200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第7章

07-178 次女ヘスティア

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 半田千早たちのキャンプは、当初の予定とは異なりつつあった。
 7姉妹の長女アルテミスからオークを駆逐すると、困窮している労働市民への支援が必要になった。その仕事は当然だが、スパルタカスが担うべきだ。
 そして、スパルタカスが護衛とともにやって来た。
 だが、それだけではない。クマンや湖水地域の商人たちが同行していたのだ。

 Nキャンプには、続々と戦力が集まっている。同時に、各地から商人も集まる。湖水地域の商人は、灌木が散在する大草原を1200キロ走破して、Nキャンプにやって来た。
 そして、お定まりの行為をする。
 友好の印に、スパルタカスに速射製に優れたレバーアクションライフル30挺を献上したのだ。
 だが、弾は1挺あたり48発しか渡さない。つまり、弾を売って儲けようという魂胆だ。
 クマンの商人が抜け目なく、湖水地域の商人よりも安価に44口径レミントン弾の強装弾“44マグナム”を売り込む。

 カナリア諸島は、M18ヘルキャット戦車駆逐車をモデルに、サスペンションをクリスティ式に改めた戦車を投入してきた。
 車体と砲塔の装甲は正面が50ミリとなり、砲塔は密閉式に改められた。エンジンはバンジェル島製のV型10気筒水冷ディーゼルだ。
 60口径75ミリ砲を搭載する。いままでの各街や各国が製造していた小型の戦車とは一線を画す本格的主力戦車だ。車重は28トンと手頃で、200万年前なら軽戦車だろうが、200万年後の戦車は10トン以下から15トン程度までがほとんどなので、画期的な“重戦車”だった。
 バンジェル島は、何種類もの軽戦車を投入する。ただし、23.5口径76.2ミリ砲ではなく、60口径75ミリ砲を搭載する。車体と砲塔のベースはM24チャーフィー軽戦車で、サスペンションはお馴染みの横置きコイルスプリングの2輪連動式だ。
 雑多だが、見慣れた多くの戦車や装甲車がNキャンプに集結している。
 戦車だけで、100輌が集結する予定だ。

 ヒトがオーク(白魔族)と全面戦争に入ってから10年余の歳月が流れている。
 その間、ヒトの戦車は、37ミリ短砲身砲、37ミリ長砲身砲、47ミリ長砲身砲、57ミリ長砲身砲、75ミリ長砲身および76.2ミリ短砲身砲、そして51口径105ミリ砲搭載車まで登場させた。
 だが、オークは37ミリ短身砲が主力のまま。ヒトから鹵獲したと思われる37ミリ長砲身砲を搭載する戦車が、少数確認されているに過ぎない。

 オークは、進歩しない。

 7姉妹の次女ヘスティアは、7姉妹最北の街。そして、オークとの接点。

「無線が入った」
 半田千早は、早朝の会議で面々に報告する。息は白くないが、大気は冷たい。四方が開け放たれたターフの下には、冷たい空気を斬り裂くような鋭い殺気が走っていた。
「セウタ要塞から、戦車数十輌が南下している。
 ジブラルタルとララジュからの情報だ。
 間違いない!」
 ガレリア・ズームが腕を組む。
「まずいぞ。
 ヘスティアには、30輌以上の戦車が常駐している。それと、アルテミスを脱出した戦車はヘスティアに向かったはずだ」
 ラダ・ムーが呟く。
「40から60輌か……」

 オークはラダ・ムーが知るオークではない。ヒトを食う本質は変わらない。ヒトを食う動物は多い。オオカミ、クマ、ドラゴンなど。
 オークは他の動物とは違う。ヒトを料理して食べるのだ。
 200万年後のオークは、2人乗りの戦車を主力兵器としている。歩兵はいない。騎兵だけだ。
 オークは連携行動が苦手だ。大群を作るが、基本的には個体の集合体でしかない。狭い戦車内に多個体が詰め込まされる状況には、精神が耐えられない。
 だから、砲塔に1人、車体に1人の2人乗り戦車でなければならない。
 オークは狭い空間に多個体が集まると、パニックを起こしやすくなる。
 オークの戦車は2種類。ルノーFTによく似たリベット構造の戦車と、オチキスH35類似の鋳造とボルト接合の戦車だ。
 どちらも少数の例外を除くと、装甲貫徹力の低い短砲身37ミリ砲を装備する。
 物資の輸送には、全長10メートル、全幅3.2メートルもある大型装軌車を使う。同じ車体は、多砲塔戦車として使われているが、ほとんど見ることはない。

