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彼2
謎解き
しおりを挟むはあ……と、大きく息を吐き出して、陽介は彼女から手を離した。
「え?あれ……?」
咲綾が戸惑っている間に、軽く服を整えてやって、陽介は自分の身だしなみも整える。
臨戦態勢の自分はまだまだ落ち着かないが、放っておくしかできない。
「俺は、帰るよ」
放り出していた、泊り用の荷物。
それがこんなにむなしいものになろうとは思っていなかった。
「え?な……なんでっ!?」
咲綾が陽介の腕に縋り付いてくる。
両腕で陽介の腕に巻き付くように捕まって、まるで愛されて離したくないと思われているみたいだ。
「ここは、嫉妬に駆られて滅茶苦茶激しく抱いちゃったりする場面じゃ……!?」
陽介は首を振って苦く笑う。
「俺は、好きな人は優しく抱きたい方なんだ。しかも、二股ってのは、絶対無理――」
「二股じゃないですっ!ごめんなさい!嘘つきましたあ!」
陽介が言い終わる前に、咲綾が号泣した。
両目からボロボロと涙がこぼれていく。
陽介は帰ろうとしていた足を止めて、咲綾をただ眺める。
両手の甲で流れる涙を一生懸命拭っている姿は、本当に可愛い。
これが、明らかな二股を誤魔化そうとしているのだと分かっていても可愛いのだ。
陽介は耐えきれずに大きなため息を吐いた。
他に男がいても、陽介に悟らせないでいてくれたらいいとまで思ってしまいそうだ。
実際は、そんなこと、耐えられないのに。
陽介は振り切るように彼女に背を向け――ようとしたが、ボロボロ泣き続ける咲綾が、陽介を必死で引っ張っている。
振り払うことくらい簡単だ。
彼女は小さいし、泣いているからか、力もあまり出ていない。
だけど、その必死な様子に、ほだされてしまう。
自分は、浮気は泣いて謝られても許さないタイプだと思っていたけれど、彼女に関しては別のようだ。
とにかく、陽介は今、彼女と別れないでいい理由が欲しいのだと思う。
「何?」
短く問うた。
長く話す気もない。彼女に愛らしさに飲み込まれそうなのだ。
「しょ……、こ、もってくる、からっ……!まって!」
ひぐひぐと子供のように泣きじゃくりながら、咲綾は部屋の奥に引っ込んでしまった。
ここで待っておいてあげる理由はない。
さっさと出て行けばいい。
着信拒否して、会社でも無視をすればいい。
「…………」
天を仰いで、もう一度息を吐いた。
そんなことができるなら、あの場面を見た後、ここへは来ない。
証拠?
何をもって来る気か知らないが……あの様子でずっと泣かれて縋りつかれたら、まずいなとは思う。
玄関扉にもたれかかって待っていると、よたよたしながら、多分走っているであろう咲綾が戻ってきた。
手には、写真たてを持っている。
写真?
写真が証拠って……どんな仲睦まじい様子が写されているのかってことか?
差し出される写真には、咲綾の家族が写っていた。
真ん中に、多分、咲綾の祖母がいて、その両側に咲綾と……さっきの男がいた。両親であろう人も後ろに移っていて、背景は病院。
真ん中の祖母の最後の写真だったりするのだろうか。
明らかに、仲睦まじい、『家族』の写真だった。
「こうやは、おとうとですぅ。ふたっ……ご、ですっ」
ひぐひぐと鳴きながら、咲綾が言う。
写真の中の二人は、言われてみればよく似ている。まだ弟の方が幼く、女の子にも見えるせいだろう。それが成長して、あの男になる。この写真を見れば、なるほどと思う。
今の二人を見比べても――似てない。
そういえば、遠い記憶のかなたに、双子が入社してきたと聞いたことがあったような、なかったような。
同じ部署に配属されるのではない限り、興味がないので覚えてもない。
陽介は、二人が双子であることが本当だと分かって、大きく息を吸った。
彼女に弁解の余地を与えずに、体を無理矢理いじくり倒した。
あのまま、咲綾が『違う、誤解だ』と弁解を始めようとすれば、さらに嘘を重ねるのかと、もっとひどいことをしていたかもしれない。
天を仰いで――違和感に眉間にしわが寄る。
「嘘ってなんだ……?なんであの時に、弟だって言わなかった?」
口を塞いだりはしていない。
まあ、最低な言葉は言ったとは思うが、ショックで口をきけないという様子じゃなかった。
あの様子は、まるで――
咲綾は、涙を止めて、もじもじと俯いてしまっている。
「咲綾?」
呼びかけると、目を泳がせて、何かを探しているようなそぶりをする。
明らかに挙動不審だ。
