大絶滅 5年後 ~自作対空戦車でドラゴンに立ち向かう~

半道海豚

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第1章 東京脱出

01-015 会敵

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 彼らは結局、荒川と入間川の合流点より下流では水量が多すぎて、渡渉することができなかった。
 そのため、入間川に沿って北上し、荒川との合流点から6キロほど上流の浅瀬で、入間川を渡渉した。
 国道16号の外側に出て、川越市から川島町に入った付近と想定していた。つまり、利根川源流を目指していながら、いまだに埼玉県から出ていないのだ。
 その後はさらに北進し、荒川右岸を目指した。

 日没の2時間前、その日の出発点から7キロほど北上した地点で、野営をすることにした。
 桶川市付近、ホンダエアポートがあった場所からやや南西にいるものと推測している。
 近くに川のように細長い池がある。
 由衣とケンちゃんは、お湯を多めに沸かして貰い、身体と髪を洗った。
 大人は燃料節約のため、水で洗った。
 だが、ワンボックスワゴンの威力は絶大で、2人の子供は寒がらず。髪が完全に乾き、身体が十分に温まるまで、ワンコとともに車内で遊んだ。
 地下の倉庫にはシャンプーや洗濯石けんの備蓄もあり、物質的には飛躍的に豊かになった。
 由衣とケンちゃんは着替えができ、いままで着ていた服は洗濯された。
 大人たちの着替えはほとんどなかったが、子供たち優先で精神的には落ち着いた。

 なお、ワンコも洗濯された。

 この時点では、物資の大半は軽トラの荷台とトレーラーに積んでいた。
 今夜、子供たちは、ワンボックスワゴンの車内で手足を伸ばしてゆっくりと眠れる。花山真弓と金平彩華は、前席シートを倒して眠る予定だ。
 葉村正哉は軽トラの座席で、香野木恵一郎はトラクターのキャビンで、交代で不寝番をする。

 日付が変わった直後に、正哉と不寝番を交代した香野木は、地下室で手に入れた半自動のライフルを使って、夜明けまで操作の練習を続けた。
 弾薬は.308ウインチェスターで、7.62ミリNATO弾と同じものだ。弾は4発装填できる。弾倉は着脱可能だが装弾数が少なく、対人戦闘用には不向きだ。
 猟銃なので銃剣はもちろん取り付けられないし、スコープは発見できなかった。フロントとリアにサイトがあるので、スコープがなくても銃としては機能する。
 この銃はイタリア製で、ベレッタM62の日本向け仕様らしい。装弾数が10発から4発に減らされている。

 夜は小雨が連続して降り続いた以外、何事もなく明けた。
 6時30分には大気中の埃で霞んでいるが、太陽は完全に姿を現した。

 この朝、花山は直径20センチほどの小さな鍋に、地下室からサルベージしたカレールー、ジャガイモとタマネギ、そしてツナ缶を使ってカレーを作った。
 発電機を動かして、炊飯器に電気を送り、ご飯も炊いている。
 カレーの食欲をそそる香りが周囲に広がる。
 朝食を済ませたら、その日1日、調理した食事を摂ることは不可能になる。少々ヘビーだが、この状況下なら朝のカレーライスはありだ。

 香野木の気が少し緩んだ瞬間、西から北東に向かうバイクの一団がやってきた。
 一瞬で緊張が走る。拳銃はトラクターのバッグの中、ライフルもトラクターの中だ。
 花山も弾帯を巻いていない。
 由衣が正哉にしがみつく。

 バイク隊は2分とかからずに、彼らの直前までやって来た。
 彩華の姿が一瞬消え、すぐに現れた。
 バイクは10台。そのうち2台が大型スクータータイプの3輪で、4輪バギー(ATV)が2台ある。4輪バギーは2台ともリヤカーを牽引している。リヤカーには物資が満載されている。
 何人かが被るフルフェイスのヘルメットが不気味だ。バイクの後席に乗る2人が、金属バットを持っている。
 車列の中程のバイクの男がヘルメットを脱いで、「凄い装備ですね。でも、これくらいじゃないと……ね」と笑った。20歳くらいだろうか。
 3輪バイクの後席に乗った幼児2人が、鍋を指さし「カレーだよ」と言っている。
 2台のバイクの後席にも、小学校高学年くらいの子供が乗っている。
 バイクの男が「あの、食料を奪おうとか思ってないっす。
 プラスチックの鎧みたいなものを着た連中が、生き残った人たちを襲っていると聞きました。
 注意しようと近付いただけです。
 怖がらせて、ごめんなさい」
 花山が「お子さんたちが、カレーを食べたがっているけど、子供の人数分くらいならあるけど……」
「いや、申し訳ないっす。食い物は貴重なんで……。それに、貴方たちだって、生涯最後のカレーになるかもしれないでしょ」
 香野木が「それは、そちらのお子さんも同じだ。
 時間があれば食べていけば」
 男は何人かと相談し、「30分の休憩とする」と大声を発した。
 子供たちは、カレーの鍋に集まった。

 香野木と花山は、男とその仲間数人と情報を交換した。男は桐谷と名乗った。
 彼は「夜明け前から走っていたので、そろそろ休憩は必要だったんで助かりました」と言い、花山が「プラスチックの鎧のことだけど」と話を振ると、桐谷はやや戸惑いながら話し始めた。
「俺たちは地上のものが全部消えたとき、首都高速の山手トンネルにいたっす。
 直前を走っていたダンプとトラックが止まって、何も考えずに停止しました。何台かのバイクが横をすり抜けて行ったけど、彼らは助からなかったかも。 
 2日前、栃木方面から東京を目指しているという人たちに会いました。
 パジェロやランクルが5台です。
 その人たちが、その鎧に襲われたそうです。クルマが1台真っ二つにされて、2人の身体が切断されたそうです。
 それから、4人が連れ去られたとか。
 空中に50センチくらい浮上する乗り物に乗っていたとか……。
 ちょっと信じられないんですが……」
 香野木が応じた。
「俺たちも東京にいた。地下鉄の駅にいたので助かった。
 東京で、警察官と自衛隊員の死体を見た。身体が真っ二つに切断されていた。
 それと、都内から出る前の荒川で、自衛隊に会った。
 海上自衛隊で、潜水艦に乗っていて助かったそうだ」
 香野木は篠塚の話はしなかった。終わったことだからだ。
 桐谷は「警戒したほうがいいんですかね?」と自問のように言った。
 花山が「武器を探したほうがいい。小さな子供もいるんだから。
 あの子たち、守ってあげて」
 桐谷は「栃木から来た人たちが、丸々嘘をいったわけでないことはわかりました。
 ありがとうございます。
 武器ですが、少し持っています。
 あの金属バットは、物騒な連中に襲われないための虚仮威しです。
 あと、図々しい連中よけですかね」
 花山が「なら、いいけど……」
 香野木が「どこに向かっているんだ」と尋ねた。
 桐谷が「日光っす。
 栃木から来た人たちが、中禅寺湖付近は植物が少し残っていたといっていたので……。
 いまは、安心して寝る場所、水と食料の確保が最優先ですから。
 で、皆さんは?」
 香野木が答えた。
「利根川上流。考えはあなたと同じだ」
 桐谷は微笑んだ。
「なら、近いですね。金精峠を越えれば群馬ですから。
 湯ノ小屋を経由すれば、水上だし。
 あの道があればだけど……」
 香野木が「みなさんの幸運を祈っている」と言うと、桐谷は握手を求め、花山とも手を握りあった。

 彼らはきっかり30分休んで、出発した。統率のとれたグループだ。
 由衣とケンちゃんを除いて、カレーを食べ損ねた。
 香野木たちも食器を洗う時間を惜しんで、荷物をまとめてすぐに出発した。

 トラクターは、驚異的な走行性能を見せた。速度は大幅に上がり、常時時速20キロ以上で進むことができる。
 遠くに山の影が見えるが、まったく起伏のない荒野を北に向かった。
 ただ、軽トラが足かせになり始めてもいた。どう頑張っても、農業用トラクターに追従できないのだ。
 彼らをここまで運んでくれた軽トラだが、放棄の可能性を考え始める時期にきていた。

 9時少し過ぎ、小さな小高い丘があったので、その麓で小休止とした。
 由衣とケンちゃんを除いて朝食を食べ損ねていたので、缶詰のパンとサンマの缶詰で食事とする。
 由衣たちは、バイクの一団がカレーの謝礼としてくれたグミを2個ずつ食べた。
 香野木は手早く朝食を済ませ、ライフルに.308ウインチェスター弾を装填した。
 それを花山が見ている。
 香野木は花山の視線を感じ、「用心に越したことはないから……」と言った。
 彩華が「花山さん、ミニ14を使っていい?」と尋ねる。
 花山が「使い方知ってるの?」と彩華に資すると、彩華は「一応……。本物はないけど」と答えた。
 続けて「このミニ14って、本当は害獣駆除用の猟銃なんだけど、一部の軍隊では軍用銃として使っているの。弾は.223レミントン、つまり5.56ミリNATO弾。自衛隊の89式小銃の弾と同じ。
 この弾倉は4発入りだけど、M16の弾倉を使えば30連発も可能なの」
 花山は驚いたように、「彩華ちゃんは銃に詳しいのね。
 ハチキュウはM16の弾倉が使えるから、ハチキュウの弾倉をが手に入れば使えそうね。
 東京で回収できなかったのが、残念ね」
「銃に詳しいわけじゃなくて、もう何年も前だけどサバゲーやってたので……。ただの聞きかじりです」と彩華がはにかんで答える。
 桐谷の話を聞いて以来、誰もが銃を使う可能性を考え始めていた。嫌なことだが……。
 花山は彩華に対して「弾倉を着けなければ安全よ。薬室に弾が入っていないことを必ず確認すること」といった。
 彩華が頷く。

 そして、それは、そのときやってきた。

 地上から50センチほど浮いて移動する、軽自動車ほどの大きさの乗り物が、彼らの西4キロ付近を通過しようとしている。
 それに最初に気付いたのは由衣だった。
 由衣が無言で香野木の手を引っ張り、彼女が指さす方向を見ると、それがいた。
 一瞬凍り付いたが、その後は迅速だ。
 正哉は由衣とケンちゃんをトラクターの陰に隠し、花山は軽トラの荷台で、軽トラのルーフを支えにレミントンM700を据え、香野木はベレッタの安全装置を外し、コッキングボルトを引いて装弾、彩華はミニ14に弾倉を取り付け、コッキングボルトを引いた。

 その乗り物から一人が飛び降りて、こちらに向かって来る。その加速は凄く、瞬く間に時速60キロに達する。100メートル10秒で走る陸上短距離のアスリートでも、時速に直せば三六キロほどだ。この速度は、ヒトのなせる技じゃない。
 彩華は左翼、香野木が右翼に展開する。
 乗り物の後部に乗る4人の人間が、何かを叫ぶ。乗り物との距離は500メートルほどまで縮まっている。
「逃げろ!」といっているようだ。
 乗り物から飛び降りて走ってくる〝何か〟は、灰色の〝プラスチックの鎧〟を着ている。
 香野木の意は決していた。迷わず撃たなければならない。
 花山は高速だが直線を単調に走ってくる目標を、距離200メートルまで引きつけ1発で倒した。
 香野木は十分すぎるほど鈍足な足を必死に動かして、大きく迂回してこちらに向かってくる乗り物に接近していく。
 そして、乗り物正面に4発撃ち込むと、乗り物は急激に接地して、10メートルほど滑走した。乗り物のスピード自体は速くなく、地面に激突したのではなく軟着陸だ。
 後席の1人が操縦者を襲う。襲ったヒトは、操縦者に片手で放り投げられる。まるで、大男が子犬を投げ飛ばすように。
 操縦者は右手から、25メートルほどの赤い鞭のようにしなる〝何か〟を出し、それを香野木に向けて振るった。
 香野木はかろうじて避けたが、その赤い〝何か〟が接した地面は裂けていた。
 香野木の銃には弾が残っていなかったが、操縦者は警戒しているようで、近付いてこない。香野木は銃を構えて、相手を威嚇した。
 操縦者は、〝白地に赤い唐草模様が描かれたプラスチックの鎧と頭部全体を覆う冑〟を着けている。
 彼我の距離は20メートル。香野木は敵の射程内にいる。
 そのとき、ドンという鈍い音がした。花山が狙撃した。赤い唐草鎧の操縦者は、地面に崩れ落ちた。

 香野木は即座に1発だけ給弾し、操縦者の胸ににとどめの1発を放った。
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