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恋の駆け引き2
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先週、オリヴィアが公爵邸に遊びに来たのだ。
前回、筋肉について語り明かしたことをもう一度・・・・・・いやいや、違う。オリヴィアの恋の行方について、悩みがあるから相談に乗って欲しいという手紙が来たのだ。
それで、公爵邸へ来てもらって、二人でお茶を飲みながら、優雅なひとときを過ごしたのだ。
侍女たちが準備してくれたお菓子とお茶を前に、オリヴィアは、悲しそうに話を切り出した。
曰く、全く振り向いてくれないと。
「私、あの狩猟会の後も、何度かお礼をしたいとお手紙をお書きしたの」
一度目は、丁寧なご挨拶をありがとうございますと返事が来た。けれど、お礼など気にする必要はないと。
二度目は、気に病まないでくださいと返事が来た。あれは任務であって、令嬢が気にされることではないと。
三度目は、どうか忘れてくださいと返事が来た。動くベッドのことは覚えているほど重要なことではないと。
四度目の返事は・・・なかった。
しつこい。
しまった。本音が。
「私、どうしてもお礼がしたくて、何が欲しいか書き連ねたのよ。だけど、必要ないばかりで・・・」
彼も、任務であったのだから、品物は受け取りにくいだろう。「あ、じゃあ、これちょうだい~」と言えるような仲でもないのだから。
「それで、私、直接お会いしに行きましたの」
「行ったの!?」
「ええ。軍部にお伺いしたら、会ってくださったの」
なかなかの行動力だ。兄が聞けば、『リオ二号』の称号を得ることができるかもしれない。
「けれど、ご迷惑そうだったわ」
オリヴィアの目に涙が盛り上がる。
そのことを恥じらうように目を伏せれば、大粒のしずくが、ころりと、頬を転がっていった。
「本当に気にされないでくださいって、それだけおっしゃって、初めてお会いしたときのような笑顔を見せてはくださらなかったの」
顔を見れば、嬉しそうにしてくれると思っていたという。
そう話して、オリヴィアは自嘲するように笑った。
「なんとも傲慢な考え方ですわ。私、拒否されることなんて、考えてもいなかったのですもの」
想いを伝えれば、きっと受け入れてくれる。
手紙では伝わらなかったのならば、会えばいい。
押しつけるような思いは迷惑以外の何物でもないというのに。
そのことに、ようやく気がついたのだとオリヴィアは嗤った。
「それで、謝りたいと思うのです。だけど、・・・・・・もう、これ以上はご迷惑でしょう?」
手紙は四度も出した。迷惑なことにも気がつかずに、仕事中に会いにも行った。
だから、もう二度とこのようなことはしないということを伝えて謝りたいという。
「私から、もう一度お手紙を出すことも考えたのですが信用されずに、気持ち悪いと思われてしまったらと考えると・・・・・・」
語尾が、涙で詰まってしまって出なかった。
好きになった方にそんな風に思われることを想像するだけでも辛いだろう。
迷惑がられていることをもっと早くに気がついて、何度も手紙を出すことなどしなければよかったと、オリヴィアは肩をふるわせた。
だから、彼――――グレイ=マックレガンに、上司の妻であるリオから謝罪を届けてもらおうと、恥を忍んで頼みに来たのだ。
リオは、グレイの名前は初めて聞いたが、マックレガンと言うことは、オリヴィアと同じ伯爵家だろうか。
「ええ。お兄様の方は、ご挨拶させていただいたことがありますわ。弟様は、もう早くから軍部に入ったと聞いて、夜会などにはお顔を出されない方でした」
なるほど、伯爵家次男か。
「その縁組みは・・・伯爵様はお喜びになったでしょうね」
オリヴィアは、アルサーレ伯爵家長女だ。モニカという妹はいるが、男児がいなかった。必然的に、オリヴィアが結婚して、その婿がアルサーレ伯爵の跡継ぎとなる。
そこに、伯爵家の次男が来てくれるなら、そちらとも縁続きになるよい縁組みだろう。
「ふふっ、そうね。父は考えたことがあるけれど、グレイ様は、私の好みではないだろうと考えていらしたそうなの」
実際、その通りだっただろう。狩猟会であのような事態にならなければ、やはりオリヴィアも大きな体つきの男性は怖かった。
「どこかで、何かが変わっていれば、もしかしたら、グレイ様の妻になれることもあったのかもしれないのね」
寂しげに笑ったオリヴィアの表情に、リオは胸をつかれた。
リオだって、オリヴィアのようになる可能性はあった。
アレクシオとお互いに誤解し合ったまま離婚し、泣き暮らす未来だって、あったかもしれないのだ。
そんな暮らし、想像するだけで気を失ってしまいそうだ。
長身をかがめて、リオの顔をのぞき込む瞳も、困ったように下がる眉も、嬉しそうに笑う口元も、優しくリオに触れる手も、耳元で囁く声も、全て失うどころか、手にすることさえない未来。
