200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第8章

08-201 抵抗運動

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 モリニ族の恭順派に限らず、北部諸族のすべてにティターンの支配下に入ることを主張したり、ティターンと内通する有力者がいた。
 ルテニ族にもいたようで、部族の動きはティターンに筒抜けだった。ルテニの内通者は先代族長の一族で、部族内では名門家系だった。裕福であり、支持者と郎党も多かった。
 テシレアはこの情報を、モリニ族離脱派のリーダーであるバルナドから聞いた。
 ルテニ族の内通者一派は、アリギュラで贅沢な暮らしをしていることも。

 半田千早は、パトロールの強化が必要であることを花山真弓に意見具申するため、司令官棟を訪ねた。司令官棟は、木造のプレハブ小屋だ。事務デスクと簡易ベッドがあるだけ。
「司令官、覚えきれないほど、いろいろな部族が交易を求めている。
 ティターンの騎馬隊との接触も増えているし、交易を求める部族を守ると約束しちゃったから、パトロールを強化しないと」
 ティターンもパトロールを強化していた。10騎から20騎ほどの騎兵の小部隊を、各部族、各村に派遣して締め付けを強めている。
 ズラ村のパトロールと鉢合わせすることも希ではなくなっている。
 鉢合わせしても交戦することはない。
 ティターンのパトロールは、主にアリギュラの総督の命令を伝えることが任務で、徴税などは行っていない。
 以前は頻繁にあったティターン兵による女性の誘拐や民家に押し入っての乱暴狼藉はなくなった。ズラ村のパトロールは、一定の治安維持に役立っている。
 北部西岸北側と北部内陸北側の諸部族は、ティターンを牽制する意味もあるのか、ズラ村との交易を求め、同時にパトロール派遣の要求もしてくるようになった。
「司令官、パトロール対象の村は30を超えているよ。4隊じゃ無理だよ」
「で、半田さんは、何隊必要だと?」
「最低8隊、できれば12隊」
「装甲車が足りないね」
「装甲車でなくてもいいよ。
 ティターン兵には、ソフトスキンのクルマかどうか、そんなこと見分けがつかないから」
「では?」
「ランクルのピックアップがいい。
 荷台に機関銃を載せれば、戦力になる」
「50口径と30口径を合わせて24挺が必要ね」
「2輌1組だからそうなるけど、1輌には積んでなくてもいいよ」
「それでは、車輌と機関銃を手配して。
 とりあえず、あるものを使って」

 ズラ湾の近くに村はないが、北に50キロ、西に40キロ進むと最初の村がある。この村から西には、大小の村がたくさんある。ほとんどはルテニ族の村で、多くは廃村。住民がいても、他所から移ってきた他部族の民だ。
 さらに西に向かうと、耕作地が増え、村も多く、住民が増える。
 半田千早たちパトロール隊は、ズラ村から250キロ圏を哨戒・偵察しなければならなかった。
 西岸沿岸部は2隻の高速哨戒艇が担当したが、たった2隻ではとても手が回るような状況ではなかった。

 花山真弓は、香野木恵一郎に増援派遣の強硬な“要請”を行った。
 花山は、香野木の考えをよく理解している。食糧の不足が顕在化すれば、激しい動揺と食料争奪が起こる。その前に取引価格が高騰する。需給の関係から、その兆候があるのだが、穀物商人たちは疑心暗鬼だ。
 価格高騰を予見して、買い占め売り惜しみをして、もし価格が下がってしまったら大損害になる。
 実際、カルタゴには、出所不明のコムギ、トウモロコシ、豆類、ソルガムなどが入荷した。コムギの質は非常に高く、継続的に入荷するようだと、買い占めは危険だ。
 湖水地域とクマンの商人は、何か情報を得ているらしく、買い占めどころか、買い控えしている。
 穀物価格はその日の噂によって乱高下しているが、平均すれば極端な値上がりはない。
 花山にもこの状況を維持しなければならない理由はわかる。
 だからこそ、増援が必要なのだ。
 だが、香野木はハシパシとしない。
「あぁ~、うぅ~」と煮え切らない答えしかしない。
 その態度に、花山は腹を立てていた。

