30 / 244
第1章
第二八話 防衛線
しおりを挟む
片倉は建築家であることが影響しているのだろうか、恒久的な建物を造り、一カ所に落ち着き、生活の基盤を固めるべきだと考えている。
金沢は、物資、機材、燃料、車輌を集積するならば、容易に移動できなくなることは当然だと考えている。
斉木は、定住するならば、作物を生産し、安定的な食糧供給は不可欠だと考えていた。
だから、三人はルミリー湖北岸一帯を拠点とすることに賛成している。
ここは、安全な土地だ。
いまのところは……。
一方、相馬、由加、ベルタは、ヒト、精霊族、鬼神族、白魔族、黒魔族といった、文明らしきものを持つ直立二足歩行する五種類の生物が併存するこの世界を、流動的だと考えている。そして、ドラキュロの存在。
定住を決定することは、そのこと自体が弱体化の引き金になるとも考えているようだ。
ここは、安全だと確信できない。
現状では……。
金吾とディーノは、ジブラルタルの存在を重要視している。彼らの内懐に入ることが、安全への近道と判断しているようにも感じる。
既存の勢力に依存することも選択肢ではある。
しかし、相手が我々を受け入れるとは限らない……。
いまや五〇人もいるのだ、思惑は個々人それぞれに異なる。情報の濃淡も違うし、個々の同じ情報に対する判断も違う。
だが、燃料の必要性だけは、完全に一致している。
一定量の燃料を製造しようとするならば、相当期間、この地に留まらなくてはならない。
この現実も共有されている。
ただ、全員が一丸となって行動しよう、という考えは薄れつつある、ように感じることがある。
このグループの分裂は、視野に入れるべきだ。
能美たちはギボンで、中央高地の東方にあるヒトの街クフラックの情報を仕入れてきた。
能美は条件付き定住派だ。彼女は、ヒトの街クフラックを早急に調査すべきだと主張している。
クフラックは人口五〇〇〇に達する大きな街らしい。だが、ヒトのルーツを完全に忘れており、この土地に根ざした人々が作った小王国の首都のようだ。
また、かつてのビスケー湾方面には、ヒトの〝大帝国〟が存在するという噂がある。クフラックは、この大帝国の飛び地で属領なのだという不確かな情報もある。
この大帝国の指導層から民衆まで、この世界・時代に至った理由・事情はまったく知らない。
我々以前にこの世界にやって来て、その際の情報を記憶している人々は、これを失った人々を〝蛮族〟と呼んでいる。
一般に〝蛮族〟と呼ばれる人々は、いったん文明・文化を失っていた。言葉が違うし、文字は精霊族や鬼神族のものに似ている。明らかに、彼らからの影響だろう。
金吾とディーノは無線を発信し、それに応答する人がいないかを調べている。
精霊族、鬼神族、白魔族、黒魔族は、意味のある信号としての電波を発信しないし、送受信設備を持たない。
無線に応答があれば、それはヒトだ。
しかし、長らく、ジブラルタル以外からの応答はなかった。
だが、ついに応答があった。
しかも、南西に直線で五〇キロほどの距離にあるヒトの村からだ。
その村シェプニノで、車輌の製造・販売を営むサロモンという男が、音声通信に答えてくれた。
この村には、金吾、ディーノ、ルサリィ、イサイアスが向かった。
シェプニノは、湿地に囲まれた小高い丘にある人口五〇〇ほどの村だ。ヒトの村としては規模が大きく、村の経済はサロモンが営む自動車工場に依存している。
自動車工場とは言っても、月産五台ほどの製造能力しかなく、製造車種はキャブオーバーの全装軌の一種しかない。ただ、ボディタイプは、トラックとワゴンの二種がある。
シャーシは鋼板製の舟形で、オーダーがあれば戦車も作るそうだ。
この世界の車輌は、いままで見てきた限りではリーフスプリング(板バネ)のサスペンションを使っていた。
だが、サロモンの会社シェプニノ自動車製造では、コイルスプリング(巻バネ)を使っている。形式としては、ホルストマン式という二輪連動懸架方式だ。イギリスのユニバーサル・キャリアやセンチュリオン戦車が採用していた形式と同じ。イスラエルのメルカバⅠ戦車も同形式だ。
サロモンによれば、路面に対する追従性に優れ、高速化が可能で、トーションバー・スプリング(棒バネ)のように車内スペースを占有せず、故障した場合は交換が容易なのだそうだ。
実際、整備された道路上で時速五〇から六〇キロも出せる。これは、他社製に比べて一・五倍から二倍になる。
山荘に帰着した金吾たちの報告は詳細であった。
シェプニノは、五〇年以上前に元世界からの移住者たちがゼロから開いた開拓地だ。
街の位置は、我々の地図上ならば、南から北に流れるロワール川の上流にあたる。ロワール川は、エスコー川(ソーヌ川・ローヌ川)の西にあり、川筋は平行している。
街の周囲は、精霊族の領域だ。
周囲が湖沼と湿地に囲まれていることからドラキュロの侵入を防ぐことができ、湖沼・湿地帯の外側は深い森が広がるので、開拓初期においてはヒトは容易に近付けなかった。
開拓初期の不安定な時代、ドラキュロの攻撃とヒトの略奪にあうことなく生き残りができたそうだ。
農耕に不適な土地なので、移住者の多くが技術者だったこともあり、精霊族や鬼神族向けの車輌を製造して経済を維持している。
ヒトを避けたのは、略奪を恐れたからだ。
村の指導部は移住二世と三世に代替わりしているが、一世も多数が存命だ。
夜の全体会議は、ちょっとした興奮に包まれていた。
由加や能美たちは「何とか連携できないか」と主張し、子供たちは「美しい小さな村に行きたい!」と騒ぎ、金沢は「サラディンの修理ができるかも」と念仏のように何度も同じ言葉を繰り返す。
アンティは、「次は俺も一緒に行く」と言った。もちろん、例の酒を持っていくつもりだ。
ミランダは、「そんな村があるなんて」と驚いている。
金吾は、「敵対的な感じはしませんでした。昔は隠れ里のような状態だったらしいですが、村には精霊族が滞在していました。宿屋もあります」と報告。
ディーノが「いやぁ、オーストリアのハルシュタットのようなきれいな村だったよ」と言うと、ちーちゃんが「お友達できるかな?」と反応する。