前回、筋肉について語り明かしたことをもう一度・・・・・・いやいや、違う。オリヴィアの恋の行方について、悩みがあるから相談に乗って欲しいという手紙が来たのだ。
それで、公爵邸へ来てもらって、二人でお茶を飲みながら、優雅なひとときを過ごしたのだ。
侍女たちが準備してくれたお菓子とお茶を前に、オリヴィアは、悲しそうに話を切り出した。
曰く、全く振り向いてくれないと。
「私、あの狩猟会の後も、何度かお礼をしたいとお手紙をお書きしたの」
一度目は、丁寧なご挨拶をありがとうございますと返事が来た。けれど、お礼など気にする必要はないと。
二度目は、気に病まないでくださいと返事が来た。あれは任務であって、令嬢が気にされることではないと。
三度目は、どうか忘れてくださいと返事が来た。動くベッドのことは覚えているほど重要なことではないと。
四度目の返事は・・・なかった。
しつこい。
しまった。本音が。
「私、どうしてもお礼がしたくて、何が欲しいか書き連ねたのよ。だけど、必要ないばかりで・・・」
彼も、任務であったのだから、品物は受け取りにくいだろう。「あ、じゃあ、これちょうだい~」と言えるような仲でもないのだから。
「それで、私、直接お会いしに行きましたの」
「行ったの!?」
「ええ。軍部にお伺いしたら、会ってくださったの」
なかなかの行動力だ。兄が聞けば、『リオ二号』の称号を得ることができるかもしれない。
「けれど、ご迷惑そうだったわ」
オリヴィアの目に涙が盛り上がる。
そのことを恥じらうように目を伏せれば、大粒のしずくが、ころりと、頬を転がっていった。
「本当に気にされないでくださいって、それだけおっしゃって、初めてお会いしたときのような笑顔を見せてはくださらなかったの」
顔を見れば、嬉しそうにしてくれると思っていたという。
そう話して、オリヴィアは自嘲するように笑った。
「なんとも傲慢な考え方ですわ。私、拒否されることなんて、考えてもいなかったのですもの」
想いを伝えれば、きっと受け入れてくれる。
手紙では伝わらなかったのならば、会えばいい。
押しつけるような思いは迷惑以外の何物でもないというのに。
そのことに、ようやく気がついたのだとオリヴィアは嗤った。
「それで、謝りたいと思うのです。だけど、・・・・・・もう、これ以上はご迷惑でしょう?」
手紙は四度も出した。迷惑なことにも気がつかずに、仕事中に会いにも行った。
だから、もう二度とこのようなことはしないということを伝えて謝りたいという。
「私から、もう一度お手紙を出すことも考えたのですが信用されずに、気持ち悪いと思われてしまったらと考えると・・・・・・」
語尾が、涙で詰まってしまって出なかった。
好きになった方にそんな風に思われることを想像するだけでも辛いだろう。
迷惑がられていることをもっと早くに気がついて、何度も手紙を出すことなどしなければよかったと、オリヴィアは肩をふるわせた。
だから、彼――――グレイ=マックレガンに、上司の妻であるリオから謝罪を届けてもらおうと、恥を忍んで頼みに来たのだ。
リオは、グレイの名前は初めて聞いたが、マックレガンと言うことは、オリヴィアと同じ伯爵家だろうか。
「ええ。お兄様の方は、ご挨拶させていただいたことがありますわ。弟様は、もう早くから軍部に入ったと聞いて、夜会などにはお顔を出されない方でした」
なるほど、伯爵家次男か。
「その縁組みは・・・伯爵様はお喜びになったでしょうね」
オリヴィアは、アルサーレ伯爵家長女だ。モニカという妹はいるが、男児がいなかった。必然的に、オリヴィアが結婚して、その婿がアルサーレ伯爵の跡継ぎとなる。
そこに、伯爵家の次男が来てくれるなら、そちらとも縁続きになるよい縁組みだろう。
「ふふっ、そうね。父は考えたことがあるけれど、グレイ様は、私の好みではないだろうと考えていらしたそうなの」
実際、その通りだっただろう。狩猟会であのような事態にならなければ、やはりオリヴィアも大きな体つきの男性は怖かった。
「どこかで、何かが変わっていれば、もしかしたら、グレイ様の妻になれることもあったのかもしれないのね」
寂しげに笑ったオリヴィアの表情に、リオは胸をつかれた。
リオだって、オリヴィアのようになる可能性はあった。
アレクシオとお互いに誤解し合ったまま離婚し、泣き暮らす未来だって、あったかもしれないのだ。
そんな暮らし、想像するだけで気を失ってしまいそうだ。
長身をかがめて、リオの顔をのぞき込む瞳も、困ったように下がる眉も、嬉しそうに笑う口元も、優しくリオに触れる手も、耳元で囁く声も、全て失うどころか、手にすることさえない未来。
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