 エーゲ海の南端にあるクレタ島は、島ではあるが海水準が少し下がると干潮時にアナトリア側に陸橋ができてしまう。
 膨大な氷塊が陸地に封じられているが、気温が上昇しており、海水準が下がる可能性は低い。
 もっとも寒い時期に比べると、50センチほど上昇している。
 クレタ島には数は少ないがドラキュロがいた。ヴルマンの指導者ベアーテは、ドラキュロを駆除し、秘密裏に“領有”してしまった。
 同時にドラキュロの渡渉を完全に防ぐ目的で、エリトリア側に高圧電流が流れる防護柵を設置する。
 全島を詳細に調べ、ヒトの痕跡を調査。朽ちた2隻の鋼船と2機の小型水上機を発見する。
 コンクリート製の建物2棟と滑走路を確認する。建物には、ヒトの遺体もあった。墓所らしき区画もあった。
 ヒトの痕跡は「せいぜい数十年前のもので、何百年も経ってはいない」とヴルマンの調査隊は結論した。

 クレタ島の“占領”は、大きな話題にはならなかった。
 北アフリカでは、ティレニア海と西地中海がヒトと関係のある世界であり、東地中海は人跡未踏の僻地だった。
 カルタゴは各勢力が共同管理する特殊な街であり、シドラ湾東辺以東にはヒト、精霊族、鬼神族、トーカ(半龍族)、トーカと行動を共にするヒト、ギガス(黒魔族)は進出していない。
 なお、カルタゴは200万年前のチュニスと同じ位置ではない。海退によって地中海が狭くなっていることから、200万年前よりも160キロほど北にある。

 香野木恵一郎は、賑やかで、華やかなカルタゴを避けて、200万年前のシチリア島パレルモ付近に拠点を構えていた。
 ここは、大型船の停泊に好都合な水深がある湾があり、同時に口と目の多いカルタゴよりも人目が緩かった。
 花山健昭は「田舎はイヤだ」と文句を言ったが、香野木は地形が厳しく発展の余地が限られるパレルモをレムリア調査の拠点にするつもりだ。

 香野木恵一郎は、この世界では大型船の建造が難しいことを理解している。長宗元親から「この世界の船舶用ディーゼルエンジンは、9気筒2サイクルの2200馬力1種類しかない。このエンジン2基で効率のいい船を造るとすれば、90メートル級が上限だ」と教えられていた。
 西ユーラシアから西アフリカや北アフリカへの移住では、このクラスの船が多数建造されている。
 粗製濫造気味で、就航時点から状態のよくない船もある。

 ズラ湾には、常時200から250ほどの北の商人がおり、補給船が到着すると一時的に300に達することがあった。
 しかし、原則として300を超えることはない。
 この原則を決めたのは香野木恵一郎だが、現地司令官である花山真弓は絶対に承服できないでいた。

 半田千早は「バカ」の意味を問われて、ひどく困っている。
 花山真弓と香野木恵一郎との激しい無線通話は、日本語が基本だった。そして、花山は香野木に繰り返し「バカ」と言った。
 そんなこともあり、いつしか「バカ」はズラ湾周辺で意味が通じるようになってしまった。もちろん、日本語の意味そのままに……。
 もっとも、ノイリンでは、誰もが“バカ”の深い意味をよく知っていたが……。

 香野木恵一郎が主張を変えたのは“鬼嫁”の意見がきっかけではなかった。
 半田千早から「ズラ湾から西250キロの範囲にいる農民を守るには、もっとたくさんのパトロール隊が必要」との意見と、ヴルマンがクレタ島を“占領”したことが原因だった。