 半田千早がラダ・ムーを見る。
「戦力……。
 足りないよね」
 尋ねる理由さえない明白な事実。
「あぁ、まったく足りない」
 ラクシュミーが提案する。
「次女を迂回する……。
 次女と3女を解放する任務ではないのだから……」
 その通りだ。任務はチュニジアに抜けるルートを啓開することだ。
 スパルタカスが懇願する。
「チハヤ、お願いだ。
 子供たちを助けて欲しい。
 アルテミスには、乳児院や養護施設のようなものがあった。最初はそうだと思った。でも違った。
 ヒトの飼育場だった。
 ヒトを育てて、化け物に渡していたんだ。
 チハヤ……」
「スパルタカス様のお気持ちは理解できる。
 ここにいる誰もが、同じ気持ちだ。
 でも、戦力が足りない。
 現実は変えられない」
 スパルタカスがうな垂れる。

 午後早く、湖水地域の商人がやって来た。湖水地域最北からNキャンプまでの1200キロを走破し、その一部がアルテミスを目指したのだ。
 そして、彼らは隊商の護衛だった。護衛隊だけが北進してきたのだ。
 彼らの第一声は意外だった。
「味方する。
 化け物を倒すためにやって来た」

 夕方、カナリア諸島のヘルキャット戦車8輌が到着。最大装甲厚50ミリ、60口径75ミリ砲搭載の主力戦車だ。

 半田千早は、ヘルキャット戦車を初めて見た。この戦車が20輌あればヘスティアに進撃するのに……。
 今夜も子供の誰かがオークに食われる。
 その子の恐怖を考えると、いたたまれなかった。

 日没直後、クマンの主力戦車4輌が到着。最大装甲厚35ミリ、50口径47ミリ砲を搭載する。
 強力な12輌の戦車と4輌の戦闘車、それと多数の装甲車があれば、ヘスティアを攻略できるかもしれない。

「お願いする。
 今夜も子供が食われるのだ!
 ヘスティアを攻略しなければ、明日も子が食われる!」
 ラクシュミーの絶叫で、ターフの中は注目を集める。
 誰かが叫ぶ。
「その姉ちゃんの言う通りだ。
 化け物を殺しに行こう!」
 年配の商人が叫ぶ。
「俺の妹は白魔族に掠われた!
 明日こそ仇を討ってやる」

