かな膨らみがついて、すこしくすんだ桃色の乳輪がぷくりともう一段膨らみ、乳頭も飛び出している。
下腹には昨夜の情交で十兵衞の指の痕が刻まれ、臍の下から下生えのすぐ上にかけて赤い紋が浮かび上がっていた。その下腹も、薄く柔らかな肉の層が覆っていて丸みを帯びた線を描いている。
一番肉がついたのは尻から太腿であろう。男に媚びを売ると、桃のような形だと言われ決まって揉まれた。菊座を拓かれ、逸物を捻じ込まれ、ジンジンと赤く熱を持つまで腰を叩きつけられた尻は、丸くむっちりとした肉感がある。
「は……」
十兵衞が、気持ちいいと言いながら抱いて、子種を吐いたこの体。
元服し、立派な男の手本になれず、快楽に溺れる己の弱さを体現した我が身。
「う……ぅ……」
儀式の中で誘惑に負け、尻で絶頂を味わうことを知ることと引き換えに、篤実の逸物は使い物にならなくなった。
周囲の期待を裏切り、血筋を残す務めを果たせなくなった己に居場所が有って良いはずが無い。父上や兄上達は否定するが、自分が母上を死に追いやったようなものだ。
『己は最早、此処に居て良い者ではありません。どうか、初めから居なかった者として……己を』
――そして、廃位の噂が囁かれていると知り、自ら願い出た。
『雪千代、何も其処まですることは無かろう。子が作れなくとも、其方が果たせる役は幾らでも有る』
父である今上帝は息子の思い詰めた申し出を断り、引き留めようとした。
『……申し訳…ありません、父上…いえ、陛下』
『雪千代…』
『…手につかないの…です』
ただ不能になっただけが、篤実の矜持を折ったのでは無い。
『何が…あったのだ』
『……儀式に…失敗してから、己は』
篤実の身に起きた変化。その事実を打ち明けるのは、たとえ実の父が相手だとしても、あまりにも辛かった。
『し……尻に…欲しくて、仕方が…なく……そんな…はしたない考えに身も心も支配されて、何も…手につかぬのです』
『――…』
『斯様な痴れ者が…陛下のお役に立てる筈が御座いません。此処まで育てていただいた恩に、恥で仇を返す前に、どうか…父上』
『余に、妻に続いて…息子を喪えと言うのか』
父の声は、それまで篤実が聞いたことが無いようなか細い声だった。
『ッ――……申し訳…御座いません…申し訳御座いません…』
今上帝の前から下がった直後に、兄の一人と顔を合わせたが、篤実は目を伏せ足早に横を通り過ぎた。
都を出て、手持ちの資金が無くなり、女に頭を下げたこともある。
だが、篤実の若い体に期待した女達は閨で裏切られたと言わんばかりに役立たずと罵った。柔らかな女の体に触れても、股座を弄られても篤実の男は反応しなかったからだ。
そんな数々の出来事が、親王篤実雪政をじわじわと殺した
「若君?」
不意に十兵衞の声が響き、篤実の意識は現実に戻された。
「……十兵衞」
十兵衞が湯気の立つ桶を片手に提げ、篤実の声と気配を頼りに近付いてくる。
「湯は足りたか、若君。戻らねえンで、もう一杯持ってきたんだが」
「……ありがとう」
篤実が手を伸ばすと、指先が触れたところで十兵衞は足を止めた。湯の入った桶を握らされ、十兵衞の顔を見上げる。彼は一歩後ろに退いた。
「いや、礼には及ばねえ」
「そういう訳にもいかぬ」
篤実はもう一度、湯に水を足してから手拭いで体を清めた。両手で絞ると、冷めた湯が足元にぽたぽたと落ちる。
濡れた髪を背中へと払い、新しい浴衣を羽織り振り返る。十兵衞はまだ篤実の前に立っており、行水に使った桶や盥を手探りで拾い上げた。
「己の体が……どうなっているのか、そなたは触れてわかるのか」
「……その…それは」
十兵衞が言い淀んだ姿を見て、胸が締め付けられるような苦しさが込み上げる。
「……――」
十兵衞は盥を脇に抱えて、頭を掻いていた。
「己に、失望したであろう、十兵衞」
欲を言えば行水ではなく、湯浴みをしたかった。
しかし庵に風呂場はなく、篤実は一度目と同じように沸かした湯で身体を拭い汚れを流す。
「……腹が…」
一晩中、十兵衞の魔羅と子種汁漬けにされた腹は、抜き取られても未だ違和感が残っていた。
一人、庵の裏で裸になりながら、篤実は己の身体を見下ろした。
――こんなはしたない身体になって、沢山の人の期待を裏切ってしまった。
