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第4章 内乱
第34話 新たな異界物
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セムナは、ルカーンから約一〇〇キロ南の内陸都市国家だ。赤い海沿岸諸都市と同様、環濠や城壁がない、開放的な街だ。王都の人口は五〇〇〇ほど。立憲君主制の統治機構を持つ。
また、街の周囲を領土としており、国境線は明確に定義されている。国境線を他国の軍が越えれば、自動的に防衛体制をとる。国境線の要所には、砦が築かれていて、強固な防衛体制が整えられている。
産業は農業、毛織物業、製鉄業など。特に良質の刀剣を産することで有名だ。また、鉄製砲身の軽量野砲の産地としても名高い。
セムナは小国で、過去幾度となく他国の侵攻を受けてきたが、ことごとく退けてきたという。
神聖マムルーク帝国は、いま、内陸国にも触手を伸ばし始めている。
それに対抗するため、ダームとルカーンに同盟を求めているが、両国とも態度を明らかにしようとはしない。
セムナは焦りを感じていた。
カラカンダはヴェルンドの影響で、釣りを趣味にしていた。コルカ村にいた頃は、二人がルドゥ川で釣り糸を垂れている姿が、よく見られていたという。
カラカンダは街外れの小さな池で護岸に腰掛けて釣り糸を垂らし、物思いにふけっていた。以前なら、わずかな時間を惜しんで武芸に精進していたが、最近では心穏やかに過ごすのも悪くはないと思うようになっていた。
彼はそう思いながら「だめだな。シュン様の怠惰な考え方の影響かな」と、微笑みながら声に出していた。
カラカンダは、私が農具である山刀をマチェッテと呼んで差料〈さしりょう〉にしたことに大変驚き、「そのようなことは、いかなる武人もいたしません」と激しく窘めた。
私が「人殺しの道具なんて、何でもいいだろう」と言うと、「武人の戦道具は、人殺しの凶器とは違います!」と反論した。
だが、私が「でも、結果は同じだよね。それがわかっているから、軍人は戦争をしたがらない。戦争がしたいのは政治家だ」
カラカンダは反論しなかった。
カラカンダの左隣に、質素な身なりの品のいい老人が座り、「釣れますかな」と声をかけてきた。
間を置かず、右隣に少し離れて物騒な体格の男が座った。彼も釣り竿を水面に垂らしたが、釣り竿を振る動作は剣の素振りそのものだ。
「カラカンダ殿。貴殿の主君にお目にかかりたいのだが……」
カラカンダは一気に緊張した。
老人は釣果のないカラカンダの魚籠を覗き見て、話を続けた。
「最近の魚は口が肥えたようで、餌のえり好みが激しいようです。
この餌をお使いなされ」と言って、真鍮薬莢の小銃弾を渡した。
「では、これで」と老人が腰を上げた。その直後、物騒な体格の男が「今宵、お迎えにうかがいます」と耳打ちした。
カラカンダは、物騒な体格の男から一切の殺気を感じなかった。
カラカンダが息を切らして戻ってきた。この出来事を詳細に説明し、「逃げますか?」と言った。
メルトが「良家の令嬢とお見合いとか」と冗談を言い、カラカンダに拳固で頭をこづかれる。
カラカンダは、物騒な体格の男に注目していて、「あの体躯は、生半可な鍛錬ではないでしょう。王の側近か特別な立場の傭兵と思います」
私は「まぁ、会ってみるよ。それから、考えよう」
迎えは、二二時にやって来た。迎えのクルマは、何の変哲のない小型蒸気乗用車だ。カラカンダが同行を強く主張したが、クルマの運転手は同意せず、私も一人で行くことを了承した。
職種然とした服装の運転手は、明らかに階級の高い軍人であった。
私が連れて行かれた場所は、セムナ第一の豪商で、製鉄で財を築いたカリブムという男の別邸であった。
豪華な部屋に通されると、二人の男が部屋には似つかわしくない小ぶりなテーブルに向かって座っていた。
二人は立ち上がり、一人が「こちらへ」と招いた。
二人とも老人で、二人とも商人の風体だ。だが、一人は商人ではない。所作がぎこちないのだ。
「私は鉄を商っておりますカリブムともうします。こちらは、私の商い仲間でアルガンデアです」
この国の王の名は、アルガンデア一世。つまり、もう一人は王だ。
カリブムが手鈴を鳴らすと、同時に番頭らしき若者が、長さ一・五メートルほどのトレーを掲げて入ってきた。
「突然のお呼び立て、またわざわざのお越し、お詫びとともにお礼をもうしあげます」
番頭が一歩出た。
「これは、非礼のお詫びでございます」
カリブムがトレーに掛けられた濃紺の袱紗〈ふくさ〉を剥がすと、私の軍刀と非常によく似た刀が載せられていた。
柄や鞘の造作は立派で、医療器具になった軍刀とは雲泥の差だ。
カリブムが鞘を払うと、見事な刀身が光を放った。
「当家が作る刀は、他国とは製法が違います。刀剣は鋼鉄板から形状を切り出し、刃を削り、焼き入れ等を施して作ります。
当家の刀剣は、鉄塊をスチームハンマーで繰り返し鍛錬して形状を整えて作ります。
こちらの方が、刀身に粘りがあり、折れにくいのです」
基本的に日本刀と同じ作り方だ。
アルガンデアが初めて言葉を発した。声音は優しい。
「アークティカ王にふさわしい差料であろう?」
「私はアークティカ王ではありません。アークティカに王はいません」
「確かキュリアにも、そうもうされたとか」
私は咄嗟にキュリアという名前を思い出せなかったが、アルガンデアの次の言葉で気付いた。
「当家とパノリア王家は縁戚でね。
彼はよい婿殿だ」
キュリアとは、パノリア王レーモン二世のことだ。
「キュリア殿とは、バルティカとの会戦の折、戦場でお目にかかりました」
「そのときの話は、伝え聞いていますよ。
わずか二人の手勢で、アトリアの本陣を攻めたとか。街の吟遊詩人が飛びつきそうな武勇伝だが、そんな講釈を聞かぬところをみると、正真正銘誇張なしの真実なのでしょう。
回りくどい話はしたくないのです。
貴国に厚誼を賜りたい。
我が国との同盟をお願いしたいのです」
私はこの申し出に心底驚いた。さして縁のない遠国が、アークティカとの同盟を希望している。
これは何かの策略か、とも感じた。
カリブムが「こちらへ」と促し、続きの間に案内した。
その部屋は質素で、本来は給仕たちの控え室であった。
私の目に最初に飛び込んできたのは、駐退復座機を持つ七五ミリ級の野砲だった。
カリブムが「シュナイダー砲といいます」と紹介した。
単脚式砲架、液気圧らしい駐退復座機、隔螺〈かくら〉式の閉鎖機、防盾〈ぼうじゅん〉のデザインから、フランス国営兵器工廠が開発したM1897野砲が原型ではないかと推測した。フランスの兵器メーカーであるシュナイダー社開発の砲ではないが、そんなことはどうでもいい些事だ。
アルガンデアが小銃を見せて、説明した。
「グラース銃です。弾丸と発射薬、そして雷管を一つにまとめた金属薬莢を使って、銃身の後方から弾込します。
貴殿ならこの武器の意味がわかるはず。
我が国は、この砲と銃で、過去数百年間、独立を保ってきました。
しかし、帝国には屈するほかないかと、思案しているのです。
それを避けるために、貴国の支援を賜りたい」
私は事実をいった。
「現在、我がアークティカは、ローリア国王の計略によって、国内が乱れています。
十分にご存じでしょう」
アルガンデアは引かなかった。
「そのローリア王のおかげで、貴殿と会えたのです」
私は態度を決めることにした。
「アークティカの本来の指導者は、リケルという男です。
彼に貴国のことを伝えます。
約束します」
私は、宿に帰るとすぐにヴェルンドとシビルスに手紙を書いた。もちろん、シュナイダー砲の存在を知らせるためだ。
この重要な手紙をメルトに託し、彼にはアークティカに戻って貰うことにした。
また、カリブムにも我々がマーバに移ることを知らせる手紙を書いた。
我々がマーバに移ることに決めた理由は、メルトが仕入れてきた噂だ。
最近、ドーリスにアークティカ人の奴隷が売られた、というものだが真偽のほどは定かではない。
ドーリスは、マーバから南に一〇〇キロほど下った無領地のさらに南にある都市国家だ。
カラカンダによると、ドーリスは多くの傭兵を輩出し、それによって国の富とする、ある種の戦闘国家だ。国家自体が、傭兵を派遣する派遣会社みたいなものらしい。
主たる武器は全長四メートルに達する長柄の槍で、古典的な重装歩兵を基幹としている。彼らを雇う国が評価している点は、勇猛果敢な正規兵である重装歩兵ではなく、彼らが前衛で捨て駒に使う銃を装備した戦列歩兵の奴隷兵らしい。
ドーリスの奴隷兵は、家族を人質にされ、決死の覚悟で戦うという。家族を人質にされているので、ドーリスの正規軍には刃向かえない。家族の命を守るため、必死で戦うしかないのだ。
何とも理不尽な話だ。
ドーリスは国境を閉じており、他国人は入国できない。無領地にドーリスの屯所があり、用件を伝えると、担当者が赴き、その屯所で商談を行う。
ドーリスの街を見たものは誰もいないそうだ。
私とカラカンダは、アークティカ人の奴隷と聞いて、放っておくことはできなかった。パラスの例もある。あの子のような人々は、たくさんいるはずだ。
マーバの街は、周辺国と比べて豊かではない。土地は痩せており農耕には不適で、資源はないが、街の人口は一万人を超えるという。人口の六割は戦火を逃れて他国からやって来た難民か、元難民だ。
そんなマーバの市場は猥雑というか、少なくとも品行方正ではない。この街の基幹産業は、フーゾクでは、と考えたくなるほど、その種の店が多い。
