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買い取り
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こうして、サランダは、時々訪れるようになった。
大体が魔物を連れて、これは眠らせることができるかの実験のようなことをしていた。
ただし、寝た後の寝言への返事はしなくていいと言われる。
私の方になついてしまうのが困るのかな。
どことなく、嫉妬しているような彼のことが可愛らしいと思う。
彼が通い始めて……半年ほどが経った。
「一緒に来ないか?」
サランダが、肴をつまみながら呟く。
こちらを見てもいないし、大切なことを言ったような気負いもない。
「ええと……?よく、聞こえなかったみたいです」
いつもなら、客が言った言葉を聞き返したりすることはしない。たった一度聞き返すだけでムッとする人もいるから、いつも聞き取れるようにしているつもりだ。
サランダは特に表情を変えるでもなく私を見て、もう一度同じことを言った。
「一緒に来ないかと言ったんだ」
これは……私を、買い取ってくれると考えてもいいのだろうか。
郭にいる女を外に連れ出そうとする重要性が分かっているのか、彼の表情から読み取れない。
サランダは、私の戸惑いが分かったのだろう。
ふっと表情を緩めて
「大丈夫だ。分かって言っている。金も準備できた」
驚きに目を見開く。
準備できたとは、いつから準備をしていたのか。私はトップクラスの遊女だ。少なくとも、昨日今日で準備できるような金で買い上げられる商品ではない。
「意外と金持ちなんだよ」
貧乏人だと思っていたわけではないけれど、彼の金はいつまで続くだろうかと思っていた。
「来る……ということは、どこかに?旅をしますか?あ。魔物と戦う旅?」
「ん?ああぁ……まあ、そういうこともあるだろうな」
彼は言いにくそうに言葉を濁した。
――そういうことか。
サランダは、私の力を欲しているのだ。
対象を眠らせ、暗示をかけることもできる私の力。
サランダは、今さら居心地悪そうにもじもじしている。
純粋に私を求めているのではないと知られてしまったことが、ばつがわるいと感じているのだろう。
私は浮かんでくる喜びにこらえきれずに微笑んだ。
逆に、嬉しい。
愛や恋を囁いて求められるよりも、ずっと現実的だ。
そこに愛がなくなっても、利用価値がある限り捨てられない。
「そうね。じゃあ、ついて行こうかしら」
私はできる限り余裕がある笑みを浮かべた。
何年もトップでい続けているから、私は私で私を買える。
ここまで上り詰めるための原動力は、食欲だった。おいしいものが食べたい。贅沢がしたいと思ってやってきたが、実際、全てが手に入るようになって、興味が失せた。
温かい部屋も布団も豪勢な食事だって、無くなってしまえば、また必死に欲するようになる。だが、当たり前に存在するようになってからは、わざわざ自分から手に入れに行くほどの情熱はなくなった。
だから、欲しいものなどなかった。使わない金はたまる一方で、仲間たちからは早々に出て行く気だろうと噂されるほどだった。
それをしなかったのは、一人で生きていく勇気がないから。
幼いころからここにいて、ここ以外で一人で生きていけると思ってない。
外の世界を何も知らない。
誰かに連れて出て欲しいけれど、結局、この場所と変わらないと思ってしまった。
捕らわれて、今度は自分を買い取った相手の興味を引くことだけに必死になって生きていくのだ。
だったら、この場所で一生を過ごしてもいいと思っていた。
サランダは、私と旅に出ると言った。
魔物を倒していく旅。
なんて素敵なんだろう。
彼は私に性的欲望を抱かずに、能力だけを欲した。
この場所を出るチャンスがあるとしたら、今以外に有り得ない。
私の返事を聞いて、サランダはほっとしたように微笑んだ。
私の買い上げは、思った以上に簡単に済んだ。
主人が反対するかもしれないと危ぶんだが、サランダが十分な金を準備したようだ。
もう数年しか働けない使い捨ての遊女より、今の現金を選んだ。
