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Ⅵ.君を想う
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しおりを挟むイオ達を乗せた馬車とその一行が北西部の教会支部へと到着したのは出発から二週間後のことだった。
熟睡することが多くなった同期の男とは対照的にイオは夜毎うなされて目を覚ますことが増えていった。体力が低下すれば馬車の上の酔いも酷くなる。
メロスは吐くものも無いイオの背中を撫でながら、彼の呟きを拾い聞いた。
「……あの人の…夢を見るんだ」
メロスが振り返り上官を見る。
目的地も近いからか、少しの会話なら見逃してくれるようだ。
「…誰の」
目元は相変わらず隠したままでヘラリと笑う。
「いや、さ……ちょっと…恥ずかしい夢っていうか」
イオが微妙にはぐらかすお陰でメロスはどうにも彼の言いたいことがつかめなかった。無意識に急かすように背を叩いてしまい、イオが噎せる。
「悪い、強く叩きすぎた」
「ゲボっ……ほんとだよぉ。はぁ…僕被虐趣味なのかな」
笑いながら身体を起こし、メロスに手を引かれてまた腰を下ろす。
「仲間に犯される夢なんだからさ…」
「……――」
メロスの返答が途切れて、イオは少しばかり寂しさを感じた。引かれただろうか。等と思っていると、急に頬を抓られた。
「あいひゃー?」
「しっかりしろイオ。支部に到着して時間が出来たら、俺と一緒に走り込みと素振りだ。体を動かせ」
「……ふ、はは。ありがと」
目隠しの所為でイオからメロスの表情は見えない。メロスは浅く顔を顰めながらも顔色の悪いイオを励まし、馬車が目的地へ到着することを一刻も早く望んでいた。
北西地域を統括する教会支部へと到着した一団を騎士団員と教会の人々が出迎える。
家族と再会するもの、仲間と飲みに行くもの、そして――。
「バシル叔父上」
此度の移送対象を引き取りに来た司祭の中に金髪碧眼をオールバックに撫で付け、モノクルを着用した男が居た。
四十代の憮然とした表情を浮かべた彼は、部下と思しき軽装の騎士二名を引き連れていた。メロスを一瞥すると片眉を上げニコリと作り笑いを浮かべ、三人で馬車へと歩み寄る。
「オルメロス=アンディーノ、命を受けて帰還いたしました」
「ああ……無事に帰ってきてなによりだ、大変なことに巻き込まれたと聞いたよオルメロス。友人を守ったそうじゃないか。流石だな?」
「恐縮です叔父上。ひとえにご加護を頂いたおかげです」
バシル司祭が視線で合図すると、部下の男たちが連れ立って馬車の荷台側へと向かって行った。音から察するに、イオと、彼と班を入れ替わったにも関わらず森へやってきた同期の彼を馬車から下ろしているのだろう。
「ふむ。姉上と御父上は息災かな」
「はい、また家に……」
と、話しながらメロスが視線を横に向けると、同期の男は目隠しを外され、イオはそのまま歩かされ教会の門の中へと引き連れられていった。
「ふっ……私が行っては御父上が嫌がるだろう」
「そんなことは。……あの、叔父上」
「ああ、オルメロス。私はこのあたりで失礼するよ」
何故、と問いかける前にバシル司祭は素っ気なく甥に背を向けて歩き始めてしまった。
「……クソッ、何故よりによって」
叔父が吐き捨てた言葉は、イオに気を取られたメロスには届かなかった。
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