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カイドの風邪
治った
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次の日は少し良くなったが午後にはまた悪くなった。
よくなったり悪くなったりの繰り返し。
キャルはその度にカイドの様子をじっくりと見て、新しい薬を持ってくる。
「カイド、他に痛いところはない?」
「関節が痛いような気がするな……」
お腹や頭が痛いときもあれば、体に痛みが走る時もある。
毎日違う症状に、キャルは一生懸命何かを考えながらノートに書きこんでいた。
自分は、そんなに難しい病気なのか。
だったら、キャルには申し訳ないが、医術士の元へ行った方がいいのではないか……。
最初は、そう思っていた。
「なあ、キャル」
手の中の湯のみを扱いながら、カイドはキャルに話しかける。
「何?」
キャルは、薬湯を早く飲めと言わんばかりに、じっと見つめている。
今日の様態は良い。
だけど、また悪くなるかもしれないのだ。
――というか、悪くなる予定だ。
「これ、毒?」
カイドが湯のみを掲げると、キャルの笑顔が固まる。
その表情に、カイドは自分の想像が正しかったことを知る。
「……なんで毒と薬を交互に飲ませるんだよ」
自分の体調の変化が妙だなと思っていたのだ。
そして、それはキャルの持ってくる薬で変化する。
「ど、毒じゃないよ!薬になるかもしれない薬草たちだよ!」
「……それは、治療じゃなくて人体実験だよな」
カイドは知らないうちに……というか、キャルの様子から想像するに、カイドが体調を壊したときから被験者だったのだ。
「効くかもしれなかったんだよ!ちゃんと治療なの!」
キャルがカイドの観察日記を掲げる。
妙に真剣に記録するなと思っていた。実験記録だったのか。
「効く薬を持ってきてくれ」
「長年の研究で薬はどんどん改良されていくっていうのが、人類の発展だよ」
何故か、ここでどや顔。
どういうことだ。
恨めしげに見上げるカイドに、キャルは口をとがらせる。
「私に任せてくれるって言ったじゃない!」
「普通は治す方向に任せてるんだよ!何で体調不良をネタに人体実験するんだ!」
しかもいっぱい!
熱が出てもお腹を壊しても、キャルがくれる薬を飲めば、すぐに良くなる。
良くなるが、すぐに悪くなるのだ。
「試したい薬がいっぱいあったの!」
彼女は堂々とそんなことを叫ぶのだ。
そうだろうよ!
ここ一週間、いろいろやられている。
「良い薬を開発するためには必要なの」
「言ってからやってくれ」
「嫌がらない?」
「嫌だ」
キャルはプッと頬を膨らませた。
可愛いが、今回ばかりはその頬をつつくのを我慢しよう。
「死んだらどうするんだ」
今までの中で、結構厳しいのはあったんじゃないか?
熱と下痢で大変だったのは、死ぬかと思った。
「カイドは、蟲虫でなかなか死なないことを証明しているから。ちょっとやそっとで死なないだろうなと!」
「誰が証明したんだ!」
――そして。
せっかく作ったのだからと、優しいカイドは最後の人体実験を受けて、もう一度苦しんだ。
力が全く入らなくなって、マジで死ぬかと思った。
「麻痺させる薬なの。こうされたら痛い?」
ケロッとした顔でキャルが言う。
全く感触を感じないが、息苦しくて……死にそうだが。
気を失ったカイドに、キャルはしっかりと薬を流し込み、次の日の朝、目覚めることができた。
「昨日のは、量を調整すればいけそうだったね!」
「どこがだ!」
体力を失いすぎた病床で、カイドは叫ぶ。
「効く薬が一つもない……」
ぐったりと横たわるカイドに、キャルは脈を測ったりなどして記録をとってから顔を上げる。
「そんなことないよ。これから役に立つの」
とても爽やかに笑った。
もともと、風邪薬用に作っていない薬だという。
カイドに飲ませて、鼻水や頭痛などのデータを取り出しただけ。
呆れるカイドに、キャルは最後の薬を渡す。
――よく見る丸薬だ。
「水いる?」
