里穂の不倫

半道海豚

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Episode-17 墓穴を掘るものと埋めるもの

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 日を追って寒くなっています。
 今冬も異常気象の影響で、雪国は大雪になるとの予報が出ています。
 11月第1週金曜日は、有給休暇消化日となりました。木曜日から日曜日まで4連休になります。
 平日の金曜日は、娘はオンライン授業、夫は仕事を前倒しで進め、私に付き合ってくれるそうです。

 4連休第1夜、夫は私に「動画があるんだが、見るか?」と尋ねます。
 誰かがひどいことをされる動画は見たくないので、私は震える声で「どんな……?」と尋ねます。
「動画の送り主は、安曇聖子だと言っている。
 俺には判別できない。顔にレースのマスクを着けている。目隠しのようだが、見えていると思う。
 カメラは固定だが、アングルがいい。ほぼ、ベッドの斜め上から取られている。
 尺は58分もある。
 ごく最近のものだ。
 カメラの解像度は高いが、レンズに球面収差があり、画質はよくなかった。
 俺が収差を補正して、鮮明化した」
「レイプ動画?」
「いいや、お楽しみ動画だ」
「どこで撮られたの?」
「たぶん、アルカディアだろう」
「私は何をすればいいの?」
「登場人物は3人。
 誰が映っているのか確認してほしい。
 本当に安曇聖子かどうかも」
「安曇さんとは2回か3回しか話したことはないけど、会議とかでは何度もお目にかかっているから、わかると思う」
「再生するけど、その前に舞が寝ているか、確認して」
 私は、舞の部屋に行きました。

「よく寝てたよ」
「じゃ、再生する」
 私は、夫の17型モニターの大きなノートパソコンの画面に目を向けます。

 部屋に3人が入ってきました。シティホテルのかなり広い部屋のようですが、調度品は高級感があります。
「カメラは1台だが、動体に追従するようだ」
 監視カメラの映像とは隔絶した、鮮明な画質です。音声はありません。
 女性は遠目ですが、安曇聖子さんのようです。女性は男性2人に指示しています。身振り手振りから、明らかな上下関係があるようです。
 男性2人はビジネススーツを着ていますが、ネクタイはしていません。
 1人の男性が、ダブルベッドの上に大人の玩具を並べます。
「この男の人は関連会社の社員だと思う。もう1人はわからない……」
 日サロ男は見かけたことがありますが、色白優男はまったく知りません。
「間違いなく、安曇聖子さんだと思う」
 安曇さんがベッドサイドに座ると、色白優男がマスクのような目隠しのような微妙なレースを安曇さんの目に着けます。
 とても丁寧であり、すべての指示は安曇さんがしています。
 2人の男性は、指示命令に極めて従順に従っているように見えます。
 安曇さんは日サロ男と長いキスをし、続いて色白優男とも抱き合ってキスします。
 その間に、日サロ男は安曇さんのタイトスカートを脱がします。
 日サロ男は安曇さんのお尻をもみしだき、2つの丘にキスをします。
 安曇さんが何かを言うと、2人の男性は同時に服を脱ぎます。2人ともフル勃起です。 安曇さんが服を脱ぐのを手伝い、日サロ男がブラを外し、色白優男がショーツを脱がします。
 安曇さんが浴室に行き、日サロ男が続きます。
 部屋に残った色白優男が、脱いだままの安曇さんの衣服を丁寧に畳み、ソファーの上に置き、ブラとショーツも丁寧に扱います。
 日サロ男だけが戻ってくると、色白優男が浴室に向かいます。
 その間、日サロ男は女性の下着を準備します。
 安曇さんと色白優男が戻ってくると、安曇さんが何かを言い、2人は軽く頷きます。
 色白優男が安曇さんに下着を着けます。
 ブラはオープンブラで乳房の下3分の1程度を隠し、乳首は見えています。
 ショーツも履かせます。
 安曇さんはハイジニーナです。毛がありません。
 場面によっては、真上に近いアングルなので、わからないこともありますが、画質は鮮明です。
 安曇さんは立ったまま両手をベッドの角に付き、足を軽く広げます。
 日サロ男が挿入、色白優男は安曇さんの口に入れます。
 日サロ男と色白優男は、この行為を何度か交代し、安曇さんは声を出しているようです。