 香野木恵一郎は井澤貞之に「1個中隊規模の支援部隊をズラ湾に派遣できないか?」と問い。
 その可能性を探り始める。
 井澤にはあてがあった。ティッシュモックからの移住者だ。彼らの多くは技術者で、農業の経験者は多くない。
 造船所、車輌工場、航空機工場などで働いているが、移住完了と同時に襲ってきた不景気の影響で、雇用状況はよくない。
 募集すれば200人くらいはすぐに集まるはず。
 それと、要員を送ればそれでことが済むわけでもない。食料は現地で購入できるとして、車輌、武器、弾薬、燃料は王冠湾かパレルモで用意しなければならない。
 車輌と武器はドミヤート地区製で、支払いは金貨。その金貨を得ることは容易ではない。大型船は余剰だから売れるわけはなく、車輌もオート三輪以外は量産のレベルにない。
 また、一時期は稼ぎ頭だった水陸両用トラックも需要が限られる。
 だが、悪いことばかりではない。
 M1カービンの7.62×39ミリ弾仕様が製造可能になった。銃身が50ミリ延長されている程度で、外観はほとんど変わらない。
 M1カービンを改造して、7.62×39ミリ弾仕様にしたものがあるが、これら改造品よりはずっといい銃だ。
 第3回輸送船団以降の隊員は、このM1カービンと王冠湾製の38口径6連発リボルバーを装備する。
 また、第2回輸送船団はドミヤート地区製のFJ40ランドクルーザーベースのピックアップを積んでいったが、今回からは王冠湾製の2トン積みオート三輪に変更する。
 1950年代のオート三輪をモデルにしていて、キャビンは完全密閉ではないが、バーハンドル、3速トランスミッション、コラムシフトなど、メカニズムは悪くない。
 エンジンは“回収屋”と呼ばれる、西ユーラシアから遺棄物資を運び出す生命知らずの業者から中古を仕入れた。
 当初は南島での貨物輸送を考えていたが、バス、消防車、救急車など、決定的に不足していた4輪車の代用としてあらゆる用途で使われ始めていた。
 ズラ湾には状態のいいエンジンを積んだ車輌20を送ることにした。
 これだけで、ずいぶんと資金の節約になる。
 補給船は90メートル級2隻が追加され、計4隻となったが、1隻は蒸気レシプロ船でパレルモ-ズラ湾間でのみ運用される。

 半田千早は、南西500キロ付近の村が大量のコムギを売却したいとの情報を伝聞で受けていた。その量は話半分としても500トン。伝聞では概算1000トンにも達する。
 この超大型商談はティターンの罠か、それとも単純な売買詐欺か、それとも真実か、よくわかっていなかった。
 500キロ南西だと、ティターンの区分では北部の南端にあたる。この付近は広大なコムギ畑が広がる大穀倉地帯だ。
 半田千早は、この商談の真偽を確かめるために、この村に行きたいと花山真弓に要望した。

 花山真弓は、この商談が成立したとしても、コムギの輸送手段がないことを問題にした。
「数百トンものコムギは、どうやって運ぶつもり?」
「1トン積みが10輌ある。1回に10トン、10回で100トン、100回なら1000トン……。
 現実的じゃないね」
「そうね。
 でも、1000トンのコムギは魅力。話半分、4分の1でも魅力だね」
「司令官、1回じゃ運べない。複数回の輸送作戦を行えば、必ずティターンが出てくる。
 妨害されてしまう」
「その村は、ランドレーンの外にある。
 千早さん、その村を守ることも考えないと」
「そうだね、司令官。
 私たちにコムギを売ったという理由で、誰かが殺されたら、とても嫌な気持ちになるよ」
「千早さん、1個分隊での偵察を許可します」

 ララはマーニを呼び止めた。
「チハヤが偵察に出るって」
「ララ、空飛ぶ軽トラは降りられないの?」
「道は狭いし、曲がりくねっていて……」
「責めていないよ、ララ。
 ヘリだって飛べないんだから」
「マーニ、500キロは微妙な距離だよ。
 ヘリの支援は無理、固定翼機は滑走路がないと降りられない。地上を進めば何日もかかる」

 香野木恵一郎は、レムリア探検の編制を変えた。従来の探検船と補給船から、探検船、調査船、貨物船に船種を変更する。
 探検船1隻、調査船2隻、貨物船4隻態勢への移行を急いでいた。
 現在、貨物船は4隻あるが、1隻は小型の蒸気レシプロ船で積載量と速度が劣る。90メートル級ディーゼル船1隻と、貨客船を流用した調査船1隻の増強が必要になっていた。

