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初夜
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真っ白な空間に、天井から降り注ぐ陽の光がステンドグラスを通って様々な色をまとって降り注ぐ。
輝く美しい空間に、美しい男性。
彼の大きな体は、神を模した像よりも存在感を放っていた。
神への冒涜にも等しいことを考えながら、メイシ―は麗しい花婿に見とれていた。
神への誓いの前に、花婿の元まで付き添ってくれるのは、大司教だ。
本来ならば、長い通路の向こう側、花婿のそばで花嫁を待つ役目だが、今回はメイシ―の父親役がしたいと申し出てくれた。
じゃんけんで勝ったのだと、得意顔で冗談を言うお茶目な方だ。二番目に勝ったという司教が、誓いの言葉を述べてくれる。
公爵家との婚姻だ。王族も参列するという、盛大な式を最速で仕上げてもらったせいで、教会のみんなは、最後の仕上げとばかりに忙しいはずなのに、幾人も見届けに会場に来てくれている。
きっと、無理やり隙間時間を作ってくれたのだ。この後、すぐに走り回ってくれるみんなの気持ちに感動して、すでに涙がこぼれてしまいそうだ。
クロードの元へたどり着き、大司教からクロードへ手を動かす。
差し出された大きな手に、自分の手があまりにも小さく見えて感動を覚える。
なんっっ……て、素敵なの!
ぎゅうっと握りしめたい思いを我慢して、そっと乗せるだけにとどめる。
大丈夫。これからいくらでも握りしめられる時間があるはず。
メイシ―がクロードを見上げると、彼はメイシ―の手を見つめていた。
どうしたのかと声をかけてもいいかためらっていると、司教の声が響く。
お互いに婚姻の意志を確認だ。
クロードが低い声で返事をして、メイシ―も「はい」と、少しだけよそ行きの声で答える。
その返事が終わった後、祝福の言葉が降り注ぐ。
途端、わあっと祝福の声が会場中から上がり、どこからか花びらが舞い上がる。
クロードの隣で見る景色があんまりにきれいで。
祝福してくれる人たちに次から次に挨拶をした。
とても、とても幸福な時間。
メイシ―は、クロードを見上げ微笑む。
彼は、少し困ったような笑い方をした。
疲れたのだろうか?
メイシ―は楽しくて仕方がないが、男性はこんな席は苦手なのかもしれない。
大丈夫?と聞きたかったが、次から次へとお祝いの言葉をかけられて、彼と話せる時間はなかった。
忙しさの中に、少しの違和感なんて、あっという間に霧散してしまった。
そうして、披露宴を経て、初夜だ。
夫婦の寝室でメイシ―は夫となったクロードを待っていた。
侍女に気恥しいほどの薄いナイトドレスを着せられ、寝室に一人残された。
ベッドで待つのか、ソファーで待つのか悩み、じっとしていられずにうろうろと歩き回る。
ベッドは恥ずかしいけれど、こんな薄着でソファーに優雅に座っていられない。
ソファーの前のテーブルには、お酒と軽食が準備している。
ほとんど食べることができなかった花嫁への気づかいだ。
せめて、少しだけでも口にしておこうと食べてみたが、胸がいっぱいでどうにものどを通らない。さらに、こんな心もとない格好での食事なんて、落ち着かないにもほどがある。
「はあ、緊張する」
呟いてみると、逆に少し落ち着いたような気がする。
さっきまで聞こえていた宴会の音が落ち着いたような気がする。きっと、そろそろお開きにしたのだろう。
そうすれば、クロードはこの部屋にやってくる。
そう考えた途端、体中が跳ねるほど、大きく心臓が動いた。
どうやって出迎えよう。
ベッドで?いや、さすがにそれはないか。
立って、ドアまで……なんだか急かしているみたい?
ソファーのそばで?でも、こんな格好で向かい合わせでお酒を飲むことになったら、いたたまれない。
結局どうすればいい!?
速くなる鼓動と一緒にあっちこっちと歩き回る。
気が付くと、あたりはしんと静まり返っていた。
静かだ。
客が帰る馬車の音さえ途切れてしまっている。
花婿が客を見送ることはない……と聞いている。
客が花婿を見送り、それを合図に宴会はお開きになるのだ。
だから、こんなに静かになったのに、まだクロードが来ていないのはおかしい。
客が全て帰り終わるほど時間がたっているのに、夫がまだ寝室に現れない。
……まさか、すっぽかされた?
