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Ⅷ.冬の訪れ

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 イオ達が北西の街を出た翌日、メロスの叔父であるバシル司祭長は諮問会の記録を抱えティオスヒュイ東の国教会総本山に到着した。
 並ぶ白い柱。壁に描かれた神と魔王の戦いの宗教画。天井はアーチを描く白い石材で、窓から差し込む光や壁に備え付けられた灯りを反射する。
 一定のスピードで決して焦らずに聖堂の廊下を進み、恭しく頭を垂れた。
「――猊下」
 バシルが謁見するのは組織の頂点、唯一黒い礼服を身に纏う存在。
「ああ、長旅ご苦労バシル司祭長」
 まるで低音提琴のように響く声がバシルに応える。
「わたくしには勿体無いお言葉です、カリストラ教皇。……では、これよりご報告申し上げます。生還した三名の内、一名は滞り無く処置を済ませました。拙僧の甥については後日。問題の予定外の鼠ですが――…」
「バシル司祭長、構いません、名をはっきり言い給え。神の前に我々に後ろめたい物は――何一つない。そうであろう」
 教皇カリストラは穏やかに笑みを浮かべ、神経質な硬い表情のバシルを宥める。
 淡い金の髪を撫で付け、前髪は中央から左右に分けている。鼻筋の通った掘り深い作りの五十代程の教皇の瞳には、他のものにはない特徴があった。
 黒と白銀のヘテロクロミアである。
「は……失礼いたしました。イオギオス=ガラニスについてですが、尋問中にヴラド財政顧問が乱入し、諮問会は中断となりました」
「ライオネル家の当主殿、か……」
バシルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、カリストラは揺らがない。
「バシル司祭長、ご苦労であった。しかし…諮問会の中断、ライオネル卿の介入……それらは瑣末事だ。重要なのは我々が捧ぐ生贄達が役目を果たしたか……なのだよ」
 窓から差し込む光が、まるで水を通しているかのようにゆらりと緩やかに変化する。
「は。暗示は一名を除いて十全に効果を齎しておりました。いつも通りです。間違いなくかの新しき神の元に向かっていったかと」
「そしてあの御身体を冒涜し、悲鳴を上げてその魂の糧となった。ならばそれで良いのです」
 教皇が高座に腰を下ろす。
「君としては…甥を始末できず残念だったかも知れないが、我々は聖職者だ。君に見せられないのが残念でならないが……あの方の涜され、犯され、何度汚されてもなお輝くその魂にこそ真なる神の愛が有る」
 教皇は中空へ視線を向けながら恍惚とした色を滲ませて語る。
「人間の罪業の結実があんなにも美しい形をしている奇跡を――」

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