また、盗品街もある。堂々と盗品が売買され、貴金属製品から武器まで、何でも売っている。当然、盗賊もいる。置き引きの類いから、高度に組織化された集団までいろいろ。
まぁ、面白い街だが、物騒ではある。
この物騒な街にもルールはある。盗賊は、マーバ街内で仕事をしてはならない、という鉄の掟が……。
私とカラカンダは、盗品街を探索していた。その理由は、シビルスの散弾銃やフェイトの養父が手に入れた三八式騎銃が、他の街の盗品街で見つかっていたからだ。
我々は、初日に大物を見つけた。AK‐47の軽機関銃タイプであるRPKだ。銃身先端の二脚と弾倉が失われているが、銃自体に損傷や部品の欠品はないようだ。
弾がないため店主が弱気で、銀の小粒一枚で手に入れた。
翌日には、スタームルガー・ミニ30が見つかった。この銃は、アメリカ合衆国の銃器メーカーであるスタームルガー社が開発したオーソドックスな木製銃床を持つ半自動小銃で、弾薬は七・六二×三九ミリ弾、つまりAK‐47と同じ弾を使う。弾倉も共用でき、本来は害獣駆除用の猟銃である。いわゆるランチ・ライフルだ。もちろん、買い叩いて購入した。
同じ弾を使う銃が、二日連続で見つかったことは、この種の銃器が相当数あることを意味している。
マーバの盗品街は特殊な場所だが、それでも発見する確率が高すぎる。
その後七日間、毎日探したが、この世界の武器以外は一切見つからなかった。
この街には、ガラクタ市もある。本当にガラクタばかりで、役に立ちそうなものはないのだが、それでも人が集まっている。青空の下、地面に品を並べて売っている。
どこで拾ってきたのか、穴のある鍋や切っ先の折れた刀、柄のないスコップなど、びっくりするものが売られている。
カラカンダに「切っ先の折れた刀はどうするんだ」と尋ねると、「先端を削って、切っ先を新たに作ります」と答えた。
折れた刀も役に立つわけだ。
我々は一〇日間、このガラクタ市を巡った。捜し物は特定していないが、カラシニコフ銃の弾を探していることは確かだ。
我々は、今日を最後にしようと申し合わせたその日の午前中、カラカンダが蓋をされた取っ手の壊れた鍋の中から、AK‐47の空弾倉を見つけた。
我々は、鍋や壺などを見る際、その中も覗くことにした。
そして、色づけされた美しい大きな壺、縁が欠けていなければ盗品街の商品になっていたであろう壺の中から、AK‐47の弾を六〇発ほど発見する。
店主に同じものが他に売っていないか尋ねると、別の店を紹介してくれた。
結局、四店がカラシニコフ弾を持っていて、一店は弾倉付だった。計二〇〇発はある。
正直、驚くと同時に、危機感が高まった。セムナが強力な武器とする、ボルトアクション単発のグラース銃は一九世紀の武器だが、その隣の街では二一世紀でも現役の武器が売られている。
もし、セムナがグラース銃ではなくカラシニコフ銃を手に入れていたら、こちらをコピーしただろう。
マーバは、そのチャンスをつかまなかっただけだ。
さすがに二〇日に及ぶ盗品街とガラクタ市の探索に飽きていたが、カラカンダが私に、「このまま、マーバに留まって大丈夫なのですか?」と問うた。
私は「ん?」と言ったか言わないかの反応をすると、カラカンダは「マーリン様とリシュリン様にばれると……」と心配そうな顔をする。
「盗品街やガラクタ市を回っていたことは事実ですが、お二人がそれを信じるとは思いませんが……」
そうだ! その通りだ!
カラカンダは続けた。
「少なくとも、一度もそういった店に行かなかったとは思わないでしょう。
シュン様の日頃のご行状からすれば……」
私は、逃げるようにマーバを後にすべく、今夜中に荷支度をするようカラカンダに頼んだ。
翌日、私とカラカンダは、南に向かって出発した。
ミランは、西方世界の東辺にあるタイバルという小さな領地の世俗領主であった。世俗領主である彼が、アークティカにやって来た理由は、実に世俗的な理由である。
世俗的、具体的には、嫉み、欲、恨みといった精神の根源にある醜悪な争いごとから、彼は故郷を追われた。
この旅の徒然で、私は彼から断片的に現在に至った事情を聞くことができた。
ミランの祖先は、三〇〇年ほど前に勃発した西方動乱と呼ばれている群雄割拠の際に、極西方から西方東辺に移り住んで、一介の騎士から立身出世を果たして、かなり広い領地を得た。
しかし、三〇〇年という時間は、ミランの家系に多くの分家を生み出すこととなり、彼の父の代には自分たちの生活にさえ事欠くほどの糧しか得られぬ小領主になっていた。
しかも本家当主であるミランよりも多くの領地を持つ分家が五つもあり、彼らは何事であっても本家とことごとく対立していた。
この五つの分家は、正統五家と呼ばれていた。
それを回避するため、また一族の統制を守るため、本家当主となるものは代々、正統五家から順に婚姻を結ぶことになっていた。
純粋な政略結婚である。
しかし、彼の父の代になって、正統五家よりも財を得た有力分家が三家現れる。
これが、興隆三家だ。
彼らの財の源は、他国との通商であった。土地を有し、その土地から得られる作物の多少で、国力を計れる時代が終わり、交易という国威を示す新たな価値観が生まれた。
ミランの父も商才に長けた男で、通行税を免除することで商人の交通を助け、東西交易の中継として、彼らの拠点であるラーへの街を発展させた。
織田信長などの楽市・楽座に似た政策だった。
そして自らも交易を行い、多くの富を得た。
その結果として、彼の父は世継ぎであるミランに「正統五家から妻を娶らなくてもよい」とした。
これは、彼の父と同様に交易で勢力を伸ばしている興隆三家に対する配慮であると同時に、正統五家に対する明確な「時代は変わった」というメッセージでもあった。
ミランは異界人であるリュイス・ボレルの末娘シレイラを妻とすることにした。
彼の父は三歳年上の姉さん女房を選んだことを大変喜び、ミランの慧眼を褒め称えた。
しかし、彼の母は面白くなかった。
また、順送りでミランの妻を出すはずであった正統五家も大いに怒った。
そんな状況下で、ミランの父が暗殺された。一族は疑心暗鬼となり、犯人捜しが始まる。
ミランの母が疑われ、嫁を出すはずであった分家の当主が疑われ、当主と鋭く対立していた別の分家が疑われ、一族の結束が崩れていく。
ミランは、そんな不穏な情勢下で家督をつぐ。
当主になると、味方は誰もいなかった。分家すべてが離反し、内戦勃発の不穏な空気が流れ始める。
その間隙を突くように、西方教会が勢力を伸ばし、奴隷商人が跋扈するようになる。
若干一六歳のミランには、この状況を変えることができなかった。
西方教会は、彼の領地で勝手に住民から布施を徴収し始め、それができなければ領民を奴隷商人に引き渡した。
わずか一年で、ミランは真正の領主から名目上の領主に成り下がった。
しかし、彼よりも彼の領民のほうが悲惨だった。
分家の多くは西方教会に従うか、領地を去った。ある小分家の一族郎党と領民は、土地を捨てて北方に逃れた。
ミランには、西方教会と奴隷商人に抗する手段は何もなかった。
そんな状況下、彼の居城の目と鼻の先に言葉を解さない男が現れた。
私だ。
その男は、奴隷の女と奴隷の鍛冶職人、そして教会から離脱した脱走僧兵、さらには幼女を束ねて奴隷商人軍と戦い、勝った。
この隙をミランは逃さなかった。西方教会と奴隷商人を西に駆逐することに成功する。
だが、奴隷商人はミランよりも権謀術数に長けていた。
分家を巧妙に操って、ミランの殺害を企てた。ただ、表向きは放逐とされていた。
この計略は、ミランの母も加わっており、ミラン放逐後は彼の弟が家を承継することになっていた。
だが、ミランは戦った。ミランはまず財のある領民を他国に逃し、奴隷は自由民とし、財の乏しい領民は信頼できる数少ない家臣に託して南に逃した。
最後の逃亡戦では、兵一〇と領民五〇が従っていた。領民の多くは、病などで留まる以外にない家族を抱えた人々ばかりであった。
ミランは、彼の妻の父、義父が残した「矢玉を弾く船」を大型貨車に載せ、その船に領民を乗せ、三重連結の大型蒸気牽引車で牽き、南の白い海沿岸を目指した。
南に向かえば抗争中の分家領があるが、その先に大きな湖があり、そこまで船を運べれば、川を下って白い海に出られる。
カーボンファイバー製のテンダーボートは、マスケット銃の滑腔銃身から発射される球形弾など貫通しない強靱な船体である。
エルプスが船を運び、ミランが進路を啓開し、ジャベリンが最も危険な殿〈しんがり〉を務めて、一〇〇キロもの山道を進んだ。燃水は、敵分家領で強奪したそうだ。
正統五家はラーへ攻略の直前、用済みとなったミランの弟を殺した。実母は実家に戻され、本家の血筋を殲滅する戦いが始まった。
ミランに従う家臣は極端に少なく、特に上級貴族は一人もいなかった。また、高級官吏は、落ち目の主家を捨て分家側に寝返るものが多かった。
だが、居城の下働き、一般民衆と接することが多い下級官吏、半農で生計を立てる下級騎士の中には、ミランと最後まで行動を共にすると言い張る郎党がいた。
これは、ミランの人柄なのだろう。
ミランたちは数百の敵と闘いながら、わずか一〇名の兵士と戦闘力のない農民や街人を一人も失うことなく、湖にたどり着いたと言う。
一族間の近親憎悪と欲得が絡み、それに奴隷商人と西方教会の思惑が加わって、肉が裂け血が吹き出す壮絶な脱出行であったらしい。
ことの始まりは、ジャベリンの不安であった。
ミランは領主としては賢王だろう。しかし、政治家としては未熟だ。
タイバル国は統制された体制下にはなかった。外交と対外戦争は、本家当主であるミランに権限があったが、正統五家や興隆三家などが、勝手に対外交渉を行っていた。
