【第一章】きみの柩になりたかった−死ねない己と死を拒む獣へ−

続セ廻(つづくせかい)

文字の大きさ
上 下
22 / 32
Ⅵ.君を想う

4

しおりを挟む

《ヤット、ヨンデクレタネ》
《マッテイタゾ、クロイノ》

(えっ……?)

 ハッと目を開く。
 飛び込んできたのは、色とりどりに輝く光の玉たちだった。

《ドウシテボクラヲヨバナカッタノ、クロイコ》

 
爽やかな緑の光を放ってくるくる飛び回るのは、風のヴェントス。こんなときだというのに、ものの言い方も態度もなぜか無邪気だ。

《ソウダゾー、マッテタンダゾー、オレタチ!》

 のんびり口調で言う茶色い光は土のソロ。

《ソナタガヨンデクレタナラ、イツデモトンデキテヤッタノダゾ? ワタシタチハ》

 ほんの少しだけ恨みがましく残念そうなのは黄金色の金のメタリクム。

《ソンナニワレラハ、タヨリナイノカ?》
《あ。そ、そんなことっ! ご、ごめんなさい……》
《イヤイヤ。イインダヨ》

 とりなしてくれたのは、どうやら青い光を放つ水のアクアらしかった。

《ジブンデガンバルノ、エライヨ。サイショカラ、ボクラヲタヨルヨリ、ズーットイイノサ》
《……ン。ソレモソッカ》
《ダナー》
《……ナルホド》

「精霊さまがたのおっしゃる通りだ、シディ。人は自分がやれるところまではやらねばならない。人事を尽くしてこそ道は開けるのだから」
《えっ。インテス様、精霊さまたちの声、聞こえるんですか?》
「ああ。普段はぼんやりとしか感じないが……どうもそなたといると、感覚が明瞭になるようなんだ」

 なるほど、そんなこともあるのか。

《オシャベリシテルヒマ、ナイヨ?》
《サラガ、マタ、チカラヲマシタナ》
《えっ》

 見れば精霊たちの言うとおり、《皿》はますます反発を強め、今にも《光る網》を消しとばしそうなまでに膨張していた。

《ソウダナ。ハヤクトリカカルトイタソウ》

 四色の光は一度パッと散開すると、すぐに反転し、一斉にシディに向かってきた。

《えっ? あ、あのっ》
《シンパイシナイデ》
《イチド、オマエノナカニハイルンダ》
《えっ、えっ……? オレの中に……?》
《ソナタノカラダノナカデ、マリョクヲマゼアワセル。ソウシテ、ゾウフクサセルノダ!》
《増幅……》

 なるほど。
 どうやら、かれらの魔力を一旦シディの中で馴染ませる過程が必要らしい。

《ダカラ、トジナイデ、クロイコ》
《コワガラナイデ、ココロヲヒライテ》
《オレタチヲ、ウケイレルンダ!》
《は……はいっ》

 返事をしたとたん、目もくらむようなまばゆい光が全身を包み、凄まじい魔力が流れ込んできた。体全体が熱く燃え上がり、光り輝く感覚。
 あまりの衝撃で、シディは一瞬、気が遠くなりかけた。
 「シディ、しっかり!」というインテス様の声が届かなければ、あやうく失神する手前だった。

《ダイジョウブ?》
《シッカリスルンダ、クロイノ》
《ソナタガキヲウシナッテハ、モトモコモナイゾ》
《は……はい》

 そうは言ったが、くらくらする。全身の細胞が蒸発してしまうのではないかと思うほどの衝撃。

(なんだ……この魔力は!)

 なんという力強さ。そして、量。
 それが一気に自分ごときの器に流れこんできている。自分という「器」の表面が、恐ろしいほど薄く感じられて心細い。あまりの魔力の圧力で、今にもパリンと粉々になってしまいそうだ。ともすれば、自分が自分であるという認識すら手放してしまいそうになる。
 気がつくと、背中のインテス様もひどく苦しそうになさっていた。

《だいじょうぶ、ですかっ……インテス、さまっ……》
「……私のことは心配するな、シディ。集中するんだ。ほかのことはいい」
《でもっ……》
「いいから。自分自身に集中してくれ。シディ!」
《……は、はいっ……》

 そんなギリギリのこちらの状態とは裏腹に、精霊さまたちの暢気のんきそうな会話が耳に届く。

《ソウイエバアイツ、コナイノ? コンナトキニ》
《ナンダ。マダヘソヲマゲテイルノカ、アヤツハ》
《ソウラシイネー》
《ナニヲソンナニスネテルンダ? シカタガナイダロウ》
《ソウソウ。ヤツガアンマリアバレルト、ニンゲンハコマルンダカラヨ》
《ソウナンダヨネー》

 いったい何の話だろう、と思考することすら難しかった。
 シディは自分が自分であることを維持するだけで精一杯だったのだ。体内で暴れまわる魔力の奔流は、それほど凄まじいものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...