里穂の不倫

半道海豚

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Episode2 私の夫が彼の敵になった

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 土日の旅行は、娘がとても喜びました。
「パパ、許してくれたんだね」
 露天風呂に向かう途中、娘がそう言いましたが、よくわかりません。
 ですが、許してはいないと思います。いまは、怒りのマグマがたまっているのではないかと。限界を超え、恐ろしい噴火があるのではないかと。

 月曜日は出勤しました。
 社長から「どうだった?」と微笑んで尋ねられましたが、夫の指示通り「他の人は入れずに、当事者だけで話し合いたい、と言われました」と伝えました。
 社長は怪訝な顔をして、私に背を向け「そうか」とだけ言いました。

 このときから、私は伝言係になりました。夫の伝言を社長に伝え、社長の回答を夫に伝えます。

 月曜日の夜、夫が「来週、月曜日に4人だけで話し合いたい、そう伝えて」と言われ、火曜の朝に社長から「それでは16時から当社会議室で、と伝えてね」と命じられました。
 火曜の夜、夫に「来週月曜の16時に私の会社でお願いします」と伝えると、夫が呆れ、笑いながら「加害者が出向きべきだろう」と言われてしまいました。

 水曜の朝に社長に「来週月曜日16時に夫の会社にお運びいただけますか」とお願いすると、社長は「そういうことか」と笑いました。

 夫は、この日時の打ち合わせに「電話やメールは使うな」と私に厳命し、私は夫の怒りをこの言葉で感じました。
 初めて、怒りの一部が見えました。

 4人が揃う月曜の朝、夫は私に「奥さんには誠心誠意謝れ。言い訳はするな」と強い口調で言いました。
 夫は娘に「もしかすると、今日は遅くなるかもしれない。戸締まりをしっかりして、パパとママの帰りを待っていてね」と言いました。
 私は娘に負担をかけてしまい、泣き出してしまいました。
 この日、私は会社を休み、娘のおやつと夕食を用意してから、夫の会社に向かいました。 15時30分少し前に夫の会社に着きました。

 10分後、社長の奥様が到着します。
 私は広くはない会議室内のドアの前で、床に正座し、両手を床につけ、額をできる限り下げてお迎えしました。
「このたびは申し訳ございません。6年もの長きにわたり、奥様を傷つけましたこと、深く深くお詫びいたします」
 事前に考えていた台詞でした。

 奥様は無言でした。数瞬後、奥様は嗚咽され、か細い声を出しました。
「立ってください。
 そのようなことをされても、私はどうすることもできません」
 顔を上げると、小柄な奥様が憔悴してさらに小柄に見えました。
 私の伸長は160センチありますが、奥様は155センチくらいでしょうか。
 とても弱々しく見えました。
 一瞬、私は勝ったと思いました。強者は私で、弱者は奥様。

 夫が会議室に入ってきました。
「加害者は窓側、被害者は壁側に座って。
 あとは社長さんだけか」
 夫は夫婦単位ではなく、被害者と加害者に分けたのです。これには驚きました。
 夫はいったん、奥様の隣に座り、すぐに退室します。

 今日は出社されている社員の方が多く、男性よりも女性のほうが多いようです。

 夫が若い女性を連れて入室しました。
 25歳くらい。髪が長くて、背は私よりも明らかに高いです。とてもきれいな方です。
 入室の際、夫の腕を掴み、夫の肩に手を置いたり、やたらとベタベタしています。浮気相手だと思いました。

「里穂、この子は脇坂真琴。
 俺の子」
 私は驚きました。夫には認知していない子がいることは知っていました。結婚する前に教えてくれたのですが、まさか夫の会社にいるなんて知りませんでした。
「初めまして、脇坂真琴です。
 このたびは、面倒なことでたいへんですね。
 パパは厄介なおじさんなんで、たいへんでしょうが頑張ってください」
 私は何て返せばいいのかわからないし、席を立つことさえ忘れてしまいました。
 奥様もアワアワしています。
 私は数瞬遅れて席を立ち、頭を下げました。
「新藤健昭の家内でございます。
 よろしくお願いいたします」
 この瞬間、私は新藤健昭の妻であることを自認しました。
 自分の中であやふやになり始めていた自分の立ち位置がはっきりしました。

 16時を過ぎても社長は訪れず、10分遅れて代理人を名乗る弁護士がやって来ました。
 会社の顧問弁護士です。会社法務が専門ですが、社長の頼みを引き受けたのでしょう。