ある意味、このバラバラな対応が他国からすると誰と交渉していいのかわからず、外国からの圧力を分散させ国を守る防壁になっていた。
だが、西方教会や奴隷商人は国家ではないので、タイバルの本家と分家個々に交渉し、彼らに要求を突きつけていった。
彼らの要求の基本である、領民の三割を奴隷として供出すること、人口減少分の奴隷を買うこと、に対して全分家は従ったが、本家が拒絶した。
妥協条件として、領民の人口一割分の奴隷を購入するとした。
ミランは巧妙に立ち回っていたが、徐々に追い詰められていく。西方教会と奴隷商人の手先となって圧力をかけたのが、分家筋であった。
各分家は、大なり小なりミランの行動を、一族の和を欠くもの、とみなしていた。
特にミランが決した、領民の三割供出拒否は、西方の侵攻を恐れる一族にとって、由々しき問題であった。
そして、本家討つべし、の機運が高まっていく。これを裏で画策したのが、西方教会であり、奴隷商人であり、弟を当主にと願うミランの実母だった。
分家すべてを敵に回せば、ラーへの陥落は不可避となる。
ミランは無益な戦いを避け、いくつかの小分家が実行した領民の国外脱出を企てた。
ジャベリンは、領地脱出の妙策の立案を義弟であるエルプスに依頼した。ミランの領地は東西に狭く南北に長い。ラーへの南に向かえば、自領を進むことができる。さらに、カル湖に到達できれば、以降は水路で白い海北岸に達することができる。
エルプスの父親が子に残した最も大きい遺産は、彼の父親が異界からもたらしたテンダーボートだ。船体はカーボンファイバー製で、極めて強靭・軽量。小銃弾はもちろん、重機関銃弾さえ貫通しない。
エルプスは、テンダーボートを積載する特殊なトレーラーを製作し、テンダーボートに最後まで従う郎党と彼らの家族を載せることにした。テンダーボートは、本来の用途とは異なる救命艇になった。
エルプスが無人となったはずの城内を見まわっていると、庭師が住む家に人の気配があった。
この家の庭師夫婦は、西方教会教皇に献上する荷車の前を横切った罪で、その場で斬り捨てられた。
無礼討ちである。
この世界では、無礼討ちにルールがある。身分が高位のものは下位のものに対して無礼討ちが許されるが、無礼討ちにされるものは抵抗が許される。抵抗は大剣・太刀を抜かず、短剣・脇差で行う。
無礼討ちを宣されたのち、短剣・脇差で返り討ちにしても罪は問われない。抵抗者は、代理でもよく、また討たれた直後であれば仇討ちが許される。仇討ちも代理が許される。
そのため、無礼討ちはない。
だが、庭師夫婦は不運であった。教皇庁の護衛僧兵は傍若無人。人の命を損なうことを、まったく厭わない。面白半分で人を斬ることもある。
他領ならこれで終わりだった。
この瞬時の様子をジャベリンが見ていた。自領での暴虐をミランは許さない。ジャベリンは「我が友夫婦の仇、公規に則り討つ!」と宣すると、背中の大剣ではなく、腰に下げた長剣を引き抜き、一〇人の護衛僧兵を瞬く間に斬り捨てた。
ミランは、この庭師夫婦のことをよく知っていた。彼は幼少の頃、この庭師の家を度々訪れ、菓子や飲み物を馳走になっていた。彼が落ち着ける、数少ない居場所であった。
エルプス自身は、この庭師夫婦を知らなかった。ただ、城内に残っていては死しかないのだから、誰であれ残してはいけない。
その思いだけで、庭師の家の扉を開けると、怯えきった少女と身を起こすことさえできない老婆がいた。
エルプスが「何をしている。早く逃げなさい!」と言うと、少女が「おばあちゃんを残していけない!」と絶叫した。
エルプスは有無を言わさず老婆を背に担ぎ、少女の手を引いてエンダーボートに向かった。
テンダーボートには最大一〇〇人が乗れる。すでに六〇人以上が乗っていた。
ジャベリンは城門近くで防戦を繰り広げており、ミランは進路の敵を排除し始めている。
蒸気牽引車には、正運転手と助手の二人を配置し、テンダーボート上にはマスケット銃を持った男女が配された。その中にジャベリンの妻シュクスナがおり、彼女は父親の形見であるM1Dガーランド狙撃銃によって、車列の全面で戦闘するミランを援護した。
テンダーボートには、高齢者、傷病者、幼児、妊婦など、家族の手を借りても逃げられない人々が乗っていた。ミランの身重の妻シレイラもその一人であった。
蒸気牽引車はゆっくりと、確実に前進したが、彼らが向かう湖は遠く、そして敵中を突破しなければたどり着けない。
敵はあらゆる場所におり、奇襲的に攻撃を仕掛けてきたが、各分家の兵は連携を欠いていて統制がとれていなかった。
また、分家の下級兵士の多くは主家の行動に対して、必ずしも賛意を持ってはおらず、形ばかりの消極的な攻撃も多かった。
ミランたちは一五時間かけて湖にたどり着いたが、そこにはミランたちと最も対立していた分家が兵を揃えて待ち構えていた。
エルプスは、貨車からテンダーボートを湖面に降ろす時間的余裕がないことを悟った。彼は、運転手たちに蒸気牽引車ごと湖に突っ込むよう命じた。
「蒸気車はここで捨てる。
湖に突っ込め!
船と貨車の縛めを解け!」
エルプスの絶叫が湖水の上を走った。
蒸気牽引車は、その出せるパワーのすべてを発揮して、街道から湖岸に向けて突進を始めた。湖岸は幸運にも小石が交じる砂地で、蒸気牽引車は砂を踏みしめて水辺に向かっていく。周囲はまばらに灌木が茂る平地で、この地方では珍しく地形の起伏が激しい。
蒸気牽引車の運転手たちは、運転しながら上着と靴を脱いだ。湖岸まで降りると、助手たちは運転台から飛び降り、貨車と船を固定するロープを剣で断ち切った。
そして、彼らは必死で防戦する騎士たちの乱戦に加わった。
湖に低速で進入していく蒸気牽引車は、車体が没する瞬間、湖水によってボイラーの炎が消え、冷たい湖水が高圧・高温のボイラーを急激に冷却した。
ボイラーが爆発・破壊される瞬間、運転手が湖面に飛び込んだ。後続する蒸気牽引車の運転手も次々に飛び込む。
先頭から2輌目の蒸気牽引車のボイラーが爆発した。
そのエネルギーで、テンダーボートが貨車から離れる。
運転手たちは必死に泳いで、テンダーボートの舷側にしがみつき、船上からの手助けで甲板に引き上げられた。
シュクスナは、夫と義弟たちが必死で戦う湖岸に向けて、必殺の弾丸を放っていった。
また、船上の何人かがマスケット銃に弾込して、次々と発射する。
船上に移った運転士たちも、マスケット銃を発射する。
ミランとジャベリンたちは、順次武器を捨てて湖に飛び込む。
湖面を泳ぐ無防備なミランたちを援護するため、船上からありとあらゆる飛び道具が射られた。マスケット銃、半弓、弩、そしてシュクスナのM1Dガーランド狙撃銃だ。
エルプスは、陸路の逃避行中に太陽光パネルを使って、テンダーボートのバッテリーに不十分ながら充電をしておいた。
その貴重でわずかな電力を使って、ゆっくりと船を旋回させ、船体をミランたちと湖岸の敵の間に入れた。
敵は青銅製前装式滑空野砲を用意し、弾の装填を始めた。
砲口から火薬が注がれ、次に球形弾が押し込まれた。
エルプスは、その様子を窓越しから見ていた。
反対側の窓からずぶ濡れのミランが顔を差し込んで、「もう少し待って!」と怒鳴った。
湖岸では松明に火がつけられ、火口に火薬が注がれていく。
エルプスの背後からジャベリンが、「全員乗船!」と告げた。
エルプスは始動しておいた一〇〇〇馬力ターボチャージドディーゼルのスロットルを全開にする。
テンダーボートが、まるで高速艇のようにダッシュし、湖の沖に向かって突進していく。
無垢の鉄塊の砲弾が、遙か後方で湖面に無意味な水柱をあげた。
その後、彼らは白い海の西岸に出て、南岸沿いを東に向かった。
港を見つけると寄港し、希望者をその土地で下ろした。その際に、ミランは金子〈きんす〉を与えた。
そして、ミラン、シレイラ、ジャベリン、シュクスナ、ライマと彼女の祖母は、無一文となってアークティカの海岸にたどり着いたのだった。
ルカーンの街は、海岸から七〇キロほど離れた内陸にある。
ミランがルカーンに到着したとき、偶然、ミクリンが商用で訪れていた。
ミランたちは、優しいお兄さん、面白いおじさんを必死で演じていたが、パラスの心の奥に仕舞い込まれた根源的な恐怖を取り除くことはできなかった。
ミランはルカーンに着くと同時に、アークティカから訪れている商人の情報を集めた。
特に、自身が勤めるタルフォン交易商会か取引の深いメハナト穀物商会の一行を探していた。
ルカーンは人口五万を擁する大都市で、来訪する商人の数は多い。アークティカの商人の噂をたどっても、簡単には出会えない。
ルカーンには、メハナト社、タルフォン社、アレナス造船所の合同出張所があるが、彼が到着した際は誰もいなかった。
表向き、アークティカとルカーンには国交がない。アークティカの行政府関係者の駐在はないので、公の情報さえ得られない。
だが、ミランは幸運だった。たまたま一人で遅い昼食のため食堂にいると、そこにアレナスで雑貨を扱っている商人と出会った。彼は前日にミクリンと偶然出会っていた。
しかも、ミクリンが滞在する宿を知っていた。
ミランがミクリンの投宿先を訪ねると、そこは女の子が一人で泊まるような宿ではなく、危険な臭いのする安宿だった。
ミクリンの部屋を訪ねた際、宿の主人はミクリンを売春婦、ミランはその客と解したようだ。
ミクリンは部屋にいて、ミランは掻い摘まんで事情を話した。
「ミクリン様。ご助力を賜りたい。
一つはフェイト様がラシュットに残されていた飛行機を運んでいます。
この荷の輸送を手伝っていただけますか?
