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第4章
第105話 救出作戦
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早朝、司令部のテントには、幕僚のすべてとイサイアス、納田優菜がいた。
司令官である城島由加はいない。
幕僚の1人がいう。
「マーニの所業はともかく、これで1日か1日半は持ちこたえられる」
別の幕僚が「英雄的行動なんだが……」といい、また別の幕僚が「そうではあっても……」と言葉を濁す。
幕僚は「饅頭山には、戦闘を仕切れる指揮官がいない。長くは持たない」と厳しい判断をする。
納田優菜はそうは思っていない。指揮官は医師、指揮官の補佐は天文学者。それでも全員が戦闘訓練を受けている。
ドラキュロとの実戦経験は豊富。白魔族が相手でも、持ちこたえられるはずだ。
だが、数字は冷酷。AK-47自動小銃とRPK軽機関銃の発射速度は、1分間に600発。
13人に1万発が補給されたとしても、1人あたり800発にもならない。撃ち続けたら、1分18秒で弾切れだ。
白魔族の出方次第だが、そう長く持ちこたえられないことは明白。
城島由加が司令部テントに入る。
当直担当が宣する。
「司令官入室」
全員が城島由加を見る。
彼女が微笑む。自然な微笑みで、この恐ろしい事態にあって、しかも当事者の1人が彼女の養子〈やしないご〉であるにもかかわらず、一切の感情を表に出さない心の強さに全員が、呆れと、恐れと、不審と、安堵を同時に感じる。
城島由加がおどけて問う。
「この状況、うちのバカ亭主なら、どうするかしら」
イサイアスが答える。この問いに答えられるのは、彼だけだからだ。
「親父なら、自分で助けに行く。
そして、助け出してくる……。
必ず……」
城島由加が冷たい微笑みをイサイアスに向ける。
「救出に向かった装甲部隊の現在位置は?」
幕僚の1人が答える。
「現在、目標まで100キロです」
城島由加が重ねて問う。
「落後した車輌は?」
同じ幕僚が即答する。
「ありません。
戦車4、装甲車4、牽引車4、全12輌が健在です。その他、物資輸送車も随伴しています」
城島由加が不気味な微笑みを返す。
「よろしい。
東進を継続するように」
司令部テントに王女の護衛シュリが入る。王女パウラが心配で、仕方ないのだ。
問いたいことはあるだろうが、言葉を発しない。テントに入ると同時に、城島由加の雰囲気に飲まれてしまった。
彼女の夫であるというノイリン王半田隼人は、シュリから見るととてもフレンドリーな人物だ。威圧感はないし、穏やかで、誰にでも等しく同じ態度で接する。
対して、ノイリン王の妻は、得もいえぬ威圧感がある。クマンのいかなる将軍よりも近寄りがたく、妖気のようなものを感じる。
大声1つ出さないのに……。
一瞬、この夫婦の夜の営みの有り様を想像してしまった。そして、慌てて頭のなかで作った映像をトラッシュする。
城島由加が作戦を話し始める。シュリにもわかるよう、ヴルマンの言葉に変えている。
「今回は、ノイリン王のやり方でいこうと思う。
私が現場で陣頭指揮を執る」
幕僚たちがざわつく。筆頭格の幕僚が問う。
「司令官閣下……。
どのようにして……」
司令官の声音が穏やかだ。
「半田ならば、戦車の砲塔に乗って、指揮すると思う。
だけど、私は彼ほど古風な発想はしない。
西地区のボナンザで上空から指揮を執る。
上空からならば戦場が一望できる。気象観測隊によれば、ここ数日は雨が降ることはない。
上空から指揮し、我々が戦場を掌握したのち、私は地上に降りる。
そして、後始末をする」
筆頭格の幕僚は納得できなかった。
「司令官閣下……。
飛行機では……、その……、滑走路はありません」
城島由加は幕僚たちの考えがよくわかった。娘の生命が心配で、気が動転しているのだと……。冷静を装っても、やはり女か、と。
「承知している。
パラシュートで降下する」
筆頭格の幕僚は、決して態度には出さないが少し呆れた。パラシュートとは、戦闘機や攻撃機のパイロットが、いよいよというときに決死の覚悟で使うものと、理解していたからだ。
「それは、生命知らずな……」
声音に混ざるわずかな侮蔑をイサイアスは感じた。そして一言。
「お袋さんは、ナラシノのクウテイにいたと聞いた」
納田優菜が肯定する。
「司令官は、習志野の空挺にいた、と私も聞いた。空挺にいたのなら、何度も空から飛び降いているはず……」
幕僚たちのざわめきが収まらない。シュリが問う。
「発言をお許しください。
クウテイとはどのような……」
納田優菜が答える。
「空から、地上を攻める歩兵のこと……、だと思う」
シュリが必死の目で訴える。
「私もお連れください」
城島由加が答える。
「訓練をしている時間がない。
それと、ボナンザからでは、水平尾翼で身体を打つ危険がある。
慣れていないと無理だ」
イサイアスが心配になる。
「でも、何十年も飛んでいないんでしょ」
城島由加は落ち着いていた。
「昨夜、自分で訓練した。
それに、身体が覚えている。
決して、忘れることはない」
筆頭格の幕僚は、出身であるフルギア系の仕草で敬意を表した。片膝を地に着けて、頭を垂れたのだ。
「司令官閣下のご命令に従います」
具体的な作戦を示したあと、城島由加が命じる。
「この作戦におけるバンジェル島の指揮は、イサイアスが執る」
この決定には、幕僚側に明らかな不満があった。
イサイアス自身が驚いたし、仲間割れを誘発するような稚拙な決定を城島由加がするとは思えない。
だが、下した。
一瞬の気まずい雰囲気のなかで、城島由加は次の命令を下す。
「各幕僚は、次の作戦の準備を始めてもらいたい」
テントのなかに緊張が走る。
城島由加が続ける。
「手長族の根拠地を叩く。
白魔族の存在がわかったいま、手長族に対する処置を悠長に検討している時間はなくなった。
陸海空の3方向から手長族を攻める。
空から王都を攻め、海から海岸線にある手長族の入植地を襲い、陸から150キロ侵攻し、敵主力を誘出して、これを叩く。
本作戦によって、バンジェル島対岸付近の安全を確実にする」
シュリは震えていた。
こんな大規模な作戦は、クマンでは考えられない。しかし、同時に幕僚たちにも不可能と思えた。
筆頭格の幕僚は、またもや疑心を感じる。
「司令官閣下、ですが……」
城島由加は落ち着いている。
「いいたいことはよくわかる。
本作戦は簡単ではない。
空からは、北地区とクフラックで攻める。
海からは、西地区とヴルマンが主力になる。
陸は、各地区とフルギアおよびクマンの方々で部隊を編制する。
空は、フィー・ニュン。
海は、ヴルマン・ゲマール領領主ベアーテ。
陸は、コーカレイ部隊総司令官ベルタが指揮する。
全軍の指揮は、私が執る」
筆頭幕僚は問いたい疑問、「それは可能なのですか?」を飲み込んだ。
愚問だからだ。
シュリの心臓は息苦しいほど拍動が増えていた。