 このキャンプに集まっている男と女の意志は固まっていた。
 誰であれ、止めることはできない。

「我らは船6隻を運んできた。1隻に20人乗れる。
 湖を北上し、湖岸から街を襲う」
 水上航行に長けた湖水地域のヒトたちらしい計画が提案される。
「それは妙案。
 湖側からの攻撃は、ヘスティアは考えていないだろう」
 軍事行動に対する発言が極端に少ないスパルタカスが賛意を示す。それほど、意外性のある作戦だと言うことだ。湖西岸のヒトは、理由は不明だが水上には出ない。
 半田千早はその理由を心配した。
「なぜ、湖を使わないの?
 魚はいないの?
 船はないの?」
 スパルタカスが一瞬、口籠もる。
「実際に見たことはない……。
 対岸のヒトの攻撃を恐れている」
 全員が小首をかしげる。
 半田千早も理解できない。
「湖に出ると、対岸のヒトが攻撃をしてくるの?」
 スパルタカスは言葉を選ぶ。
「湖には、恐ろしい魔物が住むと聞いている。
 だが、そんなものはいない。
 ヒトよりも大きな魚はいるが……。
 誰でも知っている。
 だけど、湖には出たことはない。川でも十分な釣果があるから……。
 対岸のヒトのことはわからない。私は知らないし、貴尊市民も知らないと思う。
 対岸のヒトがいつからいるのかも知らない。東岸のヒトよりも古くから住んでいることは確かだ。
 西岸のヒトは、湖全体を掌握しているらしい。そのことを貴尊市民は秘密にしていた。
 恐ろしい魔物とは、西岸のヒトの船だと思う。どんな船なのか?」
 半田千早には思い当たることがあった。
「湖上空からの目撃で、白波を立てて走る高速艇が何度か目撃されている……。
 湖水の船は何ノット出る?」
「せいぜい8ノット……」
「湖上を進むのは、危険かも……。
 化け物が、ではなく、西岸のヒトたちが……」
 ガレリア・ズームが誰とも目を合わせずに言う。
「湖岸から1000メートル以内なら大丈夫だ。
 それ以上沖に出ると、襲われる」
 ラクシュミーが動揺している。
「ガル……。
 西岸のヒトは……」
「ラクシュミー、俺たちの祖先は西岸を襲ったんだ。そして、短期間にたくさんの子供を誘拐した。
 その後、一部の有力者が支配層となり、社会を貴尊市民と労働市民に別けた。
 ヒトが東岸に住むようになったのは400年ほど前。現在の社会体制になるのは300年前だ。移住初期は西岸北部にいたらしい。
 それ以前に神の使徒と出会った。
 チハヤたちは、化け物を白魔族やオークと呼ぶ。湖水のヒトたちは、創造主と呼んでいる。
 それだけ、ヒトと関わりが深いと言うことだ。
 貴尊市民の最上級層は、化け物を熾天使〈してんし〉と呼んでいる。天使9階級の最上位だ。実際、天使だと信じている。心からね。
 だが、階級が下がるほど、化け物を天使だとは考えなくなる。見たことがないからね。作り話だと……。
 労働市民は熾天使の存在自体を知らない。噂を含めてね。労働市民には貴尊市民こそが至高の存在だと信じさせ、下級貴尊市民には上級貴尊市民は天使と交流があると信じさせようとした。
 どちらも、完全には成功しなかったけれど、かなりの効果があった。階級の固定化に成功したからね。
 東岸の経済は化け物に依存している。ヒトは工業製品を何も作れない。動力はもちろん、井戸水を汲み上げる手動のポンプさえ。
 作れるのは簡単な農具と、剣や槍程度だ。
 だが、西岸のヒトたちは違う。
 あんたたちとも、渡り合えるだろう」
 半田千早は、ガレリア・ズームが貴尊市民だったとしたならば、相当な高位階級であったはずと感じていた。
「湖水のヒトたちは、岸から1000メートル以上離れない。
 Nキャンプから飛行機を呼ぶ。
 今回の作戦では航空偵察が絶対に必要だし、空からの捜索がなければ作戦は成功しない。
 1000メートルの滑走路を造らないと」

 すべての車輌のヘッドライトと、発電機の照明、それと篝火や松明で、一夜にして1200メートルのやや南北に傾斜した直線路を完成させた。
 Nキャンプに常駐しているターボ・アイランダーならば、離着陸できる。

 ターボ・アイランダーが飛来する前に作戦は発起された。
 湖水地域のヒトたちは、湖岸沿いに進む部隊を水上突撃隊と名付けた。物資を積んだ水陸両用トラック4輌も同行する。
 陸上を進む本隊は、戦車、戦闘車、装甲車のすべてを投入する。馬車、トラック、クマンのデルピス作業機など、あらゆる貨車が動員されて物資を運ぶ。
 故障していた車輌は、徹夜で修理した。

