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獣人の国へ
初めてみる景色
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「ふわああああぁぁ」
雄大な自然に、思わず声が漏れる。
「馬鹿面だな」
一人寂しく馬車の中で泣く演出のはずが、隣からあくび交じりの声がかかる。
「なんでお父様がついてきたのですか」
嫌そうな目を向けてくるフィリアを面白そうに眺めて、父は簡潔に一言で言った。
「療養」
「という名目の?」
「厄介払い」
元宰相が認知症。しかも、娘は王太子の元婚約者。さらに、獣王国へ人質同然に送り出す。
侍女を付けようにも、誰も行きたがらない。
だから、父が同行せよとのお達し。
結婚に父親を連れて行く娘がどこにいる。
もう開いた口が塞がらない。
無理矢理にもほどがあるだろう。
「お兄様は?」
「あいつは公爵閣下だから」
父は遠くを見る瞳で話す。
兄は、父が公爵を譲る時も、宰相を退く時も何も言わなかった。
父は兄とはたくさん話をしたと言っていた。
そして、あいつはしっかり分かっていると父は言う。
兄と父の信頼関係があって、だから、兄は公爵領を守ってくれるのだろう。
フィリアには教えてもらえないもっとたくさんのことがあると思う。
公爵という重責はそう簡単に担える者ではないから。
兄は、せめて、公爵領を支えてくれてきた領民を飢えさせることのないようにと願っている。
フィリアを見送る時に、『待っているから』と言っていたが嫁に出る妹に何を待っていると言ったのか意味が分からない。
父に聞いても「時期が来ればわかる」くらいにしか言ってくれない。
分からないことは気になるのに、こうなってしまうと絶対に教えてはくれない父に、「だったら何も教えるなよ!」と怒鳴りたくなる。
フィリアは、昼寝を始めた父を放って、また馬車の外景色を眺めた。
スペシーズ王国から国境を越えブルタル王国に入った途端、緑が増えた。
スペシーズ王国の城は絢爛豪華と言う言葉がふさわしく、あちこちに宝石が埋め込まれて細かな刺繍が施されたカーテンがかかって、どこもかしこも豪華だった。
街の道路は石畳で家はレンガ造りで整然と綺麗に建ち並んでいる。
もちろん、ところどころには木や花が植えられていたが、緑はあまり多くない。
王都を出て田舎へ行っても、道は石畳から土へ変わっただけで、家の様子は変わらない。
工場や商店が並んでいない農耕地域でも、広い畑に綺麗に並んだ作物が育っていた。
人の手が入っていない場所など、まずない。
街道沿いに来たのだから、そのような場所ばかりになったということもあるだろうが、進んでも進んでも同じ風景ばかりのところで、国境を超えた途端にこれだ。
視界一面が緑だった。
スペシーズ王国の平たい大地とは違い、丘がある。
遠くには、茶色くない山がある。
大きな樹があって、飼われていない動物が走っていった。
動物……!そう、動物に触ってもいいのだろうか。
スペシーズ王国では、動物は危険視される傾向にあった。
獣人のスパイかもしれないと、犬や猫に触ることなど許されなかった。
内緒で触っているところを見られでもすれば、あらぬ疑惑をかけられてしまう。
だから、王城には動物はネズミのような小さなものでも一匹たりともいなかった。
『獣人』と人間は呼ぶが、実は人間は彼らのことをよく知らない。
遠い遠い昔に別たれたそれぞれは、別れた経緯もあり、仲が悪い。
戦争ということにまでは今のところなってはいないが、人間は、獣人を野蛮なものと蔑んでいる。
フィリアも、知っていることと言えば、古い本で読んだ少しの情報だけ。
『力は強いが、繁殖力が弱く、数が少ない。
知能があまり高くなく、騙すなどの人間が使う手にすぐにひっかかる』
たったこれだけ。あまりに分からないことが多すぎる。
ほとんどの人間は獣人を見たことがない。
お互いに戦争を起こしたくないので、時々、王族の婚約などの際にお互いの国へ行き来することがあるくらいのものだった。
だから、フィリアの中の獣人のイメージは、『銀色のセオ』だけ。