 弁護士は「私は狭間翔一の代理人で、今後は私がお話を伺います」と言いました。
 すると夫は、顔色を変えず「そうですか、それではお引き取りください。お話しすることはありません」と返しました。
 夫は席を立ち、会議室のドアを開け、代理人弁護士に退室を促します。
 弁護士は「あのぅ、依頼人からは……」と言いかけ、夫は「あなたに用はない。お帰りください」と強く言いました。
 真琴さんが現れ、弁護士の横に立ち、退室を促します。
 弁護士は3分もいませんでした。
 会社法務では凄腕だと聞いていますし、実際そうなのですが、夫から「用はない」と取り付く島を与えられなかったので、何もできませんでした。

 社長の代理人弁護士が去ると、夫は奥様に声をかけます。
「大丈夫ですか?
 暴力を振るわれたりしていませんか?」
 奥様は小さな身体を震わせて、答えます。
「はい。
 怒鳴られはしますが、暴力はありません。
 ですが、家の中はギスギスしています。
 いつもですが……」
 夫は優しく話しかけます。
「お子さんは、どうしていますか?」
 奥様はハンカチで何度も目を拭きます。
「はい、上の子は年長なので、たいへんなことが起きていることを理解しています。
 下の子は、幼すぎて何もわからないと思います。
 昨夜、主人が子供たちに、ママの味方をすればおまえたちを見捨てる、って脅したんです」
 彼女が泣き出す。
 そして、続けた。
「高校にも、大学にも行けないぞ。
 中学を出たら働くしかない。
 よく考えろって」

 私は愕然としました。社長は「逆らうヤツは潰す」とよく言いますが、家族に対してまで……。
 このままでは、夫が社長の敵になってしまうと考えると、恐ろしくなりました。

 夫が「お金はまだありますか?」と尋ね、奥様が「はい、たくさんお借りしましたから」と答えました。

 そして、夫は私と奥様に「代理人の有無が、攻防になるね」と言いました。
 双方代理人を立てて、慰謝料の話し合いをするしかないと思うのですが、夫はなぜかそうは考えていないようなのです。

 何を考えているのか、まったくわかりません。

 夫は事後を真琴さんに託し、奥様を駅まで送りました。私も同行します。
 奥様は夫に深く頭を下げ、改札に向かいます。
 夫が私に「長引くかな」と言い、続けて「短期決戦でいきたいが……、無理か」と。

 自宅に戻ると、娘が玄関まで駆けてきて、私たちの前に滑り込んできました。
「どうだった?」
 私は何も言えません。言葉が見つかりません。
 夫は平然としています。
「ママ、お姉ちゃんに会ったよ」
 娘は、キョトンと。
「お姉ちゃん?」
 夫は靴を脱ぎ、私はそれを揃えます。
「舞のお姉ちゃん」
 娘は理解不能といった表情。
 困惑する娘を私がフォローします。
「舞にはお姉さんがいるの。
 お母さんは違うけど……」
 娘はさらに混乱します。
「ママとは違う女の人との間に生まれた……」
 娘が怒ります。
「パパも不倫してたの!
 サイテイ!」
 夫が笑います。
「違うよ。
 舞は10歳。
 パパとママが知り合って12年。
 お姉ちゃんは25歳。
 算数できた?」
 娘の混乱が加速します。
「じゃぁ、ママと結婚する前に、誰かと結婚してたの?」
 夫は説明に窮したようで、黙ります。夫には珍しいことです。
 私がフォローします。
「パパは大学生だったの。
 だから、結婚はしていないかな」
 娘はよく理解はしていないようですが、不倫ではないことは漠然とですがわかったようでした。
「お姉ちゃんと会いたい!」
 夫が個人使用のスマホを娘に渡し、画面には真琴さんが映し出されていました。
 私は娘に「ママよりも背が高くて、きれいで、モデルさんみたい」と印象を伝えます。

 娘はこの夜、寝るまで「お姉ちゃんに会いたい。いつ会える?」とこればかりでした。
 私の不倫にまつわる話し合いのことなど、私の家庭では話題の片隅にさえありませんでした。

 私は自室のベッドの上で泣いています。
 不倫をした後悔ではなく、夫が社長に挑戦的な態度をとることが怖かったから……。
 1時間ほどして、私は意を決して夫に「もうやめてください」とお願いすることにしました。
 それで、離婚になってもいい。
 夫と娘を守れるなら……。