もう一つは、メルトがラシュットで奴隷にされていたアークティカ人の少女を助けました。
その子はひどく怯えています。むさ苦しい男の私どもでは、どうにもできず……」
「飛行機……ですか?」
「ええ、三機目の飛行機です」
「……」
「今度の飛行機は六人も乗れます。シュン様のお話では、車輪が翼の中に仕舞えるそうで、フォッカー戦闘機並みの速度で飛ぶそうです。
壊れていますが、すごい飛行機です」
「それは!
重大なことではありませんか!
何が何でもアレナスに持ち帰らないと!
すぐに出発の支度をします」
ミクリンは宿を発つ準備を始めた。荷と呼べるほどの荷物はなく、大して大きくないボンサックにわずかな着替えを詰めるだけだった。
ミランは、アークティカの女性は強いと思っていた。心が強い。自分ができることを最善を尽くして実行する。
ミクリンもそんなアークティカの女性だ。
ミクリンが宿代を精算していると、ミクリンの後ろで待つミランに宿の主人が話しかけた。
「おい、若いの。
お前の歳で、この早さはないだろ」といって、ヘラヘラ笑った。
ミクリンが怒って、バシッと音を立てて平手に置いた銅貨を帳場の机に叩きつけた。
宿屋の主人は、ヘラヘラ笑ったままだった。
ミランたちの車列は、ルカーンの郊外に停車していた。周囲には、同様な隊商がキャンプしていたが、彼らの車列はひときわ目立っていた。
決して目立とうとしていたわけではない。むしろ、なるべく目立たぬようにしていたのだが、シートで覆っていても巨大で奇っ怪な荷は否応なく人目を引いていた。
ミクリンは、自分の商用を中止してでも貴重な飛行機を一刻も早くアークティカ領に運び込まなくてはならないと判断した。
「行きましょう。
すぐに出発です。
きっと、この飛行機はアークティカに絶対に必要なものだと思います」
三人の男は大きくうなずいた。
そして、パラスがミクリンの手を握ってきた。
ミクリンは、彼女の荒れた小さな手を強く握り返した。ミクリンがパラスの顔を見ると、パラスが見返してくる。ミクリンが微笑むと、パラスもぎこちなく微笑んだ。
この瞬間から、パラスはミクリンから離れなくなった。
焼損しているビーチクラフト・ボナンザ機の輸送は困難を極めた。
ルカーンの街中を避けるため、東に大きく迂回し、平坦な道を選んで進んだ。速度は通常の半分以下、老人が歩くほどの速さで、ただひたすらゆっくりと確実に歩を進めた。
アークティカの国境近くまで進むと、彼らは追跡を受け始める。
最初に気付いたのは意外にもパラスで、「同じ人がずっと後から付いてくるの」とクスノに伝え、彼らは警戒を始める。
私は、アレナスの行政府にボナンザの存在を伝えていなかった。
だが、アークティカとルカーンの国境に近付くにつれ、アークティカの商人たちが「タルフォンが巨大な何かを運んでいる」という噂をささやき、それは行政府にも伝わっていった。
チルルは同社総帥のネストルを行政府に呼び、事情を質〈ただ〉した。
ネストルは娘のような年齢のチルルに、いたずら小僧のような笑みを浮かべ、「あれはメハナトの荷だ」と言った。
チルルは、「また、シュン様ですか?
あのお方は、いてもいなくても、もめ事を起こすのですね」
「もめ事ではありません。あれは、アークティカを救うかもしれない、貴重な品なのですぞ」
「そのような重要なものが、行政府の許しもなく外国から運ばれてくるのですか?
もし、敵手に落ちたらどうするのですか!」
チルルは、怒ると言うよりも呆れていた。彼女の叱責は続いた。
「ネストル様、シュン様とくれば、当然、シビルス様も関係しているのですね?」
「いや、シビルス殿は深くは関係していません。
行政府長官閣下」
「怪しいですね」
「いや、本当です。ただ、運んでいる荷をシビルス殿の工場で直すだけです」
「直す?
いま運んでいる荷は壊れているのですか?」
「はい」
「何を運んでいるのです?」
「飛行機です。ボナンザという名で、六人が乗れるそうです。フェイトの養い親の機だったとか」
「まぁ、飛行機なら絶対に失ってはならぬものでしょう!
そんな大事なことを、なぜ行政府に相談しないのです!」
「いや、そのぅ、シュン殿が……」
「やはりシュン様ですね!
それは、それとして、国境まで軍を派遣します。
絶対に奪われてはなりません!」
行政府は、物々しい護衛隊を国境に派遣した。また、ネストルはルカーン領に護衛隊を派遣した。
ミランたちは、アークティカ領まで三〇キロまで迫った地点で、ネストルが派遣した護衛隊と合流できた。
同時に追跡者の人数も増えた。
ミランは襲撃に備えたが、追跡するだけで攻撃の意思を示さなかった。
時速三キロから五キロの超低速で、一日に四〇キロ進めた。明日は、国境にたどり着ける予定であった。
ネストルが派遣した護衛隊は、行政府の特別許可で連発銃を装備していた。タルフォン社の護衛隊は、アリサカ弾を発射するカルカノ騎銃を主装備としている。
ミランは、カルカノ騎銃を護衛隊から見せられて、心底ホッとした。
この銃があれば、誰にも負けない。だが、カルカノ騎銃は人目を避けて、隠し持たれていた。それが、少し不安であった。
その日、日没直後まで車列を進め、国境を越えてから防御に適した場所で野営となった。
行政府が送った部隊とも合流でき、隠されていたカルカノ騎銃も各員の背に担がれた。
結局、追跡者はアークティカ領には入らなかった。アークティカ領に入れば、アークティカの官憲に誰何〈すいか〉される恐れがあり、身柄を拘束される可能性もある。
その危険は犯さなかったわけだ。十中八九、神聖マムルーク帝国の間者だろうが、単なる物見だったらしい。
パラスはミクリンから一時も離れようとしなかった。ミクリンの姿が見えないと、必死で探した。
その痛々しい姿に、護衛隊員とアレナスの兵たちは涙した。
それでも少しずつ、パラスは心の平静、極度の不安感を和らげていった。
車列は四日をかけて、アレナスに到着した。ミクリンの仕事はここまでだった。
彼女はパラスを連れて行政府に赴き、ミランに代わってパラス保護のいきさつを説明した。
チルルがパラスをもてなした。チルルは、パラスの苦労をねぎらい、自分たち大人の不甲斐なさを詫びた。
パラスにはチルルの話はよく理解できないようであったが、自分がこの土地に住んでいいことだけは理解したようだ。
ミクリンがチルルにパラスの養育を申し出ると、チルルはパラスを引き取りたいと申し出ている人物がもう一人いることを伝えた。
ミランの妻、シレイラである。
ミクリンは独り身で、年も若く、パラスを育てる環境は何もない。そもそも、ミクリンの住まいは、アレナスの倉庫の一角なのだ。
しかし、パラスはミクリンを選んだ。
「パラスのお母さんは、会えないけどいるの。だから、新しいお母さんはいらないの。
お姉さんのほうが、パラスはいいの」
チルルはミクリンに二つの条件を出した。一つはイファに転居し、住居の支給を受けること。もう一つは、イファを留守にする際は、パラスを児童館に預けること。
この日、パラスはミクリンの住まいに泊まり、翌日、イファに向かった。
パラスとミクリンの新しい生活が始まった。
また、街の周囲を領土としており、国境線は明確に定義されている。国境線を他国の軍が越えれば、自動的に防衛体制をとる。国境線の要所には、砦が築かれていて、強固な防衛体制が整えられている。
産業は農業、毛織物業、製鉄業など。特に良質の刀剣を産することで有名だ。また、鉄製砲身の軽量野砲の産地としても名高い。
セムナは小国で、過去幾度となく他国の侵攻を受けてきたが、ことごとく退けてきたという。
神聖マムルーク帝国は、いま、内陸国にも触手を伸ばし始めている。
それに対抗するため、ダームとルカーンに同盟を求めているが、両国とも態度を明らかにしようとはしない。
セムナは焦りを感じていた。
カラカンダはヴェルンドの影響で、釣りを趣味にしていた。コルカ村にいた頃は、二人がルドゥ川で釣り糸を垂れている姿が、よく見られていたという。
カラカンダは街外れの小さな池で護岸に腰掛けて釣り糸を垂らし、物思いにふけっていた。以前なら、わずかな時間を惜しんで武芸に精進していたが、最近では心穏やかに過ごすのも悪くはないと思うようになっていた。
彼はそう思いながら「だめだな。シュン様の怠惰な考え方の影響かな」と、微笑みながら声に出していた。
カラカンダは、私が農具である山刀をマチェッテと呼んで差料〈さしりょう〉にしたことに大変驚き、「そのようなことは、いかなる武人もいたしません」と激しく窘めた。
私が「人殺しの道具なんて、何でもいいだろう」と言うと、「武人の戦道具は、人殺しの凶器とは違います!」と反論した。
だが、私が「でも、結果は同じだよね。それがわかっているから、軍人は戦争をしたがらない。戦争がしたいのは政治家だ」
カラカンダは反論しなかった。
