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Ⅵ.君を想う
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しおりを挟むくしゃみの音が森に響いた。
「……?」
一人住処で留守番をする主が月を見上げて首を傾げる。星の並びが徐々に季節が移ろっていることを教えてくれた。
尻にまで届く長さから肩下までバッサリと髪を切ってみて、身軽さを覚えたのも数日のこと。今ではまた腰をおろせば毛先が地面に触れる。
主の身体の不老不死とは、身体の特徴的に不変と言ってほぼまちがいない。
たとえ全身を焼かれても、炎が消えれば髪の長さすら変わらない姿でその場に何事もなかったかのように現れる。しかし痛みが無くなったわけでも、火に焼かれた過去がなかったことになるわけでもない。
痛み、苦しみ、叫び、怯え、震え、泣く。
――切り株に腰掛けたまま自分の肩を抱きしめて身体を丸めた。
「……レギオン……イオギオス……オルメロス…イロイア……」
ぽつり、ぽつり、名前を思い出す。
獣、優しい青年、懐かしい名前、唯一の兄弟。
切り株に腰かけたまま、かつての半分ほどになってしまった己の住処を振り返る。
顔と名前、両方知っているのは彼らだけだった。裏の墓標に眠る知らない人たちの名前は刻まれていない。そも、主は字が読めない。
自分の言語の字を忘れたのではない。毎日目にする住処には石の壁に何かが刻まれている。が、それが何なのかわからない。
せめてレギオンの名をかけるようになりたいとふと思った。
――そして、閃いた。
「書けなくても作ればいい!」
我ながら名案だ。木の棒を手に地面をガリガリとひっかく。
自分で字を作ってしまおう。自分とレギオンだけで読めればいい。そのうちまたキシの青年二人も来たら、二人の名前の字も考えよう。
そんな一人遊びに耽り寂しさを紛らわした。
そうして辺りにたくさんの記号や線を書いて満足した頃には月も山の向こうへ行ってしまった。空の星々だけがキラキラと輝いて、森の中よりも明るいように見える。
レギオンがいれば魔法で周囲を照らしてくれるが、今は己ひとり。灯りがほしければ、ランプというものに火打ち石で着火しなければいけない。
はるか昔に双子で産まれた己は、後にも先にも一人だけの、魔法が一切使えない存在だ。
真っ暗に見える森の中でも、ずっといれば足元ぐらいは見えてくる。住処に戻り、柱に触れる。中は外よりも一段と暗い。ざらりとした壁を伝いながら寝床までたどりついて、乗り上がる。
今日はとても部屋がひろい。
昔はもっと広く感じていた。
「…………」
部屋の隅には、己の血が付いた折れた短剣が仕舞ってある。
もう一度寝台から降りて、手探りでそれを探して取り出した。裸の刀身はすっかり錆びついて刃毀れも非道い。
それを布で包んで、寝転びながら両腕に抱き寄せる。
子供姿のレギオンのような体温も息遣いも無いそれを抱きしめて目を瞑る。
『言ってくれ。気持ちいい、って』
思い出す彼の声に身体を丸め、膝をすり合わせる。
『ココを、ヌルヌルで、グチャグチャにする』
――気持ちいいとは違うのに、それがキモチイイだと言い聞かせるレギオンを思い出す。
レギオンはあれがきっとキモチイイのだろう。だが、そうだとしてどうして己の尻に膏を塗って、そこに男の象徴を入れたのか。
体を丸め、錆びた剣を包んだ抱きまくらに頭を擦り付けて考える。暫くたって、ゆっくりと顔を上げた。
そうか。
レギオンは己の尻の孔をヌルヌルにして、そこで自分の男の部分をグチャグチャにするのが「キモチイイ」のだ、きっと。
自分なりの答えにたどり着いたは良いものの、今度は別の疑問が浮かび上がった。
――あんなに大きな物をどうやって尻の孔にいれるんだろう…?
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