 真偽不明ながらコムギ1000トンの調達は、密かな話題になっていた。
 ドミヤート地区のデュランダルとタザリン地区のバウティスタが井澤貞之を王冠湾に訪ねたのも、この密かに流れる噂の真偽を確かめるためだった。
 タザリン地区の住民は、新たな区長として若いバウティスタを選んだ。
 王冠湾の庁舎で、3人が顔を合わせる。
 まず、バウティスタが発言する。
「イザワ区長、コムギ1000トンの噂は真実なのですか?」
「バウティスタ区長、肩書きで呼び合うのはやめましょう。
 その真偽を確かめに、ドミヤート地区の半田千早が確認に向かうことになっています。
 陸路で500キロ。
 仮に入手可能としても、どうやって運べばいいものか……。
 現地は道が悪く、しかも内陸で、滑走路を造れそうな場所もないそうです」
 デュランダルが考え込む。
「チハヤは、何と?」
「デュランダル、現地では半信半疑なんだ。誰もが……」
 バウティスタが斉木五郎からの伝聞を披露。
「1000トンは、あり得ない?
 しかし、それはない。
 サイキ先生によれば、想定される耕作地の総面積から割り出されるコムギの収穫量は500万トンに達するそうだ。
 これは、耕作地すべてにコムギを栽培した場合の推定値なんだが、おそらく100万トンから200万トンの生産量があると……。
 とするならば、1000トンの商談は十分にあり得るんだ」
「斉木先生がそう試算するなら、確かだろう」
 バウティスタが井澤を見る。
「タザリン地区は、この商談にかけてみようと思う。食料がなくなれば、身動きできなくなるから。余裕があるうちに動きたい。
 80メートル級貨物船1隻と船員を提供する用意がある」
 デュランダルが首肯する。
「ドミヤートは、トラック30。それと、陸送要員100。
 それと、軽装甲部隊。戦闘車4、兵員輸送車4」
 井澤は少し考えた。
「こちらは、もう出せないんだ。
 だが、何とか80メートル級貨物船を改造した貨客船は用意するよ。
 それと、自走105ミリ榴弾砲4を送り済みだ」

 マトーシュは、探検船キヌエティをタンカーの代用として使うことには反対だった。だが、現実として、タンカーを買う資金は王冠湾にはない。買うどころか、借りる代金の工面にさえ苦労するだろう。
 だから、キヌエティの巨大な燃料タンクを船舶燃料の輸送に使うことに同意した。
 レムリアに行くどころか、パレルモとクマンの油田間を往復する毎日だ。
 しかし、今回の航海は違う。新造のターボコブラ2機と2トン積みオート三輪10輌を積んでズラ湾に行く。オート三輪はショートシャーシだ。
 ドミヤートの送り済みトラックと合わせると、一度に80トンを運べる。

 半田千早の軽装甲バギーと6輪装甲車は、850キロの悪路を走って、ハルダール村に到着していた。
 ズラ村から直線なら470キロ強だが、実走だと850キロにもなる。
 ハルダール村は大きな淡水湖の南岸にあり、周辺の村のまとめ役を担っていた。
 この湖の周辺は大穀倉地帯で、コムギ1000トンどころか1万トンでも輸出できる。話半分との期待だったが、話10倍の様相を呈していた。
 村の穀物商人は、半田千早にはっきりと言った。
「1万トンでも、2万トンでも用意しよう。
 だが、運ぶのは買い手側だ。
 それと、即金で払ってくれ」
 同行しているアクシャイは「この付近はティターンの勢力が及んでいない」と説明したが、同時に「北からはアリギュラのティターン軍、南からは中北部で反乱部族の鎮圧目的で北上してきたティターン軍から圧迫を受けている」と。
「戦うつもりなんだ。
 そのための武器を買う資金調達のために、コムギを売りたいんだ」

 半田隊は、村はずれの空き地でキャンプしている。夕食が終わり、歩哨以外は焚き火を囲んでいる。
 アクシャイは少し戸惑っている。
「ティターンと戦って、勝てると思っているんだ。
 村同士のいざこざが大きくなった程度にしか考えていないけど、実際は違う。集団の喧嘩じゃない。相手は、訓練された殺し屋集団だ。
 勇敢とか臆病とかの問題じゃない。殺す技術を磨いてきたか、そうでないかの違いなんだ。
 この周辺の連中も結局は、死に絶えるか、生き残りが従うか、そのどちらかになる。
 そして、ティターンのために畑を耕すことになる」
  半田千早は、分隊の仲間に意見を求めた。
「道は悪かった」
 多くが「あぁ」と同意する。
 千早が続ける。
「この村からコムギを運び出すのは、簡単じゃない。
 ズラ湾まで850キロ、東の海岸まで650キロ、西の海岸でも350キロある。
 実走で……。
 輸送ルートを守ることも至難だけど、この村自体を守らないと運び出せない。
 もし、1万トンを運び出すなら、何カ月もかかる。80メートル級貨物船なら2000トン、90メートル級で3000トン。
 90メートル級でも4隻ないと運べない。
 この村を何カ月も守れるだろうか?」
 フルギア出身の隊員が答える。
「守るさ。
 食い物のためならね」
 ヴルマン出身の隊員が同意する。
「あぁ、その通りだ。
 俺はコウノギの親父が何を考えているか、ようやくわかった。シルクで一儲け企んでいたんじゃない。食い物がなくなることを、予期していたんだ。
 考えてみりゃぁ、何人移住したのか正確に知っているのはコウノギの親父だけだ」
 その見方は、千早も同じだった。
「その通りだと思う。
 シルクは大事だよ。北アフリカまで運べば、同じ重さの金で売れる。
 その資金で、食料を調達し、市場に卸せば、相場は上がらない。悪徳商人も買い占めや売り惜しみがしにくくなる。
 結果、食料の価格が落ち着き、流通が円滑になる。
 香野木さんはそこまで考えているんだ。
 とんでもないヒトだよ」
 アクシャイが不安な目をする。
「で、どうするの?」
 千早が微笑む。
「ここに留まる。
 そして援軍を呼ぶ」