イサイアスは、「村人からやたらと〝種から燃料を作る人々か?〟と尋ねられたから、車輌や暖房用の燃料に強い興味があるようだ」と言う。
ミランダとともにやって来たオクタビアが「その村には住めないの?」と尋ねたが、金吾とディーノが「無理だね」とほぼ同時に答える。
土地が狭すぎる。そして、ディーノによれば、「当然だが、彼らには一定の用心深さがある」とのことだ。
それがなければ生き残ってこれなかったはずだ。
ただ、商取引を中心に、関わっていこうという意見には全員が同意した。
この全体会議には、もう一つ議題があった。それは、ギボンから手に入れたFV107シミター偵察戦闘車をディーノが見ていない、という事実だ。
つまり、このシミターはディーノたちが持ち込んだものではなく、他の〝誰か〟の持ち物であり、しかもあの鍋底から外部に持ち出されたのだ。
ディーノが見ていないと言うことは、ディーノの脱出後に、鍋底に誰かがやって来たわけだ。
それはそうだろう。我々も鍋底でFV101スコーピオン軽戦車を手に入れたのだから……。
我々のスコーピオンと新たに入手したシミターは、シャーシは同じだ。同時にこの世界にやって来た可能性があるし、本来の持ち主以外が鍋底から持ち出した可能性もある。
スコーピオンとシミターだが、同じ持ち主のものだった可能性はあるのだが、塗装がまったく異なる。スコーピオンは森林迷彩だが、シミターは砂漠迷彩だ。
どうも、別々にこの世界にやって来た可能性が高いように感じる。
また、ディーノがやって来る以前に、このシミターが鍋底に現れ、ディーノたちが訪れる前に誰かが回収したことも考えられる。
可能性ならば、いくつもある。
金沢が「スコーピオンとシミターがあるのであれば、スパルタン装甲兵員輸送車やストライカー戦車駆逐車もどこかに存在しているんじゃないか?」と可能性を提示した。
FV101系列の装甲車輌の存在は、この状況を鑑みれば否定できない。この系列は旧式装軌車でありながら、時速70キロを発揮できるから、二〇〇万年後を目指した人々が持ち込んだ可能性があるのだ。
金沢は「数年にわたって、鍋底から車輌を回収し続けたグループがいたのではないか」と予想し、「厄介な連中がいるかもしれない」と警告する。
実際、ディーノが見たという〝大きな戦車〟は発見できていない。発見できないのか、すでに移動しているのか、どちらなのか判断できなくなっている。
金沢は、ディーノから〝大きな戦車〟の形状や特徴を詳しく聞き取りしていた。
「ディーノさんにイラストを描いてもらったのですが、BMP‐1系列の歩兵戦闘車だと思います。車体前部が鋭い楔形で、車体後部の乗降ハッチに膨らみがあるので、間違いないでしょう。この特徴的な形状は、ロシア系だけですからね。
この装甲車はいろいろな国で作っていたので、どんな兵装なのかはわかりませんが、ディーノさんによれば大きな砲塔があったということなので、砲装車であることは間違いないでしょう。
我々の武装が他よりも強力だとする、根拠はもともとありませが、特に希薄になったと考えるべきでしょう」
由加とベルタが深刻な顔をしている。その様子に、子供たちが動揺する。
ベルタが「ディーノさんは、ここにある以外の六輪や八輪の装甲兵員輸送車を見ているそうなので、それを回収装備している〝誰か〟がいるということね」と言い、由加が「未知の戦闘車がある可能性も考えないと」と応じた。
金沢が「サラディンの修理は必須ですよ。そのシェプニノに行ってもいいですか?」と提案し、了承された。
シェプニノへの第二次遠征は、ウィルを隊長に、金沢、イサイアス、能美、ベルタ、テュール、ハミルカルで編成された。使用する車輌は、XA‐180六輪装甲兵員輸送車。
燃料が少なくなっていて、複数の車輌を動かすことは躊躇われるようになっている。
片倉は、大がかりな河川改修工事を計画している。
マルヌ川は、ルミリー湖の南で東から流れてくるチレン川と合流する。チレン川はエスコー川の支流で、マルヌ川と合流の後はチレン川となる。
マルヌ川と合流後のチレン川は北から南に流れ、五キロほど南でエスコー川と合流する。
本来ならば、エスコー川とマルヌ川・チレン川に囲まれた一帯は、ドラキュロに対して安全な土地だ。
しかし、チレン川とマルヌ川の合流部上流付近は川幅は広いが水深が浅く、もっとも浅い地点では晴れが続くと三〇センチほどしかない。
これでは、ドラキュロが渡れてしまう。
結果、ドラキュロの侵入を防ぎ切れていないし、ルミリー湖の南側では犠牲者も出ている。
片倉は、チレン川とマルヌ川の古い合流経路を掘削してバイパス流路を造り、川の水をバイパスに導いて、流路を変更。その間に河床を掘り下げ、ドラキュロの渡河を阻止する、という計画を立てた。
その工事で最大の問題は、ルミリー湖の湧水をマルヌ川に流せなくなることだが、エスコー川への流路を掘削して解決する。そしてマルヌ川への水路は閉鎖する。
また、バイパス流路をマルヌ川の主流とし、旧流路は農業用水路として、戦時には防衛線として、また水害の発生が危惧される場合は放水路として運用する。
この案はルミリー湖以南の住民が大賛成で、耕地の拡大などにも展望が開けるものだった。
片倉の計画は大規模で、かつ水量の少ない季節しか実施できないものだったため、今秋以降の開始が予定されている。
この時期なら、水量が少なく、農閑期でもあるので、地域住民の協力が仰げる。
だが、着手できる工事は始まっており、そのための人員も割かれている。
片倉は、本気でここに定住するつもりなのだ。
俺と由加は、まだ迷っている。
斉木の燃料製造工場は、シェプニノが上面が広くて浅い容量二〇〇リットルの藻の培養タンクを作ってくれるというので、その設計に入っている。
シェプニノからは、培養タンクの代金を暖房用燃料で要求されている。
斉木は、この世界の汎用燃料缶一〇〇個を調達し、それを使って臨時の培養タンクとした。
藻の増殖は凄まじく、一〇日ほどで培養タンクから脱水機に移され、脱水した藻を圧搾して水混じりの油を採取できる。
その量は、重量換算で菜種の数十倍にも及ぶ。