 王冠湾は、ドミヤート地区からストーマー装甲兵員輸送車4輌の修理を請け負った。タザリン地区からは、FV103スパルタン装甲兵員輸送車1輌を購入した。この車輌は修理後、ドミヤート地区への転売が決まっていた。ストーマーとスパルタンはまったく同系で、ストーマーのほうが車体が長い。転輪も1組多い。車体が軽合金製で、装甲は重機関銃程度の直撃に耐えられる。
 FV101スコーピオンやFV107シミターと同系であることから、ドミヤート地区はこの系統の車輌の再生と配備を積極的に進めていた。
 売却に至った経緯は、軽合金装甲の補修が難しいことと、部品の欠損が多く、何度も改造されていることから適合性に欠ける部分もあるためだ。
 アメリカ製M113やソ連/ロシア製BMP-1系列の場合、所有者は手放さず、再生することを望んだ。装軌・装輪にかかわらず、少ない型式の車輌は修理の困難さから無可動になりやすかった。
 200万年前から持ち込んだ機械は、無可動になっても、持ち主を変えながら捨てられることはなかった。
 これらの車輌は、半田千早のために揃えられたのだが、ヘスティア攻略戦には到底間に合わない。
 ドミヤート地区は、半田千早への支援が不十分であることを認識していた。

 それは、王冠湾地区も同じだ。王冠湾地区は、南島の最北、陸橋で南側とつながる島の4分の1の占有を認められたが、それに見合う実力はなかった。
 自走105ミリ榴弾砲2輌をN作戦のために派遣したが、後方支援はまったくできていない。銃砲弾の補給さえできていない。

「ララ!」
 ミエリキは、両掌を口に当てて彼方を歩くララを呼んだ。
 ララが立ち止まり、彼女に向かってミエリキが走る。
 2人に面識はあるが、特別親しいわけではない。
「ララにお願いがあるんだ」
「ミエリキが、私に?」
「うん。
 あれのコパイを引き受けてくれないかな?」
「私、あんなに大きな飛行機、飛ばしたことなんてないよ」
 ミエリキの指先には、C-1輸送機があった。
「くじらちゃんなら、8トンの荷物を積んで、チハヤが一夜で造った滑走路に降りられるんだ」
「ミエリキ、いまからじゃ……」
「間に合わないかもしれないけど、間に合うかもしれない。
 2人でイザワを説得しようよ」
 ララが少し考える。
「カナコを巻き込もう」
「メカニックの?」
「うん。
 いまじゃ、義理の姉妹みたいなものだから……」
「……?」

 2人が井澤加奈子を探し出すには、時間はかからなかった。

 井澤貞之は、若い女性3人に口撃されて狼狽えてしまった。1人は実の娘、1人は義理の娘、もう1人は他所の娘。
 しかも、彼の専門外だ。
 役場に使っている小さな建物の前で、彼はどうしていいかわからなかった。
 彼の援軍は20分後に現れた。
 奥宮要介は、会議の必要性を説く。井澤貞之は、奥宮の提案を受け入れた。その場を逃げるために……。

 狭い会議室に、8人の男女が集まる。花山真弓、里崎杏、畠野史子、奥宮要介、井澤貞之、ミエリキ、ララ、井澤加奈子。
「くじらちゃんで、銃砲弾と食料をアルテミス北の急造滑走路に届けたい」
 ミエリキの一言は、部屋の空気を激しく振動させた。支援の必要性は感じているが、その方法がなかったからだ。
「くじらちゃんでは、片道しか飛べない。戻ってこれない」
 花山真弓は現実を示す。
「それに、滑走路は1000メートル強、転圧も十分じゃないから、離陸は無理かも」
 井澤加奈子が反論する。
「私が一緒に行く。
 くじらちゃんは、必ず帰還させる!
 それに、昨夜、誰かが食べられた。今夜、誰かが食べられる。
 私は我慢できない!」
 それは、分別のある大人たちも同じだ。
「畠野さん、加賀谷さんを呼んできて」
 畠野史子が立ち上がり、見事な敬礼をする。
 ミエリキは、それが“戦女神の敬礼”であることを知っていた。城島由加と同じだからだ。
 ミエリキとララが目を合わす。ララは、畠野が戦女神ではないかと感じた。
 加賀谷真梨が到着するまでの30分間、会議室は息が詰まるほどの緊張と沈黙が支配する。
 加賀谷真梨が入室すると同時に、花山真弓が尋ねる。
「加賀谷さん、あれ、使える?」
「大丈夫だけど……、花山さん、あれで何をするの?」
「3人の血気盛んな若者が、ヘスティアに行くって言っているから……」
「物資の輸送ね。
 でも、荷車は現地調達になる。
 できるかな?」
「馬車でいいんでしょ?」
「連結できれば、何でも。
 それ用の金具は製作済み」
「畠野さん、くじらちゃんに10トン積んで3500キロ飛べる?」
「高高度を飛べば大丈夫です。
 ですけど、航法は?
 GPSがないんですよ」
「航法は、私が引き受けよう」
 里崎杏が微笑む。
「船乗りでよければ、だけど」
 花山が奥宮要介に顔を向ける。
「すでに搭載済みです。
 台湾から手に入れた20ミリM39リボルバーカノンは完璧に調整してあります」
「里崎さん、頼める?
 地上要員を4人選抜して。
 滑走路が整備できるまでは飛べないから、くじらちゃんを確実に守って欲しい。
 それと、里崎さんはしばらくの間、アルテミスに残って」
「それ、命令?」
「いいえ、お願い!
 あなたは、真っ先に突入しちゃうでしょ。
 それに、くじらちゃんを失うわけにはいかない」