これは何が何でも誤魔化そうとしているな。
「え?あれ……?」
咲綾が戸惑っている間に、軽く服を整えてやって、陽介は自分の身だしなみも整える。
臨戦態勢の自分はまだまだ落ち着かないが、放っておくしかできない。
「俺は、帰るよ」
放り出していた、泊り用の荷物。
それがこんなにむなしいものになろうとは思っていなかった。
「え?な……なんでっ!?」
咲綾が陽介の腕に縋り付いてくる。
両腕で陽介の腕に巻き付くように捕まって、まるで愛されて離したくないと思われているみたいだ。
「ここは、嫉妬に駆られて滅茶苦茶激しく抱いちゃったりする場面じゃ……!?」
陽介は首を振って苦く笑う。
「俺は、好きな人は優しく抱きたい方なんだ。しかも、二股ってのは、絶対無理――」
「二股じゃないですっ!ごめんなさい!嘘つきましたあ!」
陽介が言い終わる前に、咲綾が号泣した。
両目からボロボロと涙がこぼれていく。
陽介は帰ろうとしていた足を止めて、咲綾をただ眺める。
両手の甲で流れる涙を一生懸命拭っている姿は、本当に可愛い。
これが、明らかな二股を誤魔化そうとしているのだと分かっていても可愛いのだ。
陽介は耐えきれずに大きなため息を吐いた。
他に男がいても、陽介に悟らせないでいてくれたらいいとまで思ってしまいそうだ。
実際は、そんなこと、耐えられないのに。
陽介は振り切るように彼女に背を向け――ようとしたが、ボロボロ泣き続ける咲綾が、陽介を必死で引っ張っている。
振り払うことくらい簡単だ。
彼女は小さいし、泣いているからか、力もあまり出ていない。
だけど、その必死な様子に、ほだされてしまう。
自分は、浮気は泣いて謝られても許さないタイプだと思っていたけれど、彼女に関しては別のようだ。
とにかく、陽介は今、彼女と別れないでいい理由が欲しいのだと思う。
「何?」
短く問うた。
長く話す気もない。彼女に愛らしさに飲み込まれそうなのだ。
「しょ……、こ、もってくる、からっ……!まって!」
ひぐひぐと子供のように泣きじゃくりながら、咲綾は部屋の奥に引っ込んでしまった。
ここで待っておいてあげる理由はない。
さっさと出て行けばいい。
着信拒否して、会社でも無視をすればいい。
「…………」
天を仰いで、もう一度息を吐いた。
そんなことができるなら、あの場面を見た後、ここへは来ない。
証拠?
何をもって来る気か知らないが……あの様子でずっと泣かれて縋りつかれたら、まずいなとは思う。
玄関扉にもたれかかって待っていると、よたよたしながら、多分走っているであろう咲綾が戻ってきた。
手には、写真たてを持っている。
写真?
写真が証拠って……どんな仲睦まじい様子が写されているのかってことか?
差し出される写真には、咲綾の家族が写っていた。
真ん中に、多分、咲綾の祖母がいて、その両側に咲綾と……さっきの男がいた。両親であろう人も後ろに移っていて、背景は病院。
真ん中の祖母の最後の写真だったりするのだろうか。
明らかに、仲睦まじい、『家族』の写真だった。
「こうやは、おとうとですぅ。ふたっ……ご、ですっ」
ひぐひぐと鳴きながら、咲綾が言う。
写真の中の二人は、言われてみればよく似ている。まだ弟の方が幼く、女の子にも見えるせいだろう。それが成長して、あの男になる。この写真を見れば、なるほどと思う。
今の二人を見比べても――似てない。
そういえば、遠い記憶のかなたに、双子が入社してきたと聞いたことがあったような、なかったような。
同じ部署に配属されるのではない限り、興味がないので覚えてもない。
陽介は、二人が双子であることが本当だと分かって、大きく息を吸った。
彼女に弁解の余地を与えずに、体を無理矢理いじくり倒した。
あのまま、咲綾が『違う、誤解だ』と弁解を始めようとすれば、さらに嘘を重ねるのかと、もっとひどいことをしていたかもしれない。
天を仰いで――違和感に眉間にしわが寄る。
「嘘ってなんだ……?なんであの時に、弟だって言わなかった?」
口を塞いだりはしていない。
まあ、最低な言葉は言ったとは思うが、ショックで口をきけないという様子じゃなかった。
あの様子は、まるで――
咲綾は、涙を止めて、もじもじと俯いてしまっている。
「咲綾?」
呼びかけると、目を泳がせて、何かを探しているようなそぶりをする。
明らかに挙動不審だ。
これは何が何でも誤魔化そうとしているな。
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