里穂の不倫

半道海豚

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Episode6 進まない交渉

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 私は無駄足を確信していたので、西湖の中古家屋を見に行きたくなかったのですが、夫と娘がルンルンで、仕方なく地元の不動産屋さんとアポイントを取りました。
 私たちの家からだと、2時間くらいの距離です。
 娘が「大きいクルマ」とうるさいので、夫がレンタカーを借りてきました。8人乗りのミニバンです。
 金曜の夜にマンションを出て、日付が変わった頃、河口湖に着きました。
 西湖の駐車場で夜明けを待ちます。
 娘は3列目のシートで、足を伸ばして眠っています。
 私は夫にもたれて、2列目のシートで眠りました。時々、夫が触ってきますが無視です。

 夜明け前、寒さで3人とも目が覚めてしまい、親子で2枚の毛布を掛けてお団子になっていました。
 こうなると、いくら無謀にエッチな夫でも何もできません。
 駐車場には夜明かししたクルマが何台も。みなさん、夜明けと同時に動き出します。
 夫が「こういうクルマのほうがいいのかな」と言い、娘が「そうだよ」と賛成します。
 不動産屋さんとは10時の待ち合わせですが、夫と娘は「住所がわかっているんだから、行ってみようよ」と。
 この2人、間違いなく親子です。
 だけど、娘には夫のような性癖にはなってほしくありません。でも、私に似ても困るかな。

 ナビに従って走って行くと、それらしい建物がありました。
 林の中にポツンと佇んでいます。
 林は少し荒れているように感じます。
 土地は道路よりも少し低い平地です。
 建物は基礎の高さが1メートル以上あり、玄関までは木製の階段が続いています。玄関前にはテラスがあります。
 近寄っていいものかわからず、道路から見ているだけなのですが、夫と娘はもう買った気になっています。
 娘は「自転車でこの坂登れるかな」とか、夫は「土地はどこまでなんだ。ガレージを作れるかな」とか勝手なことを言っています。
 2人が道路から敷地内に入ろうとしたので、私が止めます。
 このままだと暴走しそうなので、「湖に行こう」と誘いました。

 西湖は穏やかで静かでした。
 確かに、こんな場所で仕事ができれば最高です。休日だけの滞在でも、心が洗われます。

 不動産屋さんとの待ち合わせ時間が近くなり、待ち合わせ場所のコンビニに向かいます。
 不動産屋さんの軽自動車に付いていくと、やはりあの家でした。
「空き家になって2カ月くらいです」
 不動産屋さんがドアを開けます。
 室内に入り、雨戸を開けます。
「このドア、取り替えたほうがいいです。
 不用心なんで……。
 室内には少し家財が残っていますが、引き渡し前には撤去します」

 私は驚きました。
 想像していた以上にきれいなんです。
「2階は8畳1部屋、1階は8畳2部屋とリビングダイニングです」
 不動産屋さんが先に2階に上がり、雨戸を開けます。
 そして、「どうぞ」と招きます。
 2階はフローリングではなく、板の間って感じ。
 お風呂は旧式で交換しないとならないでしょうが、浴室自体はとても広いです。
 トイレは意外と新しく、交換したばかりみたいです。
 キッチンは交換しないとダメ。
 ガスはプロパンですが、ボンベがありません。
「建物自体はがっちりしていて、土台は高さ1メートル40センチの鉄筋コンクリートです。
 ただ、古いので直すところはたくさんあるでしょう。
 お引き渡しは現状です。
 雨漏りしても保証はありません。
 下水は合併浄化槽。
 上水は水道です」

 娘は雨戸が開けられた2階に上がったまま降りてきません。
 夫が「土地の境界は?」と尋ねると、不動産屋さんは外に出て、棒を拾うと境界を示す目印を探します。
「ここからここまでです。
 本当は低くてもフェンスとかしたほうがいいのですけど……。
 オーナーさんの判断ですね。
 それと、屋根は直したほうがいいですよ。
 結構お金がかかる物件です」
 私が総額費用を尋ねると、不動産屋さんは「見積もります。ファックスでいいですか」と問われ、私が慌てて「PDF添付でこのメールアドレスに送っていただくことはできますか?」と尋ねました。
「わかりました。やってみます」
 その答えにかなりビックリ。
 でも、誠実そうな営業さんでした。

 不動産屋さんと分かれてから、娘は高速から見つけてしまった遊園地に行きたがり、その前に今日の宿に向かいます。
 私は、今夜もコテージを希望。夫と娘も大賛成。富士山の見えるコテージを予約してありました。

 夕食はまたもバーベキュー。
 私は夫と娘に「あの家からは富士山も湖も見えないけど、いいの」とマイナス情報を提示します。
 この2人、同時に「いいよ」と。
 夫に「修繕にお金がかなりかかるよ」と。
 夫は「いいんじゃない」でお終い。
「家計からは無理だから、あなたのお金でお願いできる?」
 これには「え!」と驚きの返答。
 娘が間髪を入れず「パパなら大丈夫だよ」と意味不明のフォロー。
 買うにしても買わないにしても、全部私がやることになりそう。ちょっと憂鬱かな。
 娘は「絶叫マシンに毎日乗れるね」とあり得ないことを言い、夫は「屋根直すっていくらかかるの? 10万くらい?」とおバカ丸出し。
 私は初めて、夫の正体に気付きました。

 この夜、娘は終日ハイテンションだったからか、すぐに寝てしまいました。
 今回のコテージは温泉ではないけれど、浴室が広く、湯船も大きいんです。
 当然、夫と一緒に入るつもり。

 お風呂では何もしませんでした。軽くキスしたくらい。
 部屋に戻ると、今日見た家の話を続けて、費用のこととかを相談しました。
 私は「フェンスや屋根の修理、お風呂の改装、もし腐っている部分があればその修繕、玄関前の階段は危険だし、畳の張り替え、キッチンのリフォーム、その他一切で1000万くらいかかるかもしれない」と夫に説明しました。
 夫は「俺の貯金、減っちゃうじゃん」と文句を言います。でも、出さないとは言わないんです。
 基本、乗り気みたいです。
 確かに家自体はがっしりとした作りでした。でも、建築に詳しい誰かに見てもらう必要はあるかな、と。
 夫にそう伝えると「よし、そうしよう」とまた安直な答え。

 私が夫を支えないと、崖から落ちちゃいそうで、心配になりました。

 私が「ふぅ~」と声を出すと、仰向けに寝た私の身体を夫がすみずみまで舐め始めます。
 私は今日はあまりお酒を飲んでおらず、夫の行為を完全に受け身で待ちます。
 足はぴったりと閉じています。夫はこのほうが好きなんです。
 首筋、顔、肩、脇の下、胸、お腹、おへそ、足、足の裏、足の指、すべてを舐め終わってから、俯せにさせます。
 首筋、肩、背中、背骨に沿ってお尻の割れ目まで舐め、お尻から太股までを丹念に舌を這わせます。
 そして、最後にお尻を少し持ち上げ、私の一番敏感な部分を攻めます。
 足は閉じたままで、核心に舌が届かず何ともじれったいのです。
 私は何度も声を出し、身体をよじっています。

 夫に触られながら、ふと考えました。
 こういう休日は里穂ちゃんの出番がないんです。となると、お小遣いがもらえないわけで……。
 この問題をどう解決すればいいのか、結構醒めて考え出します。

 夫はすぐに私の反応が変わったことに気付きました。
「どうしたの。
 これはダメ?」
「ううん。
 ダメじゃないよ。
 今週は里穂ちゃんの出番がないなって。
 お小遣いがないから、悲しいなって」
 夫は起き上がり、私を起こします。
「よし、どこでも里穂ちゃんを実現する方法を2人で考えよう!」
 やっぱり、この人、ヘンです。

 その後、ごく普通に正常位でセックスして、夫はコンドームに射精。私が口できれいにしてあげ、その後はどこでも里穂ちゃん実現計画の会議になりました。

 私は不倫発覚後の数カ月で、夫の真の姿を知りました。
 強さと弱さがあり、私がいないと彼は弱さを隠せなくなってしまう。
 私が支えないと、と思うようになったのです。以前は、仕事も家事も何でもできる人という印象でした。私がいなくても平気、と感じていました。

 どこでも里穂ちゃんの企画会議ですが、私と夫が裸なことと、ベッドの上で胡座をかいていること以外、会社のミーティングとほとんど同じ。

 夫は何も案が出ず、結局、裸にして終わり。裸でないから、興奮するのに、それじゃダメ。
 私が「休日の里穂ちゃんは?」と尋ねると、夫は「どんなの?」と聞き返してきました。このときは具体的な案はなかったのですが、「休日の里穂ちゃんはどんなファッションかな?」と言うと、夫は身を乗り出し、夫が頭をもたげます。
 私の懸念は身長が低くないこと。高校生の時はかわいい恰好をしようとしても、女子大生っぽくなっちゃうことが悩みでした。
 ここを克服しないと。実際は40歳だし……。

 夫が元気になったので、足を広げて仰向けになると、すぐに挿入してきました。
 いつもは時間をかける夫ですが、まだまだ話すことがあるので、激しく動いてお腹に出してくれました。

 裸で抱き合って話していたら、2人とも寝てしまいました。

 私の件で社長側が結果として完全敗北したことから、社長の代理人弁護士は新たに弁護士2人を追加。
 なんと、弁護団になっちゃいました。
 真白さんは笑っていましたが、奥様の離婚と親権確保のため若い女性の弁護士さんを加えるそうです。
 
 まだまだ、もめそうです。

 建築士については、私は心当たりがありました。
 ちょっと危険かな、とは思ったのですが、前職の経理部長の私用スマホに、12時直前に電話しました。
「部長、お久しぶりです」
「新藤さん!
 ちょっと待って、外に出るから」
 2分ほど声が途切れます。
「大丈夫?
 何もしてやれなくて、ごめんね。
 気付いてあげられず、ごめんね」
「はい、大丈夫です。
 迷惑かけてすみません」
「会社では、知ってる人は知っている。
 ちょっと、ウンザリしている。
 パワハラの上にセクハラかよ、って」
「そうですか」
「で、何?
 退職金のこと?」
「いいえ違います。
 部長のお兄さんか弟さんが、リフォーム関係のお仕事をされていると、何かの時にうかがったのですが……」
「詳しくはわからないけど、そうだよ」
「連絡とか、いただけませんか?」
「この電話でいいの?」
「はい?」
「でも、なぜ?」
「詳しくは言えないんです」
「あぁ~、ストーカーね。
 社長、奥さんにストーカーしているらしいよ。
 新藤さんも気を付けてね」
「ありがとうございます」

 私はゾッとしました。やはり、不審なベンツは社長のクルマなんです。
 私は自分のデスクで99円のカップラーメンを食べている夫に、このことを伝えました。
 私は「お弁当、作ろうか?」と言いかけましたがやめました。夫は職場での私的な会話を好みません。
 その点は、きっちりしています。
 ですが、社長のことは伝えました。
 夫は「だろうな」と言い、私に「決まった道を使うな」と指示しました。
 私は怖くて、帰りはバスを使いました。バス停はマンションから3分ほどのところにあります。

 帰るとポストに「住民の皆様へ」という封筒が入っていました。
 管理組合が不審なベンツについて、警察に通報したとのこと。クルマのナンバーも知らせたそうで、パトカーが巡回してくれるとのこと。
 少しだけ、ホッとしました。

 通販で、ミニ丈のスウェットワンピースを買いました。色は黒。黒のキャップは100均で。
 木曜日の夜、休日の里穂ちゃんを実行します。夫の反応が心配です。

 木曜の夜、夫に「リフォームに強い、建築士さんが見つかりそう」と伝えました。
 お電話をいただいた方は、古い家屋のリフォームが専門で、調査もしていただけるとか。ですが、新築と違い修繕の見積もりが難しいとか。当然ですね。
 夫は大喜びで、完全に買う気になっています。
 問題もあります。
 夫の貯金から支出してもらうにあたって、夫が里穂ちゃんのお小遣いを1回2万円にしてほしいと減額交渉してきたんです。
 それは無理。里穂ちゃんのお小遣いは、娘の学資保険の原資です。それと、夫の生命保険にもあてています。余った分は家計の貯金。
 私は夫に「それは里穂ちゃんと交渉して!」と突き放しました。

 23時、休日の里穂ちゃんがWebミーティングで夫にアクセスします。
「おじさん!」
 カメラから離れて立ち、両手を振ります。ガーリーおさげにして、黒のキャップを斜めに被り、黒のピッタリ目のスウェットワンピースを着ています。
 ソックスは白。

 夫の食いつきは、笑ってしまうほど明確。
 またもや一眼レフを取り出そうと、アタフタしています。
「来ちゃダメ」
 夫はガッカリ。
「話があるって聞いたけど……」
 夫が躊躇います。
「里穂ちゃん、お小遣いなんだけど、2万円にしてくれないかな?」
 私は見えるか見えないかギリギリまで、裾を上げます。ショーツは白なので、少しでも見えればすぐにわかるはず。
「私のここ、嫌いになっちゃった?」
「そんなことないよ」
「じゃぁ、どうして?」
「鬼が宝物を奪おうとしているんだ!」
 え!
 私は鬼?
 ちょっと怒る。
「でも、宝物はまだあるんでしょ」
「うん」
「じゃぁ、いままで通りでいいじゃん」
「……、宝物を奪われたら、2万にしてくれる?」
「う~ん、そのとき考える」
「そっち行っていい?
 今日は4万だよ。
 いいの?」
「うん!」

 ヘンタイ夫はすっ飛んで、私の部屋に来ました。
 考えられるすべてのポーズで写真を撮り、パンチラは念入りに。
 その後は着衣のまま激しいセックス。
 この日は、4万円が封筒に入っていました。なんと、自社の封筒に。
 バカじゃないの!
 夫は2時間奮闘し、疲れ果てて自室に戻っていきました。
 里穂ちゃんは高校生なので、お泊まり禁止なんです。
 私も疲れたので、明日は在宅勤務にします。

 娘は学校で「湖の畔にあるお家を買うんだ」と言いまくっているそうです。
 お友達の2人が山荘や別荘があり、その子たちから「今度写真見せて」と言われたとか。
 私1人が「どうしよう」と悩んでいます。

 ご紹介いただいた専門家の方が、建物状況調査をしていただけることになりました。
 日程は未定ですが、できれば休日を希望しています。
 夫はなぜか、私の口座に1000万円を振り込んできました。
 やっぱり、夫はバカです。
 諦めもせず。里穂ちゃんへの減額交渉はするみたいです。
 夫の中では、私と里穂ちゃんは別人格のようです。里穂ちゃんとの浮気を追及したら、慰謝料がもらえるかも。
 ちょっと、期待しています。

 日曜日の夜。制服の里穂ちゃんが「奥さんにバレたらどうするの?」と問うと、夫は少し考え「バレないようにするけど、もしバレても里穂ちゃんとは会いたい」って。
 やっぱり、バカです。
 慰謝料確定です。

 建物状況調査は土曜日でした。
 今回は我が家のクルマに毛布をたくさん積んで、金曜日の夜に出発しました。
 談合坂サービスエリアまで私が運転し、その先は夫に替わりました。

 前回と同じ、河口湖の駐車場で夜明かし。今回は十分な準備があるので、寒くて起きることはありませんでしたが、それでも私たちの住まい付近とは次元の違う寒さは体感できました。

 不動産屋さんが快く協力してくれたことは、本当に感謝です。
 建築士の方とは、私は2回お目にかかっていて、今回のことを相談してありました。
 夫は初めてで、夫が名刺交換している姿を初めて見ました。

 いろいろなことがわかりました。
 ひどく腐っている木の部分はないけれど、土台の一部に跡から塞いだ形跡があること。
 やはり、屋根は葺き替えたほうがいいこと、2階とリビングダイニングの床は張り替える必要があること。1階の和室の畳は使えないこと、など……。
 建物は、価格相応だそうです。
 不動産屋さんは「内容にもよりますが、リフォーム期間は1カ月あればできますよ」と。
 建築士さんは、否定しませんでした。比較的大規模なリフォームになるようです。
 ただ、建築士さんは「一部だけでも、壁を剥がしてみないと、断熱材の状況がわからないね」とは言っていました。

 夫と娘は、何も考えていません。
 ただ、キャッキャと喜んでいるだけ。
 夫には私がいますが、娘の将来が心配です。私のように、互いを補えるパートナーに出会えればいいのですが……。

 建築士さんは、お仕事の関係で、昼食をご一緒させていただくと、すぐに戻られました。
 私たちも泊まることはせず、それほど遅くならずに帰宅しました。

 夫と娘への相談は無意味です。私が判断しないと……。相応のリスクがある計画だと、感じています。

 私は夫から経験人数とかを聞かれたことがありません。相応に経験してきたつもりですが、夫からすると私の性体験は極々ノーマルだったらしいです。
 優しい夫は、そのときの私をそのまま受け入れてくれたようです。
 唯一教えてもらったことは、フェラです。
「ここをこうすると気持ちいいんだよ」
 でも、不倫発覚後は違います。強制的に学習させられています。

 娘が寝ると、私と夫はリビングのソファーでイチャイチャしながら、私たちの山荘について話し合いました。私は飲んでいます。夫はできなくなるので、かわいそうだけどウーロン茶。
 娘が生まれてからは、夫とイチャイチャなんてほとんどありませんでした。エッチは、半分義務みたいにこなしていたような。
 もちろん、いまは違います。

 私は夫に「総額800万、予備に200万かな。とすると100万ほど足りないかも」と言いました。
 夫は「その100万は里穂が何とかしてよ」と言いますが、私は「家計からは出せないよ。舞の学費とかがあるんだから。私は慰謝料でなくなっちゃったし……」と答えました。
 夫は不満そう。
 私は追い打ちをかけます。
「浮気してるでしょ?」
「してないよ!」
「女子高生と」
「……」
「里穂ちゃんだっけ?」
「……」
「慰謝料払ってほしいな」
「……」
「100万でいいから……」
「……」

 夫は凶暴になり、彼の部屋に引っ張っていきました。大きなデスクトップパソコンが3台もある、夫の雑然とした部屋での行為は、何となく若い頃を思い出させます。
 元彼の顔とかがよぎることがあり、刺激的です。夫には言えませんが……。

 月曜日は朝から夫主催の幹部会があり、技術第1課と第2課の課長さん、真琴さん、私が出席しました。
 私には会話の意味が、ほとんどわかりません。専門用語ばかりで、知らない単語ばかりなんです。
 ただ、夫は課長さんたちを追及したりせず、問題があれば理由を尋ね、解決策を提示して、それが有効かどうか確認します。
 押し付けたりは絶対にしないんです。
 私のキャリアの中で、こういう上司は初めてです。上司は、大なり小なりパワハラ気味だと思っていました。
 夫は部下のストレスを剥離させて、自分の中に取り込んでしまうような上司です。
 すごく尊敬しました。

 技術第1課の課長さんは30歳代の男性で、シングルファザーだそうです。
 とても物静かな方で、部下に対して、穏やかな話し方をします。
 16時になり「お迎えなんで」と退勤されました。お子さんが寝た21時から24時まで、またお仕事をするそうです。
 たいへんだなぁ~。
 第1課の課長さんは死別、第2課の課長さんは離別だそうです。個人的なお話しもいただけるようになり、私は少しずつ会社に馴染んできています。
 第1課の課長さんから「私もこの分野の経験がまったくなくて、どうにか会話に絡めるようになるのに2年かかりました」とおっしゃり、私の「お話しが難しくて……」との発言にフォローをいただきました。

 私はまだ、非常勤取締役バイトです。
 時給は変わりません。
 決算後、夫のお給料は少し上がりました。でも、里穂ちゃんのお小遣いがないと、家計を維持できません。

 この日の夜、娘が寝ると、ダイニングテーブルでお茶を飲んでいた私に、銀行の封筒を差し出しました。
「何~?」
 夫は憮然としています。封筒はホチキスで留められています。
 ホチキス部分を破って中を見ます。
 帯封のしてある100万円。
「慰謝料!」
 夫は怒っていますが、100万円ゲットです。

 翌日、私は在宅勤務でした。
 午前中に前職の総務部長から電話があり、「一応、個人的に知らせるけど、会社に警察が来たよ」
 マンションの件か、奥様の件かはわかりませんが、社長に対して注意か警告があったようです。
 怖いです。

 最近は私が怖がるので、夫が一緒に寝てくれます。夫に触られていないと、落ち着きません。
 少し前までは、夫に触られると、少し落ち着かなかったのですが……。

 別荘購入計画は、私が進めています。
 私の間取りの希望は、お客様は招かないので、1階の8畳間2間を16畳1間にすること。すべての部屋をフローリングにすること。薪ストーブを置くこと、です。
 このことは夫と娘に言っていません。あの2人は、そんな細かいことは気にしませんから……。

 夫はときどき、ベッドにいる私を仰向けにして、足を立てさせ、大きく開き、パジャマの上から平手でポンポンと叩きます。
 この力加減が絶妙で、すごく気持ちがいいんです。だけど、自分から「して」と言ったことはありません。
 言いたい気持ちはありますが、なぜかちょっと恥ずかしい……。もっと恥ずかしいことをたくさんされているのに……。

 私は社長の出方がわからず、最悪の場合は山荘を避難場所にしようと考えています。
 このことは、誰にも言ってません。

 夫は慰謝料を払わせられたのに、里穂ちゃんとは会わずにいられないみたいです。
 今日の里穂ちゃんは、白のシャツにアイボリーのスクールセーターベストです。
 ショーツは白のビキニを選びました。
 夫は飽きもせず、いつまでもお尻を撫でています。
「おじさん、2時間しかないんだよ」と言ったら、慌ててショーツを脱がせました。
 こんなこと、私以外で絶対にしないで!
 犯罪よ!

 終わったあと、私は夫と一緒に寝るため、里穂ちゃんから里穂に戻るまでの間、夫に自室に戻ってもらいました。
 夫は去り際に「里穂ちゃん、4時間一緒にいてくれるなら10万払うよ」って。
 バカみたい!
 でも、美味しいかも!

 新規事業は、夫が個人で請け負っていた2社に加えて、新たに夫を知る1社が加わりました。
 そろそろ、社員の採用を考えないと。
 この仕事、ちょっと難しいんです。プログラマーとしての技術はもちろんですが、クリエイターとしての能力がないと無理なんです。この2つを同時に持っている人は、どう考えても多くない……。
 夫や真琴さんは自分にそれがあるので「誰でもできる」みたいに考えているけど、違うと思います。
 新規事業も難しい……。

 しばらくすると、真琴さんが大学時代のお友だちを連れてきました。制御系の組み込みプログラマだったそうですが、会社が経営不振でリストラにあったとか。
 若いのにお気の毒。
 次の就職先が決まるまで、バイトをしてくれるそうです。
 技術第2課の最年少の男性の方が、新規事業の担当に志願してくれました。
 夫は不機嫌。
「戦力が減る!」
 だけど、理不尽なことは言いません。
 会社での夫と、里穂ちゃんを相手にする夫が同一人物とは思えません。

 社長の動向は気になりますが、はっきりとした動きはありません。
 この問題、年を越しそうです。
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