 この夜、半田千早は花山真弓に、増援と輸送隊の派遣を要請した。

 王冠湾からパレルモまでは5200キロ、20ノットで約6日。パレルモからズラ湾まで4000キロ、20ノットで4日半。パレルモでの補給に1日半を要するとすると、王冠湾から12日で到着できる。
 だが、今回は12日もかかる。

 ミエリキは、ヴルマンの指導者ベアーテに呼ばれた。
「ミエリキ、4機編隊でズラ湾まで飛べるか」
「ベアーテ様、ご命令ならば。
 ズラ湾まで6000キロ。
 カルタゴとクレタでの燃料補給を含めても、3日あれば」
「チハヤは、危険な状態にあるようだ。
 昨夜、チハヤとハナヤマの無線を傍受した。チハヤはハナヤマに援軍を要請したが、ハナヤマには送れる兵がいないようだ」
「2人の無線は、我々の知らない言葉のはずですが?」
「そうだ。だから、ティッシュモック出身の男を高額で雇っている」
「暗号解読のために?」
「そうだ。
 ミエリキ、チハヤを救いに行け」
「ご命令、確かに承りました」

 双発双胴の大型輸送機フェニックスは、ヴルマンは4機保有している。
 その全機が飛行場にある。2機にクフラック(カナリア諸島)製1トン積みピックアップトラックが搭載されていく。ドミヤート製よりも一回り大きい。
 このトラックはV型8気筒エンジンを搭載していて、非常に牽引力が強い。分解された3トン積みトレーラーも運び込まれる。
 残り2機には、各機50人の完全武装兵が乗る。

 半田千早は花山真弓に指示された通り、飛行機が降りられそうな場所を探している。
 ズラ村にはミエリキはいないが、ララ、アネリア、井澤加奈子の3人のパイロットがいる。空飛ぶ軽トラは4機。常時、3機は運用可能だ。

「ここがいいね」
 キュッラが細い道を指差す。ヒトがすれ違えるかどうかの獣道だが、平坦で、障害物がない。
「森に囲まれているけど、北が空いている。
 3000メートル先まで高い障害物はないね」
 半田健太が立木を指差す。
「あの木、それとあれ、あっちもだけど、切り倒せば、障害物はなくなる。
 道の左右の草を刈って、動物の巣穴を埋めて、石を拾えば、滑走路になる」
 アクシャイが心配する。
「無断で木を切ると、村民が怒るかもしれない」
 半田千早がアクシャイを見る。
「村民は友好的じゃない。
 敵対的ではないけれど、我々を信用していない」
 アクシャイには、その理由がわかる。
「ティターンが近くまで進撃してきているんだ。
 それで、ピリピリしている。
 コムギを金貨に変えて、武器を買いたいけど、上手くいかない。北部の街は疲弊しきっているし、売り手ばかりの農民同士で売り買いできるわけじゃないし……」
 キュッラが武器について気にする。
「武器は集まっているの?」
 アクシャイに詳細がわかるはずはないが、彼にはおおよそのことはわかっていた。
「どこの村でも、武器はある。
 農家でも商家でも、刀の1本や2本はある。旅の護身用とか、盗賊とかに備えて。
 弓矢もある。畑を荒らす動物を駆除したり、弓で魚を捕ることもある。
 だけど、戦争をするためじゃない。
 戦争の仕方なんて知らない。
 大勢が集まって、刀を振り上げて、敵に向かって突っ込んでいくだけ。
 そんなんじゃ、戦争には勝てない。
 でも、それを知らないんだ」
 半田千早には疑問があった。
「この周辺の村民はティターンに抵抗しようとしている。ティターンに支配されているアリギュラにも抵抗組織がある。
 アクシャイやテシレアもティターンに抵抗している。
 勝てないとわかっていて、なぜ?」
「いまは勝てない。
 だけど、永遠に勝てないわけじゃない。
 いつか、勝てるときが来る。
 そのときまで待つ。ティターンの支配に逆らいながら……」
 キュッラが立ち止まる。
「わかるよ」
 アクシャイが少し強い声を出す。
「わかる!」
「私たちは、救世主に攻められた。家族はみんな殺されちゃった。
 救世主に。
 私たちも戦った。とても勝ち目のない相手に」
 アクシャイが驚く。
「でも、勝った……?」
「うん。
 西からチハヤたちが来たんだ」
 アクシャイがキュッラを見る。
「どういうこと?」
 キュッラが笑う。
「抵抗は無駄じゃないよ」