私は、人生の大変を過ごした場所を、あっけなく出たのだ。
大体が魔物を連れて、これは眠らせることができるかの実験のようなことをしていた。
ただし、寝た後の寝言への返事はしなくていいと言われる。
私の方になついてしまうのが困るのかな。
どことなく、嫉妬しているような彼のことが可愛らしいと思う。
彼が通い始めて……半年ほどが経った。
「一緒に来ないか?」
サランダが、肴をつまみながら呟く。
こちらを見てもいないし、大切なことを言ったような気負いもない。
「ええと……?よく、聞こえなかったみたいです」
いつもなら、客が言った言葉を聞き返したりすることはしない。たった一度聞き返すだけでムッとする人もいるから、いつも聞き取れるようにしているつもりだ。
サランダは特に表情を変えるでもなく私を見て、もう一度同じことを言った。
「一緒に来ないかと言ったんだ」
これは……私を、買い取ってくれると考えてもいいのだろうか。
郭にいる女を外に連れ出そうとする重要性が分かっているのか、彼の表情から読み取れない。
サランダは、私の戸惑いが分かったのだろう。
ふっと表情を緩めて
「大丈夫だ。分かって言っている。金も準備できた」
驚きに目を見開く。
準備できたとは、いつから準備をしていたのか。私はトップクラスの遊女だ。少なくとも、昨日今日で準備できるような金で買い上げられる商品ではない。
「意外と金持ちなんだよ」
貧乏人だと思っていたわけではないけれど、彼の金はいつまで続くだろうかと思っていた。
「来る……ということは、どこかに?旅をしますか?あ。魔物と戦う旅?」
「ん?ああぁ……まあ、そういうこともあるだろうな」
彼は言いにくそうに言葉を濁した。
――そういうことか。
サランダは、私の力を欲しているのだ。
対象を眠らせ、暗示をかけることもできる私の力。
サランダは、今さら居心地悪そうにもじもじしている。
純粋に私を求めているのではないと知られてしまったことが、ばつがわるいと感じているのだろう。
私は浮かんでくる喜びにこらえきれずに微笑んだ。
逆に、嬉しい。
愛や恋を囁いて求められるよりも、ずっと現実的だ。
そこに愛がなくなっても、利用価値がある限り捨てられない。
「そうね。じゃあ、ついて行こうかしら」
私はできる限り余裕がある笑みを浮かべた。
何年もトップでい続けているから、私は私で私を買える。
ここまで上り詰めるための原動力は、食欲だった。おいしいものが食べたい。贅沢がしたいと思ってやってきたが、実際、全てが手に入るようになって、興味が失せた。
温かい部屋も布団も豪勢な食事だって、無くなってしまえば、また必死に欲するようになる。だが、当たり前に存在するようになってからは、わざわざ自分から手に入れに行くほどの情熱はなくなった。
だから、欲しいものなどなかった。使わない金はたまる一方で、仲間たちからは早々に出て行く気だろうと噂されるほどだった。
それをしなかったのは、一人で生きていく勇気がないから。
幼いころからここにいて、ここ以外で一人で生きていけると思ってない。
外の世界を何も知らない。
誰かに連れて出て欲しいけれど、結局、この場所と変わらないと思ってしまった。
捕らわれて、今度は自分を買い取った相手の興味を引くことだけに必死になって生きていくのだ。
だったら、この場所で一生を過ごしてもいいと思っていた。
サランダは、私と旅に出ると言った。
魔物を倒していく旅。
なんて素敵なんだろう。
彼は私に性的欲望を抱かずに、能力だけを欲した。
この場所を出るチャンスがあるとしたら、今以外に有り得ない。
私の返事を聞いて、サランダはほっとしたように微笑んだ。
私の買い上げは、思った以上に簡単に済んだ。
主人が反対するかもしれないと危ぶんだが、サランダが十分な金を準備したようだ。
もう数年しか働けない使い捨ての遊女より、今の現金を選んだ。
私は、人生の大変を過ごした場所を、あっけなく出たのだ。
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