カラカンダの左隣に、質素な身なりの品のいい老人が座り、「釣れますかな」と声をかけてきた。
間を置かず、右隣に少し離れて物騒な体格の男が座った。彼も釣り竿を水面に垂らしたが、釣り竿を振る動作は剣の素振りそのものだ。
「カラカンダ殿。貴殿の主君にお目にかかりたいのだが……」
カラカンダは一気に緊張した。
老人は釣果のないカラカンダの魚籠を覗き見て、話を続けた。
「最近の魚は口が肥えたようで、餌のえり好みが激しいようです。
この餌をお使いなされ」と言って、真鍮薬莢の小銃弾を渡した。
「では、これで」と老人が腰を上げた。その直後、物騒な体格の男が「今宵、お迎えにうかがいます」と耳打ちした。
カラカンダは、物騒な体格の男から一切の殺気を感じなかった。
カラカンダが息を切らして戻ってきた。この出来事を詳細に説明し、「逃げますか?」と言った。
メルトが「良家の令嬢とお見合いとか」と冗談を言い、カラカンダに拳固で頭をこづかれる。
カラカンダは、物騒な体格の男に注目していて、「あの体躯は、生半可な鍛錬ではないでしょう。王の側近か特別な立場の傭兵と思います」
私は「まぁ、会ってみるよ。それから、考えよう」
迎えは、二二時にやって来た。迎えのクルマは、何の変哲のない小型蒸気乗用車だ。カラカンダが同行を強く主張したが、クルマの運転手は同意せず、私も一人で行くことを了承した。
職種然とした服装の運転手は、明らかに階級の高い軍人であった。
私が連れて行かれた場所は、セムナ第一の豪商で、製鉄で財を築いたカリブムという男の別邸であった。
豪華な部屋に通されると、二人の男が部屋には似つかわしくない小ぶりなテーブルに向かって座っていた。
二人は立ち上がり、一人が「こちらへ」と招いた。
二人とも老人で、二人とも商人の風体だ。だが、一人は商人ではない。所作がぎこちないのだ。
「私は鉄を商っておりますカリブムともうします。こちらは、私の商い仲間でアルガンデアです」
この国の王の名は、アルガンデア一世。つまり、もう一人は王だ。
カリブムが手鈴を鳴らすと、同時に番頭らしき若者が、長さ一・五メートルほどのトレーを掲げて入ってきた。
「突然のお呼び立て、またわざわざのお越し、お詫びとともにお礼をもうしあげます」
番頭が一歩出た。
「これは、非礼のお詫びでございます」
カリブムがトレーに掛けられた濃紺の袱紗〈ふくさ〉を剥がすと、私の軍刀と非常によく似た刀が載せられていた。
柄や鞘の造作は立派で、医療器具になった軍刀とは雲泥の差だ。
カリブムが鞘を払うと、見事な刀身が光を放った。
「当家が作る刀は、他国とは製法が違います。刀剣は鋼鉄板から形状を切り出し、刃を削り、焼き入れ等を施して作ります。
当家の刀剣は、鉄塊をスチームハンマーで繰り返し鍛錬して形状を整えて作ります。
こちらの方が、刀身に粘りがあり、折れにくいのです」
基本的に日本刀と同じ作り方だ。
アルガンデアが初めて言葉を発した。声音は優しい。
「アークティカ王にふさわしい差料であろう?」
「私はアークティカ王ではありません。アークティカに王はいません」
「確かキュリアにも、そうもうされたとか」
私は咄嗟にキュリアという名前を思い出せなかったが、アルガンデアの次の言葉で気付いた。
「当家とパノリア王家は縁戚でね。
彼はよい婿殿だ」
キュリアとは、パノリア王レーモン二世のことだ。
「キュリア殿とは、バルティカとの会戦の折、戦場でお目にかかりました」
「そのときの話は、伝え聞いていますよ。
わずか二人の手勢で、アトリアの本陣を攻めたとか。街の吟遊詩人が飛びつきそうな武勇伝だが、そんな講釈を聞かぬところをみると、正真正銘誇張なしの真実なのでしょう。
回りくどい話はしたくないのです。
貴国に厚誼を賜りたい。
我が国との同盟をお願いしたいのです」
私はこの申し出に心底驚いた。さして縁のない遠国が、アークティカとの同盟を希望している。
これは何かの策略か、とも感じた。
カリブムが「こちらへ」と促し、続きの間に案内した。
その部屋は質素で、本来は給仕たちの控え室であった。
私の目に最初に飛び込んできたのは、駐退復座機を持つ七五ミリ級の野砲だった。
カリブムが「シュナイダー砲といいます」と紹介した。
単脚式砲架、液気圧らしい駐退復座機、隔螺〈かくら〉式の閉鎖機、防盾〈ぼうじゅん〉のデザインから、フランス国営兵器工廠が開発したM1897野砲が原型ではないかと推測した。フランスの兵器メーカーであるシュナイダー社開発の砲ではないが、そんなことはどうでもいい些事だ。
アルガンデアが小銃を見せて、説明した。
「グラース銃です。弾丸と発射薬、そして雷管を一つにまとめた金属薬莢を使って、銃身の後方から弾込します。
貴殿ならこの武器の意味がわかるはず。
我が国は、この砲と銃で、過去数百年間、独立を保ってきました。
しかし、帝国には屈するほかないかと、思案しているのです。
それを避けるために、貴国の支援を賜りたい」
私は事実をいった。
「現在、我がアークティカは、ローリア国王の計略によって、国内が乱れています。
十分にご存じでしょう」
アルガンデアは引かなかった。
「そのローリア王のおかげで、貴殿と会えたのです」
私は態度を決めることにした。
「アークティカの本来の指導者は、リケルという男です。
彼に貴国のことを伝えます。
約束します」
私は、宿に帰るとすぐにヴェルンドとシビルスに手紙を書いた。もちろん、シュナイダー砲の存在を知らせるためだ。
この重要な手紙をメルトに託し、彼にはアークティカに戻って貰うことにした。
また、カリブムにも我々がマーバに移ることを知らせる手紙を書いた。
我々がマーバに移ることに決めた理由は、メルトが仕入れてきた噂だ。
最近、ドーリスにアークティカ人の奴隷が売られた、というものだが真偽のほどは定かではない。
ドーリスは、マーバから南に一〇〇キロほど下った無領地のさらに南にある都市国家だ。
カラカンダによると、ドーリスは多くの傭兵を輩出し、それによって国の富とする、ある種の戦闘国家だ。国家自体が、傭兵を派遣する派遣会社みたいなものらしい。
主たる武器は全長四メートルに達する長柄の槍で、古典的な重装歩兵を基幹としている。彼らを雇う国が評価している点は、勇猛果敢な正規兵である重装歩兵ではなく、彼らが前衛で捨て駒に使う銃を装備した戦列歩兵の奴隷兵らしい。
ドーリスの奴隷兵は、家族を人質にされ、決死の覚悟で戦うという。家族を人質にされているので、ドーリスの正規軍には刃向かえない。家族の命を守るため、必死で戦うしかないのだ。
何とも理不尽な話だ。
ドーリスは国境を閉じており、他国人は入国できない。無領地にドーリスの屯所があり、用件を伝えると、担当者が赴き、その屯所で商談を行う。
ドーリスの街を見たものは誰もいないそうだ。
私とカラカンダは、アークティカ人の奴隷と聞いて、放っておくことはできなかった。パラスの例もある。あの子のような人々は、たくさんいるはずだ。
マーバの街は、周辺国と比べて豊かではない。土地は痩せており農耕には不適で、資源はないが、街の人口は一万人を超えるという。人口の六割は戦火を逃れて他国からやって来た難民か、元難民だ。
そんなマーバの市場は猥雑というか、少なくとも品行方正ではない。この街の基幹産業は、フーゾクでは、と考えたくなるほど、その種の店が多い。
また、盗品街もある。堂々と盗品が売買され、貴金属製品から武器まで、何でも売っている。当然、盗賊もいる。置き引きの類いから、高度に組織化された集団までいろいろ。
まぁ、面白い街だが、物騒ではある。
この物騒な街にもルールはある。盗賊は、マーバ街内で仕事をしてはならない、という鉄の掟が……。
私とカラカンダは、盗品街を探索していた。その理由は、シビルスの散弾銃やフェイトの養父が手に入れた三八式騎銃が、他の街の盗品街で見つかっていたからだ。
我々は、初日に大物を見つけた。AK‐47の軽機関銃タイプであるRPKだ。銃身先端の二脚と弾倉が失われているが、銃自体に損傷や部品の欠品はないようだ。
弾がないため店主が弱気で、銀の小粒一枚で手に入れた。
翌日には、スタームルガー・ミニ30が見つかった。この銃は、アメリカ合衆国の銃器メーカーであるスタームルガー社が開発したオーソドックスな木製銃床を持つ半自動小銃で、弾薬は七・六二×三九ミリ弾、つまりAK‐47と同じ弾を使う。弾倉も共用でき、本来は害獣駆除用の猟銃である。いわゆるランチ・ライフルだ。もちろん、買い叩いて購入した。
同じ弾を使う銃が、二日連続で見つかったことは、この種の銃器が相当数あることを意味している。
マーバの盗品街は特殊な場所だが、それでも発見する確率が高すぎる。
その後七日間、毎日探したが、この世界の武器以外は一切見つからなかった。
この街には、ガラクタ市もある。本当にガラクタばかりで、役に立ちそうなものはないのだが、それでも人が集まっている。青空の下、地面に品を並べて売っている。