 滑走路を造るための道具は限られていた。斧とショベルは車輌に備え付けのものだけ。草はナイフで刈るしかなかった。
 丸1日かけて、200メートルを整地するだけで精一杯だった。

 急造滑走路使用の1番機は、アネリアだった。滑走路の長さを最大限に使って着陸し、草刈り機やチェーンソーなど滑走路拡張に必要な機材を運んできた。
 着陸を誘導する管制官が同乗していた。

「チハヤ、厄介ごとだ」
 アネリアの第一声に半田千早が身構える。
「何かあったの?」
「ミエリキの編隊がクレタ島に降りた。
 明日には、ズラに到着する」
 千早は要領がつかめない。
「クレタ島?」
 アネリアも驚きから覚めていない。
「ヴルマンがクレタ島に滑走路を造ったんだ。正確には、古い滑走路を見つけて、使えるようにしたらしい。
 ミエリキが4機編隊を率いて、クレタ島に降りた。昨日のことだ。ズラに降りて、兵員と物資を降ろす」
 千早は、ミエリキをよく知っている。
「ミエリキなら、ここまで飛んでくるよ」
 その意見にアネリアも同意。
「来るだろうね。
 強引だから。
 それと、コウノギが貨物船2隻を派遣するそうだ。コムギを3000トン買い付けろ、と連絡してきた」
 買い付けはできる。だが、根源的な問題が残る。どうやって、850キロの陸路を運ぶのか。
 それと、北進しているとされる、アリギュラとは別のティターン軍にどう対処するのか。
 ここに留まるなら、一戦を覚悟しないとならない。

 2番機はララだった。彼女はコムギの買い付け代金と、コムギの質を検査する隊員を乗せてきた。
 花山真弓からの命令は「拠点を確保せよ」で、ララは「司令官が、2000メートル級の滑走路を造れって」と知らせた。

 半田千早とアクシャイは、ハルダール村の長と路上で面談している。周囲には、村民が取り囲む。
「あの空を飛ぶものは何だ?」
 村長は白髭の老人だが、筋肉が発達した力強い男だ。彼の声は震えていた。
 アクシャイが答える。
「北の商人の乗り物だ。
 北の商人は、コムギを65000袋に相当する量を欲している」
 村長の声は自信のなさを示している。
「どうやって運ぶんだ?」
 その問いには、半田千早とアクシャイにはわからない。だが、何かを答えなければならない。アクシャイは打ち合わせの通りに伝える。
「北の商人は陸路と空路で運び出すが、時間がかかる。コムギを保管する納屋と輸送を行うための拠点が必要だ。
 今回、空飛ぶ乗り物が降りた草原一帯を借り受けたい。納屋と草原の賃料は村が負担、輸送の費用は北の商人が負担する。
 まずは、コムギを見せてくれ。良品か調べる」
 村にとって、悪い条件ではない。
 村長は、懐疑的な目をしている。
「即金で払うなら、その条件でいい」

 村の男が叫ぶ。
「武器が買えるぞ!」
「ティターンを追い払え!」
「皆殺しにしてやる!」

 アクシャイには既視の光景だった。ラウラキ族の男たちもそう叫んでいた。
 アクシャイは知っていた。
 勇気と武器があっても、ティターンには勝てないことを。同時に抵抗は無意味でないことも。
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帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

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