 夫の部屋のドアを開けます。
 私はパジャマを着ています。
 夫は、ベッドの上で読書をしていました。
 私は、夫のデスクチェアに座ります。
 夫が私を見詰めています。
 その優しい目が憎らしい。その優しい目で、私を虐めているんです。
 そう思った瞬間、私の口から出た言葉は、私にも意外でした。
「真琴さんのお母さんは、いま……」
 自分で発した言葉に、自分で驚き、自爆的パニックになります。
 夫はベッドから降り、私の手を引き、私をベッドのふちに座らせ、夫に肩を抱かれて、頭を夫の肩に乗せました。
「脇坂真白は生きている。
 ただ、2年前にご主人を亡くしてからは、あまり元気がない。
 2人の間に子供はいないが、仲のいい夫婦だったらしい。
 真琴は母方の祖父母に育てられた。母親の仕事が忙しくて、幼い頃は何カ月も会わないことがあったようだ。
 10年前、高校に入学した直後、真琴は会社に俺を尋ねてきた。
 大学を卒業するまではバイト、卒業後はウチの会社に就職した。いまや、社歴10年の有力な戦力だ。
 仕事を教えたのは俺だが、いまでは俺でも迂闊なことは言えない。
 真琴は定期的に母親とは会っているし、不仲ではないと思う。
 お互いに思うところはあるのだろうが、俺にはわからん」

 夫はキスし始め、私をベッドに寝かせます。私は「イヤ!」と拒否しますが、夫はパジャマのボタンを器用に1つずつ外していきます。
 私は夫を押しのけようともがきました。
 最後のボタン、パジャマの一番下のボタンが外れません。ボタン穴が小さいんです。
 夫が手こずっていたので、どうしてか、私が自分で外しちゃいました。
 胸を強く優しくリズミカルに触られ、乳首を甘噛みされて、私はエビのように背をそらせました。
 夫は必ずこれをするのです。
 甘噛みして、強弱を付けて乳首を吸い、また甘噛みする。
 私は、これだけで何度もイッてしまいます。出してはいけないほど大きな声を出してしまい、自分で驚いて我に返ります。
「舞、起きちゃわないよね」
 夫が笑い。
 私はドアを少し開け、首だけ出して、娘の部屋のほうをうかがいます。
 暗く、無音。
 静かにドアを閉め、ロックし、夫の前で、パジャマのズボンをショーツと一緒に脱ぎ、ベッドに飛び込みます。

 夫はすぐに正常位で挿入してきました。夫のすごいところは、萎えないのです。行為中はずっと。何時間でも持続するんです。
 夫は挿入したまま動かさず、私の上半身を舌で丁寧に舐めます。
 私が動いてしまうので、自然と結合部も激しく刺激されます。
 これが、心地いい。
 一瞬、感じなくなりました。
 私は真顔で夫に問います。
「真白さんには最大何時間、あっ、ダメ!」
 夫は右の乳首をくわえたまま、私の顔を見ます。
「最大5時間はヤッたな」
「入れたままで?」
「だね」
「私にできる?」
「もう無理だ」
 私は激しい嫉妬に襲われ、夫をはね除けようとします。
 だけど、夫が左の乳首を甘噛みして、私の抵抗を阻止します。
「里穂は右よりも左のほうが圧倒的に感じるね」
 そう言われますが、自覚はありません。

 この夜、夫は私には何もさせず、明け方まで徹底的に攻められました。ヴァギナもアナルも溶けているように感じます。乳首は勃起したまま。
 激しかったし、朝は歩けないほど疲れていました。足の裏の感覚がないんです。
 会社なんて行けません!
 夫も疲れていて、眠そうでした。
 でも、「会社行く。会社で昼寝する」と言って、いつも通り出勤していきました。
 45歳になった夫にあれほど激しい行為をさせて、心筋梗塞やクモ膜下出血なんて起こしたらどうしよう、と真剣に心配しました。
 でも、もっとしたい。娘がいなければ、もっと激しくできるのに……。

 私は、体調不良を理由に会社を休みました。
 昼頃、社長から電話があり、「どうした。揉めているのか」と心配されます。
 私は「大丈夫です。ちょっと、疲れているだけです」と答えました。その後は、仕事の話で20分ほど電話を続けました。

 夫は帰宅後、娘に言いました。
「お姉ちゃんが土曜日に来るよ」
 娘は飛び跳ねて喜び、私は階下に迷惑になるからと、娘を叱ります。
 夫は私に「いいよね」と許可を求め、私に異存はありません。
 いまや、真琴さんの存在がなければ、私の家庭はどんよりと暗くなってしまうのですから。

