200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第1章

第七話 人界

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 そのヘリコプターは、中型のロシア製Mi‐8輸送ヘリだった。かなり使い込まれた機体のようで、ロシア製ではなく、ソ連製かもしれない。
 二億年後に向けて、ベルUH‐1イロコイやヒューズOH‐6カイユースなどの小型のヘリコプターや小型飛行機を送り込んでいることは知っていた。
 しかし、映像のヘリコプターはそんなクラスではない。
 金沢が、「Mi‐8ですね。乗員・乗客三〇人が乗れる中型ヘリです。故障の少ない傑作機で、軍用と民間のどちらでも使われました。塗装から見る限り、民間機でしょう」と説明する。
 斉木が、「何でこんなものがあるんだ……」と呟いた。
 相馬は、何かを知っているような素振りを見せた。
「情報源は外務省です。外務省に関わりのある人物から聞きました。
 一カ月ほど前、中央アジアに近い東欧の〝ゲート〟から、二〇〇万年後に刺客を送り込む計画があることが発覚しました。
 その刺客の一団は〝新世紀十字軍〟と名乗っていました。兵員は最大でも五〇。車輌多数だけでなく、ヘリまで装備していたようです。子孫を残さぬように、全員が男性です。
 目的は、二〇〇万年後に向かった人々をすべて殺害すること。
 二億年後に向かうと誓約しながら、二〇〇万年後を目指す人々が許せないそうです。この計画の発案は、大噴火後に勢力を伸ばしていた〝新世紀教会〟という新興宗教です。
 リーダーは、教祖のビル・シーダー。もともとは人種を含む過激な差別主義者だったようです。同性愛とか、人工中絶とか、移民排斥とか、そんなところですか。
 この男が〝二〇〇万年後に向かう人々は、進化して二億年後に向かう人々に災いを及ぼす〟と主張していたんです。
 その主張に、どこかの大統領が感化されて、自分たちが向かう二億年後が安全であるようにと、ビル・シーダーの仲間を二〇〇万年後に送り込んだんです」
 由加が相馬に尋ねる。
「その話を貴方にしたお友達は、貴方とどういう関係?」
「付き合っていました。ただ、彼女は二〇〇万年後も、二億年後も興味がないんで、元の時代に残りました。
 こればかりは、個々の判断ですから」
 斉木は、呆れた風情で相馬の話を引き継いだ。
「その話は、私も聞いたよ。単に〝殺人集団が二〇〇万年後に向かった〟程度だけどね。
 事変後は不安をあおるヘンな宗教が蔓延していたから、まぁ、あり得る話ではあるね」
 由加が再度尋ねる。
「近くまで行ったの?」
 金沢が答えた。
「いいえ。でも墜落したんじゃなくて、着陸したんだと思います」
 能美が不安げな声音で尋ねる。
「なぜ、着陸したのかしら?」
 由加が答える。
「想像でしかないけど、装甲車を上空から見つけて、調べようとしたんだと思う。
 奇妙な動機で二〇〇万年後にやって来た人たちだから、さっそく獲物を見つけて喜んだのかもしれない」
 片倉が、「嫌ね。そういう人たち嫌い」と。
 そして続けた。
「でも、結局はドラキュロに襲われた……」
 由加が、「その可能性は低くないでしょうね」と片倉の説を肯定した。
 ルサリィが珍しそうに映像を見ている。彼女は、こういった機器は知らないようだ。
 ただ、彼女は何度も南の方向を指差して、南に向かえといっている。

 北にある石の壁には興味をそそられるが、人工物であっても、その地が無人である可能性がある。また、途中経路はドラキュロの密度が濃く、とても向かう気にはなれなかった。

 由加が俺に、「どうする?」と尋ねた。ヘリコプターを調べる是非を問うたのだ。
 俺は何と答えればいいかを、かなり迷った。
「俺たちが〝ゲート〟に入る前だとして、三日前なら三〇〇〇日、八年強。二日前なら五年半前。半月前だったら四〇年以上前になるので、使える物資なんてないだろう。
 調べることは無駄かもしれないけど、それでも調べてみる?」
 俺の逆質問に、由加は答えを出さなかった。
 斉木が、「調べたほうがいい。厄介な連中が生き残っていたら、警戒しなくちゃならない。
 ドラキュロに食われたなら、あの動物に礼をいおう」
 道理ではある。誰もが、ドラキュロが怖いが、ヒトも怖いのだ。特に狂信者、妄信者は……。