一方、ヒマワリや菜種の栽培も続けていた。もちろん、イモも栽培している。
なんと、ヒマワリの種を焙煎し、原料とする蒸留酒をアンティが作り始めた。製法は斉木由来らしい。
アンティの酒のラベルには、堂々と〝密造酒〟と表記されている。これがまた猥雑な感じがして、この世界の呑兵衛に受けるらしい。この宣伝手法も斉木の発案だ。
ラベルは、アグスティナがデザインした。彼女は徐々にだが、元気になっている。
娘のフローリカは同年齢の子たちと仲がよく、この世界の言葉を覚え始めている。
菜種は食用油の生産用だ。
今年の収穫は、黒魔族の侵攻によって耕地が荒らされ、とても少ない。
それでも、頑張るしかない。
片倉主導の大土木工事、ミニショベル、小型ホイールローダー、二トンダンプ、そして人力でできる最大限の大事業が終わろうとしていた一一月の終わりには、誰もがここからは簡単に移動できないと感じ始めていた。
それは、俺と由加も同じだが、俺たちはこの土地にしがみついてはいなかった。
斉木の藻の培養施設が本格的に稼働し、金沢がサラディンの修理をあきらめ、アンティの〝密造酒〟第二工場が稼働すると、山荘は少しだけ落ち着きを見せ始める。
結局、サラディンは修理できず、シェプニノにトランスミッションを預けたままになってしまった。
サラディンの代替として、全装軌車一輌を購入し、これにサラディンの砲塔を載せている。臨時の処置だ。
車体の最大装甲厚は三〇ミリ、砲塔にも増加装甲を施して、軽戦車に生まれ変わった。
この戦車は、最前部に操向装置、その直後に横置きでエンジンを配した前輪駆動で、車体のデザインは第二次世界大戦後にドイツが開発したクルツPSz11‐2装甲偵察車によく似ている。砲塔は車体最後部にある。
単純な平面構成の車体で、車体前部は鋭角な楔形をしている。
車体デザインは金沢が、基本設計はウィルが行った。
車体長四・五メートル、車体幅二・四メートル、自重九・五トン。車体はすべて溶接のモノコック構造。エンジンは、サラディンに積まれていたものを流用した。
この戦車は、イスラム王朝の王からハーキムと名付けた。
プリュール全体としては、移民が増えている。ドラゴンの攻撃によって、壊滅的な被害を被り、一層宗教の戒律を重視するようになったディジョンからの移住者が過半に達する。そして、農民よりも都市住民が多い。
ドラゴンによってヴェンツェルが壊滅し、この街に人は住まない。
ヴェンツェルの生き残りは、直近のいきさつからプリュールには移らずこの地を離れた。
我々とヴァリオの政権との話し合いは定期的に続いているが、あまりいい状態ではない。ヴァリオの政権は脆弱で、いまやマルヌ川河畔の小集落複数を統治しているに過ぎないのだ。
豊かになりつつあるルミリー湖以南の村々は、村と村を結ぶ連絡機構、初歩的な連邦政府の樹立を要望している。ヴァリオ政権を正当な政府とは認めていないのだ。
連邦政府ならば、我々にも異存はない。我々の自由を一定程度守れるし、同時に近隣村々との連携も期待できる。
だが、ヴァリオ政権はそれを容認しなかった。
我々には、プリュールを虐げてきた旧ヴェンツェル住民の最後のあがきのように感じられた。
そして、我々は中央高地のヒトの街クフラックへの偵察を実施することに決した。
同族ながら我々とは異なる〝歴史〟と〝伝統〟に依拠する民族との邂逅だ。
ギボンやシェプニノ、そしてルミリー湖北岸を訪れる商人たちからクフラックについての情報を集めたが、好意的な話しは一切なかった。
異教徒と異民族は理由を問わずに奴隷にするとか、街中での公開処刑は当たり前とか、奴隷同士をどちらかが死ぬまで戦わせる見世物があるとか、敵を殺すと首狩りをするとか、古代ならばありそうな事柄が噂になっている。
しかし、クフラックに行ったことがある人物からの一次情報は皆無で、「そういうことがあると聞いた」という噂以上のものではない。
はっきりしていることは、言葉が通じないこと。ルサリィも〝蛮族〟の言葉は解さない。
しかし、クフラック行きは、ある出来事から一時中止となった。
ヴェンツェルの北方上空をヘリコプターが通過したのだ。
偶然目撃したのは、ちーちゃん、マーニ、ヘーゼル、ミシュリン、ユーリア、フローリカ、アビーなど。
距離があり爆音は聞こえなかったようだが、確かに機影を見たそうだ。
遠すぎて、機種等は不明だが、モンブラン山の方向に飛んでいった。
山荘は一気に警戒態勢となり、遠方への外出は当面禁止となった。
我々の主要兵器は四輌の戦車だ。FV101スコーピオン軽戦車、FV107シミター偵察戦闘車、M24チャーフィー改造軽戦車、そしてサラディンの主砲を流用したハーキム軽戦車だ。
チャーフィーは無茶な改造を受けていて、機械的な信頼性に欠ける。明らかなテールヘビーで、車体の重量バランスも悪い。ハーキムは一〇トン弱の車体を一五〇馬力に満たないエンジンで動かすため、最大時速が三〇キロに達しない。エンジンはトランスミッションとの関係で、ディチューンしている。
この二輌は、山荘周辺で移動砲台として使う。
結局は、スコーピオンとシミターが頼りになるのだが、この二輌は車体がアルミ合金装甲なので防御力に劣る。
由加とベルタは防衛線を引き、山荘に住む五〇人の安全を何とか守ろうと腐心している。
クフラックがエスコー川上流のヒトの村を襲い、多数の住民を連れ去ったとの情報が入る。
我々は、正直に驚いていた。精霊族や鬼神族がヒトの村を襲ったという事例は聞いていないし、ヒトがヒトの村を襲っても、それは盗賊や粗暴な連中の仕業だ。
ヒトの街が、その街の正規軍を使って、他の住地を襲うなど、初めてのことだった。
だが、黒魔族や白魔族と並んで、ヒトの街や村を襲うのは〝蛮族〟なのだそうだ。
我々がクフラックに赴くより早く、クフラックの軍勢がプリュールに現れる可能性が出てきた。
山荘はさらに緊張していく。
ヴェンツェル上空を通過したヘリコプターは、クフラックと関係があるのかもしれない、という推測を金沢がし始める。
金沢は、より多くの車輌と武器を求めて、再度、北方低層平原に行くべきだと考えている。