喜びで高鳴っていた胸が、別の方向で大きく音を立てた。
頭の中に焼き付いて離れないクロードの姿が、メイシ―を貶める人ではないと信じさせてくれる。
では、初夜にここに現れない理由は?
使用人も何も伝えに来ていない。
きっと、クロードが寝室に向かったからだ。何か不測の事態があれば、使用人が伝えに来るだろう。
あらゆる可能性を考えたいけれど、彼が現れないのは、彼の意志以外にあり得ないのだ。
すごく苦しくて、体がふらついた。
倒れそうになるのを、ソファーの背もたれを持って支えた時に、ひゅっと甲高い音とともに空気を吸って、息をしていなかったことに初めて気が付いた。
ソファーに置いた手が震えている。
いや、手だけじゃない。足も肩も全身が震えている。
クロードが、初夜の寝室を訪れない選択をした。
この部屋で、いろいろと考えていた時間、全部が恥ずかしい。
一人で夫となった人に見とれて、浮かれて、あたふたして。
みじめさに涙があふれそうになる。
震える手を握りしめて、クロードが来るはずのドアを見つめる。
寝室の右と左に、妻と夫のそれぞれの私室がある。反対側がメイシ―の部屋なので、こちら側がクロードの部屋だ。
メイシ―は大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
体の震えは止まらないが、幾分かましになったような気がする。
メイシ―は、聖女と呼ばれるには似合わないほど、気が強いほうだと自負する。
夫となった人に初夜をすっぽかされて、泣き寝入りするほどおとなしくない。
そう、おとなしくないんだ。
クロードは、聖女に半ば強制されたとしても、結婚を了承したのだ。
初夜に妻を放っておくなど、していいはずがない。
もしも、もしも……メイシ―では男性機能が役に立たないのであれば、どうしようもないが、いろいろと方法があると聞いている。
それらを試してもみないで、初夜を放り出すなんて許されない。
輝く美しい空間に、美しい男性。
彼の大きな体は、神を模した像よりも存在感を放っていた。
神への冒涜にも等しいことを考えながら、メイシ―は麗しい花婿に見とれていた。
神への誓いの前に、花婿の元まで付き添ってくれるのは、大司教だ。
本来ならば、長い通路の向こう側、花婿のそばで花嫁を待つ役目だが、今回はメイシ―の父親役がしたいと申し出てくれた。
じゃんけんで勝ったのだと、得意顔で冗談を言うお茶目な方だ。二番目に勝ったという司教が、誓いの言葉を述べてくれる。
公爵家との婚姻だ。王族も参列するという、盛大な式を最速で仕上げてもらったせいで、教会のみんなは、最後の仕上げとばかりに忙しいはずなのに、幾人も見届けに会場に来てくれている。
きっと、無理やり隙間時間を作ってくれたのだ。この後、すぐに走り回ってくれるみんなの気持ちに感動して、すでに涙がこぼれてしまいそうだ。
クロードの元へたどり着き、大司教からクロードへ手を動かす。
差し出された大きな手に、自分の手があまりにも小さく見えて感動を覚える。
なんっっ……て、素敵なの!
ぎゅうっと握りしめたい思いを我慢して、そっと乗せるだけにとどめる。
大丈夫。これからいくらでも握りしめられる時間があるはず。
メイシ―がクロードを見上げると、彼はメイシ―の手を見つめていた。
どうしたのかと声をかけてもいいかためらっていると、司教の声が響く。
お互いに婚姻の意志を確認だ。
クロードが低い声で返事をして、メイシ―も「はい」と、少しだけよそ行きの声で答える。
その返事が終わった後、祝福の言葉が降り注ぐ。
途端、わあっと祝福の声が会場中から上がり、どこからか花びらが舞い上がる。
クロードの隣で見る景色があんまりにきれいで。
祝福してくれる人たちに次から次に挨拶をした。
とても、とても幸福な時間。
メイシ―は、クロードを見上げ微笑む。
彼は、少し困ったような笑い方をした。
疲れたのだろうか?