 アイランダーが最初の偵察飛行を行うため、アルテミスの急造滑走路を離陸すると入れ違いに、この貧弱な滑走路には似つかわしくない大型双発機が着陸した。

 アルテミスは混乱している。貴尊市民は権力を失い、彼らが潤沢に保有している物資はスパルタカスが徴発している。
 武装解除も実行された。
 スパルタカスは、貴尊市民に対する略奪や暴行は許さなかったが、ヒトの子供をオークに引き渡していた最上級層数人は処刑した。
 また、子供を飼育していた現場の担当者は、拘束した。多くが半奴隷の労働市民であったが、理由の如何を問わず行為自体が許されないと彼は判断した。

 C-1輸送機のランプドアからゆっくりと小型の装軌装甲車が降りてくる。
 この車輌は、FV102ストライカー自走対戦車ミサイルだったものだが、大幅に改造されている。当然だが、スウィングファイア対戦車ミサイルは失われており、エンジンとトランスミッションもなかった。車内の計器類はすべて取り外されていて、起動輪と履帯、転輪の一部もなかった。
 FV101系列の車体なので、加賀谷真梨が補修部品の調達用として購入したものだった。実際、サスペンションや転輪、ハッチなど使えそうな部品ははぎ取られた。
 そして、軽合金装甲の車体とごく一部の部品だけが残った。
 この車体を再塗装し、部品を自製し、メーター類は新たに調達し、ノースロップF-5タイガーⅡ戦闘機に搭載されていたM39リボルバーカノンを連装で搭載した戦闘車を完成させた。
 この連装20ミリ機関砲は、リモコンで操作する。
 中古部品も使っているが、車体以外はまったくの新造だ。

 井澤加奈子、ララ、ミエリキは、この戦闘車の操作になれようと必死だ。
 スパルタカスたちが用意してくれた馬車は、豪華な大型4輪ワゴンだった。そのワゴンボディを撤去して、急造の木製荷台を架装する。サスペンションのしなりが微妙だが、ヘスティアまで使えればいい。
 銃砲弾が馬車の荷台に積まれ、出発の準備が整いつつあった。

 アルテミスの青年騎士団の一部が陥落直前に街を脱出し、3女に向かったことはわかっていた。
 そして、3女の騎士団と合流し、3女を捨て次女ヘスティアに集結している。
 ヘスティアの軍指揮官の名もわかった。
 ルシフェス・ズーム。
 ガレリア・ズームの従兄弟だ。

 半田千早たちには、明確な指揮官がいなかった。そもそも、彼らは軍ではない。農民、商人など職業はいろいろ。
 指揮官を誰にするか、で揉めることはない。作戦を立て、そのように行動する。それぞれの役割を確実に履行する。
 彼らは、そうやって戦ってきた。
 何百年間も。