彼のイメージがあるから、フィリアに獣人を蔑むような感情は無かった。
雄大な自然に、思わず声が漏れる。
「馬鹿面だな」
一人寂しく馬車の中で泣く演出のはずが、隣からあくび交じりの声がかかる。
「なんでお父様がついてきたのですか」
嫌そうな目を向けてくるフィリアを面白そうに眺めて、父は簡潔に一言で言った。
「療養」
「という名目の?」
「厄介払い」
元宰相が認知症。しかも、娘は王太子の元婚約者。さらに、獣王国へ人質同然に送り出す。
侍女を付けようにも、誰も行きたがらない。
だから、父が同行せよとのお達し。
結婚に父親を連れて行く娘がどこにいる。
もう開いた口が塞がらない。
無理矢理にもほどがあるだろう。
「お兄様は?」
「あいつは公爵閣下だから」
父は遠くを見る瞳で話す。
兄は、父が公爵を譲る時も、宰相を退く時も何も言わなかった。
父は兄とはたくさん話をしたと言っていた。
そして、あいつはしっかり分かっていると父は言う。
兄と父の信頼関係があって、だから、兄は公爵領を守ってくれるのだろう。
フィリアには教えてもらえないもっとたくさんのことがあると思う。
公爵という重責はそう簡単に担える者ではないから。
兄は、せめて、公爵領を支えてくれてきた領民を飢えさせることのないようにと願っている。
フィリアを見送る時に、『待っているから』と言っていたが嫁に出る妹に何を待っていると言ったのか意味が分からない。
父に聞いても「時期が来ればわかる」くらいにしか言ってくれない。
分からないことは気になるのに、こうなってしまうと絶対に教えてはくれない父に、「だったら何も教えるなよ!」と怒鳴りたくなる。
フィリアは、昼寝を始めた父を放って、また馬車の外景色を眺めた。
スペシーズ王国から国境を越えブルタル王国に入った途端、緑が増えた。
スペシーズ王国の城は絢爛豪華と言う言葉がふさわしく、あちこちに宝石が埋め込まれて細かな刺繍が施されたカーテンがかかって、どこもかしこも豪華だった。
街の道路は石畳で家はレンガ造りで整然と綺麗に建ち並んでいる。
もちろん、ところどころには木や花が植えられていたが、緑はあまり多くない。
王都を出て田舎へ行っても、道は石畳から土へ変わっただけで、家の様子は変わらない。
工場や商店が並んでいない農耕地域でも、広い畑に綺麗に並んだ作物が育っていた。
人の手が入っていない場所など、まずない。
街道沿いに来たのだから、そのような場所ばかりになったということもあるだろうが、進んでも進んでも同じ風景ばかりのところで、国境を超えた途端にこれだ。
視界一面が緑だった。
スペシーズ王国の平たい大地とは違い、丘がある。
遠くには、茶色くない山がある。
大きな樹があって、飼われていない動物が走っていった。
動物……!そう、動物に触ってもいいのだろうか。
スペシーズ王国では、動物は危険視される傾向にあった。
獣人のスパイかもしれないと、犬や猫に触ることなど許されなかった。
内緒で触っているところを見られでもすれば、あらぬ疑惑をかけられてしまう。
だから、王城には動物はネズミのような小さなものでも一匹たりともいなかった。
『獣人』と人間は呼ぶが、実は人間は彼らのことをよく知らない。
遠い遠い昔に別たれたそれぞれは、別れた経緯もあり、仲が悪い。
戦争ということにまでは今のところなってはいないが、人間は、獣人を野蛮なものと蔑んでいる。
フィリアも、知っていることと言えば、古い本で読んだ少しの情報だけ。
『力は強いが、繁殖力が弱く、数が少ない。
知能があまり高くなく、騙すなどの人間が使う手にすぐにひっかかる』
たったこれだけ。あまりに分からないことが多すぎる。
ほとんどの人間は獣人を見たことがない。
お互いに戦争を起こしたくないので、時々、王族の婚約などの際にお互いの国へ行き来することがあるくらいのものだった。
だから、フィリアの中の獣人のイメージは、『銀色のセオ』だけ。
彼のイメージがあるから、フィリアに獣人を蔑むような感情は無かった。
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