29 / 32
Ⅷ.冬の訪れ
4
しおりを挟むイオ達が北西の街を出た翌日、メロスの叔父であるバシル司祭長は諮問会の記録を抱えティオスヒュイ東の国教会総本山に到着した。
並ぶ白い柱。壁に描かれた神と魔王の戦いの宗教画。天井はアーチを描く白い石材で、窓から差し込む光や壁に備え付けられた灯りを反射する。
一定のスピードで決して焦らずに聖堂の廊下を進み、恭しく頭を垂れた。
「――猊下」
バシルが謁見するのは組織の頂点、唯一黒い礼服を身に纏う存在。
「ああ、長旅ご苦労バシル司祭長」
まるで低音提琴のように響く声がバシルに応える。
「わたくしには勿体無いお言葉です、カリストラ教皇。……では、これよりご報告申し上げます。生還した三名の内、一名は滞り無く処置を済ませました。拙僧の甥については後日。問題の予定外の鼠ですが――…」
「バシル司祭長、構いません、名をはっきり言い給え。神の前に我々に後ろめたい物は――何一つない。そうであろう」
教皇カリストラは穏やかに笑みを浮かべ、神経質な硬い表情のバシルを宥める。
淡い金の髪を撫で付け、前髪は中央から左右に分けている。鼻筋の通った掘り深い作りの五十代程の教皇の瞳には、他のものにはない特徴があった。
黒と白銀のヘテロクロミアである。
「は……失礼いたしました。イオギオス=ガラニスについてですが、尋問中にヴラド財政顧問が乱入し、諮問会は中断となりました」
「ライオネル家の当主殿、か……」
バシルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、カリストラは揺らがない。
「バシル司祭長、ご苦労であった。しかし…諮問会の中断、ライオネル卿の介入……それらは瑣末事だ。重要なのは我々が捧ぐ生贄達が役目を果たしたか……なのだよ」
窓から差し込む光が、まるで水を通しているかのようにゆらりと緩やかに変化する。
「は。暗示は一名を除いて十全に効果を齎しておりました。いつも通りです。間違いなくかの新しき神の元に向かっていったかと」
「そしてあの御身体を冒涜し、悲鳴を上げてその魂の糧となった。ならばそれで良いのです」
教皇が高座に腰を下ろす。
「君としては…甥を始末できず残念だったかも知れないが、我々は聖職者だ。君に見せられないのが残念でならないが……あの方の涜され、犯され、何度汚されてもなお輝くその魂にこそ真なる神の愛が有る」
教皇は中空へ視線を向けながら恍惚とした色を滲ませて語る。
「人間の罪業の結実があんなにも美しい形をしている奇跡を――」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)
るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。
エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_
発情/甘々?/若干無理矢理/
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる