里穂の不倫

半道海豚

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Episode-13 親の無念

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 私と奈々さんから話を聞きたい方がいる、と真白さんから連絡がありました。
 その方は仁科安寿さんのお父様でした。でも、仁科さんについては、奈々さんはもちろん、私も何も知りません。
 自殺未遂はショックですが、お力にはなれないかな、と。
 でも、真白さんは「一度、会ってあげてほしい」と。

 私と奈々さんが真白さんの事務所に行くと、真白さん以外に弁護士さんらしい方がいました。
 真白さんが「うちのイソ弁ちゃんたち」と紹介します。若い女性が2人。起立して、頭を下げてくれました。

「お仕事帰りに申し訳ありません。
 仁科安寿の父、仁科隆介です」
 私は何と言うべきか考えつきませんでした。
「新藤里穂です。
 お嬢様と同じ会社に勤めていました。
 お嬢様のお加減はいかがですか?」
「傷は深かったのですが、生命は助かりました。ただ、娘は混乱しています」
「狭間翔一の前の妻、奈々です」
 お父様は、ピシッとしたスーツを着ていますが、明らかに疲れた表情です。無理にスーツを着てきたのでしょう。
「私は、末端の役人で、娘のことがあり、退職しました。父娘の家族で、娘は私の生命です。娘のためなら、自分の生命は惜しくない……」
 お父様が泣き出しました。
 落ち着くまで、数分待ちます。
「娘の部屋を整理しました。
 ノートが3冊。
 耐えられない内容でした。
 会社に命じられるまま、何人もの男と……。
 プロの女性が使うような下着や口に出せないようなものを見つけました」
 真白さんが少しだけノートの内容を説明します。
「読んだけどね……。
 可哀想だった。娘の母親としては……。
 渉外対策部ってあるの?」
 私は頷きます。
「その部長と課長にレイプされ、行為を撮影されたことが始まり。
 動画をばらまくと脅されて、従ったみたい。
 そのレイプだけど、社長が指示した可能性が高い。少なくとも安寿さんはそう思っている。部長と課長の犯罪は、実質は通常業務」
 私は絶句しました。
「そんな……」
「で、新藤なんだけど……。
 ある程度、知っているんじゃないの?
 最初から。
 それで、里穂さんを気遣っていたんじゃないかな」
 私は目眩がしそうでした。
 お父様が話を続けます。
「娘は、ありとあらゆる性行為をさせられていました。
 相手は、不特定です。
 なぜ、こんなことをされたのか?
 娘の仇を討ちたい……」
 言葉の最後は慟哭でした。
 真白さんが私と奈々さんを見ます。
 奈々さんが「私は家政婦みたいなもので、何も知りません。ですけど、電話での会話とかは聞いています」と協力の姿勢を見せます。
 私は「あの会社の社内情報ですけど、社員が利用できない福利厚生施設の名前がアルカディアだとの噂があるみたいです。
 女性の管理職は、全員社長と関係があるとか、そうした噂も流れていて……。
 でも、仁科主任の件とは無関係かもしれないし……」
 真白さんが私の推測を否定します。
「違うね。
 関係がある。
 関係がないのは、里穂さんと奈々さんだけよ。2人はある意味、幸運だった」
 私は、凍り付きました。
 奈々さんが「アルカディアという言葉は、狭間が電話をしている時に何度か聞いています。気になったので、覚えていました。最初は、銀座か六本木のクラブか何かかなと思ったけど、違うみたいだったから……」
 真白さんが「里穂さん、新藤にアルカディアの話をして。あとはあいつが勝手にやるよ」と。
 私は夫が、何をするのかわかりませんでした。

 私は夫に何て言えばいいのか、考え込んでしまいました。仁科さんのことは悲惨すぎて、言葉にできません。
 でも、言わないと。
「お話があります……」
 夫が身構えます。
「自殺未遂をした仁科さんのお父様とお話ししました……」
 夫の顔が怖いです。
「仁科さんは、性接待をさせられていました。ノートを残していて、克明に記録されていました。
 すべてではありませんが、一部は読ませていただきました。
 真白さんは、すべて読んだそうです。
 この件とは別に、アルカディアという福利厚生施設があるようです。社員は知らないし、利用ができない秘密の施設ではないかと。
 噂はありましたが、名前が出たのは今回が初めてです。
 真白さんが、健昭に知らせろって……」
 私は号泣してしまいました。
 夫はダイニングテーブルを回り込んで、座っている私を抱きしめてくれました。私は夫にしがみつきました。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
 何も知らなかったの……」
 夫が耳元でささやきます。
「俺は里穂だけを守る。
 俺の行いで、結果としてほかの人も守るかもしれない。あるいは傷付けるかもしれない。
 それは、俺にはどうでもいいことだ。
 俺が里穂を必ず守る」

