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手紙

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朝起きると、広いベッドに一人だった。
カーテンの隙間から漏れる陽射しが明るい。それが、結構な時間であることを伝えてくる。
「え?なんで……」
呟いた声がかすれて、声がかれていることに気が付く。
そして、今日がクロードが出征する日だと思い出す。
「うそ、寝過ごしたっ……!?」
なぜ誰も起こしてくれなかったのか。
焦ってベッドから降りようとして、足に力が入らずに、すとんと床まで落ちてしまう。
体がだるい。腰が痛い。足に力が入らない。

『も、だめっ……くろーどさまあ』
『メイシ―。もっとだ。もっと。……っはぁ。気持ちいいよ』
昨夜の――いや、ついさっきまでの痴態がよみがえってくる。
じんわりと下腹部が熱い。
こすられすぎて熱を持っているのだ。
何度突き上げられただろう。
クロードに縋りついて、最後は泣き声に近かったはずだ。記憶がなくなってからもむさぼられたのかもしれない。
ベッドも夜着も、きれいになっている。シーツの端がしっかりと布団をくるんでいないから、これをしたのが慣れない人間なのだとわかる。
クロードが使用人も呼ばずにやってくれたのだ。
でも、どうして?

一縷の望みをかけて、ベッドサイドに置いている呼び鈴を鳴らす。
「奥様。お目覚めですか?」
困ったような顔をしてすぐに来てくれた侍女は、メイシ―が床に座り込んでいるのを見て、慌てて体を支えてくれる。
「クロード様は?」
水を取ろうとしている侍女を制して、聞く。
もしかして、急いで準備をすれば間に合うのではないかと。
しかし、彼女はさらに気まずそうな顔をして、頭を下げた。
「朝早くに出立いたしました。……奥様は、お疲れなのでゆっくりと休まれるようにと言われて」
目を丸くして固まるメイシ―を支えながら、もう一度ベッドに戻してくれる。
水を受け取り、のどに流し込むと、ピリピリしていた喉に気持ちがいい。
寝坊したショックなどいろいろ放り出して、とりあえず、メイシ―は叫んだ。

「~~~クロード様の、バカっ!」

執事や侍女たち、使用人総出で、謝ってくれた。
いつもクロードのそばにいるエリクから、クロードの言伝を聞く。
クロードが、メイシ―に無理をさせすぎたので、ゆっくりさせたいと言っていたらしい。見送りはベッドの中でしっかりとしてもらったと。
――何言ってんの!?
瞬時に真っ赤に染まったメイシ―を見て、侍女たちがエリクを追い出した。
は、はず……はずか死ぬ!
メイシ―はしっかりとクロードを見送りする気でいたのに、寝坊した上に足腰立たない状態。
その理由を、ここで働く人、いや、それどころか、軍部の人全員に知られたのかもしれない!
メイシ―はプルプルと震え、
「クロード様にお手紙を書きます!」
涙目で叫んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

クロード様
さぞかしお元気でいらっしゃることでしょう。
あんな状態で放り出して、お見送りもさせてくれないなんて。
目覚めたときに、とても寂しかったのです。
帰ってこられたら、たくさん文句があります。
たくさんすぎて、お手紙には書けないので、帰ってきてから直接お伝えします。
だから、絶対にお出迎えはさせてもらいますからね!絶対です。
お見送りもさせてもらえなかったのに、お出迎えもないなんてこと、絶対に許しません。
クロード様を思い出すときに、冷たいシーツを思い出させるようなこと、なさらないでください。
お帰りをお待ちしております。

メイシ―

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


メイシ―は簡潔に書き上げた手紙に封をして、侍女に託す。
出征先には、物資が一定間隔で届けられる。
こちらからの手紙は、その中に入れてくれるらしい。
通常よりも届くまでに時間がかかるが、確実に読んでくれることだろう。
メイシ―が怒っていることを知って、慌てたらいい!

この手紙を書いているときは、そんな強気な気分だったのだ。

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