 ここまでで、夫が動画を止めます。
「安曇聖子に間違いない?」
「絶対に間違いない」
「もう少し見る?」
「おもしろいから見る」
「……」
 私が微笑むと、夫が困惑。
「3Pなんて、しないぞ」
「私もやだよ。でも、あの安曇さんの行為が見られるなんて、最高だよ。
 会議では、吊し上げるんだよ。関係会社の役員だからって、本社の部長クラスでも平気で……」
「なるほどね」
 夫は私の心情を理解したようです。

 安曇さんがベッドに仰向けで寝ます。その頭を丁寧に持ち上げ、日サロ男が枕を差し入れます。
 色白優男が差し出すと、安曇さんは何の躊躇いもなく咥えます。
 安曇さんから指示された日サロ男が、一番大きな道具を差し込みます。
 日サロ男はバイブを前後に動かし、安曇さんは何度も身体をくねらせます。
 色白優男は小さなバイブを安曇さんの乳首に這わせ、安曇さんはこれにも反応しています。
 安曇さんが何かを言い、色白優男が、安曇さんに挿入、日サロ男はフェラの相手をします。
 色白優男は10分ほどで出し、日サロ男が交代して、やはり10分ほどで果てました。

 安曇さんが息を整え終わると、日サロ男と色白優男の行為が始まります。
 安曇さんはそれを笑顔で見ています。
 色白優男に日サロ男がバックで挿入すると、安曇さんは日サロ男のお尻を何度も叩きました。
 挿入されている色白優男の顔の下に身体を差し込み、彼女の股間を舐めさせます。

 最後は安曇さんと色白優男が正常位で交わり、色白優男に日サロ男がバックで挿入します。

 私が「男の人は……」と問うと、夫が「たぶん、専属の男娼だろう」と。
「安曇さんは何をしていたの?」
「個人的なお楽しみ兼新人男娼の味見じゃないかな」
「じゃぁ」
「あぁ、動画の撮影場所がアルカディアなら、安曇聖子がアルカディアの責任者だ。
 川口さんたちの読み通り、彼女が性接待の元締めだよ」
 私は考え込みました。
「どうするの?」
「これはこのまま。
 いま危険が迫っているのは善波一家だ。
 理由は何でもいい。
 逮捕できなくても、任意なら引っ張れる。
 警察はね。
 おそらく、狭間社長は首相に泣きつく。もっともらしい理由を作って、奈々さんの再婚を壊してくれ、とね。みっともない男だ。
 首相はそれを警察庁長官に命じる。
 善波が任意の聴取を受ける。身に覚えのないことでね。サイバー犯罪なんて、ゴロゴロしているんだから、こじつけてしょっ引くだろう。
 だが、年内は大丈夫だ。
 まだね。
 年明けがあぶない。通常国会が始まる前に、どさくさに紛れて何かをしてくる可能性が高い」
「どうするの?」
「警察庁長官に死んでもらう」
「え!」
「自死してもらう」
「……」
「忠犬が死ねば、善波に危害は及ばない」
「でも……」
「あの首相の忠犬だ。叩けば埃がわんさか出てくる。
 もうアルカディアを閉鎖しても間に合わないよ。延べ時間にして7200時間以上の動画を確保しているんだ。
 その膨大な中から、忠犬を探し出すのは簡単じゃないが、必ずある。
 警察庁内ではパワハラとセクハラの常習者で、厄介者扱いらしいし、女好きでも有名で、公安はいざというときのために忠犬の身辺を嗅ぎ回っているようだ。
 そういうクズさ。
 まぁ、死ぬか死なないかは個人の判断だけど。こっちは、自死するほどの追い込みをかける」

 異世界の大人動画を見て、深刻な話をしたので、私は飲まずには眠ることは不可能でした。
 夫がウィスキーのロックを作り、燻製のササミをオーブンで焼いてくれて、それを肴に飲み始めます。
 完全な絡み酒です。
 しかも「右と左の乳首をつまんで、同時にクリを指でして」と、不可能な要求を次々とします。
「クリを舐めながら、入れて」
「俺、体操の選手じゃないよ」
「どうして、私のちっぽけなお願いを聞いてくれないの?
 もう好きじゃないの?」
 夫は相当に困ったようで、ついに私を無理矢理ベッドに連れていって、強引に始めたのです。

 泥酔に近いのにすごくよかった。
 朝起きたら、よかった感覚しか残っていませんでした。
 裸でした。
「ごめんなさい……」
 夫は笑っています。
「勝手にしちゃった」
「うん、よかった」
「覚えてないだろ?」
「はっきりとは。
 でもよかった」
「結構抵抗してたぞ」
「そうなんだ。
 でも、よかった。
 縛られる次によかった」
「じゃぁ、手を縛ればよかったね」
「次は縛っていいよ」
「はい、はい」
「もう少し寝ていたい」
「おいで」
 私は夫の胸に潜り込みました。

 夫は安寿さんの身を気にしています。お父様だけでは守り切れないでしょう。
 私には夫が、奈々さんには善波さんがいますが、安寿さんにはお父様しかいないのです。
 みんなで守るしかありません。

 4連休の第2夜、私はかる~く、夫にお願いしました。ダメと言われたら諦めるし、それほどこだわってもいません。
 素面では言えないので、いつもの通り、私だけ飲んでいます。酔ってはいませんが、酔ったフリをします。
「ねぇ、2人のエッチ、撮らない」
 この一言を発したとたんに、恥ずかしくて、一気に酔いが回ります。
 夫が呆れます。
「本気か?」
「ダメだよね。
 当たり前だよね」
「どうして、撮りたいの?」
「あなたに抱かれているところを、客観的に見たい、とちょっと思っただけ」
「客観的に見て、どうするの?
 こうしてほしいとか……」
「本当の目的は?」
「記念になるかな、とか」
「しばらくぶりに、撮ってみる?」
「健昭がイヤじゃなければ……」
「どんな感じがいいの?」
「普通の、ごく普通の」
「じゃぁ、撮る?」
「うん」
「監督は里穂、撮影は俺でいい?」
「監督?」
「ディレクターだね。
 どうするのか、すべてを決める」
「待ってね。
 ちょっと考える。
 その間にカメラ用意して」
 夫は4Kのコンパクトデジカムを用意し、新品のSDカードをカメラにセットします。
 デジカムのシューにはLEDライトを取り付けています。
「カメラはこれでいい?」
「きれいに撮れる?」
「一応、4Kだからね。
 そんなにすごい撮影はできないから、普通にヤッている状態でいいよね。
 カメラの手持ちは自信ないから、手の届く範囲に置くけど……。
 あと、里穂のヌードはきちんと撮るよ。パーツごとに。
 シナリオはできた?」
「簡単には。
 カメラは固定できる?」
「三脚に載せるよ」
「まずは、記念撮影しましょう。
 全部脱いで」
「脱ぐの?」
「うん」
 私はこの時点で、夫の説明をよく理解していませんでした。

 2人とも何も着けずに、デジカムの前に立ちました。
 夫が私の肩を抱き、私は夫を握ります。
「新藤里穂です。
 これから夫の健昭とのエッチを記録します」
 私は膝立ちになり、夫を口に含みます。ときどきノートパソコンのモニターを見て、撮影されている様子を確認します。
 夫が十分に元気になったので、高反発マットに移動します。
 夫が手にデジカムを持ちます。三脚を縮め、30センチほどの高さにします。
「手持ちで撮るの?」
「ときどきね。ほとんどは床に置くよ。
 いわゆるハメ撮りをする」
 夫が右手にデジカムを持ち、私の撮影を始めました。
 私はマットにやや足を広げた正座です。夫が、舐めるように私を撮ります。そして、恥ずかしいことをし始めました。
「里穂の身体は、完璧です。
 20歳代のようなハリと、アラフォーの円熟が一体となっています。
 この乳首は、右よりも左のほうが感じます」
 夫が覆い被さるようにキスをして、夫を咥えさせます。
「唇は、キスにもフェラにも最高の感触です」
 そして、四つん這いにさせられました。
「このきれいなお尻は、まさに芸術。
 アナルもきれいです。
 このアナルは夫である私しか知りません。
 それと、ここ」
 夫が私の恥ずかしいところを広げます。
「とてもきれいです。
 色とカタチ、完璧です」
 夫が人差し指を入れます。
「内部は適度に濡れ、適度に締まり、適度に動きます」
 夫が私を仰向けにします。
 私は恥ずかしくて、両手で顔を描くし、足を閉じました。
「割れ目は、1本線で、理想の景色です」
 夫が私の部分をアップで撮っていることがわかります。
「それでは、この素晴らしい身体を持つ、里穂を味わってみましょう」
 夫は私の足を持ち上げて広げ、入れてきました。
「何の抵抗もなく入りますが、同時に吸い付くような感触があります」
 私は両手で顔を隠したまま。恥ずかしくて、耐えられません。
 夫が動きます。
「絶妙な抵抗感です。前進するときはかき分けるような、後退は押し出すような。
 最高の感触です」
 私は怒りました。
「恥ずかしいよ」
 夫が答えます。
「里穂の身体のレポートを残すんだ。
 ディープな内容にしないと」
「えぇー!
 趣旨変わってない?」
 しかし、夫の計画は頓挫します。
 夫は意外と不器用で、エッチしながら撮影なんてできませんでした。
 正常位でもあたふたして、片手しか使えないので、私の身体をホールドできず、グダグダになっていきます。
 夫の仕草がおかしくて、私が笑い転げていると、夫が「動くなよ。抜けちゃうだろ」と泣き言を始めます。
 それがまたおかしくて、さらに笑い。
 私もグダグダになってしまい、結局、撮影はデジカムを据え置きにして、普通に行為しました。
 私と夫の通常パターンで、正常位→バック→騎乗位→正常位→夫が発射です。

