上 下
20 / 23
彼2

間男

しおりを挟む
水曜日。
そろそろメッセージの一つくらい送るべきだろう。
今日か明日、食事にでも誘おうか。
陽介は仕事の予定をチェックするが、明日が10日ごとのシステムチェック日になっている。毎回の事なので、そう大した仕事でもないが、エラーが出て残業になる事が多い日だ。
今日も……どうなるか分からない。誘っておいて、やっぱり駄目だったというのは、初めての誘いでは避けたいところだ。
陽介は、深いため息を吐く。
ぐだぐだ悩まずに、挨拶の一つくらい送ってしまえばよかった。
週の半ばまで何もなければ、なんで今更挨拶だけのメッセージ?となるだろう。
次は週末。
また先週のような週末を過ごしたいと言っているようなものじゃないか?
悩みに悩んで、今日の仕事終わりに誘ってみようと決心した。

――というのに。
陽介の仕事が終わった時には、咲綾は帰ってしまった後だった。
当たり前だ。特に忙しくない時期、約束も無ければ無駄な残業などせずに帰る。
今から連絡して、彼女の家に行けないだろうか。
まだ、そこまで遅くない。
食事はとってしまったかもしれないが、顔を見るくらいなら……。
そう思ってスマホを持ち上げた時、ちょうどメッセージを受信して震えた。

『今週の金曜日、空いてますか?今度は私の家に、夕飯を食べに来てくれませんか?』

咲綾からだった。
陽介が一人悩んでいるうちに、彼女から連絡をくれた。
陽介はすぐに返信をする。

『楽しみにしてる』

駆け引きなどなく、今の気持ちを伝えればいい。あれからの、最初のメッセージが金曜日の誘いなんてとか、考えていたからずるずるとこんなことになっている。
別に、今日だって誘っても良かったはずだ。
トラブルが起きたらだめになるかもしれないけど、少しでも会いたいと伝えておけばよかった。
あーだこうだと格好つけようとするから。
陽介が自嘲していると、もう一度スマホが震える。

『お泊りもしてくれますか?』

文面を呼んで、少しだけ驚いた後、陽介は微笑む。
もしかしたら彼女も、陽介と同じような悩みを持っていたのかもしれない。

『喜んで』

金曜日。
会社を出て、自分の家に着替えなどを取りに帰る。
会社から家が近いのは便利だ。いつもと違う荷物を持って会社に行かずに済む。
咲綾からは、自宅の住所を聞いているので、直接向かう。
彼女の自宅は、駅で数駅先だった。
彼女の部屋の階まで上がってきて、連絡せずに来てはいけなかっただろうかと思う。食事の支度をしてくれるというので、その段取りもあるだろう。
今更遅いかなと思いながら、スマホを持ち上げる。
その時、視線の先でドアが開く。

「マジで味見だけだとか、信じらんねえ。ちょっとくらい、マジで食わせてくれたって良いのに」

若い男が、卑猥な内容を口にしながら出てきた。
どうやら、女の家に来て、すぐに追い返されているようだ。

あんなことを言いながら女の部屋から出てくる男と顔を合わせるのは気まずいなと思い、エレベーターの影の階段に向かう。

「無理よ。瀬戸さん来るかもだから、鉢合わせしないうちに帰ってよ」
その男性の声に応える声が、聞き慣れた声がして、陽介は振り向く。
「はいはい……っと」
帰りかけた男が、一瞬、首だけ玄関に突っ込む。
その光景に、陽介は目が離せなかった。
扉で遮られて、二人の様子は見えなかったが、あの体勢は。

「まあ、いっか。一応、ごちそうさま。またな」

見たものが信じられなくて、男が陽介に気がつく前に、すぐに階段に足をかける。

彼は、会社で咲綾と仲良くしていた男だ。
あのタイミングは、どう見たってキスをしていただろう。

味見だけって……何をしたんだ。
脳内で乱れる咲綾が浮かんでしまう。
マジで食うって……。
ぐっ、と知らず知らずのうちにこぶしを握り締めていた。
味見だとか、ごちそうさまだとか、見た目通りに軽薄な言動をする。
陽介と鉢合わせするのはまずいと言っていた。
このまま、この関係を保って行く気なのか。
遊びなのは、さっきの男か、陽介か。

じわじわと不安だった心が膨れ上がってくる。
昼休憩の時、あの男と一緒だった。
そう言えば、社内で一番仲の良い男じゃないだろうか。記憶があいまいだが、確か、同期か?
咲綾は、特にこの人と仲がいいという人はいないように見える。
どの人とも淡々と付き合っているイメージだ。
それが、あいつは違う。
だったら、なぜ陽介に声をかけてきたのか。
分からないことが多すぎて、嫌な想像ばかりが膨らんで、もう、止まらなくなっていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...