 3女は無抵抗で、半田千早たちは通過するだけ。
 貴尊市民の怨嗟はなく、労働市民の歓喜もない。どちらも何が始まっているのか、理解できないのだ。

 ミエリキたちを含む20輌を超える輸送隊は、半田千早たちに14時間遅れて3女を通過。日没後だったが、先を急いだ。
 時間を経るごとに3女の情勢は不安定になりつつあるからだ。

 半田千早たちは、戸惑っていた。オークに支援されていないヒトの騎兵が行く手を遮り、6時間もにらみ合っている。
 完全に足止めされている。
 オークはヒトに足止めを命じ、自分たちはグーダミス平原に後退していく。北から、オークの戦車隊が同地に向かっている。
 セウタ要塞を脱した部隊だが、ヘスティアの部隊と合流されると厄介なことになる。ヘスティアを突破することは可能だが、多くの死傷者が出る。

「どうする?」
 半田千早の問いに誰も答えない。
 答えは決まっている。正面突破しかない。戦車を先頭に機関銃の斉射で突破できる。
「相手は、ろくな武器を持っていない。
 軍服は立派だが、背負っている騎銃と、鞍に付けた曲刀だけだ。アルテミス戦では、手榴弾さえ使わなかった。
 我々が何かをすれば、心が痛む」
 ラダ・ムーの意見は当然だ。
 ラクシュミーが「虐殺になる」と言うと、ガレリア・ズームが「仕方ない」と答える。
 だが、半田千早には仕方がないとは思えなかった。
「何とかしないと」
 無為に時間が過ぎていく。

「追い付いたみたいだね」
 ララが微笑み、井澤加奈子が微笑む。
「でも、何で止まっているの?」
 ミエリキの疑問は当然だった。

 弾薬の補給は、オークとの決戦を前に不可欠だったが、誰もが望んでいなかった。
 望んだとしても不可能だからだ。
 だが、アルテミスから弾薬と食料が届いたことで、部隊全体が落ち着く。何よりも後方からの支援があることに、安心したのだ。
 それでも、この状況を覆すことはできない。

「ヒトの盾だね」
 半田千早は井澤加奈子の案に不快感を隠さなかった。
「それは、ヒトがすることじゃない」
「協力してもらうんだ。
 その貴尊市民とやらの女性たちに」
 ラクシュミーが反対する。
「いいや、危険だ。
 我々ではなく、あの連中が殺しかねない」
 井澤加奈子が動揺する。
「母親や姉、妹、家族だよ」
 ガレリア・ズームが肯定する。
「貴尊市民でも上級の子弟たちが集まっている。世の中のことなど何も知らないんだ。純粋培養された狂信者だ。
 母親でも、姉妹でも関係ない。
 熾天使のためなら容赦なく殺す。自分たちも喜んで死ぬ」
 半田千早は、意を決した。
「残念だけど、突破しよう。
 これ以上待てない」
 ラクシュミーも時間をかけたくなかった。
「チハヤ、調べたんだ。
 化け物は子供を連れ去っていない。
 ここにいた子で、食われる子はいない。
 だけど……」
 ガレリア・ズームが提案する。
「力で突破しよう。
 それしかない。
 時間をかければ、化け物が有利になる」

 残念だが、それ以外の方法はなかった。

 戦いは一瞬で終わった。戦車を先頭に前進を始めると、騎士団は一斉に乗馬し、戦列を整えて、抜刀突撃を始める。
 が、ウマは長時間の立ちっぱなしで疲れており、それ以上に乗り手の多くは極度の緊張から精根尽き果てていた。
 当初、いきり立っていた乗り手は、気付けば死の覚悟など消え失せており、生への執着が芽生えていた。
 600騎のうち突撃を始めたのは200騎で、そのうち100騎は途中で止まった。

 半田千早は突進する100騎が止まることを期待したが、そうならないことを知っていた。
 そして、機関銃を発射した。
 ウマは狙わず、ヒトだけを倒す。
 その余裕があった。
 射撃はすぐに終わった。発射を躊躇った半田千早たちとは異なり、ラクシュミーたちは容赦なかった。
 ウマを確保して、意気揚々と引き上げてくる。
 貴尊市民の子弟で編制された500騎は、ただ眺めていた。
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スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

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