王都の南で手長族に決戦を挑んで以来のヒトが企図する大作戦だ。クマンのために自分ができることは何か、それを考えていた。
城島由加が命じる。
「司令部の皆さんは、補給、物資の集積、部隊の移動など、具体的な計画を立案していただきたい。
それと、シュリさんには、グスタフのマルクスと連絡を取り、本作戦への参加を促してもらいたい」
シュリは思わず、右手を水平に前方に出すクマン式の敬礼をしてしまった。幕僚全員が敬礼している。
城島由加は、ゆっくりと敬礼を返した。
時間は半日遡る。
王女パウラの意識は覚醒していた。マルユッカが「大丈夫」と一言。ヴルマンが「ノイリンの兜でよかったな。フルギアの兜だったら、頭が潰れていたぞ」と。
王女パウラは、頭よりも背中が痛かった。その痛みに耐えて、起き上がる。
「私、どうなったの?」
マルユッカが説明する。
「石垣に榴弾が直撃したんだ。
だが、幸運にも弾頭は不発だった。
石が飛び散り、4人にあたった。
パウラが一番近くにいて、頭と背中に石があたったんだ。ヘルメットとボディアーマーがなかったら、重傷ではすまなかったかもしれない。
背中の痣は、しばらく残るかも」
王女パウラは礼をいった。
「隊長、先生、ありがとう」
日没までに4人の負傷者は、任務に復帰した。
全員、戦意は旺盛だ。今夜を乗り切り、明日の日中を乗り切り、その次の夜も乗り切る決意がある。
だが、それまでに何人が死ぬのか。何人が生き残るのか。
白魔族との戦いは、セロとのそれとは異なる。セロとの戦いは単なる殺し合い。白魔族とは、捕食者と獲物との駆け引きだ。捕食者に、襲ってはいけない獲物であることを教えなければならない。
セロは彼我の被害と戦果を比較、つまり損得勘定をしないが、白魔族は厳格に査定する。だから、戦術を予測しやすい面がある一方、損害の軽減を図るから厄介でもある。
半田千早がマルユッカに問う。
「隊長、白魔族はどうすると思う?」
マルユッカは明確な答えを持っていた。
「地雷原の除去に成功したのは、そう広い範囲じゃない。
通路は狭い。
狭い通路をどう使うかだが、結局は地雷原に開けた通路の延長線上を登ってくるしかない。
となると、北から登ってくることになる。山頂の西側に現れるだろう」
「どう戦う?」
「戦う、というよりはどうやって持ちこたえるかだ。
村人は、どうにもならない。どう説得しても、ここで死ぬ以外の選択肢は持っていない。
ならば、我々だけで後退するという行動もある。白魔族の戦力から判断すれば、この山を包囲はできないのだから……。
RPGを南の草原に何発か撃ち込んで、退路を確保しておく方法もある。いま撤退しなくても、事前にやっておいたほうがいいかもしれない。
しかし、いまやれば、退路を察知される。
得策じゃない。
山頂西側に敵戦車を誘引して、1輌ずつ叩く。山腹を登ってくる戦車も、この暗さなら射程まで近付ける。
だが、暗視装置を欠いているから、暗中の戦いになる。
戦い方はいろいろあるが、ここを離れない。誰も。ここに籠もって、救援を待つ。
私たちは白魔族と戦いに来たんじゃない。たまたま、白魔族と遭遇しただけだ。白魔族と戦うよりも、生きて帰ることを優先すべきだ」
半田千早は、マルユッカの判断は正しいと思った。そして、自分ならばどうするだろうと考えた。
彼女は、自分なら焦りから動いてしまう、と。マルユッカは胆〈きも〉が据わっている。
その彼女が、籠城に決した別の理由を語る。
「白魔族の戦車は、スピードが出ない。地雷原から脱出できれば、追撃を振り切れる。
だが、あの装甲車はどうだ。見かけは旧式だが、意外と俊足かもしれない。鈍足でも時速40キロか50キロは出せるだろう。
装甲トラックは万全じゃない。
もし、不利な状況で走行不能になったら、全滅だってあり得る。装甲トラックとバギーでは、真正面からの機甲戦、互いの装甲を砲で撃ち合う戦い方はできない。あんな戦車であってもね」
半田千早は心理的にじっとしていたくはなかったが、マルユッカの判断を聞き、その気持ちが急速に萎んでいくことを感じていた。
彼女たちの2輌の装甲は、小銃弾に耐抗できる程度の軽装甲なのだから、リベット打ちで作られたフレーム構造の旧式戦車が相手でも真正面からの機甲戦は挑めない。
日没後、マルユッカは、焚き火を含めて、一切の灯火を許可しなかった。また、物音も極力発しないように命じた。
マルユッカは、19時30分には隊員の半分に23時00分までの休息・睡眠を命じ、23時00分からは残り半分に3時間00分の睡眠を許可した。
ノイリンと西アフリカでは、2時間の時差がある。西アフリカに進出した西ユーラシアの人々は、この2時間の時差を調整していた。
3時という時間は、夜襲に最適だ。歩哨は眠気と戦い注意力が散漫となり、休んでいる隊員はその夜で一番深い眠りに落ちている。
3時から日の出までは、夜襲をもっとも警戒しなければならない時間帯だ。
だから、マルユッカは3時の起床を命じた。
マルユッカは、22時から1時まで仮眠をとった。不思議なほどよく眠れた。
半田千早、ミエリキ、王女パウラは、他の隊員とは異なり、3交代で仮眠をとる。
3時30分。
白魔族は、夜襲の準備を始める。エンジンを吹かすエクゾーストノート。履帯の作動音。白魔族特有の甲高い声。
ヒトからすれば夜襲とは奇襲であるのだが、白魔族はやたらとうるさい。ヒトではないのだから、理解しがたい面は多々あるが、夜襲を仕掛けるにあたって大騒ぎを始める理由は、理解に苦しむ。
黒魔族もそうだが、白魔族は、論理的な思考に弱さがある。情緒的・感情的ということではなく、行動や思考をするにあたって論理的な組み立てが苦手なのだ。
アクムスがマルユッカに意見具申。
「連中は夜襲の準備で夢中になっていますし、あれだけ灯火をともせば、どこに何があるのか一目瞭然。
ですが、この暗さ。
連中の準備が整う前に、こっちから攻撃を仕掛けてみませんか?」
マルユッカが問う。
「作戦は?」
アクムスが微笑む。
「RPGの扱いに慣れた隊員2と、護衛2で斜面を降りて接近するんです。
手近な戦車を狙って、1発撃って……、すぐに逃げ帰る……。
どうです?」
マルユッカが即断する。
「よし、やってみよう。
RPGの射手はチハヤと、あと誰がいい……」 装甲トラックのガンナーが志願する。
半田千早とミエリキは石垣を乗り越えて、なだらかな山の斜面を下る。顔に墨を塗り、身体を低くして、遮蔽物を探しながら進む。
白魔族はがさつな生き物で、相変わらず大きな音を立てている。金属を叩く音さえ聞こえてくる。
半田千早とミエリキは、東端の戦車を狙うことにしていた。やや西に向かったアクムスたちの姿が見えない。暗さは十分だということだ。
進んでいくと、倒木があった。カラカラに乾燥しており、倒れてから数年を経ていることは明らかだ。山を3分の2ほど降りた地点だ。
半田千早が伝える。
「もう少し、下る。
ミエリキは、ここで援護して」