しかし、この意見に賛成するものは少ない。実際、前回は収穫がなかった。
そして、いまは真冬。全装軌車であっても峠を越えられない。
藻を原料とするバイオ燃料の生産は軌道に乗り始めている。
食料は、飢えない程度には確保している。
誰もがこのまま冬を乗り切りたかった。
冬になっても、ヒトと精霊族の商人は、頻繁に訪れる。
そして、予想外の商品が人気を博していた。
採油した後の藻、つまり絞りカスだ。
採油しても微量な油分が残る。この絞りカスを、断面が一辺五センチの正方形、長さ三〇センチの棒状に圧縮成形して乾燥させると、薪代わりになる。
火付きがよく、火力が強く、煙が少なく、そして少しの灰しか残さない。欠点は、比較的燃焼時間が短いこと。
周辺の村々の暖炉用に作っているのだが、これが人気でよく売れた。周辺の村には無料で配っていたのだが、当然、商人には売った。比較的値が低いこともあり、ついには鬼神族の商人まで現れた。
この厄介な副産物は、我々が鬼神族と本格的に接触する、最初の契機となった。
鬼神族は暖房だけでなく、調理にも使うそうだ。
彼らはバイオ燃料には無関心で、もっぱらこの薪が目当てだ。
精霊族と鬼神族は、かなりの遠隔地まで、この副産物を流通させている。
来訪者が増えると、情報も増える。
クフラックと黒魔族が戦闘し、クフラックが勝利した。
しかし、クフラックが勝利した理由がよくわからない。弓、弩、投石機、槍、剣と短剣が主要武器のクフラックが、同様の武器に加えて、銃器、牽引砲、戦車、そしてドラゴンまでいる黒魔族と戦っては、とても勝てるとは思えない。
黒魔族の作戦が稚拙だったのか、それともクフラック側に〝秘密兵器〟でもあるのか。
プリュールとその周辺の人々は、北の伯爵の脅威から解放されたばかりなのに、クフラックの攻撃を危惧しなければならなかった。
クフラックについては、無軌道な行動から、精霊族も警戒している。これに呼応するようにシェプニノが精霊族向けの新型戦車を製造し始めた。
俺のクフラックに行ってみよう、という気持ちに変化はなかった。
しかし、この地に長く住む誰もが、そして精霊族も「やめろ」「危険だ」と言う。
そして、俺はウジウジと逡巡し続けた。逡巡し続けた結果、戦力を分断されなかった。幸運だった。
クフラックは年が明けると、エスコー川西岸のヒトが住む地域を攻撃し始める。五〇人、八〇人といった小規模の集落を襲い、老人、怪我人、病人は殺され、その他は連れ去られる。
食料はすべて奪われ、逃げ延びた人々は途方に暮れた。
我々もそういった集落に何とか援助しようとしたが、彼らが望むことは敵討ちだった。親を連れ去られた子供は多く、その子たちを放っておくことは、我々にはできなかった。
結果、保護することになるのだが、これ以上保護すべき子供が増えることは、好ましいことではない。
そういった事情もあって、由加とベルタが積極的な攻勢に出ることを主張し初め、片倉や能美、ミランダやライマを中心に賛同が広がる。
そして、クフラックの軍勢が、我々の住地のエスコー川対岸に侵入するのを待った。
エスコー川西岸上流部の小集落は、一時的に東岸に逃れようと浮き足立っている。
この付近で、エスコー川を渡るには、ヴェンツェルに架かる橋しかない。しかし、この橋は黒魔族が撤退する際に、我々の追撃を阻止するため一部を破壊した。
残る渡河方法は、小舟と木造の艀だけだ。
この木造の艀だが、かなり大きい。全長一五メートル、全幅四メートル、排水量は三〇トン強だろうか。船首に渡し板(歩板)があり、車輌ごと積み込める。
そして、希望の場所にビーチングして渡しててくれる。旧日本軍の大発動艇やアメリカ軍のLCVPのような上陸用舟艇とほぼ同じ機構を有している。
この船は二艇確認しているのだが、我々は渡河を依頼したことはなかった。お客は、ヒトよりも精霊族や鬼神族が多いらしい。
避難者は西岸に車輌を残置すれば、クフラックに破壊される。
それを避けるには艀を利用するしかないのだが、その費用は高額。
そこで、急造の筏を作って渡るのだが、事故が起こることもしばしば。
一方、どう考えても正規料金を払ってはいないだろう、ヒツジやウシを艀は運んでいる。子供たちが無料で乗るところも確認しているし、東岸に避難する馬車を運ぶ様子も見ている。
そして、対岸への移動を懇願する避難民に対して、無碍に断る様子を何度も見ていた。
その艀がルミリー湖の桟橋にやって来た。
最初に接触したのはトゥーレで、彼らはこの世界の言葉は流暢ではなかった。
ただ、来訪の意図はわかった。艀に積んできたトラックを修理してもらいたいらしい。
トゥーレは車輌整備工場に走った。
金沢とウィルが桟橋にやって来たとき、そこにはちーちゃんやマーニなど何人もの子供たちが桟橋にいて、この上陸用舟艇型艀を見物している。
艀には三人の男が乗っていた。三人とも大柄で、金髪・碧眼。この世界で世代を重ねた人々ではない。
主に一人が話すのだが、この世界の言葉と英語のどちらも片言。
ブレーキの故障で、修理の依頼にやって来たようだ。トラックは、マウルティアM30/FUMO多目的四輪駆動作業車だ。
ディーノが手伝いにやって来たが、三人はディーノを知らないようで、ディーノも三人とは面識がない素振りだ。
FUMOをムンゴ装甲トラックで牽引しようとすると、三人はムンゴを指差して何かを言い合っている。
この三人は、ムンゴと言うクルマを知っているのだ。
金沢が「一週間後に来てくれ」と言うと、クラウスと名乗った男は了解した。
その夜、クラウスという男の素性が話題になった。
この世界で世代を重ねた人ではないし、FUMOは二〇年、三〇年と使い込んだクルマではない。
ウィルの見立てでは、製造から一〇年程度。
とするならば、一〇年前以内に二〇〇万年後にやって来た移住者ということになる。
生計は、艀の運航で得ているのだろう。しかし、それにしてはこの世界の言葉の習得が出来ていない。
長期間、同時に移住した人々だけの隠れ里のような場所にいて、最近、この付近に移ってきたのか?
それとも、最近の移住者なのだろうか?