 撮影後、2人で確認し、ファイルは私が預かりました。
「また撮ろうね」
 私が夫にそう言うと、夫は「カメラは3台ないとダメだな」と。
 手持ち撮影は諦めたみたいです。

 第3夜。
 夕食後、私は夫とダイニングテーブルを挟んで、たわいのない会話していました。
 夫は私の不倫について、自分から話題にすることはありません。夫が私の不倫に言及するときは、それが主題のときだけです。
 夫は私の不倫について「気にしていない」と言いますが、どうもそれは本当のようなんです。
 それから、不倫している私が心配だったことも事実で、完璧に監視していたのも純粋に心配しているからでした。
 私は、そのことは理解しているんです。
 ですけど、気付いた時になぜ止めてくれなかったのか、との疑念はありました。それと、私の裏切りをどうして許せるのかな、とも。
 幸せな生活、夫との良好な関係が続いていると、不安になります。その不安は増減を繰り返しながら、ゆっくりと肥大していきました。

 でも、私は夫に甘えているんです。私にとって夫は、父であり、兄であり、恋人であり、夫なんです。
 で、気付くとさほど酔っていないのに、絡み酒。私がお酒を飲んで絡むのは、夫だけです。
「健昭は、私のこと自分の女だって、思ってないよね」
「ウォ、絡み酒が始まったか?
 そろそろベッドに行こう」
「ヤダ。
 エッチで誤魔化そうとしている」
「はい、はい。
 どんな質問にも答えるよ」
「私、裏切ったんだよ」
「裏切られた覚えはない」
「……」
 私は困惑します。
「裏切るとは、背中の守りを任せた味方が、翻意して背後から襲うことだ。
 里穂は、俺を裏切らない。
 俺は女とは、その場限りの付き合いしかしない。できれば、名前さえ知りたくない。
 俺は舞ができたから里穂と一緒にいようと思ったんじゃない。
 里穂は俺を背後から襲うことはない、と確信したから一緒にいることにした。
 俺は里穂以外とは眠れないんだ。殺されるんじゃないかと、怖い……」
 私は腹が立ってきました。
「どうして、まじめに答えちゃうの!
 私がかわいそうじゃない!」
 夫が笑います。
「一緒に眠れないだけで、それ以外はなんでもできるぞ」
 私はもっと怒ります。
「いじわる!」
 夫は基本的にいじわるです。
「里穂、里穂から不倫の件を持ち出したんだぞ。自分で墓穴を掘ってる」
 夫がおもしろそうに笑います。
 この人、頭がおかしいんです。

 夫は私を肩に担いで、ベッドに連れていきます。私は暴れますが、本気じゃありません。夫も承知しています。
 自分から担がれたのですから……。

 私はお酒は好きですが、仕事で飲む場合は極度に緊張します。絶対に酔いません。その反動で、自宅に帰り着くと即座に全身に酔いが回ります。
 それで、いつも夫が介抱してくれます。夫に向かえに来てもらったことは、何度もあります。
 お酒で失敗したことはなく、そもそも家以外では限度を守っています。飲み始めたら際限なく、といったことはありません。
 だから、夫と一緒のお酒が一番好きなんです。際限なく飲めるから。夫となら安全……、一番危険かな?

 今夜も襲われちゃう。

 休日が終わると、いつもの日常が始まります。
 朝の忙しい時間、夫が私に紙袋を渡しました。
「これを仁科さんに渡して。
 軽量の防刃ベスト。
 下腹部から胸まで覆うので、刃物で刺されても刃を通さない」
「……。
 安寿さん、やっぱり危険なの」
「真琴の件がある。
 油断は禁物だ。
 だが、彼女は未遂だが自殺しようとしている。仁科さんに手を出せば、余計な疑いを招くことになる。世間からね。
 警察と一部メディアは制御できても、ネットはそうはならない。ネットメディアは執拗だしね。
 部長と課長による入社したばかりの女性社員に対する性的暴行は、それだけで大スキャンダルだ。
 しかも、会社が管理しているはずの借り上げ社宅の合い鍵を使っての侵入だ。会社の管理責任は、当然追及される。
 仁科さんの件は、条件的には動きにくい。
 まぁ、大丈夫だとは思うが、それでも用心したほうがいい。
 相手はユニークな発想をするからね。
 誰かが怖い思いをすることは望まないが、少しでも動けば、それが墓穴の掘り始めになる」
「待っているの?」
「いいや、待ってはいない。
 だが……。
 動くように思う」
「注意したほうがいいの?」
「あぁ。
 里穂も注意してほしい」

 その日の12時少し前、娘が本来通うはずの小学校から電話がありました。
「舞さんの通学のことで、今日の夕方、お話がしたいのですが……」
「舞の父親が自宅にいますので、連絡しておきます。何時頃でしょうか?」
「お母様とお話をしたいのですが」
「父親ではダメなんですか?」
「……」
「父親も親ですよ」
「お母様とは……」
「お話の内容は、父親から報告を受けます。
 父親では不都合なんですか?」
「わかりました……」
 夫には16時頃に教頭と学年主任が来訪することを伝えました。

 当然ですが、夫はICレコーダーに会話を記録していました。
 夫は、教頭と学年主任とにありきたりの時候の挨拶をします。教頭は女性、学年主任は男性です。
 話は主に学年主任からでした。
「舞さんの通学についてですが、学校は十分な対策をし、悪口などの行為はなくなると考えています。
 ですので、通学可能と判断しています」
 夫の考えは、学校の認識と完全に異なっていました。
「そのことについてですが、それほど重要視していません。
 母親は違いますが、舞の姉が誘拐されかけたことはご存じですか?」
「……」
「私の妻、舞の母親に対するよからぬ噂を流した興信所の調査員と、舞の姉の誘拐未遂とは関係があります」
「……」
「舞の姉を誘拐しようとした実行犯は逮捕されましたが、彼らに報酬を与えて指示した人物や組織なりは特定されていません。
 つまり、現在、犯人は野放しです」
「……、その、つまり……」
「舞が狙われる可能性もあり得ます。
 舞の姉を誘拐しようとした実行犯ですが、性的暴行をした上で殺せと命じられていたようです。
 この点は、警察から明確には教えていただけませんが、どうもそういうことのようです」
「……、誰かに怨まれているのですか?」
「はい。
 誰であるかは明確に認識しています」
「……」
「舞に対するいじめの問題は単純で、舞を孤立させ、1人で通学しなければならない状況を作ろうとしたのかもしれません。
 襲うためにね」
「……」
「教頭先生、先生、小学校が介入できるような問題ではないのです。
 娘を外国に逃がしても無駄でしょう。
 むしろ、外国のほうがやりやすい……」
「……」
「ほかの生徒さんの安全のためにも、舞はオンライン授業を続けるほうがいいんです」
 ここで教頭が発言します。
「今日のお話を……」
 夫が遮ります。
「児童相談所にお話しになってもいいですよ。
 舞の姉のことは事実ですし、詳細は警察署にお尋ねになってください」

 ですが、娘も仁科安寿さんも襲われませんでした。
 買い物で外出した川口幸菜さんが暴漢に襲われました。角館のアパートのすぐ近くで、ナイフを持った男が待ち伏せしていたのです。
 詳細はわかりませんが、この件は川口さんから夫にすぐに連絡がありました。
「刈谷さんがひどく動揺しているから、すぐに保護してほしい」
 行方がわからなかった刈谷陽咲さんの居所がわかりました。
「夫は、誰かは知らないが墓穴を掘ったな。しかも巨大な穴だ。
 埋めるのはたいへんだぞ」
 そう呟くと、不気味な笑みをしました。
 私は、夫がちょっと恐ろしくなりました。
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