ミエリキは頷き、RPK軽機関銃のバイポッド(2脚)を広げて地面に置き、倒木と地面の隙間から半田千早が進む方向に銃口を向けて構える。伏せ撃ちの姿勢だ。
半田千早は、匍匐でさらに50メートル進む。
事前の打ち合わせでは、距離のある射点に向かうアクムスが発射すると同時に、半田千早も撃つ予定だ。
草むらに腹ばいのまま、すぐ近くに白魔族がいる場所で、待つことは異常な緊張と恐怖を感じる。
その恐怖に負けると、ヒトは死に至る。だが、白魔族やセロが相手の場合、ドラキュロと比べたら数段マシ。ドラキュロに対する恐怖は、尋常なものではない。
西ユーラシアのヒトは、ドラキュロに囲まれて生きている。だから、どんな恐怖にも耐えられる。ドラキュロの恐怖に耐えられず、パニックを起こして動いてしまうヒトは、幼いうちに生命を落としている。
半田千早とミエリキは、彼女たち自身が異常に感じるほど落ち着いていた。彼女たちにとっての恐怖は、生存を保障するシグナルであった。恐怖を感じることは、生きている証拠であり、この先も生き続けられる証なのだ。
ノイリンに帰還した金沢壮一は、すでに終わった本業の後片付けをしていた。
かねてより、フルギア、フルギア系、ヴルマン、東方フルギア系、一部の北方人から、無理難題を課せられていたのだ。
前年の春、北方人の行商人一家がドラキュロのクラスター(複数の群の集合体)に襲われた。
この行商人一家は、ヒトがよく使う、精霊族や鬼神族にも普及していて、また黒魔族や白魔族までもが利用する1トン積みボンネットトラックタイプの半装軌車(ハーフトラック)で商旅行をしていた。
このハーフトラックは、運転席がドラキュロには破壊できない強化キャビンとなっていて、乗員には安全が図られている。
しかし、多人数で行動する場合、荷台にヒトが乗ることが多い。ヒトが乗る場合は、薄い鋼板で作られた強化シェルを被せることが多いが、徹底されているわけではない。
危険を覚悟で無蓋の荷台にヒトが乗ることは、珍しくない。
行商人一家は、重い強化シェルを嫌い、より多く荷を積めるよう、荷台には4本の幌骨に防水シートを被せていた。
積載量は1トンだが、過積載状態で、さらに1トン積みトレーラーを牽引していて、このトレーラーには1.5トンも積んでいた。
西ユーラシアの春は、泥濘との戦いだ。冬は地表下の水分が氷となるが、春になると気温の上昇とともに溶ける。地下1メートルまでが泥となる。
装輪車輌での移動はほぼ不可能で、それゆえ装輪車のように運転でき、装軌車のように悪路に強い、前輪がタイヤで後輪が履帯の半装軌車(ハーフトラック)が普及した。
このタイプの半装軌車は、前輪は駆動しない。後輪に相当する履帯だけで走行する。そのため、装軌車ほど悪路に強くない。
シャーシは、ヒト、精霊族、鬼神族、半龍族、白魔族、黒魔族のすべてで共通だが、ボディはいろいろ。白魔族や黒魔族が使うボディは、サイクルフェンダー付きの古風なスタイルだ。
行商人一家5人はドラキュロに追われ、逃げたが、過積載が災いして速度が出ず、追いつかれ、荷台に乗っていた両親と長兄はライフルで応戦。
通常はこれで逃げ切れるが、一家の半装軌車は泥でスタックし、立ち往生する。
両親と長兄は射耗し、給弾の余裕なくドラキュロの餌食になった。
強化キャビンの次兄と末子の娘は、この時点では生存していた。
2人を乗せた半装軌車は、ドラキュロに長時間包囲され、包囲されてから2日目の早朝、気温が下がりドラキュロの活動が不活性になった瞬間を見計らって、救援を求めに次兄はキャビンを出た。
その後は不明。さらに2日経過して、偶然通りかかったキャラバンに娘だけが救出される。
こんなことは、よくあることだ。数年前ならば、酒場の話題に一晩だけなって終わる。
だが、最近のヒトは悪あがきをする。従来からの半装軌車では、春の泥濘には対応できない。
そこで、フルギア、フルギア系、ヴルマン、東方フルギア系、一部の北方人の各代表は、金沢壮一に面会を求め、早急に「いかなる泥濘をも克服できるクルマを作れ」と強硬に要求してきた。
金沢壮一は、全装軌の装甲トラックを紹介して売り込みを図ったが、「高すぎる。値段は装甲トラックの3分の1だ!」と、詰め寄られた。
フルギアの高位シャーマンは、「ノイリンのカナザワには、車輪の精霊の守護がある」と喧伝していた。
この精霊の守護というやつは厄介で、精霊の守護を受けている以上、精霊に対して義務を負う。
そもそも、人工物である車輪に精霊が宿るはずはない。精霊は自然物に宿るもの。だが、例外もある。例えば、鋼。人工物であっても、プリミティブなものなら精霊は宿る。
だが、車輪の精霊なんてあり得ない。
が、……。
フルギアの高位シャーマンは、金沢壮一に車輪の精霊の守護を認めた。
彼がそれだけ、人々の暮らしに貢献しているということなのだが、フルギアからすれば精霊の守護を受けている以上、精霊に対する義務を負っていることになる。
だから、安全に旅ができる輸送車輌を彼に求めたのだ。義務を果たすべきだ、と……。
金沢壮一はこの要求を無視せず、200万年前の資料を総当たりした。
農業用トラクターの改造案、第二次世界大戦期にドイツ軍が東部戦線で使った全装軌式のシュタイアーRSOトラクター、アメリカ軍の砲兵トラクターであるM5高速牽引車、イギリス軍のブレンガンキャリアー、旧日本軍の九四式と九七式軽装甲車まで、いろいろと調べたが短期間で開発できる決定打はなかった。
金沢壮一は以前から古い入植地を訪れ、無人となった経緯やこの世界に持ち込まれた機材を丹念に調べている。
そのなかに、スウェーデン製のPbv.301という小型の装甲兵員輸送車があった。
Pbv.301は同国のヘグランド社が開発したのだが、車台自体は古い戦車を再生利用したものだった。
その“古い戦車”だが……。
相当な骨董品戦車なのだ。
1939年9月1日、ドイツはポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発する。
ドイツ軍が行った戦車など装甲車輌を基幹とする電撃戦は本来、対戦車戦を受け持つⅢ号戦車、歩兵を直協支援するⅣ号戦車が主力となるはずだった。
しかし、現実は、訓練用戦車のⅠ号戦車やⅡ号戦車まで動員し、それでも足りなかった。そこで、同年に解体され、チェコが併合されていたチェコスロバキア製の軽戦車LTvz.38(ドイツ軍名38(t))が実戦に投入される。
チェコスロバキア軍向けに150輌が発注されていたが、ドイツ軍向けとして完成し、ポーランド侵攻では100輌が参加している。
LTvz.38軽戦車はスウェーデンのスカニア社でも1942年からライセンス生産されていた。
Pbv.301は、このスカニア社製LTvz.38軽戦車(スウェーデン軍名Strv m/41)の下部車体を利用し、装甲兵員輸送車に改造したものだ。
全長4.66メートル、全幅2.33メートル、全高2.64メートル、重量11.7トン。
