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直樹ver
初めての夜
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さらに、酔っ払いすみれは、直樹の服を貸せと言い放った。
下着なんてあるわけがないだろうと、コンビニまで走った。コンビニにトラベル用の歯磨きなどは分かるが、下着はいらないだろうと思っていた自分を責め立てたい。必要だぞ。さすがはコンビニ様だ。
急遽準備したパンツに厚手のトレーナー上下を着せた。
ぶかぶかなのもあって、視覚的に少し落ち着く。
「暑い」
「我慢しろ」
というか、自分はここまで我慢する必要があるのかという疑問までわいてくる。
はっきり言って、がっつり見させていただいた。いっそのことと思っていたこともあって、もう犯ってしまいたい。
だけど―――。
「直樹~呑も~」
同意なしでの行為の後に、にこにこと笑うすみれの笑顔が、直樹の手に戻ってくることは無いと思う。
赤い顔で嬉しそうにチューハイを握りしめるすみれに、諦めのため息と一緒に返事をした。
「はいはい。一本だけだからな?それ呑んだら寝ろよ?」
「いやー」
可愛く首を振って見せるすみれに、直樹は頬を緩ませた。
だが、その後は、お酒を取り上げた直樹に泣きながらすみれが抱き付いて来て、微笑むどころの余裕なんてない。
「寝ろ!」
さすがに直樹が怒鳴れば、ぶーっと唇を尖らせたすみれは、直樹が準備した布団に潜り込んだ。
―――と思ったら、起き上がって
「暑い」
と言いながら全部脱ぎやがった。
「ふざけんな!さすがに襲うぞ!」
もう無理だ。
好きな女が目の前で素っ裸で布団の上だ。
カニが自分で殻脱いで食べてくださいと言っているようなものだ。
健康な男子として、これ以上の我慢はないと思っていたとき、すみれの衝撃発言があった。
「え~?無理だよ。反応しないでしょ」
けたけた笑いながら発したすみれの言葉が、しばらく理解できなかった。
反応しない?何それ?
「やっぱり、同性じゃないとできないでしょ~~」
同性じゃないとできない?逆じゃない?え、異性だと反応しないって……すみれ、同性愛者だったのか?
それで、長年の疑問がすとんとすべて解決してしまった。
すみれが直樹に対して男を意識しないところも。
合コンには来るくせに、男に興味なさそうにしていたことも。
『付き合う』ということに無関心に見えたことも。
そういえば、女を嬉しそうに観察していたこともある。「お前は親父が」と突っ込んではみたが……そうか、そうだったのか。
ショックで固まった直樹を無視して、すみれは楽しそうに「おやすみ~」と言って布団に潜り込んだ。
「脈なし……」
ほぼフラれたも同然だ。
がっくりと両手をつく直樹に、すみれが手を伸ばしてきた。
「どしたの~?おいで~」
よしよしと頭を撫でられて、同じ布団に誘導された。
誘われるがままにすみれの横に潜り込んで、片想い最後の思い出にさせてもらおうと、すみれを抱きしめて眠った。
酔っ払いと、失恋した男は二人で抱き合って眠る。
そうして、二人の初めての夜は終わったのだった。
すみれが同性愛者だとしても、だ。
昨夜のようなことがあれば、据え膳をいただかれてしまうのは仕方がないと思う。
次の朝目を覚まして、真っ赤な顔でアタフタするすみれを眺めて直樹は思う。
どうにかならないか、と。
女が好きな女だとしても、いつ男もいけるとあるか分からないではないか。
記憶をなくして真っ青になるすみれに一つ一つ言い聞かせた。
「飲みに行く日は教えろ」「終わったら連絡しろ」と。
気分は彼氏だ。お父さんではない。彼氏だ。
すみれは、直樹の言いつけをよく守った。
酔っ払ったすみれを介抱するのは、結構な精神力を使うが、ありがたく拝ませていただく。
飲み方を覚えてからも、すみれを束縛して、彼氏のように振る舞った。
それは、今も現在進行形である。
自分を恋愛対象として見ない女性に恋をし続けて五年。
不毛な恋も、長く続ければ純愛だ。多分。
休みの日はお互いの家を行き来しながら、時々泊まったりもする。
はっきり言って恋人同士の付き合いだ。体の関係がないけれど。