 梅雨が明け、とんでもない暑さの夏がやって来ました。地球温暖化による異常な暑さと、ヒートアイランド現象で、都会は驚愕の暑さです。
 ジェンダーレスを標榜していた私の前の職場は、それを信じる社員はいない状況になっていました。私の細いくて脆い情報源もなくなりました。
 嫌気が差して辞めたり、事実無根の噂を流されて居づらくなったり、いろいろですが、ほとんどの友人が退職してしまいました。
 しかし、人材の補充は退職者を上回ります。既存メディアは取材を続けているのでしょうが、不倫や浮気の域を出ず、単なるゴシップを漁っているに過ぎません。

 私と奈々さんは、仁科さんのお見舞いに何度か行っています。
 お父様が付き添いの看病をしています。お父様は何もできずにいます。仁科さんの行為を撮影した動画の存在が、無言の脅迫になっているのです。
 仁科さんは最初の就職に失敗し、再就職できないまま派遣を続け、28歳のときにあの会社に転職しました。
 結婚を前提としたお付き合いをされている方もいたそうです。
 ですが、入社半年後に最初の被害に遭い、直後にお別れしたとか。
 転職後、30歳までの2年間、ひどい経験をさせられました。
 仁科さんが自殺しようとした理由ですが、仁科さんの交際相手が復縁を求めていて、その方に仁科さんと男性多数との行為を撮影した短い動画が送られたそうです。
 仁科さんがそのことを知り、ショックを受けて衝動的に自殺しようとしたとか。
 交際相手は仁科さんの異変に気付き、何とかしようとしたようですが……。
 たぶん、会社の誰かに仁科さんの救出を邪魔されたのでしょう。

 仁科さんの動画について、夫に相談したことがありました。夫が何かしてくれるとは思えませんでしたが……。
 でも、答えは違いました。
「オンプレのサーバーにはデータはなかった。渉外対策部の課長個人が使っているクラウドにあったよ。
 すべて削除した。
 SDやUSBメモリに保存されていると、手は出せないが、どうもそれはないらしい。無計画な流出を警戒して、バカはバカなりに管理していたようだ。
 完全に削除してはいない。
 俺が預かっている。
 たぶん、だが、それしか存在しないだろう」
 私は、ドキドキしました。
「仁科さんのお父様に教えていい?」
「だめだ、知れば父親は我慢しきれずに行動する。
 結果は悲惨だよ。
 黙っていてやれ」
「ハッキング……?」
「俺はクラッカーじゃないよ。
 そもそもネットがらみの仕事はしていない」
「じゃぁ?」
「聞くな。
 俺にも秘密はある」
「……」
 最近知ったことですが、夫には秘密が多すぎます。

 又聞きの又聞きですが……。
 渉外対策部の部長が自殺、課長が失踪したそうです。
 2人が女性を押さえつけ、レイプしている動画が出回っていて、動画サイトに削除要請すると、ロングバージョンが再アップされるのだとか。
 そのサイトは国内ではなく、削除要請してもなかなか動いてはくれない国にあるようです。
 最終的には40分近くもの編集版がアップされて、女性の顔は完全に見えないようになっているのに、部長と課長の顔は鮮明に判別できるだけではなく、女性の声はまったく聞こえないのに、加害者間の会話は明瞭に聞こえるのだとか。互いの姓を呼び合っているシーンが、随所にあるそうです。
 その動画のURLが社員全員どころか、関係先や取引先まで、それこそ名刺交換しただけの相手先まで送信されていたのだとか。
 多くは迷惑メールでトラッシュされたようですが、送信先が数千ともなれば誰かが開きます。
 そして、その波が広がっていって……。
 部長は家族のいなくなった自宅で、ベルトを使って首を吊ったとか。
 課長は、行方がわからないそうです。

 私は、夫がやったのだと思いました。
 でも、部長や課長は末端の手足に過ぎません。
 夫は、ヘビの頭に警告したのでしょう。

 私と奈々さんが何回目かのお見舞いで、仁科さんの病室に行くと、お父様が深く頭を下げられました。
 でも、私は受け入れませんでした。
「お父様、まだですよ。
 手足を切り落としただけ。頭は潰していません。
 誰がやったのかわからないけど、あの2人は主犯の手下に過ぎませんよ」
 仁科さんはだいぶ落ち着いていました。
「誰なんだろう?
 私の仇を討ってくれたのは、誰なんだろう。新藤課長は知っているんでしょ?」
「私は知らないよ。
 早く元気になって……」
 奈々さんが私の言葉をつなぎました。
「元気になって、一緒に戦いましょう」

 仁科さんは、もうすぐ退院できるそうです。
 このときの奈々さんの言葉は、仁科さんに響いたようです。彼女は急速に回復していきます。

 世間がお盆休みというイベントの直前、アポイントなしで仁科安寿さんが会社に尋ねてきました。
「立派な会社ですね」
「夫から会社を引き継いだだけ」
「でも立派です」
「仁科さん、元気そうね」
「毎日、5キロ走って、腕も鍛えています」
「そう」
「こちらで、奈々さんも働いているんですか?」
「奈々さんは、今日は在宅勤務なの。
 奈々さんに何か用?」
「あっ、違います。
 私、こちらで働けませんか?
 父のお金をあてにして、生活していましたが、それではいけないなって。
 だけど、あんなことをされた私が働くとなると……」
「そうね。気を遣うね」
「知られたら、と思うと不安で」
「で、知っている人の会社なら……」
「はい……」
「履歴書、持ってきました。
 アルバイトでも短時間のパートでも……」
 彼女の履歴書には前職の記載がなく、無職期間が3年近くにもなっています。
「前社長に相談してみる。
 数日待って」
「検討していただけるだけで、ありがたいです。
 お願いします!」

 私は帰宅するとすぐに、自室で仕事をする夫に仁科安寿さんのことを伝えました。
 でも、気付くと私は夫の膝の上に座っていました。
 部屋のドアは私が空けたままで、娘が「ママぁ~」と私を呼びながら、ドアの前に立ちます。
「また仲良くしてる。
 ダメじゃん」
 怒って行ちゃいました。
 夫が悪戯な目をします。
「その子は何ができる?
 わからないけど、技科大を出ているから、間違いなく理工系ね。就職には新卒のときから相当苦労したようね」
「新事業の営業をさせたら?
 素養があればだけど……。
 いつまでも里穂が貼り付いていては、ほかが疎かになりかねない」
「うん。
 社内で相談してみる」
 夫が足の付け根に手を這わせます。
「汗かいてるから、シャワー浴びてくる」
「汗の匂いがいいんだよ」
「ヤダよ~。
 はい、あとでね」
 私は夫の手を払い、浴室に行きました。

 私は幸運なのかもしれない。家政婦奴隷のような生活をしていた奈々さんや、AV女優のようなことを強要された仁科さんと比べれば、確かに私は幸運。
 夫は「社内妻がいるとしても、被害者とは限らない」と言っていたけど、あながち間違いではないかも。
 それと夫は「被害者が団結すると、加害者はボロを出す」とも。だから、仁科さんの雇用に反対しなかったのかも。

 この時期の私には、前職社内の一次情報は手に入りませんでした。でも、又聞き、又聞きの又聞きならば教えてくれる元同僚がいます。
 失踪していた課長は、かなり離れた土地のコンビニで万引きして捕まったとか。
 課長の奥様に連絡があり、奥様が電車を乗り継いで引き取りに行ったそうです。
 警察署で離婚届にサインと捺印をさせ、そのボールペンを机の上に置いていた課長の手の甲に突き刺したそうです。
 警察官もビックリで、去り際に「死ね、強姦魔」と罵ったとか。
 どこまで、本当かはわかりませんが、課長が菓子パン1つを万引きするところまで、追い詰められたことは確かです。

 夫と狭間社長との事実確認は、止まったまま。社長の代理人弁護士と、夫の代理人弁護士である真白さんとの話し合いは、膠着しているようです。
 夫はどう動くのでしょうか?

 夫の手が動いています。お風呂だから声は出せないし、我慢すれば感じすぎるし……。
 だから、肩に噛み付いてあげました。
 本当に痛かったみたい。歯形が付いていたし……。

 お盆休みが終わると、仁科安寿さんがアルバイトとして出勤することになりました。新人教育期間として、6カ月は通勤してもらいます。
 業務指導の担当は、真琴さんになりました。真琴さんの交際は順調なようです。彼氏さんは「披露宴とかできなくてごめん」と謝ったそうですが、真琴さん自身がそういったことに興味がないようなので「いいよ、別に」で済ませたとか。
 彼氏さんのお母様は無事、離婚できたとか。真白さんが例の調査資料をネタに脅して、高額の慰謝料をふんだくったようです。

 山荘はストレス解消になります。
 夫との行為中、大きな声が出せるので……。8月の最後の週は金曜日と月曜日にお休みをいただき4連休にしました。
 私たち家族の4連休が始まります。

 夫は落ち着いています。木曜の夜に出発したのですが、いつも通りの安全運転でした。
 逆に変化がないことが、気になります。
 娘は3列目のシートで横になって寝ています。私は娘が寝ていることを確認して、夫に話しかけました。
「仁科さん、入社したよ。6カ月はバイトだけど……」
「そうか、それはよかった。
 彼女、仕事は続けられそう?」
「ゲーム関係の仕事がしたかったんだって。
 でも、技科大の専攻とは無関係だったので、就職に苦労したみたい。どうにか入社できたゲームの下請けさんは、完全なブラックで6カ月でギブアップ。
 それ以後は、事務の派遣とか。
 で、あの会社に転職して、被害に遭った。
 ゲーム関係で喜んでいたよ」
「いわゆるゲームプログラミングとは違うけどね」
「年齢的にエンジニアに育てるのは無理だから、営業をしてもらうつもり」
「ふ~ん」
「渉外対策部の部長と課長を追い詰めたのは、健昭?」
「いいや、俺にはそっちの技術はないよ」
「そうよね」
「あの社長、いいところあるよね」
「何のこと?」
「オフショア口座にあった残高全部をユニセフに寄付したらしい」
「……、ウソ!」
「そんな噂を聞いただけだけど」
「健昭がやったの?」
「だ・か・ら、俺はそっちの技術はないって。
 ある日、通帳を記帳したら残高0だったら、俺なら立ち直れないよ。
 支払先を間違えた上に、それが国連機関だったら返金請求もできないしね。
 マヌケなヤツだ」
「それ、世間話?」
「そう、世間話」
「私のこと許してくれてる?」
「だ・か・ら、最初から怒っていないって」
「ここで、もしもだよ、口でしてあげたら、嬉しい?」
「危ないからダメ。
 安全運転第一」
「あ~、我慢できない。
 飛ばして!」
「ダメ、安全運転第一」

「ママぁ~、何を我慢できないのぉ~」
 娘が起きちゃいました。
「トイレ。談合坂まだかな。パパ急いで!」
「私もトイレ行きたい」
「はい、はい」

 談合坂サービスエリア以降は、3人とも起きていて、それが奏功したのか、山荘到着後、お風呂に入り娘はすぐに寝ました。
 私と夫は一緒に入浴し、バスタオルを身体に巻いただけの姿で2人の部屋でくつろぎました。
 私はウィスキーの水割りを夫に作ってもらい、軽く飲みながら、夫が始めるのを待ちます。
 ローソファーの背もたれは使わず、身体を完全に夫に預け、2人で音楽を聴いています。でも、夫は音楽を聴く趣味がないんです。
 夫の左手は、私の右足と左足の間。ときどき、指を曲げます。
 私は真白さんの言葉を思い出していました。
「しかし、新藤の女房に手を出す男がいるなんて、信じられないよ。
 中南米の麻薬カルテルの親玉だって、しないだろうね。
 イケメン爽やかバカ社長が、どんなタコ踊りをするのか、早く見たいよ」
 私は夫に忠告すべきか否か迷っています。社長は、政権中枢に食い込んでいて、何をどうやっても対抗できないでしょう。
 見かけの姿とは違い、権力志向の強い人です。全面対決となれば、夫に勝ち目があるようには思えません。
 だけど、私は夫に付いていきます。覚悟を決めています。でも、娘はどうなるのか?