1960年から余剰保有となっていた220輌すべてが、Strv m/41からPbv.301に改造された。
150馬力のエンジンを搭載し、最高時速45キロで走行できた。
金沢壮一が見つけたPbv.301は、エンジンとトランスミッションが交換されており、この世界に来るための条件、時速60キロ以上での走行が可能だったのだろう。
金沢壮一がPbv.301を発見した時点で朽ちかけており、この車輌の再生は不可能な状態だった。
この実車と、戦後にチェコで製造され、スイス軍が装備した同系列の戦車駆逐車ヘッツァー(スイス軍名G13)の製造資料を基に、新造開発を始めた。
エンジンはこの世界で調達できる直列6気筒120馬力ガソリン、対ドラキュロ用に外板は5ミリの圧延鋼板、総重量7トン以内に収められた。
急務の用でもあったので、車体形状はそのまま。エンジンは車体前部左側、運転席はエンジンの隣の右側、運転席のその直後に全周監視塔がある。この監視塔は、元は20ミリ機関砲の砲架があった場所で、そのままの形状で全周監視が可能な銃塔を設けている。運転席右側車体側面にサイドウィンドウを、運転席側装甲ハッチを廃してフロントウィンドウを、後部兵員室だったキャビンには小さな窓を左右各2カ所に設置した。
車体の改造は、それだけだった。
転輪は片側4で、2輪ずつリーフスプリングで懸架されている。懸架方式は、一般的な後輪2軸のトラックと同じ。つまり、最も簡単なサスペンション形式だった。
これならば、ヒトの街ならばどこでも修理できる。
構造が簡単で整備性がいい。
こうして、ノイリン製の軽トラクターが作られた。
この軽トラクターの装甲を厚くし、20ミリ防弾ガラス部を倍の厚さに変え、装甲バイザーを取り付けた小型装甲兵員輸送車を、バリエーションとして作った。
装甲は、至近で発射された12.7ミリ機関銃弾に耐抗できる厚さがあった。小型だが、乗員2、兵員8のスペースがある。
この装甲兵員輸送車のセールスを始めると、セロと戦いにおいて拮抗した状況にある各街は、「装甲兵員輸送車なんていう中途半端な兵器ではなく、数を揃えられる激安の戦車を寄越せ」と要求する。
そして、再び戦車に戻った。
M24チャーフィーをギュッと小さくしたようなスタイルで、毎度お馴染みのFV101スコーピオンと同じ型式の砲塔を載せる。
スタイルはともかく、技術的には何ら特筆するところのない極めて旧式な軽戦車だが、どういうわけか軽快に動く。
構造が簡単で、エンジンは車輌用として広く普及していることから、安価だ。カンガブルやアシュカナン製戦車の2分の1の価格で販売できた。
ただ、兵装は顰蹙〈ひんしゅく〉を買った。当初、60口径47ミリ砲(砲身の長さ2820ミリ)を搭載したが、セロは装甲車輌を保有していないので、まったくの無駄と。
結局、初速が低いことから砲身命数が長く、価格も安い、35口径47ミリ砲(砲身の長さ1645ミリ)を採用した。
ノイリンが激安軽戦車を発売すると、カンガブルやシェプニノは大幅割引セールを始める。戦車の価格破壊、価格戦争が勃発したのだ。
戦車が安価となり、各街で戦車の数が揃い始めると、セロに対してヒトは押され負けしなくなった。小さな街も連携し、セロを攻め立てることも多くなる。
兵力の少ないヒトは、戦車の大量投入によってセロとの戦いを均衡に持ち込むことに成功し始めていた。
金沢壮一は、トラクター型の販売を諦めてはいなかった。装甲兵員輸送車型を再度改設計し、エンジンを車体前部中央へ移動し、腰高の車体を利用して、キャブオーバー化を図っている。
彼には、この最終段階が残っていた。
ノイリンは、この軽戦車と軽装甲兵員輸送車を装備しなかったが、売れ残りの初期生産型を西アフリカに送ってきた。
城島由加は「装軌の戦車と装甲兵員輸送車のすべてを救出に振り向けろ」と命じた。幕僚たちは、送られてきたばかりの、この小さな戦車と装甲兵員輸送車をも投入する。
正直、役に立たなさそうな小型装甲車輌なんて、惜しくはない。行程の途中で落後した場合は、車体を破壊して、乗員だけを回収するつもりだった。
軽兵員輸送車はヘグランド装甲車、戦車はスカニア軽戦車と名付けられていた。
揚陸直後の状況下で、行動可能なヘグランド装甲車とスカニア軽戦車は各2輌あり、司令部はこの4輌を燃料入りドラム缶を積んだトレーラーを牽引するトラクターとして使う算段をする。
ある意味、このシリーズの本来の使い方だ。実際、スカニア軽戦車の車体後部にはトレーラー用牽引フックが通常装備として取り付けられている。
ノイリンでは、売れ残りの武装牽引車としか見ていないのだ。
当初、イギリス製FV101スコーピオンに範を採った装甲戦闘車輌シリーズは、単に“新型”と呼ばれていたが、90ミリ低反動砲搭載の戦車はロンメル、装甲兵員輸送車型はジューコフと名付けられた。
ロンメルとは第二次世界大戦期のドイツアフリカ軍団司令官エルヴィン・ロンメルから、ジューコフは同時期の旧ソ連赤軍参謀総長/副国防人民委員ゲオルギー・ジューコフに由来する。両者とも機甲戦における希代の戦術家だ。
このシリーズがノイリンの主力であり、それ以外は“あるから使う”程度の存在だ。
ヘグランド装甲車とスカニア戦車は、元々民間車輌として作ったので、超信地旋回はできないが、操向が簡単なハンドル式操舵システム、外れやすい特性は否めないが、転輪を2重にしなくてもいいサイドガイド方式の履帯など、操作と構造の簡易化・軽量化を実現する評価できる点が多々あった。
それゆえ、作戦立案側とは異なり、現場の運用側は、低い評価ではない。
ヘグランド装甲車とスカニア戦車は、幕僚たちが密かに期待した行程途中での落後は起こさないどころか、重いロンメル主力戦車やジューコフ装甲戦闘車を差し置いて、悪路も路外もお構いなしに進み続ける。
行程の途中まで同行する予定の装輪式輸送車輌がスタックすれば牽引し、急坂があればウインチで引き上げ、浮航はできないが水深1.5メートルまでの渡渉能力があり、車体が小さいので小回りがきく、という抜群の高可用性を発揮する。
この2車種がなければ、予定通りの進行は不可能だった。
マルユッカ隊は、不思議な幸運に恵まれていた。
ヘグランド装甲車とスカニア軽戦車がなければ、作戦の遅延は避けられず、最悪中止となる可能性があった。
マルユッカ隊の救出など、到底不可能だったろう。
車輪の精霊の守護を、シャーマニズムによる迷信とは片付けられないのかもしれない。
司令官である城島由加はいない。
幕僚の1人がいう。
「マーニの所業はともかく、これで1日か1日半は持ちこたえられる」
別の幕僚が「英雄的行動なんだが……」といい、また別の幕僚が「そうではあっても……」と言葉を濁す。
幕僚は「饅頭山には、戦闘を仕切れる指揮官がいない。長くは持たない」と厳しい判断をする。
納田優菜はそうは思っていない。指揮官は医師、指揮官の補佐は天文学者。それでも全員が戦闘訓練を受けている。
ドラキュロとの実戦経験は豊富。白魔族が相手でも、持ちこたえられるはずだ。
