召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく

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白いワンピース

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「ここは、ストライー国。ここ数年、魔物が増え続け、甚大な被害を及ぼしている。そして、祈りをささげた結果、聖女を呼び寄せよと神託が下った。そして、現れたのが、あなた方だ」
話している途中で、目の前の一番偉そうな男は視線を女の子にうつし、優しく語り掛ける。
ものすごく簡単すぎる説明だったが、いいのか?
理解させようという気はあるのか?
聖女を呼び寄せよって……神、何かしゃべれるなら自分で何とかしてやれよ。
「私は、この国の王太子。アールシュワイディストディウス。……どうぞ、アル、とお呼びください」
自己紹介をした彼の名前が長くて目をぱちぱちさせた女の子に嬉しそうに微笑みながら、彼は言う。
あなた方。とか、形の上では亜優ともう一人の女性に向かって言っている態だが、どう見ても、彼女にしか言ってない。
「お名前を教えていただけますか?」
「あ……アリス、です」
名前まで可愛い。
でも、見た目からも思っていたが、彼女は日本人ではない。
亜優には聞かないのか?なんてことが頭をよぎったが、教えてやる義理はない。
聞いてきたらきたで、『ココハドコ、ワタシハダレ』とでも言ってやろうと思っている。
「何と可憐なお名前だ。アリス、とお呼びしても?」
「は、はい」
麗しい笑顔に、アリスは今や顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
その初々しい仕草にも、アルの熱い視線が向かう。
「殿下。私どもも発言を許していただけますか?」
二人の世界に焦れたらしい三人が、後ろから声をかける。
「ああ……。仕方がないな」
アルは大きな息を吐いて、彼女の横に移動する。離れる気はないらしい。
アリスが見上げる先で、男性三人が喜色の色を浮かべる。
ようやく自分が彼女の視線に捉えられて嬉しいようだ。
――というか名前、本当に私には聞かんのかい。
無視されすぎて、いっそすがすがしい。
亜優は、誰にも相手にされないことをいいことに、ぐるりと周りを見渡す。
天井が球状になっている。ドーム型の建物のようだ。
どこを見渡しても、コンセントのようなものはないし、ここに居る人たちは、みんな大真面目だ。
ようやく自己紹介タイムが終わったらしく、アリスを中心に、エスコートが始まっている。
――私はどうすればいいの。
周りに突っ立ったままのローブ姿の方に視線を送ろうとしたが、みんなアリスに見惚れていて話にならない。
「あの」
嫌だったが、話しかけずに終わらない。

全員に一斉にみられて固まる亜優に、迷惑そうに振り返った王太子は、顎をしゃくって続きを促す。
「なんだ」
ものすごく感じが悪い。
「聖女を呼び出すって、私はどうしてここに?」
彼らの対応を見る限り、聖女はアリスということなのだろう。
だったら、亜優がここに座り込んでいる意味がない。
「何かの手違いだろう」
あっさりと『手違い』で終わらせようとしたお綺麗な顔を踏んずけてやりたい。
「だったら、私は帰りたいのですが」
「勝手にしろ」
興味が失せたように手を振られるが、勝手にできるなら最初から勝手にしている。
「元の世界に返してください」
それが呼び出したものの責任という奴だろう。
アルは眉を寄せて、ローブを着ている人たちに視線を移す。
「やっておけ」
その、何だかとても軽い口調はわざとなのか?
こちとら、人生捻じ曲げられている最中なんだが。
いらいらと、亜優もローブの人たちを見上げると、みんなが一斉に頭を下げた。
「申し訳ありません。私どもにできるのは、呼び出すのみ。帰還の術など、どうやればいいのか」
この召喚の術も、神からの啓示だという。神からこれ以上のことを教えられていないので、できないらしい。
本気で、この世界の神も人間も何を考えているのだ。
お前らは、毒を作っておいて、解毒薬を作れないなんて言うつもりか。
「間違って呼び寄せておいて、放っておくなんて、責任感はないんですか」
亜優の言葉に、彼らは不快気に眉間にしわを寄せる。
そして、アルは、アリスを見下ろしてそっと手を取る。
「彼女は、あなたとはずいぶん違う姿をされていますが、同じ場所から来られたのですか?」
随分、話し方が違う。
ここまであからさまだと、全ての髪の毛をむしりとってやりたくなる。
「あの……えっと」
アリスは困ったように目を泳がせる。
それはそうだ。こちらは作業服、向こうはワンピースだが、両方とも同じ世界にあるもの。ずいぶん違うなんて、そっちだって、騎士服とローブはずいぶん違うだろうに。
そんなことにも頭が回らない人間が、よくも偉そうな態度を取れるものだ。
「多分……そうだと思いますが、よく、分かりません」
…………は?
アリスは、ちらりと亜優を見て、怖がるように身を縮めこませる。
えーーー?うそーーーー?
作業服だよ?何、この形の服は欧米にはありませんって?んなわけあるか!
「その服ワンピースじゃないですか!一緒の世界でしょ!?国はどこですか?アメリカ?ヨーロッパの方?」
彼女の言葉を聞いた途端、男性陣の亜優に対する興味が途端に薄れたことに気が付いた。
ここで否定されるとまずいと思って、必死で食いつく。
しかし、彼女は困ったように微笑むだけ。
「ごめんなさい。私は、その服を見たことが無いです」
態度とは裏腹に、きっぱりと言い切って、彼女は亜優から視線を逸らす。
彼女のその反応を見て、彼らは亜優のことは必要ないと見たようだ。
そんな、馬鹿な。
返す方法が分からない上に、保護対象でもなくなるって言うのか?この、見たこともない世界で?
「なぜこんなものが一緒に現れたのか。アリス、あなたに元の世界のことを語り合う人は必要だろうか」
ただ、最期の判断をアリスに託す。
「ええと……でも……私、もう少し、年齢や……その、振る舞いが近い方がいいです」
がさつなおばちゃんだといいたいのか、この野郎。
アリスは見た目、十代には見えるが、亜優だってまだ二十五歳だ。
アルはしっかりと頷く。
しかし、彼が命令を出す前に、亜優は大きな声で叫んだ。

「私は、この世界の言語、全て理解します!」

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