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恋の駆け引き4
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そうしている間に、ノックの音が響き、声がかかった。
「父上、入ります」
そう言って、返事も待たずに入ってきたのは、狩猟会でオリヴィアを運んでくれた彼、その人だった。
スラリとは絶対に形容できないほど大きく、ガタイの良い彼は、笑えばえくぼができて、目じりが下がる。とても愛嬌のいい表情をするのだが、今は、無表情に固まってしまっている。
やっぱり、とオリヴィアは思った。
とても迷惑そうな様子だ。もしかしたら、オフなのだから、部屋で寝ていたのかもしれない。この様子ならば、仕事中の方がまだよかったのだろうか。
「ようこそ」
言葉こそ、こちらに向けて言ってくれたようだったが、視線はオリヴィアへ向くことは無い。
これ以上の答えがあるだろうか。
すぐにでも帰りたいところだが、ここでオリヴィアだけが帰るわけにもいかない。
「あら、何度かお顔だけはお見かけしたことがありますわね」
呑気にリオが呟いた。
「そうですか!これが、愚息にございます」
にこにこと伯爵がグレンを紹介する。普段から愛想の良い人だが、さらに機嫌の良さそうな父の様子に、グレンがいぶかしげに目を細めた。
「急なご訪問、申し訳ございません。お会いできて嬉しいわ」
お淑やかな仕草でグレンに挨拶するリオを見て、グレンは、苛立ちとともに言葉を吐き出した。
「いいえ。申し訳ないと思ってくださるだけで十分です。・・・こちらに訪問されることを長官は知っていらっしゃるので?」
失礼な物言いに伯爵はグレンを窘め、オリヴィアは、公爵閣下に怒られてしまうのだろうかと、リオにそこまでの迷惑をかけてしまったのかと、顔を青ざめさせた。
リオは、グレンの失礼な物言いに動揺した様子もなく、グレンの顔を眺めてから、静かに口を開いた。
「私が、マックレガン伯爵家を訪れ、グレン様にお会いすることを、軍部長官たる公爵閣下にお伺いを立てるべきだと、おっしゃっていらっしゃるのね?」
静かな声音なのに、怒りが含まれた言葉に、グレンは言葉を詰まらせた。
「私のこの訪問を、わざわざ閣下の許可を得てしかるべきだと?」
確かに、突然の訪問はマナー違反だ。
しかし、リオたちは1時間前と言えども、しっかりと訪問の意志を知らせる手紙が届いていた。
それを急な話なのでと、断ることもできたのに、快諾したのは、グレンの父たるマックレガン伯爵だ。
そして、公爵夫人が訪問することに、訪問先ではなく閣下に許可を得る必要があるような人物は、それより高位・・・皇太子殿下か、陛下くらいなものだ。
グレンの今の発言は、マックレガン伯爵家を、それと同様に敬えと言ったようなものなのだ。
「ばっ……!馬鹿者!」
普段のリオを知らない伯爵が、一番に立ち直り、グレンを叱責した。
「いいのよ、マックレガン伯爵。彼にも思うところがあるのでしょう。先日のお礼のつもりで訪問いたしましたが・・・間違ってしまったようね」
リオの考えるようなそぶりに、伯爵は今にも卒倒しそうだ。
グレンも、リオのいつもの気安い雰囲気に、長官に言いつけるぞという軽い気持ちで発した言葉が、とんでもない不敬な言葉となってしまったことに動揺していた。
「マックレガン伯爵、彼に誤解があるようなの。席を外していただけるかしら?」
「は、は・・・・・・しかし」
「大丈夫よ。今の発言を罰しようなどと思っていないわ。お話をしたいだけ」
愛らしい顔で微笑まれて、それ以上言えなくなってしまった伯爵は、心配そうにグレンを見た後に、部屋を辞した。
「父上、入ります」
そう言って、返事も待たずに入ってきたのは、狩猟会でオリヴィアを運んでくれた彼、その人だった。
スラリとは絶対に形容できないほど大きく、ガタイの良い彼は、笑えばえくぼができて、目じりが下がる。とても愛嬌のいい表情をするのだが、今は、無表情に固まってしまっている。
やっぱり、とオリヴィアは思った。
とても迷惑そうな様子だ。もしかしたら、オフなのだから、部屋で寝ていたのかもしれない。この様子ならば、仕事中の方がまだよかったのだろうか。
「ようこそ」
言葉こそ、こちらに向けて言ってくれたようだったが、視線はオリヴィアへ向くことは無い。
これ以上の答えがあるだろうか。
すぐにでも帰りたいところだが、ここでオリヴィアだけが帰るわけにもいかない。
「あら、何度かお顔だけはお見かけしたことがありますわね」
呑気にリオが呟いた。
「そうですか!これが、愚息にございます」
にこにこと伯爵がグレンを紹介する。普段から愛想の良い人だが、さらに機嫌の良さそうな父の様子に、グレンがいぶかしげに目を細めた。
「急なご訪問、申し訳ございません。お会いできて嬉しいわ」
お淑やかな仕草でグレンに挨拶するリオを見て、グレンは、苛立ちとともに言葉を吐き出した。
「いいえ。申し訳ないと思ってくださるだけで十分です。・・・こちらに訪問されることを長官は知っていらっしゃるので?」
失礼な物言いに伯爵はグレンを窘め、オリヴィアは、公爵閣下に怒られてしまうのだろうかと、リオにそこまでの迷惑をかけてしまったのかと、顔を青ざめさせた。
リオは、グレンの失礼な物言いに動揺した様子もなく、グレンの顔を眺めてから、静かに口を開いた。
「私が、マックレガン伯爵家を訪れ、グレン様にお会いすることを、軍部長官たる公爵閣下にお伺いを立てるべきだと、おっしゃっていらっしゃるのね?」
静かな声音なのに、怒りが含まれた言葉に、グレンは言葉を詰まらせた。
「私のこの訪問を、わざわざ閣下の許可を得てしかるべきだと?」
確かに、突然の訪問はマナー違反だ。
しかし、リオたちは1時間前と言えども、しっかりと訪問の意志を知らせる手紙が届いていた。
それを急な話なのでと、断ることもできたのに、快諾したのは、グレンの父たるマックレガン伯爵だ。
そして、公爵夫人が訪問することに、訪問先ではなく閣下に許可を得る必要があるような人物は、それより高位・・・皇太子殿下か、陛下くらいなものだ。
グレンの今の発言は、マックレガン伯爵家を、それと同様に敬えと言ったようなものなのだ。
「ばっ……!馬鹿者!」
普段のリオを知らない伯爵が、一番に立ち直り、グレンを叱責した。
「いいのよ、マックレガン伯爵。彼にも思うところがあるのでしょう。先日のお礼のつもりで訪問いたしましたが・・・間違ってしまったようね」
リオの考えるようなそぶりに、伯爵は今にも卒倒しそうだ。
グレンも、リオのいつもの気安い雰囲気に、長官に言いつけるぞという軽い気持ちで発した言葉が、とんでもない不敬な言葉となってしまったことに動揺していた。
「マックレガン伯爵、彼に誤解があるようなの。席を外していただけるかしら?」
「は、は・・・・・・しかし」
「大丈夫よ。今の発言を罰しようなどと思っていないわ。お話をしたいだけ」
愛らしい顔で微笑まれて、それ以上言えなくなってしまった伯爵は、心配そうにグレンを見た後に、部屋を辞した。
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