だが、数字は冷酷。AK-47自動小銃とRPK軽機関銃の発射速度は、1分間に600発。
13人に1万発が補給されたとしても、1人あたり800発にもならない。撃ち続けたら、1分18秒で弾切れだ。
白魔族の出方次第だが、そう長く持ちこたえられないことは明白。
城島由加が司令部テントに入る。
当直担当が宣する。
「司令官入室」
全員が城島由加を見る。
彼女が微笑む。自然な微笑みで、この恐ろしい事態にあって、しかも当事者の1人が彼女の養子〈やしないご〉であるにもかかわらず、一切の感情を表に出さない心の強さに全員が、呆れと、恐れと、不審と、安堵を同時に感じる。
城島由加がおどけて問う。
「この状況、うちのバカ亭主なら、どうするかしら」
イサイアスが答える。この問いに答えられるのは、彼だけだからだ。
「親父なら、自分で助けに行く。
そして、助け出してくる……。
必ず……」
城島由加が冷たい微笑みをイサイアスに向ける。
「救出に向かった装甲部隊の現在位置は?」
幕僚の1人が答える。
「現在、目標まで100キロです」
城島由加が重ねて問う。
「落後した車輌は?」
同じ幕僚が即答する。
「ありません。
戦車4、装甲車4、牽引車4、全12輌が健在です。その他、物資輸送車も随伴しています」
城島由加が不気味な微笑みを返す。
「よろしい。
東進を継続するように」
司令部テントに王女の護衛シュリが入る。王女パウラが心配で、仕方ないのだ。
問いたいことはあるだろうが、言葉を発しない。テントに入ると同時に、城島由加の雰囲気に飲まれてしまった。
彼女の夫であるというノイリン王半田隼人は、シュリから見るととてもフレンドリーな人物だ。威圧感はないし、穏やかで、誰にでも等しく同じ態度で接する。
対して、ノイリン王の妻は、得もいえぬ威圧感がある。クマンのいかなる将軍よりも近寄りがたく、妖気のようなものを感じる。
大声1つ出さないのに……。
一瞬、この夫婦の夜の営みの有り様を想像してしまった。そして、慌てて頭のなかで作った映像をトラッシュする。
城島由加が作戦を話し始める。シュリにもわかるよう、ヴルマンの言葉に変えている。
「今回は、ノイリン王のやり方でいこうと思う。
私が現場で陣頭指揮を執る」
幕僚たちがざわつく。筆頭格の幕僚が問う。
「司令官閣下……。
どのようにして……」
司令官の声音が穏やかだ。
「半田ならば、戦車の砲塔に乗って、指揮すると思う。
だけど、私は彼ほど古風な発想はしない。
西地区のボナンザで上空から指揮を執る。
上空からならば戦場が一望できる。気象観測隊によれば、ここ数日は雨が降ることはない。
上空から指揮し、我々が戦場を掌握したのち、私は地上に降りる。
そして、後始末をする」
筆頭格の幕僚は納得できなかった。
「司令官閣下……。
飛行機では……、その……、滑走路はありません」
城島由加は幕僚たちの考えがよくわかった。娘の生命が心配で、気が動転しているのだと……。冷静を装っても、やはり女か、と。
「承知している。
パラシュートで降下する」
筆頭格の幕僚は、決して態度には出さないが少し呆れた。パラシュートとは、戦闘機や攻撃機のパイロットが、いよいよというときに決死の覚悟で使うものと、理解していたからだ。
「それは、生命知らずな……」
声音に混ざるわずかな侮蔑をイサイアスは感じた。そして一言。
「お袋さんは、ナラシノのクウテイにいたと聞いた」
納田優菜が肯定する。
「司令官は、習志野の空挺にいた、と私も聞いた。空挺にいたのなら、何度も空から飛び降いているはず……」
幕僚たちのざわめきが収まらない。シュリが問う。
「発言をお許しください。
クウテイとはどのような……」
納田優菜が答える。
「空から、地上を攻める歩兵のこと……、だと思う」
シュリが必死の目で訴える。
「私もお連れください」
城島由加が答える。
「訓練をしている時間がない。
それと、ボナンザからでは、水平尾翼で身体を打つ危険がある。
慣れていないと無理だ」
イサイアスが心配になる。
「でも、何十年も飛んでいないんでしょ」
城島由加は落ち着いていた。
「昨夜、自分で訓練した。
それに、身体が覚えている。
決して、忘れることはない」
筆頭格の幕僚は、出身であるフルギア系の仕草で敬意を表した。片膝を地に着けて、頭を垂れたのだ。
「司令官閣下のご命令に従います」
具体的な作戦を示したあと、城島由加が命じる。
「この作戦におけるバンジェル島の指揮は、イサイアスが執る」
この決定には、幕僚側に明らかな不満があった。
イサイアス自身が驚いたし、仲間割れを誘発するような稚拙な決定を城島由加がするとは思えない。
だが、下した。
一瞬の気まずい雰囲気のなかで、城島由加は次の命令を下す。
「各幕僚は、次の作戦の準備を始めてもらいたい」
テントのなかに緊張が走る。
城島由加が続ける。
「手長族の根拠地を叩く。
白魔族の存在がわかったいま、手長族に対する処置を悠長に検討している時間はなくなった。
陸海空の3方向から手長族を攻める。
空から王都を攻め、海から海岸線にある手長族の入植地を襲い、陸から150キロ侵攻し、敵主力を誘出して、これを叩く。
本作戦によって、バンジェル島対岸付近の安全を確実にする」
シュリは震えていた。
こんな大規模な作戦は、クマンでは考えられない。しかし、同時に幕僚たちにも不可能と思えた。
筆頭格の幕僚は、またもや疑心を感じる。
「司令官閣下、ですが……」
城島由加は落ち着いている。
「いいたいことはよくわかる。
本作戦は簡単ではない。
空からは、北地区とクフラックで攻める。
海からは、西地区とヴルマンが主力になる。
陸は、各地区とフルギアおよびクマンの方々で部隊を編制する。
空は、フィー・ニュン。
海は、ヴルマン・ゲマール領領主ベアーテ。
陸は、コーカレイ部隊総司令官ベルタが指揮する。
全軍の指揮は、私が執る」
筆頭幕僚は問いたい疑問、「それは可能なのですか?」を飲み込んだ。
愚問だからだ。
シュリの心臓は息苦しいほど拍動が増えていた。
王都の南で手長族に決戦を挑んで以来のヒトが企図する大作戦だ。クマンのために自分ができることは何か、それを考えていた。
城島由加が命じる。
「司令部の皆さんは、補給、物資の集積、部隊の移動など、具体的な計画を立案していただきたい。
それと、シュリさんには、グスタフのマルクスと連絡を取り、本作戦への参加を促してもらいたい」
シュリは思わず、右手を水平に前方に出すクマン式の敬礼をしてしまった。幕僚全員が敬礼している。
城島由加は、ゆっくりと敬礼を返した。
時間は半日遡る。
王女パウラの意識は覚醒していた。マルユッカが「大丈夫」と一言。ヴルマンが「ノイリンの兜でよかったな。フルギアの兜だったら、頭が潰れていたぞ」と。
王女パウラは、頭よりも背中が痛かった。その痛みに耐えて、起き上がる。
「私、どうなったの?」
マルユッカが説明する。
「石垣に榴弾が直撃したんだ。
だが、幸運にも弾頭は不発だった。