 クルマに乗っている子供たちが騒ぎ始める。
「何かいるよ!」とハンバー・ピッグの運転席上部のハッチから顔を出していたショウくんが叫ぶ。
 片倉が「締めて中に入って!」と叫び、八トン車に向かう。俺もタンクローリーに走った。
 珠月が二号車に乗り込み、由加が軽戦車のハッチから運転席に潜り込もうとしている。
 そこまでは、確認していた。金吾はどうした、と考えた。
 遅かった。
 すでにドラキュロに囲まれている。
 俺の真後ろにルサリィが着いてきている。俺は発砲した。
 全員が車輌に乗り込む時間はない。
 ここで戦うしかない。
 ルサリィが二発で二頭を倒した。
 彼女が俺に何かをいう。意味はわからないが、懐から三八口径リボルバーを出して、彼女に渡す。
 すぐさま発砲し、さらに二頭を倒す。かなりの腕だ。
 ドラキュロの数は多くない。
 一頭が俺に迫り、俺は銃床で顔面を殴る。草の丈があり、視界が悪い。
 草が身を隠してくれると信じていたが、その草が敵を隠す役目を担い、防戦を妨げる。
 ショットガンの発砲音がする。能美が撃ったのだ。
 珠月の悲鳴だ。それを聞いたルサリィが走る。
 俺も二号車に向かった。
 防戦は二号車の周囲で行われ、由加は軽戦車を少し前進させ、操縦席から身を乗り出して、RPK軽機関銃を撃ちまくった。
 戦いは、長くて一分か二分続いた。
 どうにか追い払った。
 俺は簡単にドラキュロを調べる。大きい。鍋にいた連中より明らかにでかく、体格もがっしりしている。
 斉木が俺を呼ぶ。

 二号車が損傷していた。前席左右の窓が割られ、屋根が潰されている。
 珠月が殴られて顔を負傷し、ちーちゃんが腕を捕まれて、そこが紫色に変色し始めていた。シートベルトをしていなければ、引きずり出されていた可能性が高い。シートベルトが首に食い込んで、そこが赤く腫れている。前席中央に座っていたケンちゃんは、泣きそうな顔で、声が出ていない。
 俺を見て小声で「ハッちゃん」とだけいった。
 ちーちゃんは泣いていないが、震えている。珠月は気丈だが、心中は恐怖で一杯だろう。
 相馬が、「早く移動しましょう」といった。賛成だ。
 俺は二号車のフロントグリルに突き刺さっていた棒を引き抜いた。先端が尖っている。自然に尖ったのか、尖らせたのか微妙だ。
 由加が、ちーちゃんとケンちゃんを軽戦車の砲塔に入れてハッチを閉めている。珠月が一号車に乗り、損傷した二号車に金吾が乗る。
 俺はルサリィを、珠月の運転する一号車の助手席に乗せた。そして、タンクローリーに向かう。

 道までは全車スタックせずに出た。道を出てからは、偵察で路面状況を知る金沢を先頭に時速二〇キロほどで用心深く進む。

 五キロほど進んで、二号車が走行不能になった。
 フロントグリルに突き刺さった棒が、ラジエーターを貫通していたのだ。冷却水が抜けて、オーバーヒート寸前だった。
 車列を入れ替え、軽戦車で二号車を牽引する。
 車列が止まると、ドラキュロが接近してくる。時速二〇キロでは、振り切れないのだ。
 危険を承知で、時速四〇キロまで上げる。一五分走ると、追跡が止んだ。
 何とか振り切った。

 負傷者が二名。失った物資はないが、二号車が壊れた。軽トラは偵察から戻るとすぐに、一号車との牽引状態としたので失っていない。
 俺は、何度も「どうする」と自問した。
 前方を走るダンプローダートラックの荷台に二頭のドラキュロが乗っているが、速度を落とすとすぐに飛び降り、草原に消えていく。
 タンクローリーの右側面にも、一頭がしがみついている。バックミラーでよく見えるのだが、これもどうするか、思案の真っ最中だ。