 夫が立ち上がり、デスクのスマホを持ちます。
「善波からメールだ」
 1課長が私用メールなんて珍しいです。
「クルマ、買ったって」
 夫が私にスマホを渡します。
「え!
 えぇ~!
 えっ!
 何でぇ~」
 送られてきた画像は確かにクルマが写っているのですが、そのクルマの前に並んだ人が問題なんです。成人の男女、小学校低学年の男の子、保育園年中の女の子、年少の男の子。
 善波さんと奈々さんの家族全員。
「善波さんと奈々さん……。
 何で?」
「彼女は善波のド・ストライクだからね。
 あいつは訳あり物件大好きだから。
 薄幸で、憂いがあって、健気で、しかも年上。手を出さないわけがない」
「だけど……」
「奈々さんの前旦那だろ?」
「うん」
「ちゃんと挨拶したよ」
「えっ?」
「オフショア口座にあった300億か?
 あれを世界の子供たちのために寄付させただろ」
「どういうこと?」
「あいつの最初の犯罪は16歳のときだった。
 近所のお嬢さんが悪ガキにレイプされた。
 善波は、その子を好きだった。だが、不登校の引きこもりには、高嶺の花。
 その子は、被害を訴えなかった。ショックが大きく、恥ずかしさが勝ったんだろう。警察はもちろん、病院にも行かなかった。病院が通報するからね。
 悪ガキは、地元の土建屋、地元政治家、大企業サラリーマンの息子だった。
 善波は、ガキたちの親を3年かけて潰したんだ。
 土建屋は、支払いの準備と銀行融資で積み上がっていた複数口座の数億の預金を、誰も知らないような中央アジアの人権団体に全額寄付した。
 極端に短期間での資金調達ができず、不渡り2回で土建屋は倒産。父親は自己破産、融資の連帯保証人だった母親も自己破産、ガキは私立高校を中退して定時制に編入した」
「これって?」
「オフショア口座の件は、善波の手口だよ」
「どうして、知っているの?」
「善波を採用したとき、数カ月後に警察が来た。試用期間終了直前を狙ったんだ。
 嫌がらせだよ。
 子供だったから、わずかだが、痕跡を残した。何度か事情聴取されたが、逮捕できるほどの証拠はなかった。
 その悔しさがあるんだろう。
 警察のその手の専門家にね。
 犯罪に関与した疑いがあるって、言われた。
 いままではそれでクビになったが、俺にそんな脅しは効かないから、クビに何てしなかった」
「善波さんはなぜ?」
「狭間社長に挨拶したんだ。
 善波は。
 俺の女に手を出したら、金目のものはテメェのキンタマしか残らないぞ、ってね。
 善波の典型的な手口だから、警察庁の小役人が狭間社長にご注進するだろうね」
「じゃぁ」
「警察が来る」
「どうしたら?」
「俺とは違う方法で追い返せ。
 たまには女の武器ってヤツを使ったら?」
「?」
「ギャーギャー騒ぐとか、泣くとか、いろいろあるだろ」

「ところで、奥様。
 肩が凝ってますよ」
 夫が肩を触っています。
「マット引くから、マッサージして」
「はい、はい」
 俯せになり、頭頂からつま先まで、丹念に両手を使ってマッサージしてくれます。
 夫のマッサージはとても気持ちがよくて、ときどき声が出ちゃいます。
 仰向けにされて、足の付け根をマッサージしてもらっていると、夫が「奥の方まで凝っているみたいだよ」と。
 足を上げさせられて、入ってきました。
「たくさんマッサージして」
 正常位で激しく突いてくれて、私は甲高い声を出し続け、時間の感覚がなくなります。

 夫は外に出してくれました。
「中でもいいのに。
 大丈夫だよ」
「2人目狙ってる?」
「へへ」
「なぜ?」
「私だって、社長に挨拶したいもん。
 夫と仲良しです、って」
「おい、おい」

 夫にパジャマを着させ、私は桜色のショーツを履き、やや長めの小豆色のTシャツを着ました。

 この山荘のダイニングキッチンは、東西が長く、南北が狭いです。既存の家屋を改築し、私たちの部屋の面積を優先したので、変則的になってしまいました。
 南側の開口は広く、その南側から誰かがやって来ることはありません。
 ですから、人の目を気にする必要はありません。
 夫が「南側のウッドデッキをガラス張りにして、東側のウッドデッキは潰して拡張し、もう一部屋作りたいね」と言いましたが大賛成。
 でも、決して裕福ではないので、すぐには無理。私たち家族には、いまでも贅沢すぎです。

 私は昨夜寝たときと同じ恰好で、ダイニングの窓からコーヒーを飲みながら外を見ていました。
 娘はまだ起きてきません。
 夫は目を覚ましていますが、寝起きの強制フェラが効いたのか現在リブート中です。

 夫が起きてきました。
「コーヒー飲む?」
「うん」
 抱き合って軽くキス。お邪魔虫、登場せず。
 コーヒーを入れたマグカップを渡します。
「気持ちいいね?」
「そうね。
 ガラス張りのテラスかぁ。いいなぁ」
「2人目本気?」
「覚悟はしているけど、現実的?」
「どうかな?
 年齢的に無理かも」
「自然に任せる?」
「やっぱり、コントロールしよう」
「だね」

 夫がポツリと。
「俺と善波だけじゃないんだ。
 もう1人いる。
 俺たちよりも、もっと強烈に怨んでいるヤツがいる。
 俺よりも年上のような気がする」
「どういうこと?」
「まだ、わからないし、永遠にわからないかも。
 だけど、狭間の敵は俺たち以外にもいる」
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