だが、艀は、何年も使い込んでいる様子があるし、艀をこの世界に持ち込んだとも思えない。この世界で艀を建造したのだろうし、船体前部に上陸用舟艇のような大型のランプドアを付けるという発想は、そういったことに詳しい人物でなければ思いつかないだろう。
何をどう予想しても何もわからないし、金沢が指定した一週間後を待つことにした。
金沢は、物資、機材、燃料、車輌を集積するならば、容易に移動できなくなることは当然だと考えている。
斉木は、定住するならば、作物を生産し、安定的な食糧供給は不可欠だと考えていた。
だから、三人はルミリー湖北岸一帯を拠点とすることに賛成している。
ここは、安全な土地だ。
いまのところは……。
一方、相馬、由加、ベルタは、ヒト、精霊族、鬼神族、白魔族、黒魔族といった、文明らしきものを持つ直立二足歩行する五種類の生物が併存するこの世界を、流動的だと考えている。そして、ドラキュロの存在。
定住を決定することは、そのこと自体が弱体化の引き金になるとも考えているようだ。
ここは、安全だと確信できない。
現状では……。
金吾とディーノは、ジブラルタルの存在を重要視している。彼らの内懐に入ることが、安全への近道と判断しているようにも感じる。
既存の勢力に依存することも選択肢ではある。
しかし、相手が我々を受け入れるとは限らない……。
いまや五〇人もいるのだ、思惑は個々人それぞれに異なる。情報の濃淡も違うし、個々の同じ情報に対する判断も違う。
だが、燃料の必要性だけは、完全に一致している。
一定量の燃料を製造しようとするならば、相当期間、この地に留まらなくてはならない。
この現実も共有されている。
ただ、全員が一丸となって行動しよう、という考えは薄れつつある、ように感じることがある。
このグループの分裂は、視野に入れるべきだ。
能美たちはギボンで、中央高地の東方にあるヒトの街クフラックの情報を仕入れてきた。
能美は条件付き定住派だ。彼女は、ヒトの街クフラックを早急に調査すべきだと主張している。
クフラックは人口五〇〇〇に達する大きな街らしい。だが、ヒトのルーツを完全に忘れており、この土地に根ざした人々が作った小王国の首都のようだ。
また、かつてのビスケー湾方面には、ヒトの〝大帝国〟が存在するという噂がある。クフラックは、この大帝国の飛び地で属領なのだという不確かな情報もある。
この大帝国の指導層から民衆まで、この世界・時代に至った理由・事情はまったく知らない。
我々以前にこの世界にやって来て、その際の情報を記憶している人々は、これを失った人々を〝蛮族〟と呼んでいる。
一般に〝蛮族〟と呼ばれる人々は、いったん文明・文化を失っていた。言葉が違うし、文字は精霊族や鬼神族のものに似ている。明らかに、彼らからの影響だろう。
金吾とディーノは無線を発信し、それに応答する人がいないかを調べている。
精霊族、鬼神族、白魔族、黒魔族は、意味のある信号としての電波を発信しないし、送受信設備を持たない。
無線に応答があれば、それはヒトだ。
しかし、長らく、ジブラルタル以外からの応答はなかった。
だが、ついに応答があった。
しかも、南西に直線で五〇キロほどの距離にあるヒトの村からだ。
その村シェプニノで、車輌の製造・販売を営むサロモンという男が、音声通信に答えてくれた。
この村には、金吾、ディーノ、ルサリィ、イサイアスが向かった。
シェプニノは、湿地に囲まれた小高い丘にある人口五〇〇ほどの村だ。ヒトの村としては規模が大きく、村の経済はサロモンが営む自動車工場に依存している。
自動車工場とは言っても、月産五台ほどの製造能力しかなく、製造車種はキャブオーバーの全装軌の一種しかない。ただ、ボディタイプは、トラックとワゴンの二種がある。
シャーシは鋼板製の舟形で、オーダーがあれば戦車も作るそうだ。
この世界の車輌は、いままで見てきた限りではリーフスプリング(板バネ)のサスペンションを使っていた。
だが、サロモンの会社シェプニノ自動車製造では、コイルスプリング(巻バネ)を使っている。形式としては、ホルストマン式という二輪連動懸架方式だ。イギリスのユニバーサル・キャリアやセンチュリオン戦車が採用していた形式と同じ。イスラエルのメルカバⅠ戦車も同形式だ。
サロモンによれば、路面に対する追従性に優れ、高速化が可能で、トーションバー・スプリング(棒バネ)のように車内スペースを占有せず、故障した場合は交換が容易なのだそうだ。
実際、整備された道路上で時速五〇から六〇キロも出せる。これは、他社製に比べて一・五倍から二倍になる。
山荘に帰着した金吾たちの報告は詳細であった。
シェプニノは、五〇年以上前に元世界からの移住者たちがゼロから開いた開拓地だ。
街の位置は、我々の地図上ならば、南から北に流れるロワール川の上流にあたる。ロワール川は、エスコー川(ソーヌ川・ローヌ川)の西にあり、川筋は平行している。
街の周囲は、精霊族の領域だ。
周囲が湖沼と湿地に囲まれていることからドラキュロの侵入を防ぐことができ、湖沼・湿地帯の外側は深い森が広がるので、開拓初期においてはヒトは容易に近付けなかった。
開拓初期の不安定な時代、ドラキュロの攻撃とヒトの略奪にあうことなく生き残りができたそうだ。
農耕に不適な土地なので、移住者の多くが技術者だったこともあり、精霊族や鬼神族向けの車輌を製造して経済を維持している。
ヒトを避けたのは、略奪を恐れたからだ。
村の指導部は移住二世と三世に代替わりしているが、一世も多数が存命だ。
夜の全体会議は、ちょっとした興奮に包まれていた。
由加や能美たちは「何とか連携できないか」と主張し、子供たちは「美しい小さな村に行きたい!」と騒ぎ、金沢は「サラディンの修理ができるかも」と念仏のように何度も同じ言葉を繰り返す。
アンティは、「次は俺も一緒に行く」と言った。もちろん、例の酒を持っていくつもりだ。
ミランダは、「そんな村があるなんて」と驚いている。
金吾は、「敵対的な感じはしませんでした。昔は隠れ里のような状態だったらしいですが、村には精霊族が滞在していました。宿屋もあります」と報告。
ディーノが「いやぁ、オーストリアのハルシュタットのようなきれいな村だったよ」と言うと、ちーちゃんが「お友達できるかな?」と反応する。