どこで拾ってきたのか、穴のある鍋や切っ先の折れた刀、柄のないスコップなど、びっくりするものが売られている。
カラカンダに「切っ先の折れた刀はどうするんだ」と尋ねると、「先端を削って、切っ先を新たに作ります」と答えた。
折れた刀も役に立つわけだ。
我々は一〇日間、このガラクタ市を巡った。捜し物は特定していないが、カラシニコフ銃の弾を探していることは確かだ。
我々は、今日を最後にしようと申し合わせたその日の午前中、カラカンダが蓋をされた取っ手の壊れた鍋の中から、AK‐47の空弾倉を見つけた。
我々は、鍋や壺などを見る際、その中も覗くことにした。
そして、色づけされた美しい大きな壺、縁が欠けていなければ盗品街の商品になっていたであろう壺の中から、AK‐47の弾を六〇発ほど発見する。
店主に同じものが他に売っていないか尋ねると、別の店を紹介してくれた。
結局、四店がカラシニコフ弾を持っていて、一店は弾倉付だった。計二〇〇発はある。
正直、驚くと同時に、危機感が高まった。セムナが強力な武器とする、ボルトアクション単発のグラース銃は一九世紀の武器だが、その隣の街では二一世紀でも現役の武器が売られている。
もし、セムナがグラース銃ではなくカラシニコフ銃を手に入れていたら、こちらをコピーしただろう。
マーバは、そのチャンスをつかまなかっただけだ。
さすがに二〇日に及ぶ盗品街とガラクタ市の探索に飽きていたが、カラカンダが私に、「このまま、マーバに留まって大丈夫なのですか?」と問うた。
私は「ん?」と言ったか言わないかの反応をすると、カラカンダは「マーリン様とリシュリン様にばれると……」と心配そうな顔をする。
「盗品街やガラクタ市を回っていたことは事実ですが、お二人がそれを信じるとは思いませんが……」
そうだ! その通りだ!
カラカンダは続けた。
「少なくとも、一度もそういった店に行かなかったとは思わないでしょう。
シュン様の日頃のご行状からすれば……」
私は、逃げるようにマーバを後にすべく、今夜中に荷支度をするようカラカンダに頼んだ。
翌日、私とカラカンダは、南に向かって出発した。
ミランは、西方世界の東辺にあるタイバルという小さな領地の世俗領主であった。世俗領主である彼が、アークティカにやって来た理由は、実に世俗的な理由である。
世俗的、具体的には、嫉み、欲、恨みといった精神の根源にある醜悪な争いごとから、彼は故郷を追われた。
この旅の徒然で、私は彼から断片的に現在に至った事情を聞くことができた。
ミランの祖先は、三〇〇年ほど前に勃発した西方動乱と呼ばれている群雄割拠の際に、極西方から西方東辺に移り住んで、一介の騎士から立身出世を果たして、かなり広い領地を得た。
しかし、三〇〇年という時間は、ミランの家系に多くの分家を生み出すこととなり、彼の父の代には自分たちの生活にさえ事欠くほどの糧しか得られぬ小領主になっていた。
しかも本家当主であるミランよりも多くの領地を持つ分家が五つもあり、彼らは何事であっても本家とことごとく対立していた。
この五つの分家は、正統五家と呼ばれていた。
それを回避するため、また一族の統制を守るため、本家当主となるものは代々、正統五家から順に婚姻を結ぶことになっていた。
純粋な政略結婚である。
しかし、彼の父の代になって、正統五家よりも財を得た有力分家が三家現れる。
これが、興隆三家だ。
彼らの財の源は、他国との通商であった。土地を有し、その土地から得られる作物の多少で、国力を計れる時代が終わり、交易という国威を示す新たな価値観が生まれた。
ミランの父も商才に長けた男で、通行税を免除することで商人の交通を助け、東西交易の中継として、彼らの拠点であるラーへの街を発展させた。
織田信長などの楽市・楽座に似た政策だった。
そして自らも交易を行い、多くの富を得た。
その結果として、彼の父は世継ぎであるミランに「正統五家から妻を娶らなくてもよい」とした。
これは、彼の父と同様に交易で勢力を伸ばしている興隆三家に対する配慮であると同時に、正統五家に対する明確な「時代は変わった」というメッセージでもあった。
ミランは異界人であるリュイス・ボレルの末娘シレイラを妻とすることにした。
彼の父は三歳年上の姉さん女房を選んだことを大変喜び、ミランの慧眼を褒め称えた。
しかし、彼の母は面白くなかった。
また、順送りでミランの妻を出すはずであった正統五家も大いに怒った。
そんな状況下で、ミランの父が暗殺された。一族は疑心暗鬼となり、犯人捜しが始まる。
ミランの母が疑われ、嫁を出すはずであった分家の当主が疑われ、当主と鋭く対立していた別の分家が疑われ、一族の結束が崩れていく。
ミランは、そんな不穏な情勢下で家督をつぐ。
当主になると、味方は誰もいなかった。分家すべてが離反し、内戦勃発の不穏な空気が流れ始める。
その間隙を突くように、西方教会が勢力を伸ばし、奴隷商人が跋扈するようになる。
若干一六歳のミランには、この状況を変えることができなかった。
西方教会は、彼の領地で勝手に住民から布施を徴収し始め、それができなければ領民を奴隷商人に引き渡した。
わずか一年で、ミランは真正の領主から名目上の領主に成り下がった。
しかし、彼よりも彼の領民のほうが悲惨だった。
分家の多くは西方教会に従うか、領地を去った。ある小分家の一族郎党と領民は、土地を捨てて北方に逃れた。
ミランには、西方教会と奴隷商人に抗する手段は何もなかった。
そんな状況下、彼の居城の目と鼻の先に言葉を解さない男が現れた。
私だ。
その男は、奴隷の女と奴隷の鍛冶職人、そして教会から離脱した脱走僧兵、さらには幼女を束ねて奴隷商人軍と戦い、勝った。
この隙をミランは逃さなかった。西方教会と奴隷商人を西に駆逐することに成功する。
だが、奴隷商人はミランよりも権謀術数に長けていた。
分家を巧妙に操って、ミランの殺害を企てた。ただ、表向きは放逐とされていた。
この計略は、ミランの母も加わっており、ミラン放逐後は彼の弟が家を承継することになっていた。
だが、ミランは戦った。ミランはまず財のある領民を他国に逃し、奴隷は自由民とし、財の乏しい領民は信頼できる数少ない家臣に託して南に逃した。
最後の逃亡戦では、兵一〇と領民五〇が従っていた。領民の多くは、病などで留まる以外にない家族を抱えた人々ばかりであった。
ミランは、彼の妻の父、義父が残した「矢玉を弾く船」を大型貨車に載せ、その船に領民を乗せ、三重連結の大型蒸気牽引車で牽き、南の白い海沿岸を目指した。
南に向かえば抗争中の分家領があるが、その先に大きな湖があり、そこまで船を運べれば、川を下って白い海に出られる。
カーボンファイバー製のテンダーボートは、マスケット銃の滑腔銃身から発射される球形弾など貫通しない強靱な船体である。
エルプスが船を運び、ミランが進路を啓開し、ジャベリンが最も危険な殿〈しんがり〉を務めて、一〇〇キロもの山道を進んだ。燃水は、敵分家領で強奪したそうだ。
正統五家はラーへ攻略の直前、用済みとなったミランの弟を殺した。実母は実家に戻され、本家の血筋を殲滅する戦いが始まった。
ミランに従う家臣は極端に少なく、特に上級貴族は一人もいなかった。また、高級官吏は、落ち目の主家を捨て分家側に寝返るものが多かった。
だが、居城の下働き、一般民衆と接することが多い下級官吏、半農で生計を立てる下級騎士の中には、ミランと最後まで行動を共にすると言い張る郎党がいた。
これは、ミランの人柄なのだろう。
ミランたちは数百の敵と闘いながら、わずか一〇名の兵士と戦闘力のない農民や街人を一人も失うことなく、湖にたどり着いたと言う。
一族間の近親憎悪と欲得が絡み、それに奴隷商人と西方教会の思惑が加わって、肉が裂け血が吹き出す壮絶な脱出行であったらしい。
ことの始まりは、ジャベリンの不安であった。
ミランは領主としては賢王だろう。しかし、政治家としては未熟だ。
タイバル国は統制された体制下にはなかった。外交と対外戦争は、本家当主であるミランに権限があったが、正統五家や興隆三家などが、勝手に対外交渉を行っていた。
ある意味、このバラバラな対応が他国からすると誰と交渉していいのかわからず、外国からの圧力を分散させ国を守る防壁になっていた。
だが、西方教会や奴隷商人は国家ではないので、タイバルの本家と分家個々に交渉し、彼らに要求を突きつけていった。
彼らの要求の基本である、領民の三割を奴隷として供出すること、人口減少分の奴隷を買うこと、に対して全分家は従ったが、本家が拒絶した。
妥協条件として、領民の人口一割分の奴隷を購入するとした。
ミランは巧妙に立ち回っていたが、徐々に追い詰められていく。西方教会と奴隷商人の手先となって圧力をかけたのが、分家筋であった。
各分家は、大なり小なりミランの行動を、一族の和を欠くもの、とみなしていた。