元より背も高いとは言えず、骨から細かったのか鍛えても然程大きくはならなかった。それでも、あの戦の頃は一目見れば男と分かる身体であった。
今はどうだ。
肋を覆う胸板に、なだらかな傾斜のある微かな膨らみがついて、すこしくすんだ桃色の乳輪がぷくりともう一段膨らみ、乳頭も飛び出している。
下腹には昨夜の情交で十兵衞の指の痕が刻まれ、臍の下から下生えのすぐ上にかけて赤い紋が浮かび上がっていた。その下腹も、薄く柔らかな肉の層が覆っていて丸みを帯びた線を描いている。
一番肉がついたのは尻から太腿であろう。男に媚びを売ると、桃のような形だと言われ決まって揉まれた。菊座を拓かれ、逸物を捻じ込まれ、ジンジンと赤く熱を持つまで腰を叩きつけられた尻は、丸くむっちりとした肉感がある。
「は……」
十兵衞が、気持ちいいと言いながら抱いて、子種を吐いたこの体。
元服し、立派な男の手本になれず、快楽に溺れる己の弱さを体現した我が身。
「う……ぅ……」
儀式の中で誘惑に負け、尻で絶頂を味わうことを知ることと引き換えに、篤実の逸物は使い物にならなくなった。
周囲の期待を裏切り、血筋を残す務めを果たせなくなった己に居場所が有って良いはずが無い。父上や兄上達は否定するが、自分が母上を死に追いやったようなものだ。
『己は最早、此処に居て良い者ではありません。どうか、初めから居なかった者として……己を』
――そして、廃位の噂が囁かれていると知り、自ら願い出た。
『雪千代、何も其処まですることは無かろう。子が作れなくとも、其方が果たせる役は幾らでも有る』
父である今上帝は息子の思い詰めた申し出を断り、引き留めようとした。
『……申し訳…ありません、父上…いえ、陛下』
『雪千代…』
『…手につかないの…です』
ただ不能になっただけが、篤実の矜持を折ったのでは無い。
『何が…あったのだ』
『……儀式に…失敗してから、己は』
篤実の身に起きた変化。その事実を打ち明けるのは、たとえ実の父が相手だとしても、あまりにも辛かった。
『し……尻に…欲しくて、仕方が…なく……そんな…はしたない考えに身も心も支配されて、何も…手につかぬのです』
『――…』
『斯様な痴れ者が…陛下のお役に立てる筈が御座いません。此処まで育てていただいた恩に、恥で仇を返す前に、どうか…父上』
『余に、妻に続いて…息子を喪えと言うのか』
父の声は、それまで篤実が聞いたことが無いようなか細い声だった。
『ッ――……申し訳…御座いません…申し訳御座いません…』
今上帝の前から下がった直後に、兄の一人と顔を合わせたが、篤実は目を伏せ足早に横を通り過ぎた。
都を出て、手持ちの資金が無くなり、女に頭を下げたこともある。
だが、篤実の若い体に期待した女達は閨で裏切られたと言わんばかりに役立たずと罵った。柔らかな女の体に触れても、股座を弄られても篤実の男は反応しなかったからだ。
そんな数々の出来事が、親王篤実雪政をじわじわと殺した
「若君?」
不意に十兵衞の声が響き、篤実の意識は現実に戻された。
「……十兵衞」
十兵衞が湯気の立つ桶を片手に提げ、篤実の声と気配を頼りに近付いてくる。
「湯は足りたか、若君。戻らねえンで、もう一杯持ってきたんだが」
「……ありがとう」
篤実が手を伸ばすと、指先が触れたところで十兵衞は足を止めた。湯の入った桶を握らされ、十兵衞の顔を見上げる。彼は一歩後ろに退いた。
「いや、礼には及ばねえ」
「そういう訳にもいかぬ」
篤実はもう一度、湯に水を足してから手拭いで体を清めた。両手で絞ると、冷めた湯が足元にぽたぽたと落ちる。
濡れた髪を背中へと払い、新しい浴衣を羽織り振り返る。十兵衞はまだ篤実の前に立っており、行水に使った桶や盥を手探りで拾い上げた。
「己の体が……どうなっているのか、そなたは触れてわかるのか」
「……その…それは」
十兵衞が言い淀んだ姿を見て、胸が締め付けられるような苦しさが込み上げる。
「……――」
十兵衞は盥を脇に抱えて、頭を掻いていた。
「己に、失望したであろう、十兵衞」
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