イサイアスは、「村人からやたらと〝種から燃料を作る人々か?〟と尋ねられたから、車輌や暖房用の燃料に強い興味があるようだ」と言う。
ミランダとともにやって来たオクタビアが「その村には住めないの?」と尋ねたが、金吾とディーノが「無理だね」とほぼ同時に答える。
土地が狭すぎる。そして、ディーノによれば、「当然だが、彼らには一定の用心深さがある」とのことだ。
それがなければ生き残ってこれなかったはずだ。
ただ、商取引を中心に、関わっていこうという意見には全員が同意した。
この全体会議には、もう一つ議題があった。それは、ギボンから手に入れたFV107シミター偵察戦闘車をディーノが見ていない、という事実だ。
つまり、このシミターはディーノたちが持ち込んだものではなく、他の〝誰か〟の持ち物であり、しかもあの鍋底から外部に持ち出されたのだ。
ディーノが見ていないと言うことは、ディーノの脱出後に、鍋底に誰かがやって来たわけだ。
それはそうだろう。我々も鍋底でFV101スコーピオン軽戦車を手に入れたのだから……。
我々のスコーピオンと新たに入手したシミターは、シャーシは同じだ。同時にこの世界にやって来た可能性があるし、本来の持ち主以外が鍋底から持ち出した可能性もある。
スコーピオンとシミターだが、同じ持ち主のものだった可能性はあるのだが、塗装がまったく異なる。スコーピオンは森林迷彩だが、シミターは砂漠迷彩だ。
どうも、別々にこの世界にやって来た可能性が高いように感じる。
また、ディーノがやって来る以前に、このシミターが鍋底に現れ、ディーノたちが訪れる前に誰かが回収したことも考えられる。
可能性ならば、いくつもある。
金沢が「スコーピオンとシミターがあるのであれば、スパルタン装甲兵員輸送車やストライカー戦車駆逐車もどこかに存在しているんじゃないか?」と可能性を提示した。
FV101系列の装甲車輌の存在は、この状況を鑑みれば否定できない。この系列は旧式装軌車でありながら、時速70キロを発揮できるから、二〇〇万年後を目指した人々が持ち込んだ可能性があるのだ。
金沢は「数年にわたって、鍋底から車輌を回収し続けたグループがいたのではないか」と予想し、「厄介な連中がいるかもしれない」と警告する。
実際、ディーノが見たという〝大きな戦車〟は発見できていない。発見できないのか、すでに移動しているのか、どちらなのか判断できなくなっている。
金沢は、ディーノから〝大きな戦車〟の形状や特徴を詳しく聞き取りしていた。
「ディーノさんにイラストを描いてもらったのですが、BMP‐1系列の歩兵戦闘車だと思います。車体前部が鋭い楔形で、車体後部の乗降ハッチに膨らみがあるので、間違いないでしょう。この特徴的な形状は、ロシア系だけですからね。
この装甲車はいろいろな国で作っていたので、どんな兵装なのかはわかりませんが、ディーノさんによれば大きな砲塔があったということなので、砲装車であることは間違いないでしょう。
我々の武装が他よりも強力だとする、根拠はもともとありませが、特に希薄になったと考えるべきでしょう」
由加とベルタが深刻な顔をしている。その様子に、子供たちが動揺する。
ベルタが「ディーノさんは、ここにある以外の六輪や八輪の装甲兵員輸送車を見ているそうなので、それを回収装備している〝誰か〟がいるということね」と言い、由加が「未知の戦闘車がある可能性も考えないと」と応じた。
金沢が「サラディンの修理は必須ですよ。そのシェプニノに行ってもいいですか?」と提案し、了承された。
シェプニノへの第二次遠征は、ウィルを隊長に、金沢、イサイアス、能美、ベルタ、テュール、ハミルカルで編成された。使用する車輌は、XA‐180六輪装甲兵員輸送車。
燃料が少なくなっていて、複数の車輌を動かすことは躊躇われるようになっている。
片倉は、大がかりな河川改修工事を計画している。
マルヌ川は、ルミリー湖の南で東から流れてくるチレン川と合流する。チレン川はエスコー川の支流で、マルヌ川と合流の後はチレン川となる。
マルヌ川と合流後のチレン川は北から南に流れ、五キロほど南でエスコー川と合流する。
本来ならば、エスコー川とマルヌ川・チレン川に囲まれた一帯は、ドラキュロに対して安全な土地だ。
しかし、チレン川とマルヌ川の合流部上流付近は川幅は広いが水深が浅く、もっとも浅い地点では晴れが続くと三〇センチほどしかない。
これでは、ドラキュロが渡れてしまう。
結果、ドラキュロの侵入を防ぎ切れていないし、ルミリー湖の南側では犠牲者も出ている。
片倉は、チレン川とマルヌ川の古い合流経路を掘削してバイパス流路を造り、川の水をバイパスに導いて、流路を変更。その間に河床を掘り下げ、ドラキュロの渡河を阻止する、という計画を立てた。
その工事で最大の問題は、ルミリー湖の湧水をマルヌ川に流せなくなることだが、エスコー川への流路を掘削して解決する。そしてマルヌ川への水路は閉鎖する。
また、バイパス流路をマルヌ川の主流とし、旧流路は農業用水路として、戦時には防衛線として、また水害の発生が危惧される場合は放水路として運用する。
この案はルミリー湖以南の住民が大賛成で、耕地の拡大などにも展望が開けるものだった。
片倉の計画は大規模で、かつ水量の少ない季節しか実施できないものだったため、今秋以降の開始が予定されている。
この時期なら、水量が少なく、農閑期でもあるので、地域住民の協力が仰げる。
だが、着手できる工事は始まっており、そのための人員も割かれている。
片倉は、本気でここに定住するつもりなのだ。
俺と由加は、まだ迷っている。
斉木の燃料製造工場は、シェプニノが上面が広くて浅い容量二〇〇リットルの藻の培養タンクを作ってくれるというので、その設計に入っている。
シェプニノからは、培養タンクの代金を暖房用燃料で要求されている。
斉木は、この世界の汎用燃料缶一〇〇個を調達し、それを使って臨時の培養タンクとした。
藻の増殖は凄まじく、一〇日ほどで培養タンクから脱水機に移され、脱水した藻を圧搾して水混じりの油を採取できる。
その量は、重量換算で菜種の数十倍にも及ぶ。
一方、ヒマワリや菜種の栽培も続けていた。もちろん、イモも栽培している。
なんと、ヒマワリの種を焙煎し、原料とする蒸留酒をアンティが作り始めた。製法は斉木由来らしい。