特にミランが決した、領民の三割供出拒否は、西方の侵攻を恐れる一族にとって、由々しき問題であった。
そして、本家討つべし、の機運が高まっていく。これを裏で画策したのが、西方教会であり、奴隷商人であり、弟を当主にと願うミランの実母だった。
分家すべてを敵に回せば、ラーへの陥落は不可避となる。
ミランは無益な戦いを避け、いくつかの小分家が実行した領民の国外脱出を企てた。
ジャベリンは、領地脱出の妙策の立案を義弟であるエルプスに依頼した。ミランの領地は東西に狭く南北に長い。ラーへの南に向かえば、自領を進むことができる。さらに、カル湖に到達できれば、以降は水路で白い海北岸に達することができる。
エルプスの父親が子に残した最も大きい遺産は、彼の父親が異界からもたらしたテンダーボートだ。船体はカーボンファイバー製で、極めて強靭・軽量。小銃弾はもちろん、重機関銃弾さえ貫通しない。
エルプスは、テンダーボートを積載する特殊なトレーラーを製作し、テンダーボートに最後まで従う郎党と彼らの家族を載せることにした。テンダーボートは、本来の用途とは異なる救命艇になった。
エルプスが無人となったはずの城内を見まわっていると、庭師が住む家に人の気配があった。
この家の庭師夫婦は、西方教会教皇に献上する荷車の前を横切った罪で、その場で斬り捨てられた。
無礼討ちである。
この世界では、無礼討ちにルールがある。身分が高位のものは下位のものに対して無礼討ちが許されるが、無礼討ちにされるものは抵抗が許される。抵抗は大剣・太刀を抜かず、短剣・脇差で行う。
無礼討ちを宣されたのち、短剣・脇差で返り討ちにしても罪は問われない。抵抗者は、代理でもよく、また討たれた直後であれば仇討ちが許される。仇討ちも代理が許される。
そのため、無礼討ちはない。
だが、庭師夫婦は不運であった。教皇庁の護衛僧兵は傍若無人。人の命を損なうことを、まったく厭わない。面白半分で人を斬ることもある。
他領ならこれで終わりだった。
この瞬時の様子をジャベリンが見ていた。自領での暴虐をミランは許さない。ジャベリンは「我が友夫婦の仇、公規に則り討つ!」と宣すると、背中の大剣ではなく、腰に下げた長剣を引き抜き、一〇人の護衛僧兵を瞬く間に斬り捨てた。
ミランは、この庭師夫婦のことをよく知っていた。彼は幼少の頃、この庭師の家を度々訪れ、菓子や飲み物を馳走になっていた。彼が落ち着ける、数少ない居場所であった。
エルプス自身は、この庭師夫婦を知らなかった。ただ、城内に残っていては死しかないのだから、誰であれ残してはいけない。
その思いだけで、庭師の家の扉を開けると、怯えきった少女と身を起こすことさえできない老婆がいた。
エルプスが「何をしている。早く逃げなさい!」と言うと、少女が「おばあちゃんを残していけない!」と絶叫した。
エルプスは有無を言わさず老婆を背に担ぎ、少女の手を引いてエンダーボートに向かった。
テンダーボートには最大一〇〇人が乗れる。すでに六〇人以上が乗っていた。
ジャベリンは城門近くで防戦を繰り広げており、ミランは進路の敵を排除し始めている。
蒸気牽引車には、正運転手と助手の二人を配置し、テンダーボート上にはマスケット銃を持った男女が配された。その中にジャベリンの妻シュクスナがおり、彼女は父親の形見であるM1Dガーランド狙撃銃によって、車列の全面で戦闘するミランを援護した。
テンダーボートには、高齢者、傷病者、幼児、妊婦など、家族の手を借りても逃げられない人々が乗っていた。ミランの身重の妻シレイラもその一人であった。
蒸気牽引車はゆっくりと、確実に前進したが、彼らが向かう湖は遠く、そして敵中を突破しなければたどり着けない。
敵はあらゆる場所におり、奇襲的に攻撃を仕掛けてきたが、各分家の兵は連携を欠いていて統制がとれていなかった。
また、分家の下級兵士の多くは主家の行動に対して、必ずしも賛意を持ってはおらず、形ばかりの消極的な攻撃も多かった。
ミランたちは一五時間かけて湖にたどり着いたが、そこにはミランたちと最も対立していた分家が兵を揃えて待ち構えていた。
エルプスは、貨車からテンダーボートを湖面に降ろす時間的余裕がないことを悟った。彼は、運転手たちに蒸気牽引車ごと湖に突っ込むよう命じた。
「蒸気車はここで捨てる。
湖に突っ込め!
船と貨車の縛めを解け!」
エルプスの絶叫が湖水の上を走った。
蒸気牽引車は、その出せるパワーのすべてを発揮して、街道から湖岸に向けて突進を始めた。湖岸は幸運にも小石が交じる砂地で、蒸気牽引車は砂を踏みしめて水辺に向かっていく。周囲はまばらに灌木が茂る平地で、この地方では珍しく地形の起伏が激しい。
蒸気牽引車の運転手たちは、運転しながら上着と靴を脱いだ。湖岸まで降りると、助手たちは運転台から飛び降り、貨車と船を固定するロープを剣で断ち切った。
そして、彼らは必死で防戦する騎士たちの乱戦に加わった。
湖に低速で進入していく蒸気牽引車は、車体が没する瞬間、湖水によってボイラーの炎が消え、冷たい湖水が高圧・高温のボイラーを急激に冷却した。
ボイラーが爆発・破壊される瞬間、運転手が湖面に飛び込んだ。後続する蒸気牽引車の運転手も次々に飛び込む。
先頭から2輌目の蒸気牽引車のボイラーが爆発した。
そのエネルギーで、テンダーボートが貨車から離れる。
運転手たちは必死に泳いで、テンダーボートの舷側にしがみつき、船上からの手助けで甲板に引き上げられた。
シュクスナは、夫と義弟たちが必死で戦う湖岸に向けて、必殺の弾丸を放っていった。
また、船上の何人かがマスケット銃に弾込して、次々と発射する。
船上に移った運転士たちも、マスケット銃を発射する。
ミランとジャベリンたちは、順次武器を捨てて湖に飛び込む。
湖面を泳ぐ無防備なミランたちを援護するため、船上からありとあらゆる飛び道具が射られた。マスケット銃、半弓、弩、そしてシュクスナのM1Dガーランド狙撃銃だ。
エルプスは、陸路の逃避行中に太陽光パネルを使って、テンダーボートのバッテリーに不十分ながら充電をしておいた。
その貴重でわずかな電力を使って、ゆっくりと船を旋回させ、船体をミランたちと湖岸の敵の間に入れた。
敵は青銅製前装式滑空野砲を用意し、弾の装填を始めた。
砲口から火薬が注がれ、次に球形弾が押し込まれた。
エルプスは、その様子を窓越しから見ていた。
反対側の窓からずぶ濡れのミランが顔を差し込んで、「もう少し待って!」と怒鳴った。
湖岸では松明に火がつけられ、火口に火薬が注がれていく。
エルプスの背後からジャベリンが、「全員乗船!」と告げた。
エルプスは始動しておいた一〇〇〇馬力ターボチャージドディーゼルのスロットルを全開にする。
テンダーボートが、まるで高速艇のようにダッシュし、湖の沖に向かって突進していく。
無垢の鉄塊の砲弾が、遙か後方で湖面に無意味な水柱をあげた。
その後、彼らは白い海の西岸に出て、南岸沿いを東に向かった。
港を見つけると寄港し、希望者をその土地で下ろした。その際に、ミランは金子〈きんす〉を与えた。
そして、ミラン、シレイラ、ジャベリン、シュクスナ、ライマと彼女の祖母は、無一文となってアークティカの海岸にたどり着いたのだった。
ルカーンの街は、海岸から七〇キロほど離れた内陸にある。
ミランがルカーンに到着したとき、偶然、ミクリンが商用で訪れていた。
ミランたちは、優しいお兄さん、面白いおじさんを必死で演じていたが、パラスの心の奥に仕舞い込まれた根源的な恐怖を取り除くことはできなかった。
ミランはルカーンに着くと同時に、アークティカから訪れている商人の情報を集めた。
特に、自身が勤めるタルフォン交易商会か取引の深いメハナト穀物商会の一行を探していた。
ルカーンは人口五万を擁する大都市で、来訪する商人の数は多い。アークティカの商人の噂をたどっても、簡単には出会えない。
ルカーンには、メハナト社、タルフォン社、アレナス造船所の合同出張所があるが、彼が到着した際は誰もいなかった。
表向き、アークティカとルカーンには国交がない。アークティカの行政府関係者の駐在はないので、公の情報さえ得られない。
だが、ミランは幸運だった。たまたま一人で遅い昼食のため食堂にいると、そこにアレナスで雑貨を扱っている商人と出会った。彼は前日にミクリンと偶然出会っていた。
しかも、ミクリンが滞在する宿を知っていた。
ミランがミクリンの投宿先を訪ねると、そこは女の子が一人で泊まるような宿ではなく、危険な臭いのする安宿だった。
ミクリンの部屋を訪ねた際、宿の主人はミクリンを売春婦、ミランはその客と解したようだ。
ミクリンは部屋にいて、ミランは掻い摘まんで事情を話した。
「ミクリン様。ご助力を賜りたい。
一つはフェイト様がラシュットに残されていた飛行機を運んでいます。
この荷の輸送を手伝っていただけますか?