 タンクローリーにしがみついていたドラキュロは、車体の振動で振り落とされた。
 中型ヘリは、タンクローリーの視界のよい高いシートからよく見えたが、金沢は止まらない。
 そして、誰も止まれと指示しない。トランシーバーは無言だ。道は一直線。路面は赤茶色の土。
 だが、峠への緩い上りに入ると、周囲の風景は一変した。
 岩が多くなり、路面には小石が混ざり、周囲の樹木は急速に減少していく。最高点に近付くと、ほぼ禿げ山だった。

 最高点は絶景であった。
 東側に落差一〇〇メートルに達する滝。西の山脈に向かって、緩やかに下っていく道。
 そして、その途中から南に向かうひときわ細い道が分岐している。
 どんなに細くても、道は道だ。ヒトが往来する道だ。
 ここで、先頭を進む金沢が止まった。
 路上にクルマを止めた状態で、各車からドライバーが降りてくる。
 金沢が提案する。
「峠を下って、南へ向かう分岐点まで行きましょう。
 あそこなら視界はいいし、周囲を監視できます。距離は三〇キロくらいでしょうか?」
 俺は珠月を見た。顔が腫れている。
 珠月に「大丈夫か?」と問うと、「パンチをまともに食らっていたら、死んじゃったかも。とりあえず大丈夫。峠は下れる」といった。強がりだ。
 由加に「ちーちゃんは?」と問うと。「怯えているけど、強い子だから」と震えた声で答える。
 金沢が「自分、真希先生、納田さん、城島さんが先に降りるというのはどうです?」と提案する。
 賛成だ。大型車は機動が鈍い。それに、子供たちを早く安全な場所に送りたい。
 それと、エンジンを始動できない二号車をどうやって急で長い下り坂を走らせるのかを考えなくては。サーボが稼働しないので、人力でブレーキを踏んでも効きは悪い。
 俺は二号車の遺棄を考えてもいた。

 全車が降りた時点で、日没まで二時間の余裕を残していた。
 二号車のトレーラーは軽戦車が牽引して、先に降りた。
 一号車の前部と二号車の後部をつなぎ、二号車の落下を一号車が押さえるようにして、ズルズルと降ろしていった。
 大型車には辛い下りで、路肩が崩れやすく、路肩を踏み外すと数十メートル落下は必至という厳しい通路だ。道の幅は三メートルほど、急なカーブがないことが唯一の好条件だ。

 分岐にたどり着く。
 周囲の警戒を怠らず、能美がちーちゃんと珠月の手当てをしてくれた。
 治療の途中で、ちーちゃんが「怖い、怖い」と泣き出した。
 相馬が「どうします?」と俺に尋ねるので、「ヘリのこと?」と尋ね返した。
「ええ、調べるべきかと……」
 俺は答えに窮した。正直、ちーちゃんと珠月が心配だ。
 俺は、相馬の問いに直接答えなかった。
「二号車は捨てるか……、いや一号車で牽引し、二号車の後ろに軽トラをつなげるか……」
 斉木が「ちーちゃんとケンちゃんは、うちのクルマに乗ったらどうだろう」と提案したが、由加が「怖がっているから、私から離れるのはちょっと無理かな」と答えた。
 由加は続けて、「二号車を捨てたら、子供たちが足を伸ばして眠れなくなる」といった。
 俺たちは本来、物資が減れば一号車を遺棄するつもりだった。二号車は最後まで稼働させるつもりでいた。
 その基幹車輌を失いかけている。
 相馬が、「遺棄するならば、できるだけ部品を外しましょう。タイヤはダンプローダートラックに積めます。パワーショベルの下とか、隙間がありますから。荷台の荷物は、皆で一号車に積み替えましょう」といってくれる。
 そして、相馬が再度問う。
「で、どうします?」
 金沢が「調べたほうがいいですよ」といい、それに金吾が同意する。
 由加は何もいわない。感情では一刻も早く移動したがっていて、理性では調査を支持しているのだ。
 珠月がいった。
「あの化け物よりも、ヒトのほうが怖い。ヘリコプターがどうなっているのかを調べたほうがいいと思うけど……」
 能美と片倉も頷く。
 由加と納田は無言だ。