石が飛び散り、4人にあたった。
パウラが一番近くにいて、頭と背中に石があたったんだ。ヘルメットとボディアーマーがなかったら、重傷ではすまなかったかもしれない。
背中の痣は、しばらく残るかも」
王女パウラは礼をいった。
「隊長、先生、ありがとう」
日没までに4人の負傷者は、任務に復帰した。
全員、戦意は旺盛だ。今夜を乗り切り、明日の日中を乗り切り、その次の夜も乗り切る決意がある。
だが、それまでに何人が死ぬのか。何人が生き残るのか。
白魔族との戦いは、セロとのそれとは異なる。セロとの戦いは単なる殺し合い。白魔族とは、捕食者と獲物との駆け引きだ。捕食者に、襲ってはいけない獲物であることを教えなければならない。
セロは彼我の被害と戦果を比較、つまり損得勘定をしないが、白魔族は厳格に査定する。だから、戦術を予測しやすい面がある一方、損害の軽減を図るから厄介でもある。
半田千早がマルユッカに問う。
「隊長、白魔族はどうすると思う?」
マルユッカは明確な答えを持っていた。
「地雷原の除去に成功したのは、そう広い範囲じゃない。
通路は狭い。
狭い通路をどう使うかだが、結局は地雷原に開けた通路の延長線上を登ってくるしかない。
となると、北から登ってくることになる。山頂の西側に現れるだろう」
「どう戦う?」
「戦う、というよりはどうやって持ちこたえるかだ。
村人は、どうにもならない。どう説得しても、ここで死ぬ以外の選択肢は持っていない。
ならば、我々だけで後退するという行動もある。白魔族の戦力から判断すれば、この山を包囲はできないのだから……。
RPGを南の草原に何発か撃ち込んで、退路を確保しておく方法もある。いま撤退しなくても、事前にやっておいたほうがいいかもしれない。
しかし、いまやれば、退路を察知される。
得策じゃない。
山頂西側に敵戦車を誘引して、1輌ずつ叩く。山腹を登ってくる戦車も、この暗さなら射程まで近付ける。
だが、暗視装置を欠いているから、暗中の戦いになる。
戦い方はいろいろあるが、ここを離れない。誰も。ここに籠もって、救援を待つ。
私たちは白魔族と戦いに来たんじゃない。たまたま、白魔族と遭遇しただけだ。白魔族と戦うよりも、生きて帰ることを優先すべきだ」
半田千早は、マルユッカの判断は正しいと思った。そして、自分ならばどうするだろうと考えた。
彼女は、自分なら焦りから動いてしまう、と。マルユッカは胆〈きも〉が据わっている。
その彼女が、籠城に決した別の理由を語る。
「白魔族の戦車は、スピードが出ない。地雷原から脱出できれば、追撃を振り切れる。
だが、あの装甲車はどうだ。見かけは旧式だが、意外と俊足かもしれない。鈍足でも時速40キロか50キロは出せるだろう。
装甲トラックは万全じゃない。
もし、不利な状況で走行不能になったら、全滅だってあり得る。装甲トラックとバギーでは、真正面からの機甲戦、互いの装甲を砲で撃ち合う戦い方はできない。あんな戦車であってもね」
半田千早は心理的にじっとしていたくはなかったが、マルユッカの判断を聞き、その気持ちが急速に萎んでいくことを感じていた。
彼女たちの2輌の装甲は、小銃弾に耐抗できる程度の軽装甲なのだから、リベット打ちで作られたフレーム構造の旧式戦車が相手でも真正面からの機甲戦は挑めない。
日没後、マルユッカは、焚き火を含めて、一切の灯火を許可しなかった。また、物音も極力発しないように命じた。
マルユッカは、19時30分には隊員の半分に23時00分までの休息・睡眠を命じ、23時00分からは残り半分に3時間00分の睡眠を許可した。
ノイリンと西アフリカでは、2時間の時差がある。西アフリカに進出した西ユーラシアの人々は、この2時間の時差を調整していた。
3時という時間は、夜襲に最適だ。歩哨は眠気と戦い注意力が散漫となり、休んでいる隊員はその夜で一番深い眠りに落ちている。
3時から日の出までは、夜襲をもっとも警戒しなければならない時間帯だ。
だから、マルユッカは3時の起床を命じた。
マルユッカは、22時から1時まで仮眠をとった。不思議なほどよく眠れた。
半田千早、ミエリキ、王女パウラは、他の隊員とは異なり、3交代で仮眠をとる。
3時30分。
白魔族は、夜襲の準備を始める。エンジンを吹かすエクゾーストノート。履帯の作動音。白魔族特有の甲高い声。
ヒトからすれば夜襲とは奇襲であるのだが、白魔族はやたらとうるさい。ヒトではないのだから、理解しがたい面は多々あるが、夜襲を仕掛けるにあたって大騒ぎを始める理由は、理解に苦しむ。
黒魔族もそうだが、白魔族は、論理的な思考に弱さがある。情緒的・感情的ということではなく、行動や思考をするにあたって論理的な組み立てが苦手なのだ。
アクムスがマルユッカに意見具申。
「連中は夜襲の準備で夢中になっていますし、あれだけ灯火をともせば、どこに何があるのか一目瞭然。
ですが、この暗さ。
連中の準備が整う前に、こっちから攻撃を仕掛けてみませんか?」
マルユッカが問う。
「作戦は?」
アクムスが微笑む。
「RPGの扱いに慣れた隊員2と、護衛2で斜面を降りて接近するんです。
手近な戦車を狙って、1発撃って……、すぐに逃げ帰る……。
どうです?」
マルユッカが即断する。
「よし、やってみよう。
RPGの射手はチハヤと、あと誰がいい……」 装甲トラックのガンナーが志願する。
半田千早とミエリキは石垣を乗り越えて、なだらかな山の斜面を下る。顔に墨を塗り、身体を低くして、遮蔽物を探しながら進む。
白魔族はがさつな生き物で、相変わらず大きな音を立てている。金属を叩く音さえ聞こえてくる。
半田千早とミエリキは、東端の戦車を狙うことにしていた。やや西に向かったアクムスたちの姿が見えない。暗さは十分だということだ。
進んでいくと、倒木があった。カラカラに乾燥しており、倒れてから数年を経ていることは明らかだ。山を3分の2ほど降りた地点だ。
半田千早が伝える。
「もう少し、下る。
ミエリキは、ここで援護して」
ミエリキは頷き、RPK軽機関銃のバイポッド(2脚)を広げて地面に置き、倒木と地面の隙間から半田千早が進む方向に銃口を向けて構える。伏せ撃ちの姿勢だ。
半田千早は、匍匐でさらに50メートル進む。
事前の打ち合わせでは、距離のある射点に向かうアクムスが発射すると同時に、半田千早も撃つ予定だ。
草むらに腹ばいのまま、すぐ近くに白魔族がいる場所で、待つことは異常な緊張と恐怖を感じる。
その恐怖に負けると、ヒトは死に至る。だが、白魔族やセロが相手の場合、ドラキュロと比べたら数段マシ。ドラキュロに対する恐怖は、尋常なものではない。
西ユーラシアのヒトは、ドラキュロに囲まれて生きている。だから、どんな恐怖にも耐えられる。ドラキュロの恐怖に耐えられず、パニックを起こして動いてしまうヒトは、幼いうちに生命を落としている。
半田千早とミエリキは、彼女たち自身が異常に感じるほど落ち着いていた。彼女たちにとっての恐怖は、生存を保障するシグナルであった。恐怖を感じることは、生きている証拠であり、この先も生き続けられる証なのだ。