メイシ―は楽しくて仕方がないが、男性はこんな席は苦手なのかもしれない。
大丈夫?と聞きたかったが、次から次へとお祝いの言葉をかけられて、彼と話せる時間はなかった。
忙しさの中に、少しの違和感なんて、あっという間に霧散してしまった。
そうして、披露宴を経て、初夜だ。
夫婦の寝室でメイシ―は夫となったクロードを待っていた。
侍女に気恥しいほどの薄いナイトドレスを着せられ、寝室に一人残された。
ベッドで待つのか、ソファーで待つのか悩み、じっとしていられずにうろうろと歩き回る。
ベッドは恥ずかしいけれど、こんな薄着でソファーに優雅に座っていられない。
ソファーの前のテーブルには、お酒と軽食が準備している。
ほとんど食べることができなかった花嫁への気づかいだ。
せめて、少しだけでも口にしておこうと食べてみたが、胸がいっぱいでどうにものどを通らない。さらに、こんな心もとない格好での食事なんて、落ち着かないにもほどがある。
「はあ、緊張する」
呟いてみると、逆に少し落ち着いたような気がする。
さっきまで聞こえていた宴会の音が落ち着いたような気がする。きっと、そろそろお開きにしたのだろう。
そうすれば、クロードはこの部屋にやってくる。
そう考えた途端、体中が跳ねるほど、大きく心臓が動いた。
どうやって出迎えよう。
ベッドで?いや、さすがにそれはないか。
立って、ドアまで……なんだか急かしているみたい?
ソファーのそばで?でも、こんな格好で向かい合わせでお酒を飲むことになったら、いたたまれない。
結局どうすればいい!?
速くなる鼓動と一緒にあっちこっちと歩き回る。
気が付くと、あたりはしんと静まり返っていた。
静かだ。
客が帰る馬車の音さえ途切れてしまっている。
花婿が客を見送ることはない……と聞いている。
客が花婿を見送り、それを合図に宴会はお開きになるのだ。
だから、こんなに静かになったのに、まだクロードが来ていないのはおかしい。
客が全て帰り終わるほど時間がたっているのに、夫がまだ寝室に現れない。
……まさか、すっぽかされた?
喜びで高鳴っていた胸が、別の方向で大きく音を立てた。
頭の中に焼き付いて離れないクロードの姿が、メイシ―を貶める人ではないと信じさせてくれる。
では、初夜にここに現れない理由は?
使用人も何も伝えに来ていない。
きっと、クロードが寝室に向かったからだ。何か不測の事態があれば、使用人が伝えに来るだろう。
あらゆる可能性を考えたいけれど、彼が現れないのは、彼の意志以外にあり得ないのだ。
すごく苦しくて、体がふらついた。
倒れそうになるのを、ソファーの背もたれを持って支えた時に、ひゅっと甲高い音とともに空気を吸って、息をしていなかったことに初めて気が付いた。
ソファーに置いた手が震えている。
いや、手だけじゃない。足も肩も全身が震えている。
クロードが、初夜の寝室を訪れない選択をした。
この部屋で、いろいろと考えていた時間、全部が恥ずかしい。
一人で夫となった人に見とれて、浮かれて、あたふたして。
みじめさに涙があふれそうになる。
震える手を握りしめて、クロードが来るはずのドアを見つめる。
寝室の右と左に、妻と夫のそれぞれの私室がある。反対側がメイシ―の部屋なので、こちら側がクロードの部屋だ。
メイシ―は大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
体の震えは止まらないが、幾分かましになったような気がする。
メイシ―は、聖女と呼ばれるには似合わないほど、気が強いほうだと自負する。
夫となった人に初夜をすっぽかされて、泣き寝入りするほどおとなしくない。
そう、おとなしくないんだ。
クロードは、聖女に半ば強制されたとしても、結婚を了承したのだ。
初夜に妻を放っておくなど、していいはずがない。
もしも、もしも……メイシ―では男性機能が役に立たないのであれば、どうしようもないが、いろいろと方法があると聞いている。
それらを試してもみないで、初夜を放り出すなんて許されない。
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