 調査チームは三人。俺、金沢、納田。調査が決まると、納田が自ら手を上げた。
 使用する車輌は、相馬・金沢のハンバー・ピッグ。装甲車であることと、不格好な割には走破性が高いことから選ばれた。
 三人のうち、納田はクルマを降りない。車外調査は、俺と金沢のみ。俺と金沢に何かあっても、納田は降車しない。納田はキャンプに戻り、事態を説明する。そして、それで終わる。俺たちに救援はない。
 そういう取り決めをしなければならないほど、危険なのだ。ドラキュロの力は強く、敏捷だ。
 Mi‐8の調査に向かう際、ルサリィがM10リボルバーを俺に返そうとした。
 俺はそれを押しとどめた。彼女は戦力になる。斉木がルサリィに装弾の仕方を教えるという。

 Mi‐8の周囲にドラキュロはいなかった。
 周囲を一周すると、ヘリの車輪は完全に埋まっていて、胴体底部と地面は辛うじて接していない。観音開きの後部ランプドアは全開していて、内部には雑多な装備が残されている。
 俺はどうにも判断できない。金沢に問う。
「このでかいヘリを〝ゲート〟に入れることができるとして、ヘリをどうやって時速六〇キロで走らせるんだ」
 金沢が「車輪を大型化するんです。時速六〇キロといっても、平滑な路面で直線なんですから。それほど無茶ではないですよ。ヘリを低床のドリーに載せる方法もあるし、ヘリの車輪自体をトラック並に大型にすれば、それだけで走れるでしょう」と事も無げにいう。
「じゃぁ、いつ頃のものだと思う」
「わかりませんが、一〇年は経っていないかなと……」
「長くて五、六年。短ければ数カ月から一年か」
「このヘリを牽引してきた車輌はどうなったと思う?」
「機体の重量が一〇トン以上ありますからね。抵抗が少ない状態での牽引でも、車体重量四トンプラス積荷四トン、総重量八トンのトラックが必要でしょうね」
「そんなトラックは、鍋になかったぞ」
「ありましたよ。四トントラックから弾薬を拝借したじゃないですか」
 俺はしばし考えた。
「ということは、鍋のなかの連中には、ヘリで外に出た仲間がいたと……」
「状況から考えて、そうじゃないかと」
「トラック二台分の弾薬、軽戦車にヘリコプター、それなのに食料はなし?
 いくら何でも、チグハグでしょ」
「それが信じちゃってるヒトの不思議なところかと。
 食料は、二〇〇万年後に先にやって来たヒトたちから奪うつもりだったんじゃないですか?」
「そんな、無計画な」
「計画性なんて、最初からないでしょ」
「まぁ、そうかな」
 納田が「車外を調べますか?」
 俺が「そうしよう」と答えると、納田は「ヘリコプターの入口付近にバックで着けます」といって、機体後部にバックから接近して、テイルローター直近まで寄せた。