 夫は夕食は「肥るから」と食べません。晩酌もしません。でも、食事が気になり、サラダだけは用意しています。
 夫は、サラダをイヤイヤ食べます。
 夫はサラダを食べ終わると、食器を洗っていた私をテーブルに呼びました。
 いよいよか、と身構えます。離婚は覚悟しています。
 私は、緊張していました。
「真琴が、こちらも弁護士を準備したほうがいいと言ったんだ。
 で、真琴に任せた。
 ウチじゃ、弁護士なんて用がないから、あてがないしね。
 この戦いは、長っ帳場になるよ。
 数カ月はかかる。
 覚悟しておいて。
 奥さんは、奥さん1人で家を出たそうだ。
 ハウスキーパーがいるから、お子さんの食事とかは大丈夫だと言っていたけど……」

 私は自分の罪の深さに泣きました。
 夫よりも社長の奥様に対する罪の意識が強くなり始めていました。

 娘が寝ると、話し合いの続きが始まります。
 夫は冷静で、怒声などはまったくありません。感情の起伏さえ、ほとんど見せません。
 そこが怖いのです。

 私は俯いていました。
 夫は食卓の真向かいに座っています。
「里穂、俺は里穂をもう社長さんに抱かせるつもりはない。
 だが、あの男は諦めないだろう。
 かなり強引に里穂に迫るはずだ」
 私は、社長の意図や行動を予想していたし、退職しない限り、退職したとしても、拒みきれないのではないかと心配していました。
「会社を辞めます」
 夫は俯いたままの私に、無言で答えました。
「ここを処分して、遠くへ引っ越しましょう」
 私は、究極の選択を口にしました。
 夫は、冷静さを失いません。
「舞の学校はどうする?
 毎日、楽しく通っているんだ。
 イジメとかもないらしい。
 それに、俺は被害者だ。逃げるつもりはない」
 私は泣き崩れました。

 私が泣き止むと、夫は提案をしました。
「里穂の身体に明確なマークをつける。
 里穂の身体が社長のものではないという証をつける」
 私は、夫が何を言っているのかわかりませんでした。家畜のように焼き印でも押されるのでしょうか。
 一瞬、恐怖が走ります。
「里穂の部屋に行こう」
 私に拒否する権利はありません。
 夫に従いました。

「全部脱いで」
 私は指示に従います。少し期待している自分がいます。昨夜の強烈な行為が頭をよぎります。
 夫が跪き、私の下の毛を撫でます。夫は私の毛の感触が好きで、飽きずに触ります。
 私の毛は細いんです。産毛ではありませんが、太くないんです。長くて、あまり縮れていません。
 高級な毛皮を撫でているようで、気持ちがいいと。
 社長も好きです。
「きみのここは芸術だよ」
 社長から何度かそう言われました。

 夫はいとおしそうに触り続け、唐突に「よし、剃ろう」と言いました。
 私は「え!」と驚き、夫の頭頂部に向かって「どうして?」と尋ねます。
「たまにはいいでしょ。
 舐めやすくなるし。
 俺が楽しむために剃られたと言えばいい」

 私は、かなり焦りました。
 夫は何かを知っている。何をどこまで知っているのだろう?
 私と社長の行為自体を知っているのか?
 そんなはずはありません。
 でも、夫の要求を拒否したら、社長側につくことになります。
 今後どうするかは別にして、いまは夫の要求に従うことにしました。

 夫は、このために購入したのでしょうか、通勤に使っているデイパックから大きめのフェイスシェーバーを取り出します。
「風呂に行こう」
 夫に促されます。

 湯船の縁に腰掛け、左足を湯船の縁まであげ、足を大きく開きました。
 こんなに明るい場所で見せるのは久しぶりで、少し恥ずかしい。
 夫は丹念に長毛を刈り、短くなると、自分の髭剃りの5枚刃を新しくして、シェービングジェルをつけて剃り始めます。
 複雑な形状の部分も、丁寧に剃っていきます。ちょっと怖いですが、いつもとは触られ方が違うのか、奇妙な刺激を感じます。
 最後は、湯船の縁に両手をつき、両足を伸ばした四つん這いにさせられます。
 そして、また丁寧に剃られていきます。
 アナルにも「産毛があるんだ」と言われて、剃られました。

 浴室の鏡に映る自分の下腹部を見て笑っちゃいました。
「ヤダぁ、温泉に行けないし、舞ともお風呂に入れないじゃない」
 夫も笑っていて、夫のものがそそり立っています。
「いやぁ、想像以上にいいね。
 最高だよ」
 私は呆れます。
「ヘンタイなの?」
 夫が剃ったばかりの部分に手を伸ばしてきます。
「これからは、俺が剃るから。
 俺が剃れない時は、自分で剃るんだよ。
 これが、俺の好みなんだから」

 その後、残り湯でしたが2人で湯船につかり、浴室とつながる私の部屋に行きました。

 部屋に戻ると、私は通販で買ってみたものの、透けすぎて使えなかったショーツを夫に見せ、履いてみました。
 夫は大喜びで、昨夜の再現が始まりました。
 さすがに2晩連続で朝までとはいかず、3時頃には抱き合って寝てしまいました。

 朝、起きると、夫はキッチンにいて、私は相当寝ぼけていました。
 夫がグラスに冷水を入れてくれ、私は飲み干しました。
 軽くキスをして、夫が告げます。
「里穂に似合う下着を買ってくるよ。
 サイズを教えて」
 私は呆れて笑っちゃいました。
 夫はガウンの中に手を入れ、「今日、出社するならこれを履いていって」と言いました。
「イヤよ。恥ずかしすぎる」と、夫の手をガウンの中から引っ張り出しました。

「舞を起こさないと」
 私のこの一言で、エッチな雰囲気が吹き飛び、いつもの日常に戻りました。

 出勤すると、すぐに社長に呼ばれました。
「先生を追い返したそうだね」
 先生とは、代理人弁護士のことです。
「同じことは2度とするな、と伝えてね。
 それと、事前交渉として、先生にもう一度行ってもらうから。
 金曜日の夕方を指定しなさい。
 ここから電話するんだ。
 伝言ゲームは終わりだ!」
 社長は私に命じ、私は夫にスマホから電話しました。
「15時ならどうでしょうか」
 社長は頷き、私をにらみます。
「どっちに立つべきか、よく考えてね」
 私は深く一礼して、社長室を出ました。

 私はこの時点では、まだ揺れています。ただ、夫の希望に添って、スケスケの下着を着けて出勤しました。あまりにも恥ずかしいので、スカートはやめてパンツスーツにしましたが……。

 金曜日まではどうにか出勤したのですが、日に日に社長が気持ち悪く感じて、やや鬱状態になってしまいました。
 社長は社内では、絶対に私を抱き寄せたりしないのですが、どうにもイヤだなと感じてしまいます。
 身構えている自分がいます。

 夫の帰宅を待ちます。
 今日は、夫が社長の代理人弁護士と会っているはずです。どんなことが話し合われたのか、不安です。

 いつものように夫がサラダを食べ、加えてオレンジも食べさせました。
 娘は「明日、お姉ちゃん来るよね!」と夫に確認し、はしゃいでいます。
 だから、なかなか寝ません。
 ようやく寝てから、夫がICレコーダに録音した今日の打ち合わせの会話を聞かせてくれました。
 ごく短いものでした。
「まず、私の依頼人は慰謝料を用意しています。その金額の提示から……」
 夫が、代理人を制したようです。
「慰謝料は不要です。
 最初から求めていません」
 代理人は虚を突かれたようです。
「では、何を……」
 夫は、明確に答えます。
「事実の確認と、今後の対応について話し合いたいだけです。
 慰謝料、解決金、賠償金はいりませんよ。
 ですから、代理人さんがすることは何もない」
 代理人弁護士は、困った様子です。
「謝罪をお求めなら、そうしますが……」
 夫が少し笑ったようです。
「謝罪も不要です。
 まったく、必要ありません。
 事実確認と、今後の対応を話し合いたいだけです」
 代理人がヘンなことを言い出します。
「そうは言っても、不貞行為はあったわけですから、慰謝料なり解決金が必要でしょう」
 夫は即答します。
「不要です」
 代理人が尋ねます。
「それでは、どのように解決するおつもりですか?」
 夫の答えは驚くものでした。
「解決はしません。
 このままです」
 代理人が絶句します。
 夫が追い打ちをかけます。
「代理人弁護士の同席は認めましょう。
 私は、いかなる金銭的補償を求めません。
 ですので、事実確認と今後の対応について、当事者に尋ねたいだけです」
 代理人は、明らかにあてが外れていました。
「わかりました。
 今日は持ち帰って、相談します」

 私は、夫が社長を敵にしたことを確信しました。社長も夫を敵視するでしょう。
 夫に非はありません。
 ですが、夫が一番苦しむことになるように思いました。
 私は社長につくべきか、夫を支えるべきか迷っています。私が社長側となれば、夫にも少しは我慢できる解決案があるでしょう。
 でも、夫側についたら、夫は悔しい思いをするだけで終わるでしょう。
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