アンティの酒のラベルには、堂々と〝密造酒〟と表記されている。これがまた猥雑な感じがして、この世界の呑兵衛に受けるらしい。この宣伝手法も斉木の発案だ。
ラベルは、アグスティナがデザインした。彼女は徐々にだが、元気になっている。
娘のフローリカは同年齢の子たちと仲がよく、この世界の言葉を覚え始めている。
菜種は食用油の生産用だ。
今年の収穫は、黒魔族の侵攻によって耕地が荒らされ、とても少ない。
それでも、頑張るしかない。
片倉主導の大土木工事、ミニショベル、小型ホイールローダー、二トンダンプ、そして人力でできる最大限の大事業が終わろうとしていた一一月の終わりには、誰もがここからは簡単に移動できないと感じ始めていた。
それは、俺と由加も同じだが、俺たちはこの土地にしがみついてはいなかった。
斉木の藻の培養施設が本格的に稼働し、金沢がサラディンの修理をあきらめ、アンティの〝密造酒〟第二工場が稼働すると、山荘は少しだけ落ち着きを見せ始める。
結局、サラディンは修理できず、シェプニノにトランスミッションを預けたままになってしまった。
サラディンの代替として、全装軌車一輌を購入し、これにサラディンの砲塔を載せている。臨時の処置だ。
車体の最大装甲厚は三〇ミリ、砲塔にも増加装甲を施して、軽戦車に生まれ変わった。
この戦車は、最前部に操向装置、その直後に横置きでエンジンを配した前輪駆動で、車体のデザインは第二次世界大戦後にドイツが開発したクルツPSz11‐2装甲偵察車によく似ている。砲塔は車体最後部にある。
単純な平面構成の車体で、車体前部は鋭角な楔形をしている。
車体デザインは金沢が、基本設計はウィルが行った。
車体長四・五メートル、車体幅二・四メートル、自重九・五トン。車体はすべて溶接のモノコック構造。エンジンは、サラディンに積まれていたものを流用した。
この戦車は、イスラム王朝の王からハーキムと名付けた。
プリュール全体としては、移民が増えている。ドラゴンの攻撃によって、壊滅的な被害を被り、一層宗教の戒律を重視するようになったディジョンからの移住者が過半に達する。そして、農民よりも都市住民が多い。
ドラゴンによってヴェンツェルが壊滅し、この街に人は住まない。
ヴェンツェルの生き残りは、直近のいきさつからプリュールには移らずこの地を離れた。
我々とヴァリオの政権との話し合いは定期的に続いているが、あまりいい状態ではない。ヴァリオの政権は脆弱で、いまやマルヌ川河畔の小集落複数を統治しているに過ぎないのだ。
豊かになりつつあるルミリー湖以南の村々は、村と村を結ぶ連絡機構、初歩的な連邦政府の樹立を要望している。ヴァリオ政権を正当な政府とは認めていないのだ。
連邦政府ならば、我々にも異存はない。我々の自由を一定程度守れるし、同時に近隣村々との連携も期待できる。
だが、ヴァリオ政権はそれを容認しなかった。
我々には、プリュールを虐げてきた旧ヴェンツェル住民の最後のあがきのように感じられた。
そして、我々は中央高地のヒトの街クフラックへの偵察を実施することに決した。
同族ながら我々とは異なる〝歴史〟と〝伝統〟に依拠する民族との邂逅だ。
ギボンやシェプニノ、そしてルミリー湖北岸を訪れる商人たちからクフラックについての情報を集めたが、好意的な話しは一切なかった。
異教徒と異民族は理由を問わずに奴隷にするとか、街中での公開処刑は当たり前とか、奴隷同士をどちらかが死ぬまで戦わせる見世物があるとか、敵を殺すと首狩りをするとか、古代ならばありそうな事柄が噂になっている。
しかし、クフラックに行ったことがある人物からの一次情報は皆無で、「そういうことがあると聞いた」という噂以上のものではない。
はっきりしていることは、言葉が通じないこと。ルサリィも〝蛮族〟の言葉は解さない。
しかし、クフラック行きは、ある出来事から一時中止となった。
ヴェンツェルの北方上空をヘリコプターが通過したのだ。
偶然目撃したのは、ちーちゃん、マーニ、ヘーゼル、ミシュリン、ユーリア、フローリカ、アビーなど。
距離があり爆音は聞こえなかったようだが、確かに機影を見たそうだ。
遠すぎて、機種等は不明だが、モンブラン山の方向に飛んでいった。
山荘は一気に警戒態勢となり、遠方への外出は当面禁止となった。
我々の主要兵器は四輌の戦車だ。FV101スコーピオン軽戦車、FV107シミター偵察戦闘車、M24チャーフィー改造軽戦車、そしてサラディンの主砲を流用したハーキム軽戦車だ。
チャーフィーは無茶な改造を受けていて、機械的な信頼性に欠ける。明らかなテールヘビーで、車体の重量バランスも悪い。ハーキムは一〇トン弱の車体を一五〇馬力に満たないエンジンで動かすため、最大時速が三〇キロに達しない。エンジンはトランスミッションとの関係で、ディチューンしている。
この二輌は、山荘周辺で移動砲台として使う。
結局は、スコーピオンとシミターが頼りになるのだが、この二輌は車体がアルミ合金装甲なので防御力に劣る。
由加とベルタは防衛線を引き、山荘に住む五〇人の安全を何とか守ろうと腐心している。
クフラックがエスコー川上流のヒトの村を襲い、多数の住民を連れ去ったとの情報が入る。
我々は、正直に驚いていた。精霊族や鬼神族がヒトの村を襲ったという事例は聞いていないし、ヒトがヒトの村を襲っても、それは盗賊や粗暴な連中の仕業だ。
ヒトの街が、その街の正規軍を使って、他の住地を襲うなど、初めてのことだった。
だが、黒魔族や白魔族と並んで、ヒトの街や村を襲うのは〝蛮族〟なのだそうだ。
我々がクフラックに赴くより早く、クフラックの軍勢がプリュールに現れる可能性が出てきた。
山荘はさらに緊張していく。
ヴェンツェル上空を通過したヘリコプターは、クフラックと関係があるのかもしれない、という推測を金沢がし始める。
金沢は、より多くの車輌と武器を求めて、再度、北方低層平原に行くべきだと考えている。
しかし、この意見に賛成するものは少ない。実際、前回は収穫がなかった。
そして、いまは真冬。全装軌車であっても峠を越えられない。
藻を原料とするバイオ燃料の生産は軌道に乗り始めている。
食料は、飢えない程度には確保している。
誰もがこのまま冬を乗り切りたかった。