ノイリンに帰還した金沢壮一は、すでに終わった本業の後片付けをしていた。
かねてより、フルギア、フルギア系、ヴルマン、東方フルギア系、一部の北方人から、無理難題を課せられていたのだ。
前年の春、北方人の行商人一家がドラキュロのクラスター(複数の群の集合体)に襲われた。
この行商人一家は、ヒトがよく使う、精霊族や鬼神族にも普及していて、また黒魔族や白魔族までもが利用する1トン積みボンネットトラックタイプの半装軌車(ハーフトラック)で商旅行をしていた。
このハーフトラックは、運転席がドラキュロには破壊できない強化キャビンとなっていて、乗員には安全が図られている。
しかし、多人数で行動する場合、荷台にヒトが乗ることが多い。ヒトが乗る場合は、薄い鋼板で作られた強化シェルを被せることが多いが、徹底されているわけではない。
危険を覚悟で無蓋の荷台にヒトが乗ることは、珍しくない。
行商人一家は、重い強化シェルを嫌い、より多く荷を積めるよう、荷台には4本の幌骨に防水シートを被せていた。
積載量は1トンだが、過積載状態で、さらに1トン積みトレーラーを牽引していて、このトレーラーには1.5トンも積んでいた。
西ユーラシアの春は、泥濘との戦いだ。冬は地表下の水分が氷となるが、春になると気温の上昇とともに溶ける。地下1メートルまでが泥となる。
装輪車輌での移動はほぼ不可能で、それゆえ装輪車のように運転でき、装軌車のように悪路に強い、前輪がタイヤで後輪が履帯の半装軌車(ハーフトラック)が普及した。
このタイプの半装軌車は、前輪は駆動しない。後輪に相当する履帯だけで走行する。そのため、装軌車ほど悪路に強くない。
シャーシは、ヒト、精霊族、鬼神族、半龍族、白魔族、黒魔族のすべてで共通だが、ボディはいろいろ。白魔族や黒魔族が使うボディは、サイクルフェンダー付きの古風なスタイルだ。
行商人一家5人はドラキュロに追われ、逃げたが、過積載が災いして速度が出ず、追いつかれ、荷台に乗っていた両親と長兄はライフルで応戦。
通常はこれで逃げ切れるが、一家の半装軌車は泥でスタックし、立ち往生する。
両親と長兄は射耗し、給弾の余裕なくドラキュロの餌食になった。
強化キャビンの次兄と末子の娘は、この時点では生存していた。
2人を乗せた半装軌車は、ドラキュロに長時間包囲され、包囲されてから2日目の早朝、気温が下がりドラキュロの活動が不活性になった瞬間を見計らって、救援を求めに次兄はキャビンを出た。
その後は不明。さらに2日経過して、偶然通りかかったキャラバンに娘だけが救出される。
こんなことは、よくあることだ。数年前ならば、酒場の話題に一晩だけなって終わる。
だが、最近のヒトは悪あがきをする。従来からの半装軌車では、春の泥濘には対応できない。
そこで、フルギア、フルギア系、ヴルマン、東方フルギア系、一部の北方人の各代表は、金沢壮一に面会を求め、早急に「いかなる泥濘をも克服できるクルマを作れ」と強硬に要求してきた。
金沢壮一は、全装軌の装甲トラックを紹介して売り込みを図ったが、「高すぎる。値段は装甲トラックの3分の1だ!」と、詰め寄られた。
フルギアの高位シャーマンは、「ノイリンのカナザワには、車輪の精霊の守護がある」と喧伝していた。
この精霊の守護というやつは厄介で、精霊の守護を受けている以上、精霊に対して義務を負う。
そもそも、人工物である車輪に精霊が宿るはずはない。精霊は自然物に宿るもの。だが、例外もある。例えば、鋼。人工物であっても、プリミティブなものなら精霊は宿る。
だが、車輪の精霊なんてあり得ない。
が、……。
フルギアの高位シャーマンは、金沢壮一に車輪の精霊の守護を認めた。
彼がそれだけ、人々の暮らしに貢献しているということなのだが、フルギアからすれば精霊の守護を受けている以上、精霊に対する義務を負っていることになる。
だから、安全に旅ができる輸送車輌を彼に求めたのだ。義務を果たすべきだ、と……。
金沢壮一はこの要求を無視せず、200万年前の資料を総当たりした。
農業用トラクターの改造案、第二次世界大戦期にドイツ軍が東部戦線で使った全装軌式のシュタイアーRSOトラクター、アメリカ軍の砲兵トラクターであるM5高速牽引車、イギリス軍のブレンガンキャリアー、旧日本軍の九四式と九七式軽装甲車まで、いろいろと調べたが短期間で開発できる決定打はなかった。
金沢壮一は以前から古い入植地を訪れ、無人となった経緯やこの世界に持ち込まれた機材を丹念に調べている。
そのなかに、スウェーデン製のPbv.301という小型の装甲兵員輸送車があった。
Pbv.301は同国のヘグランド社が開発したのだが、車台自体は古い戦車を再生利用したものだった。
その“古い戦車”だが……。
相当な骨董品戦車なのだ。
1939年9月1日、ドイツはポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発する。
ドイツ軍が行った戦車など装甲車輌を基幹とする電撃戦は本来、対戦車戦を受け持つⅢ号戦車、歩兵を直協支援するⅣ号戦車が主力となるはずだった。
しかし、現実は、訓練用戦車のⅠ号戦車やⅡ号戦車まで動員し、それでも足りなかった。そこで、同年に解体され、チェコが併合されていたチェコスロバキア製の軽戦車LTvz.38(ドイツ軍名38(t))が実戦に投入される。
チェコスロバキア軍向けに150輌が発注されていたが、ドイツ軍向けとして完成し、ポーランド侵攻では100輌が参加している。
LTvz.38軽戦車はスウェーデンのスカニア社でも1942年からライセンス生産されていた。
Pbv.301は、このスカニア社製LTvz.38軽戦車(スウェーデン軍名Strv m/41)の下部車体を利用し、装甲兵員輸送車に改造したものだ。
全長4.66メートル、全幅2.33メートル、全高2.64メートル、重量11.7トン。
1960年から余剰保有となっていた220輌すべてが、Strv m/41からPbv.301に改造された。
150馬力のエンジンを搭載し、最高時速45キロで走行できた。
金沢壮一が見つけたPbv.301は、エンジンとトランスミッションが交換されており、この世界に来るための条件、時速60キロ以上での走行が可能だったのだろう。
金沢壮一がPbv.301を発見した時点で朽ちかけており、この車輌の再生は不可能な状態だった。
この実車と、戦後にチェコで製造され、スイス軍が装備した同系列の戦車駆逐車ヘッツァー(スイス軍名G13)の製造資料を基に、新造開発を始めた。
エンジンはこの世界で調達できる直列6気筒120馬力ガソリン、対ドラキュロ用に外板は5ミリの圧延鋼板、総重量7トン以内に収められた。