 俺と金沢は後部ドアから車外に出て、機体周囲を調べ始める。
 音を立てず、声を発せず、機体左側面を探る。
 Mi‐8は道路の方向に機首を向けていた。機体左は北側にあたる。地面を足で掘ると、M16アサルトライフルの残骸が出てくる。その数は尋常じゃない。そこかしこに埋まっている。
 機体右に移る。銃は常時構えている。決して銃口を下ろさない。視界に二足歩行の動物が入れば、即座に発射する。
 俺は七五発ドラム弾倉を装着した、RPK軽機関銃を構えている。重量五キロが軽く感じる。恐怖がなせる技だ。本当は筋肉が悲鳴を上げている。金沢は北欧製AK‐47を構える。
 二人で、機体を背に左右を見張る。そして、機体を一周した。地面を足で掘ると、左舷ほどではないが右舷にもM16が埋まっている。弾倉がない銃もある。弾切れで間合いを詰められたのだ。俺たちにも経験がある。
 ドラキュロに襲われたことは、確実だろう。遺体は痕跡さえない。
 俺が金沢に「戻ろう」というと、金沢が「ヘリの中を調べましょう」と小声でいう。
 正直なところ、俺はビビッていた。ドラキュロは恐ろしい動物だ。ヘリの狭い機内など、入りたくはない。もし、ドラキュロと鉢合わせしたらどうする。
 運転席に座る納田に、機内に行くと手の動きで知らせた。
 RPKをランプドアの近くに立てかける。そして接近戦に備えて、M59自動拳銃を抜く。
 俺は明らかにへっぴり腰だった。怖くて、恐ろしくて、心臓の動悸が凄まじい。吐き気がしてくる。ヘリの機内は狭い。コックピット側にドラキュロが隠れていたら、と考えると喉が渇く。
 俺はビビリまくっている。
 金沢が「めぼしいものはないですね」と小声でいう。
 そんなことはどうでもよく、俺はハンバー・ピッグに戻りたかった。
 俺は、金沢に手の動きで戻ろうと促した。
 金沢は俺の要求を左手で制した。そして、搭載物を調べ始めた。俺は銃口をランプドアに向けて、周囲を警戒する。ハンバー・ピッグの後部ドアが開いていて、納田が振り返って俺たちの様子をうかがう。
 金沢が俺のジャケットの背を引っ張る。
 金沢が大きな積荷に貼られたイラストを指差す。
 テントの絵だ。5×5mと書かれている。他はキリル文字なので読めない。ロシア語か、それともウクライナ語か?
 テント関連と思われる梱包は一二。それもかなり大きい。当然、重いだろう。金属パイプが入っている袋状の包みが三つ。テントは三張りか?
 テントのイラストは、四方におしゃれな窓があり、とんがり屋根。テーマパークのイベント会場とかに似合いそうな、かわいい形だ。
 虐殺を行いにやって来た狂信者の装備にしては似合わないメルヘンなデザインに笑ってしまった。
 俺たちもそうであったが、物資がないのだ。殺戮者たちは、彼らが望むかっこいい軍用テントを調達できなかったのだろう。
 金沢が砂まみれの包みを持ち上げようとするが、重くて少しだけ動く。
 俺はそれを手伝い、ハンバー・ビッグの兵員室に運ぶ。
 荷が長すぎて、車外にはみ出す。
 納田が何事が始まったのかと、少し慌てた様子を見せる。
 俺がハンバー・ピッグの車内に入り、納田に「テントがあった」とだけ小声で告げる。納田が無言で頷く。
 テント関連とおもえる荷は、一二の他に三梱包あった。計一五梱包。そのうち六梱包が支柱らしい金属部品だ。
 それ以外に床部に敷くものなのか、遮水性らしいゴムマットが六つ丸められている。それもいただいた。
 それ以外は、七・六二ミリNATO弾の二〇〇発ベルトリンクが四缶。それと、牽引ロッドにできそうな両端が輪になった長さ三メートルの鉄柱一本。
 積み込み作業に三〇分を要した。

 納田が振り向いて手招きする。
 俺と金沢は、ハンバー・ピッグの観音ドアが積荷で閉まらない兵員室に飛び込んだ。ドアはドアノブにロープを引っかけて、俺と金沢で内側から引っ張って押さえる。大量の荷物の上に跨がり、何とも不格好で滑稽な姿だ。

 俺たちには潜在的な恐怖があった。物資を失っていき、最後に追い詰められるという、可能性の高い恐怖だ。
 二〇〇万年後と思われるこの世界にやって来て、消費したり、消耗した物資よりも、先人たちが残した物資と機材を手に入れたもののほうが実際は多い。
 しかし、ドラキュロの攻撃によって、二人が負傷し、車輌一台が走行不能となった。しかも、俺たちの新世界での生活は始まったばかりだ。
 これは紛れもない事実。
 俺たちは、精神的にきつい状況に陥り始めていた。
 しかし、役に立つ立たないは別にして、何かしらの物資を得られたことは、精神的な余裕を拡張するには大きな効果がある。

 南に向かう道は悪路の見本のような状況だった。
 泥濘がそこかしこにあり、特に大型車は苦労する。ダンプローダートラックは、時折、軽戦車に牽引されて、何とか前進する。二号車のトレーラーは、相馬・金沢のハンバー・ピッグが牽引してくれている。
 一日に南に進める距離は四〇キロ程度。この状態が四日間続き、約一五〇キロ南下した。
 そして、ついに湿地の泥濘から抜けだし、乾地に至る。
 俺たちは四日目の夕暮れ、大きな湖の南岸畔にある高台で、キャンプを張った。
 四日ぶりの乾いた地面だ。
 そして、俺たちは呆然と南を見ていた。
 南には、人家の明かりがある。
 人が住むであろう、街か村があるのだ。
 俺たちは、人界に達した。
 ドラキュロとは異なる、恐怖が、それもリアルな恐怖が得体の知れない喉の渇きを引き起こす。
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