冬になっても、ヒトと精霊族の商人は、頻繁に訪れる。
そして、予想外の商品が人気を博していた。
採油した後の藻、つまり絞りカスだ。
採油しても微量な油分が残る。この絞りカスを、断面が一辺五センチの正方形、長さ三〇センチの棒状に圧縮成形して乾燥させると、薪代わりになる。
火付きがよく、火力が強く、煙が少なく、そして少しの灰しか残さない。欠点は、比較的燃焼時間が短いこと。
周辺の村々の暖炉用に作っているのだが、これが人気でよく売れた。周辺の村には無料で配っていたのだが、当然、商人には売った。比較的値が低いこともあり、ついには鬼神族の商人まで現れた。
この厄介な副産物は、我々が鬼神族と本格的に接触する、最初の契機となった。
鬼神族は暖房だけでなく、調理にも使うそうだ。
彼らはバイオ燃料には無関心で、もっぱらこの薪が目当てだ。
精霊族と鬼神族は、かなりの遠隔地まで、この副産物を流通させている。
来訪者が増えると、情報も増える。
クフラックと黒魔族が戦闘し、クフラックが勝利した。
しかし、クフラックが勝利した理由がよくわからない。弓、弩、投石機、槍、剣と短剣が主要武器のクフラックが、同様の武器に加えて、銃器、牽引砲、戦車、そしてドラゴンまでいる黒魔族と戦っては、とても勝てるとは思えない。
黒魔族の作戦が稚拙だったのか、それともクフラック側に〝秘密兵器〟でもあるのか。
プリュールとその周辺の人々は、北の伯爵の脅威から解放されたばかりなのに、クフラックの攻撃を危惧しなければならなかった。
クフラックについては、無軌道な行動から、精霊族も警戒している。これに呼応するようにシェプニノが精霊族向けの新型戦車を製造し始めた。
俺のクフラックに行ってみよう、という気持ちに変化はなかった。
しかし、この地に長く住む誰もが、そして精霊族も「やめろ」「危険だ」と言う。
そして、俺はウジウジと逡巡し続けた。逡巡し続けた結果、戦力を分断されなかった。幸運だった。
クフラックは年が明けると、エスコー川西岸のヒトが住む地域を攻撃し始める。五〇人、八〇人といった小規模の集落を襲い、老人、怪我人、病人は殺され、その他は連れ去られる。
食料はすべて奪われ、逃げ延びた人々は途方に暮れた。
我々もそういった集落に何とか援助しようとしたが、彼らが望むことは敵討ちだった。親を連れ去られた子供は多く、その子たちを放っておくことは、我々にはできなかった。
結果、保護することになるのだが、これ以上保護すべき子供が増えることは、好ましいことではない。
そういった事情もあって、由加とベルタが積極的な攻勢に出ることを主張し初め、片倉や能美、ミランダやライマを中心に賛同が広がる。
そして、クフラックの軍勢が、我々の住地のエスコー川対岸に侵入するのを待った。
エスコー川西岸上流部の小集落は、一時的に東岸に逃れようと浮き足立っている。
この付近で、エスコー川を渡るには、ヴェンツェルに架かる橋しかない。しかし、この橋は黒魔族が撤退する際に、我々の追撃を阻止するため一部を破壊した。
残る渡河方法は、小舟と木造の艀だけだ。
この木造の艀だが、かなり大きい。全長一五メートル、全幅四メートル、排水量は三〇トン強だろうか。船首に渡し板(歩板)があり、車輌ごと積み込める。
そして、希望の場所にビーチングして渡しててくれる。旧日本軍の大発動艇やアメリカ軍のLCVPのような上陸用舟艇とほぼ同じ機構を有している。
この船は二艇確認しているのだが、我々は渡河を依頼したことはなかった。お客は、ヒトよりも精霊族や鬼神族が多いらしい。
避難者は西岸に車輌を残置すれば、クフラックに破壊される。
それを避けるには艀を利用するしかないのだが、その費用は高額。
そこで、急造の筏を作って渡るのだが、事故が起こることもしばしば。
一方、どう考えても正規料金を払ってはいないだろう、ヒツジやウシを艀は運んでいる。子供たちが無料で乗るところも確認しているし、東岸に避難する馬車を運ぶ様子も見ている。
そして、対岸への移動を懇願する避難民に対して、無碍に断る様子を何度も見ていた。
その艀がルミリー湖の桟橋にやって来た。
最初に接触したのはトゥーレで、彼らはこの世界の言葉は流暢ではなかった。
ただ、来訪の意図はわかった。艀に積んできたトラックを修理してもらいたいらしい。
トゥーレは車輌整備工場に走った。
金沢とウィルが桟橋にやって来たとき、そこにはちーちゃんやマーニなど何人もの子供たちが桟橋にいて、この上陸用舟艇型艀を見物している。
艀には三人の男が乗っていた。三人とも大柄で、金髪・碧眼。この世界で世代を重ねた人々ではない。
主に一人が話すのだが、この世界の言葉と英語のどちらも片言。
ブレーキの故障で、修理の依頼にやって来たようだ。トラックは、マウルティアM30/FUMO多目的四輪駆動作業車だ。
ディーノが手伝いにやって来たが、三人はディーノを知らないようで、ディーノも三人とは面識がない素振りだ。
FUMOをムンゴ装甲トラックで牽引しようとすると、三人はムンゴを指差して何かを言い合っている。
この三人は、ムンゴと言うクルマを知っているのだ。
金沢が「一週間後に来てくれ」と言うと、クラウスと名乗った男は了解した。
その夜、クラウスという男の素性が話題になった。
この世界で世代を重ねた人ではないし、FUMOは二〇年、三〇年と使い込んだクルマではない。
ウィルの見立てでは、製造から一〇年程度。
とするならば、一〇年前以内に二〇〇万年後にやって来た移住者ということになる。
生計は、艀の運航で得ているのだろう。しかし、それにしてはこの世界の言葉の習得が出来ていない。
長期間、同時に移住した人々だけの隠れ里のような場所にいて、最近、この付近に移ってきたのか?
それとも、最近の移住者なのだろうか?
だが、艀は、何年も使い込んでいる様子があるし、艀をこの世界に持ち込んだとも思えない。この世界で艀を建造したのだろうし、船体前部に上陸用舟艇のような大型のランプドアを付けるという発想は、そういったことに詳しい人物でなければ思いつかないだろう。
何をどう予想しても何もわからないし、金沢が指定した一週間後を待つことにした。
20
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる