大絶滅 5年後 ~自作対空戦車でドラゴンに立ち向かう~

半道海豚

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第2章 相馬原

02-024 降雪

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 日没とともに、全員が地下施設に入った。子供たちは由衣が別の部屋に連れて行き、大人たちはモニター室に自然と集まる。
 花山真弓が「弾薬と医薬品を補充しないと……」と言うと、来栖早希が「薬は、探してもここにはないと思う」と少し沈んだ声で答えた。
 香野木恵一郎が「この付近で一番大きな病院は?」と尋ねると、結城光二が「沼田病院でしょう。夏見さんはそこの看護師だったと聞いています」
 来栖が「施設として、もっと大きくて地下室があるような病院でないと……」
 結城光二は「それなら、前橋赤十字病院とか?」
 来栖が「そうね。行ってみる価値はあるわね」
 香野木が「トラクターでは人が移動するには不便が多い」
 加賀谷真梨が「ちょっと調べたんですけど、小さい戦車みたいなヤツは動きますよ。細い大砲みたいなものは動きませんけど」
 真梨の意外な一言は、その空間の空気を少し振動させた。
 金平彩華が話を引き継いだ。
「あの機関銃?は、制御プログラムが未完成なんですよ。制御システムさえ完成させれば、動作します」
 真梨が「大きな大砲が付いているタイプは、正常に動きますよ。大砲とかはわかりませんけど」
 自衛官の奥宮要介が「10榴のことでしょうか?
 自分が見てみましょう。特科なので」
 花山が「真梨さん、ご職業は?」と尋ねると、「消防車とかクレーン車とか、特殊車を開発・製造する会社に勤めていたんです。開発をやっていました。産休でしたけど……」
「いまさらだけど、彩華ちゃんは?」
「大学で情報工学を勉強していたけど、教えていることが簡単すぎて……」
 正哉が「手伝いますよ。ちょっとしたゲームなら組めます」
 香野木が「それじゃ、74式自走105ミリりゅう弾砲とやらを、まずは走れるようにしよう」といった。
 そして、その夜から、半地下の1階車庫では終日大きな音が響くようになる。

 74式自走105ミリりゅう弾砲(自走10榴)は、レストアされたのではなく、大幅な改造を受けていた。エンジンにはターボチャージャーが取り付けられていて、オリジナルは2ストローク空冷4気筒300馬力/2200rpmが、体感だが1.5倍ほどパワーアップしているように感じる。16.3トンの車体をいともたやすく加速させる。
 これには奥村陸士長も感心していて、いい感じのクルマに仕上がっている。
 しかも、車体と砲塔には炭素系素材の耐熱材が貼られていて、対オーク戦での防御力が期待できた。
 翌朝までに自走10榴1輌を整備し、105ミリ砲弾と12.7ミリ機関銃弾を満載した。
 我々に不足しているのは、89式小銃弾と64式小銃弾で、その他はこの地下施設4階に潤沢に保管されている。
 やや少ないのは12.7ミリ弾だ。特に不足しているのは、89式と64式小銃の弾倉。89式の弾倉は銃の数よりも少ない。

 翌朝、自走10榴の準備完了とともに、医薬品探索のためのチーム、来栖、香野木、奥宮、結城が編成され、花山、ラダ・ムー、百瀬、笹原の四人は相馬原駐屯地内の物資探索チームとなった。
 彩華と由衣は、3人の幼い子供たちと床に伏せる3人をフォローする役目となった。

 香野木たちは9時に相馬原を発し、前橋赤十字病院を目指した。距離は15キロ、ここ数日は雨が降っていないので、1時間ほどで到着するはずだ。
 ただ、地形以外の目標がないので、今日は病院の場所を特定できれば良としていた。
 今回は自走10榴に3人が乗り、香野木1人がパジェロベースの1/2トントラックで行動した。

 彼らは10時前に群馬県庁付近で、利根川を渡った。
 ここで、前橋に住んでいた結城が、利根川沿いにあった群馬中央総合病院ならば、地形からおおよその位置がわかりそうだ、と意見を述べた。
 実際、この状況で一番難しいことは、現在位置を把握することで、地上に建物などの人工物が一切なくなってしまった現状では、困難きわまりないことだった。
 来栖は「今日は群馬中央総合病院を探しましょう」と目標の変更を即決する。

 結城は利根川に沿っての南下を指示し、利根川の流れと、群馬県庁からの距離で、群馬中央総合病院跡を見つけ出した。
 まだ11時過ぎで、さっそく地下の探索を始めると、地下に向かっていく緩いスロープを見つける。幅が狭いことから地下駐車場の入口ではなく、ヒトが通るもののようだ。
 これとは別に奥宮陸士長が土砂に埋まった地下に続く階段を見つけた。
 3人を地上に残し、香野木がスロープを降りて地下に入った。八重洲で手に入れたLEDライトを左手に、右手にS&W M39自動拳銃を構える。
 悪意のある人間を警戒したことと、オークの存在を恐れていた。
 地下には粒子が極端に細かい土が進入していて、暗闇の中でそれが足を動かすたびにからみついた。
 地下1階は原形をとどめており、崩落の危険は感じない。
 また、地下2階へ降りる階段が見つかった。その階段は地上へも向かっているが、地下一階の直前まで土砂が入り込んでいる。これが奥宮陸士長が見つけた階段の地下側のようだ。
 地下はかなり広く、すべての探索は容易ではない。
 香野木はいったん地上に戻り、崩落の危険が少ないことと、医薬品の保管庫らしい部屋は発見できなかったことを告げる。だが、地下2階があることと、地下1階もすべてを見たわけでないことを付け加えた。
 来栖は非常に恐がりで、「遺体の安置室に遺体があったらどうしよう」みたいな子供のような不安を語っていた。
 奥宮陸士長が呆れていると思いきや、彼も同様で2人がシンクロしてしまって、結城がオロオロしている。
 とりあえず地下1階には遺体安置室がなかったことにして、奥宮陸士長と結城を残して、香野木と来栖が地下に降りることにした。
 ライトは1つしかない。香野木と来栖は、行動を共にしていたが、彼女は意外にもあっさりと医薬品の保管場所を見つけた。
 その部屋は大量に保管しているのではなく、また点滴のような医薬品はなく、錠剤や軟膏のような常温か定温で保存できるようなタイプが施錠されたガラス引き戸のロッカーの中に仕舞われている、といった状態だ。だが、施錠はされていない。
 来栖は、香野木たちが八重洲から持ってきたスーパーカゴに片っ端から薬を入れ始めた。怯えた様子はなく、香野木に「ここを照らせ、こっちを照らせ」と指示しながら、手早く、かつ大胆に選択していく。
 結局、地上と地下を8往復して、相当数の医薬品を入手できた。ただ、来栖以外は何に使う薬なのかはわからない。
 また、聴診器やメスなどの医療器具も少ないが入手できた。
 また、機材倉庫のような場所を見つけた。来栖は、「ここに旧式だけれども、超音波診断装置や電子内視鏡があったから、これも回収しましょう」と主張したが、香野木が「重量のある精密機械をトレーラーには積み込めない」ことを説明して諦めさせた。
 あれこれと探索して、かなりの成果があったので、15時には相馬原への帰路についた。

 相馬原への帰着は16時を過ぎていた。医薬品が見つかったことは、18人を大いに勇気づけた。また、花山が7.62ミリ弾を大量に発掘していた。74式車載機関銃用のベルトリンク弾で、この銃を車外で使用するための三脚もあった。
 花山は、「発見場所をもう少し掘れば、機関銃本体が見つかるかも」と。

 その後も彼らは物資の探索に邁進し、ときには秩父グループに物資の所在を知らせることもあった。
 群馬中央総合病院跡で見つけた超音波診断装置と電子内視鏡は、我々には輸送の手立てがなかったが、秩父グループには、この機材を輸送する手段、使用できる医師と技師、そして修理整備ができる技術者がいた。
 香野木たちは、この機材を秩父グループに譲った。
 その謝礼ではないのだろうが、米やジャガイモ、カボチャなどを分けて貰った。
 秩父グループも前橋付近まで北上して、物資の探索をするようになり、相互に協力し合いながら、生存に必要な資材を確保していく。

 10月中旬を過ぎると、急速に気温が下がり始める。従来同様に空は薄茶色だが、雲が低くなり、雨の降り出しを予感させた。

 市ヶ谷台は、栃木県佐野市に底面の直径250メートルに達する円錐形の構造物が発見されたとラジオで放送した。宇宙船の大気圏再突入カプセルに似た形状で、大きさは東京ドームに匹敵する。
 市ヶ谷台は、「ヒトに似た生物が乗ってきた大気圏再突入カプセルの1つ」だと結論している。市ヶ谷台の分析では、「1万から最大3万体が乗っていた可能性がある」とも告げていた。
「オークが1万」と聞いたラダ・ムーは、非常に深刻な様子を見せた。
 関東では、市ヶ谷台と秩父グループが防衛体制を固めているが、武器・弾薬が少なく、採り得る手段は限定される。
 秩父グループは、陸上自衛隊朝霞駐屯地や航空自衛隊入間基地から小銃等を入手していたが、重火器は保有していない。このため、秩父グループは市ヶ谷台に支援を求めた。
 この頃には、生存者が日本各地でグループを作り始め、おおよその生存者数がわかり始めていた。
 その推定数は1万5000から最大でも3万とされた。
 これでは、日本に住むヒトと佐野に降りたオークとが、ほぼ同数になってしまう。
 危機的状況であることは明白だ。

 11月に入る前に、5日間雪が降り続いた。一切の人工物と樹木が消えた関東平野は、白色の世界になった。
 そして、装輪車輌の行動は不可能になる。

 花山の特訓によって、若者は生き残るために必要な武器を扱う技術を一通り身に付けることができた。
 花山は容赦なく香野木も虐めたが、香野木はまったく上達しない。不出来な教え子だ。

 そして、相馬原の住民は、19人になった。夏見智子は無事に男の子を出産した。
 悪阻が治まった畠野史子が全力で頑張り、秩父グループから無線による医師の支援を受けて、この難事業を乗り切った。
 男の子は、一希と名付けられた。

 35ミリ機関砲を搭載する軽戦車2輌は、基本的な作動をするようになっていたが、制御システムの応答が遅く、チューニングを必要としている。軽装甲兵員輸送車2輌も武器の管制システムが未完成だ。
 加賀谷真梨と彩華の推測では、完成まであと3カ月を要するという。

 雪が降る直前、香野木はトラクターを駆って、秩父グループ内の一団からレンガをトレーラー1輌分譲り受けてきた。また、少量だがセメントも譲って貰った。
 その代価は、89式小銃2挺と1銃あたり弾200発。
 彼らは下仁田付近の小集団で、レンガは家を建てるために自分たちで焼いたものだという。身を守るための武器を欲しており、香野木たちは地上に施設を作るための資材を欲していた。
 そして、この物々交換が成立した。

 その後にさらに雪が降り、地下施設の上にレンガ造りの家を建てる計画は、頓挫した。
 香野木たちは、冬ごもりの準備を考え始める。
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