もう一つは、メルトがラシュットで奴隷にされていたアークティカ人の少女を助けました。
その子はひどく怯えています。むさ苦しい男の私どもでは、どうにもできず……」
「飛行機……ですか?」
「ええ、三機目の飛行機です」
「……」
「今度の飛行機は六人も乗れます。シュン様のお話では、車輪が翼の中に仕舞えるそうで、フォッカー戦闘機並みの速度で飛ぶそうです。
壊れていますが、すごい飛行機です」
「それは!
重大なことではありませんか!
何が何でもアレナスに持ち帰らないと!
すぐに出発の支度をします」
ミクリンは宿を発つ準備を始めた。荷と呼べるほどの荷物はなく、大して大きくないボンサックにわずかな着替えを詰めるだけだった。
ミランは、アークティカの女性は強いと思っていた。心が強い。自分ができることを最善を尽くして実行する。
ミクリンもそんなアークティカの女性だ。
ミクリンが宿代を精算していると、ミクリンの後ろで待つミランに宿の主人が話しかけた。
「おい、若いの。
お前の歳で、この早さはないだろ」といって、ヘラヘラ笑った。
ミクリンが怒って、バシッと音を立てて平手に置いた銅貨を帳場の机に叩きつけた。
宿屋の主人は、ヘラヘラ笑ったままだった。
ミランたちの車列は、ルカーンの郊外に停車していた。周囲には、同様な隊商がキャンプしていたが、彼らの車列はひときわ目立っていた。
決して目立とうとしていたわけではない。むしろ、なるべく目立たぬようにしていたのだが、シートで覆っていても巨大で奇っ怪な荷は否応なく人目を引いていた。
ミクリンは、自分の商用を中止してでも貴重な飛行機を一刻も早くアークティカ領に運び込まなくてはならないと判断した。
「行きましょう。
すぐに出発です。
きっと、この飛行機はアークティカに絶対に必要なものだと思います」
三人の男は大きくうなずいた。
そして、パラスがミクリンの手を握ってきた。
ミクリンは、彼女の荒れた小さな手を強く握り返した。ミクリンがパラスの顔を見ると、パラスが見返してくる。ミクリンが微笑むと、パラスもぎこちなく微笑んだ。
この瞬間から、パラスはミクリンから離れなくなった。
焼損しているビーチクラフト・ボナンザ機の輸送は困難を極めた。
ルカーンの街中を避けるため、東に大きく迂回し、平坦な道を選んで進んだ。速度は通常の半分以下、老人が歩くほどの速さで、ただひたすらゆっくりと確実に歩を進めた。
アークティカの国境近くまで進むと、彼らは追跡を受け始める。
最初に気付いたのは意外にもパラスで、「同じ人がずっと後から付いてくるの」とクスノに伝え、彼らは警戒を始める。
私は、アレナスの行政府にボナンザの存在を伝えていなかった。
だが、アークティカとルカーンの国境に近付くにつれ、アークティカの商人たちが「タルフォンが巨大な何かを運んでいる」という噂をささやき、それは行政府にも伝わっていった。
チルルは同社総帥のネストルを行政府に呼び、事情を質〈ただ〉した。
ネストルは娘のような年齢のチルルに、いたずら小僧のような笑みを浮かべ、「あれはメハナトの荷だ」と言った。
チルルは、「また、シュン様ですか?
あのお方は、いてもいなくても、もめ事を起こすのですね」
「もめ事ではありません。あれは、アークティカを救うかもしれない、貴重な品なのですぞ」
「そのような重要なものが、行政府の許しもなく外国から運ばれてくるのですか?
もし、敵手に落ちたらどうするのですか!」
チルルは、怒ると言うよりも呆れていた。彼女の叱責は続いた。
「ネストル様、シュン様とくれば、当然、シビルス様も関係しているのですね?」
「いや、シビルス殿は深くは関係していません。
行政府長官閣下」
「怪しいですね」
「いや、本当です。ただ、運んでいる荷をシビルス殿の工場で直すだけです」
「直す?
いま運んでいる荷は壊れているのですか?」
「はい」
「何を運んでいるのです?」
「飛行機です。ボナンザという名で、六人が乗れるそうです。フェイトの養い親の機だったとか」
「まぁ、飛行機なら絶対に失ってはならぬものでしょう!
そんな大事なことを、なぜ行政府に相談しないのです!」
「いや、そのぅ、シュン殿が……」
「やはりシュン様ですね!
それは、それとして、国境まで軍を派遣します。
絶対に奪われてはなりません!」
行政府は、物々しい護衛隊を国境に派遣した。また、ネストルはルカーン領に護衛隊を派遣した。
ミランたちは、アークティカ領まで三〇キロまで迫った地点で、ネストルが派遣した護衛隊と合流できた。
同時に追跡者の人数も増えた。
ミランは襲撃に備えたが、追跡するだけで攻撃の意思を示さなかった。
時速三キロから五キロの超低速で、一日に四〇キロ進めた。明日は、国境にたどり着ける予定であった。
ネストルが派遣した護衛隊は、行政府の特別許可で連発銃を装備していた。タルフォン社の護衛隊は、アリサカ弾を発射するカルカノ騎銃を主装備としている。
ミランは、カルカノ騎銃を護衛隊から見せられて、心底ホッとした。
この銃があれば、誰にも負けない。だが、カルカノ騎銃は人目を避けて、隠し持たれていた。それが、少し不安であった。
その日、日没直後まで車列を進め、国境を越えてから防御に適した場所で野営となった。
行政府が送った部隊とも合流でき、隠されていたカルカノ騎銃も各員の背に担がれた。
結局、追跡者はアークティカ領には入らなかった。アークティカ領に入れば、アークティカの官憲に誰何〈すいか〉される恐れがあり、身柄を拘束される可能性もある。
その危険は犯さなかったわけだ。十中八九、神聖マムルーク帝国の間者だろうが、単なる物見だったらしい。
パラスはミクリンから一時も離れようとしなかった。ミクリンの姿が見えないと、必死で探した。
その痛々しい姿に、護衛隊員とアレナスの兵たちは涙した。
それでも少しずつ、パラスは心の平静、極度の不安感を和らげていった。
車列は四日をかけて、アレナスに到着した。ミクリンの仕事はここまでだった。
彼女はパラスを連れて行政府に赴き、ミランに代わってパラス保護のいきさつを説明した。
チルルがパラスをもてなした。チルルは、パラスの苦労をねぎらい、自分たち大人の不甲斐なさを詫びた。
パラスにはチルルの話はよく理解できないようであったが、自分がこの土地に住んでいいことだけは理解したようだ。
ミクリンがチルルにパラスの養育を申し出ると、チルルはパラスを引き取りたいと申し出ている人物がもう一人いることを伝えた。
ミランの妻、シレイラである。
ミクリンは独り身で、年も若く、パラスを育てる環境は何もない。そもそも、ミクリンの住まいは、アレナスの倉庫の一角なのだ。
しかし、パラスはミクリンを選んだ。
「パラスのお母さんは、会えないけどいるの。だから、新しいお母さんはいらないの。
お姉さんのほうが、パラスはいいの」
チルルはミクリンに二つの条件を出した。一つはイファに転居し、住居の支給を受けること。もう一つは、イファを留守にする際は、パラスを児童館に預けること。
この日、パラスはミクリンの住まいに泊まり、翌日、イファに向かった。
パラスとミクリンの新しい生活が始まった。
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