すみれの方も、良いなと思う女性はいても、告白して付き合うとまではいっていないようだ。認知されてきたと言っても、同性愛者の壁は高いということだろう。
下着なんてあるわけがないだろうと、コンビニまで走った。コンビニにトラベル用の歯磨きなどは分かるが、下着はいらないだろうと思っていた自分を責め立てたい。必要だぞ。さすがはコンビニ様だ。
急遽準備したパンツに厚手のトレーナー上下を着せた。
ぶかぶかなのもあって、視覚的に少し落ち着く。
「暑い」
「我慢しろ」
というか、自分はここまで我慢する必要があるのかという疑問までわいてくる。
はっきり言って、がっつり見させていただいた。いっそのことと思っていたこともあって、もう犯ってしまいたい。
だけど―――。
「直樹~呑も~」
同意なしでの行為の後に、にこにこと笑うすみれの笑顔が、直樹の手に戻ってくることは無いと思う。
赤い顔で嬉しそうにチューハイを握りしめるすみれに、諦めのため息と一緒に返事をした。
「はいはい。一本だけだからな?それ呑んだら寝ろよ?」
「いやー」
可愛く首を振って見せるすみれに、直樹は頬を緩ませた。
だが、その後は、お酒を取り上げた直樹に泣きながらすみれが抱き付いて来て、微笑むどころの余裕なんてない。
「寝ろ!」
さすがに直樹が怒鳴れば、ぶーっと唇を尖らせたすみれは、直樹が準備した布団に潜り込んだ。
―――と思ったら、起き上がって
「暑い」
と言いながら全部脱ぎやがった。
「ふざけんな!さすがに襲うぞ!」
もう無理だ。
好きな女が目の前で素っ裸で布団の上だ。
カニが自分で殻脱いで食べてくださいと言っているようなものだ。
健康な男子として、これ以上の我慢はないと思っていたとき、すみれの衝撃発言があった。
「え~?無理だよ。反応しないでしょ」
けたけた笑いながら発したすみれの言葉が、しばらく理解できなかった。
反応しない?何それ?
「やっぱり、同性じゃないとできないでしょ~~」
同性じゃないとできない?逆じゃない?え、異性だと反応しないって……すみれ、同性愛者だったのか?
それで、長年の疑問がすとんとすべて解決してしまった。
すみれが直樹に対して男を意識しないところも。
合コンには来るくせに、男に興味なさそうにしていたことも。
『付き合う』ということに無関心に見えたことも。
そういえば、女を嬉しそうに観察していたこともある。「お前は親父が」と突っ込んではみたが……そうか、そうだったのか。
ショックで固まった直樹を無視して、すみれは楽しそうに「おやすみ~」と言って布団に潜り込んだ。
「脈なし……」
ほぼフラれたも同然だ。
がっくりと両手をつく直樹に、すみれが手を伸ばしてきた。
「どしたの~?おいで~」
よしよしと頭を撫でられて、同じ布団に誘導された。
誘われるがままにすみれの横に潜り込んで、片想い最後の思い出にさせてもらおうと、すみれを抱きしめて眠った。
酔っ払いと、失恋した男は二人で抱き合って眠る。
そうして、二人の初めての夜は終わったのだった。
すみれが同性愛者だとしても、だ。
昨夜のようなことがあれば、据え膳をいただかれてしまうのは仕方がないと思う。
次の朝目を覚まして、真っ赤な顔でアタフタするすみれを眺めて直樹は思う。
どうにかならないか、と。
女が好きな女だとしても、いつ男もいけるとあるか分からないではないか。
記憶をなくして真っ青になるすみれに一つ一つ言い聞かせた。
「飲みに行く日は教えろ」「終わったら連絡しろ」と。
気分は彼氏だ。お父さんではない。彼氏だ。
すみれは、直樹の言いつけをよく守った。
酔っ払ったすみれを介抱するのは、結構な精神力を使うが、ありがたく拝ませていただく。
飲み方を覚えてからも、すみれを束縛して、彼氏のように振る舞った。
それは、今も現在進行形である。
自分を恋愛対象として見ない女性に恋をし続けて五年。
不毛な恋も、長く続ければ純愛だ。多分。
休みの日はお互いの家を行き来しながら、時々泊まったりもする。
はっきり言って恋人同士の付き合いだ。体の関係がないけれど。
すみれの方も、良いなと思う女性はいても、告白して付き合うとまではいっていないようだ。認知されてきたと言っても、同性愛者の壁は高いということだろう。
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