最初から、この薬ですべて終わらせることができたのを悟って、カイドはまた、ため息を吐いた。
よくなったり悪くなったりの繰り返し。
キャルはその度にカイドの様子をじっくりと見て、新しい薬を持ってくる。
「カイド、他に痛いところはない?」
「関節が痛いような気がするな……」
お腹や頭が痛いときもあれば、体に痛みが走る時もある。
毎日違う症状に、キャルは一生懸命何かを考えながらノートに書きこんでいた。
自分は、そんなに難しい病気なのか。
だったら、キャルには申し訳ないが、医術士の元へ行った方がいいのではないか……。
最初は、そう思っていた。
「なあ、キャル」
手の中の湯のみを扱いながら、カイドはキャルに話しかける。
「何?」
キャルは、薬湯を早く飲めと言わんばかりに、じっと見つめている。
今日の様態は良い。
だけど、また悪くなるかもしれないのだ。
――というか、悪くなる予定だ。
「これ、毒?」
カイドが湯のみを掲げると、キャルの笑顔が固まる。
その表情に、カイドは自分の想像が正しかったことを知る。
「……なんで毒と薬を交互に飲ませるんだよ」
自分の体調の変化が妙だなと思っていたのだ。
そして、それはキャルの持ってくる薬で変化する。
「ど、毒じゃないよ!薬になるかもしれない薬草たちだよ!」
「……それは、治療じゃなくて人体実験だよな」
カイドは知らないうちに……というか、キャルの様子から想像するに、カイドが体調を壊したときから被験者だったのだ。
「効くかもしれなかったんだよ!ちゃんと治療なの!」
キャルがカイドの観察日記を掲げる。
妙に真剣に記録するなと思っていた。実験記録だったのか。
「効く薬を持ってきてくれ」
「長年の研究で薬はどんどん改良されていくっていうのが、人類の発展だよ」
何故か、ここでどや顔。
どういうことだ。
恨めしげに見上げるカイドに、キャルは口をとがらせる。
「私に任せてくれるって言ったじゃない!」
「普通は治す方向に任せてるんだよ!何で体調不良をネタに人体実験するんだ!」
しかもいっぱい!
熱が出てもお腹を壊しても、キャルがくれる薬を飲めば、すぐに良くなる。
良くなるが、すぐに悪くなるのだ。
「試したい薬がいっぱいあったの!」
彼女は堂々とそんなことを叫ぶのだ。
そうだろうよ!
ここ一週間、いろいろやられている。
「良い薬を開発するためには必要なの」
「言ってからやってくれ」
「嫌がらない?」
「嫌だ」
キャルはプッと頬を膨らませた。
可愛いが、今回ばかりはその頬をつつくのを我慢しよう。
「死んだらどうするんだ」
今までの中で、結構厳しいのはあったんじゃないか?
熱と下痢で大変だったのは、死ぬかと思った。
「カイドは、蟲虫でなかなか死なないことを証明しているから。ちょっとやそっとで死なないだろうなと!」
「誰が証明したんだ!」
――そして。
せっかく作ったのだからと、優しいカイドは最後の人体実験を受けて、もう一度苦しんだ。
力が全く入らなくなって、マジで死ぬかと思った。
「麻痺させる薬なの。こうされたら痛い?」
ケロッとした顔でキャルが言う。
全く感触を感じないが、息苦しくて……死にそうだが。
気を失ったカイドに、キャルはしっかりと薬を流し込み、次の日の朝、目覚めることができた。
「昨日のは、量を調整すればいけそうだったね!」
「どこがだ!」
体力を失いすぎた病床で、カイドは叫ぶ。
「効く薬が一つもない……」
ぐったりと横たわるカイドに、キャルは脈を測ったりなどして記録をとってから顔を上げる。
「そんなことないよ。これから役に立つの」
とても爽やかに笑った。
もともと、風邪薬用に作っていない薬だという。
カイドに飲ませて、鼻水や頭痛などのデータを取り出しただけ。
呆れるカイドに、キャルは最後の薬を渡す。
――よく見る丸薬だ。
「水いる?」
最初から、この薬ですべて終わらせることができたのを悟って、カイドはまた、ため息を吐いた。
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