急務の用でもあったので、車体形状はそのまま。エンジンは車体前部左側、運転席はエンジンの隣の右側、運転席のその直後に全周監視塔がある。この監視塔は、元は20ミリ機関砲の砲架があった場所で、そのままの形状で全周監視が可能な銃塔を設けている。運転席右側車体側面にサイドウィンドウを、運転席側装甲ハッチを廃してフロントウィンドウを、後部兵員室だったキャビンには小さな窓を左右各2カ所に設置した。
車体の改造は、それだけだった。
転輪は片側4で、2輪ずつリーフスプリングで懸架されている。懸架方式は、一般的な後輪2軸のトラックと同じ。つまり、最も簡単なサスペンション形式だった。
これならば、ヒトの街ならばどこでも修理できる。
構造が簡単で整備性がいい。
こうして、ノイリン製の軽トラクターが作られた。
この軽トラクターの装甲を厚くし、20ミリ防弾ガラス部を倍の厚さに変え、装甲バイザーを取り付けた小型装甲兵員輸送車を、バリエーションとして作った。
装甲は、至近で発射された12.7ミリ機関銃弾に耐抗できる厚さがあった。小型だが、乗員2、兵員8のスペースがある。
この装甲兵員輸送車のセールスを始めると、セロと戦いにおいて拮抗した状況にある各街は、「装甲兵員輸送車なんていう中途半端な兵器ではなく、数を揃えられる激安の戦車を寄越せ」と要求する。
そして、再び戦車に戻った。
M24チャーフィーをギュッと小さくしたようなスタイルで、毎度お馴染みのFV101スコーピオンと同じ型式の砲塔を載せる。
スタイルはともかく、技術的には何ら特筆するところのない極めて旧式な軽戦車だが、どういうわけか軽快に動く。
構造が簡単で、エンジンは車輌用として広く普及していることから、安価だ。カンガブルやアシュカナン製戦車の2分の1の価格で販売できた。
ただ、兵装は顰蹙〈ひんしゅく〉を買った。当初、60口径47ミリ砲(砲身の長さ2820ミリ)を搭載したが、セロは装甲車輌を保有していないので、まったくの無駄と。
結局、初速が低いことから砲身命数が長く、価格も安い、35口径47ミリ砲(砲身の長さ1645ミリ)を採用した。
ノイリンが激安軽戦車を発売すると、カンガブルやシェプニノは大幅割引セールを始める。戦車の価格破壊、価格戦争が勃発したのだ。
戦車が安価となり、各街で戦車の数が揃い始めると、セロに対してヒトは押され負けしなくなった。小さな街も連携し、セロを攻め立てることも多くなる。
兵力の少ないヒトは、戦車の大量投入によってセロとの戦いを均衡に持ち込むことに成功し始めていた。
金沢壮一は、トラクター型の販売を諦めてはいなかった。装甲兵員輸送車型を再度改設計し、エンジンを車体前部中央へ移動し、腰高の車体を利用して、キャブオーバー化を図っている。
彼には、この最終段階が残っていた。
ノイリンは、この軽戦車と軽装甲兵員輸送車を装備しなかったが、売れ残りの初期生産型を西アフリカに送ってきた。
城島由加は「装軌の戦車と装甲兵員輸送車のすべてを救出に振り向けろ」と命じた。幕僚たちは、送られてきたばかりの、この小さな戦車と装甲兵員輸送車をも投入する。
正直、役に立たなさそうな小型装甲車輌なんて、惜しくはない。行程の途中で落後した場合は、車体を破壊して、乗員だけを回収するつもりだった。
軽兵員輸送車はヘグランド装甲車、戦車はスカニア軽戦車と名付けられていた。
揚陸直後の状況下で、行動可能なヘグランド装甲車とスカニア軽戦車は各2輌あり、司令部はこの4輌を燃料入りドラム缶を積んだトレーラーを牽引するトラクターとして使う算段をする。
ある意味、このシリーズの本来の使い方だ。実際、スカニア軽戦車の車体後部にはトレーラー用牽引フックが通常装備として取り付けられている。
ノイリンでは、売れ残りの武装牽引車としか見ていないのだ。
当初、イギリス製FV101スコーピオンに範を採った装甲戦闘車輌シリーズは、単に“新型”と呼ばれていたが、90ミリ低反動砲搭載の戦車はロンメル、装甲兵員輸送車型はジューコフと名付けられた。
ロンメルとは第二次世界大戦期のドイツアフリカ軍団司令官エルヴィン・ロンメルから、ジューコフは同時期の旧ソ連赤軍参謀総長/副国防人民委員ゲオルギー・ジューコフに由来する。両者とも機甲戦における希代の戦術家だ。
このシリーズがノイリンの主力であり、それ以外は“あるから使う”程度の存在だ。
ヘグランド装甲車とスカニア戦車は、元々民間車輌として作ったので、超信地旋回はできないが、操向が簡単なハンドル式操舵システム、外れやすい特性は否めないが、転輪を2重にしなくてもいいサイドガイド方式の履帯など、操作と構造の簡易化・軽量化を実現する評価できる点が多々あった。
それゆえ、作戦立案側とは異なり、現場の運用側は、低い評価ではない。
ヘグランド装甲車とスカニア戦車は、幕僚たちが密かに期待した行程途中での落後は起こさないどころか、重いロンメル主力戦車やジューコフ装甲戦闘車を差し置いて、悪路も路外もお構いなしに進み続ける。
行程の途中まで同行する予定の装輪式輸送車輌がスタックすれば牽引し、急坂があればウインチで引き上げ、浮航はできないが水深1.5メートルまでの渡渉能力があり、車体が小さいので小回りがきく、という抜群の高可用性を発揮する。
この2車種がなければ、予定通りの進行は不可能だった。
マルユッカ隊は、不思議な幸運に恵まれていた。
ヘグランド装甲車とスカニア軽戦車がなければ、作戦の遅延は避けられず、最悪中止となる可能性があった。
マルユッカ隊の救出など、到底不可能だったろう。
車輪の精霊の守護を、シャーマニズムによる迷信とは片付けられないのかもしれない。
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戦乱が終息して3年。アークティカに新たな異界物が現れます。神聖マムルーク帝国と東方騎馬民によって、国民の9割が、連れ去られるか、殺されるか、他国に逃れてしまったアークティカという国の物語です。物語の始まりは、東京から異界に転移した1人のサラリーマンから始まります。アークティカから拉致され、奴隷となっていた少女と東京のサラリーマンが出会い、アークティカに帰還しようとするところから始まります。そして、つかの間の平和が……。しかし、アークティカの対岸には新たな強敵が現れます。アークティカが生き延びるための模索が始まります。
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
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えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
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自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
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