彷徨う屍

半道海豚

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06-003 星の村

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「私たちは、星の村に帰る」
 15歳前後の男女6人グループの1人がきっぱりと言い切る。
「ねぇ、私たちもついていっていい?」
 同じ年齢くらいの女性が問う。
「あんたたち、親子?」
「ううん、違う」
「私が彼女に助けられた。
 ゾンビに囲まれてしまったところを……」「いいよ。
 お姉さんたちは?」
「行くあてがないの。
 同行させて」
 初老に近い壮年の男女は「私たちは北に向かいます」と答えた。誰もが、盛岡のサンクチュアリが2人の目的地だと知っている。

 京町裕貴は、ティーン6人組の拠点がどこなのか皆目見当がつかなかった。この付近には、ホシノムラという地名がないからだ。
 しかし、彼女・彼らに拠点の所在など聞けるわけがない。
 6人組の中では年嵩の女性が説明する。
「星の村は、ここからかなり遠い。
 あの連中からは逃げられると思う」
 裕貴が心配になる。
「あのヒトたち、飛行機を使っている。
 セスナが飛んでいるのを見たんだ」
 全員の顔色が変わる。飛行機は行動距離と速度が圧倒的。地上をトコトコ逃げては、追い付かれてしまう。
 6人組の男性が発言。
「ここから離れるまでは、早朝と日没間際だけ行動するしかないよ。
 小さな飛行機は夜は飛べないって聞いたことがある」

 ここは住宅街のど真ん中。こんな場所で話をしていたら、早晩死人が寄ってくる。
 6人組の2人が戻ってきた。
「準備できた。
 エンジンがかかった」
 彼らは1トン積み保冷トラックを運転してきた。型式には新旧あるが同型が3台。
「荷物は無事だった」
 荷台の扉を開ける。
 壮年男性と一緒の女の子が「すごい」と目を見張る。
「これを捜しに来たんだ。
 はるばるね」
 荷台に満載された非常食だ。
「自衛隊の缶飯ってやつと、コンビニで売ってるような缶詰、非常用のパンの缶詰もある。
 スゲーだろ」
 6人組はニコニコしている。
 リーダーらしい女性が引き継ぐ。
「小学校の近くの病院に、自衛隊や行政が非常食を運び込んだの。地域のヒトたちに配ろうとしたんだね。
 だけど、できなかった。
 ゾンビが爆発的に増えちゃったから。
 逃げて逃げて、私たちの仲間になった子が、病院の非常食のことを知っていたんだ。
 だから、私たちが回収に来た。病院内のどこに運ばれたのかも知っていた。
 情報も作戦も完璧だったよ。
 だから、食べ物は心配しないで。当分は大丈夫。当分は……、だけどね」
 6人組の1人が大きなエコバッグに缶飯を見繕って入れていく。
 それを、壮年の男女に渡す。
「30分茹でて。
 そうしないと食べられないから」
 壮年の男女が驚き、そして何度も礼を言葉にする。

 死人が姿を現す。
「じゃぁ、ここで」
「元気で」
「気を付けてね」
 互いの無事を願いながら、3つのグループが別れる。

 4号は、渡れない川のようなもの。ここに死人が集まり、南に向かっていく。
 動きは遅く、1時間に1メートルも進まない。4号は死人で埋めつくされている。
 希に途切れることはあるが、いつ途切れるのかはわからない。
 仙台市内も死人が多い。クルマの走行音は死人を呼ぶ。市内中心部では1キロも進めない。
 東は太平洋、西は4号、南は仙台市。ここは、北にしか進めない。
 裕貴と光輝は、4号の死人の群が途切れるのを息を潜めて待ち続けることにする。
 交差点に近い蕎麦屋の陰で、群の途切れを待つ。待ち時間は1時間かもしれないし、1週間かもしれない。予測できない。
 また昼間とは限らない。深夜もある。
 だから、24時間監視する。

 監視を始めた当日、22時半頃、群が途切れる。
「姉さん、群が途切れた」
 寝ていた裕貴が飛び起きる。
 シートの背を起こし、エンジンを始動する。ヘッドライトを点ける。乱暴な運転で上下計4車線の4号を突破する。途切れた時間は、ごくわずか。死人の間をすり抜けるようなきわどい運転だった。

 死人は死人が発する振動を検知する。だから、死人は群を作りやすい。その群は、数体から数百万体まで様々。傾向としては、群は巨大化しやすい。
 問題は密な群は避けやすいが、疎な群に飛び込んでしまうと命がけになる。気付けば、周りが死人だらけになっている。

 裕貴は紙の地図を見つつ、山形市と米沢市の中間のどこかからもう少し西に向かうつもりだった。
 山間部で隠れやすい場所を選び、越冬するつもりだ。不安はあるが、どうにかして2人で乗り切っていくしかないと覚悟している。
 それと生存者は、大きな集団を作りにくい。食糧の確保が難しいからだ。10人前後が限度。15人を超えると、確実に分裂する。
 それならば、2人ぼっちで十分と考えていた。大勢の中では、光輝は辛い思いをする。何もしないのに、必ず何かをされる。それを黙って耐えなければならない。
 それは理不尽だ。

 山形市の南側東辺にたどり着くまで5日かかった。実走で150キロ。人家を避けて、山道を選んだからだ。
 仙台市の南で南陽市に入る。南陽市市街地の西辺をたどって南下し、さらに西を目指す。
 越冬できる場所を探すためだ。

「どうして、ここに残っているのだろう?」
 分屯地は3カ所に分散しているが、かなり多くの建物がある。物資はいろいろと残っているのだが、武器・弾薬と戦闘糧食は見つかっていない。例外は、M61バルカン砲の対空機関砲型だけ。この砲の弾薬も残っていた。
 運び出せなかったか、次回空輸の予定で、その次回がなくなったか?
 そんな混乱した状況だった可能性がある。
 阿修羅大佐の存在を考えれば、対空機関砲は心強い。

 隣接する敷地外に大きな穴を掘った痕跡があり、掘り返すことになった。ゴミを埋めたとも、埋葬とも思えたが、ゴミ捨て場にしては大きい穴だし、埋葬とすれば墓標くらいはありそうだ。
 分屯地に派遣されるメンバー内で日に日に不信感、不安感、好奇心が増していき、とうとう「掘り返そう」となった。

 穴は深かった。大型ショベルのアームが届く限界。
 出てきたものは、民間の軽トラパネルバンだった。軽トラごと埋められていた。
 荷台のドアを開けると、大量の木箱。木箱は相当古い。1960年代か70年代頃の砲弾用の箱だ。
 その箱の中に骨董品の機関銃が入っていた。予備装備か処分忘れの鉄屑なのかわからない。ブローニングM1918A2軽機関銃が大量ではないが相当な数が木箱に入っていた。
 一方、弾薬は膨大。7.62×61ミリ弾はすでに自衛隊では使われていない。
 機関銃と弾が大量に埋められていた。
 骨董品の銃自体は使えそうではないが、弾は使えるかもしれない。ただ、この弾を使う銃を探さなくてはならないが……。
 これが、初夏の頃の出来事。
 その後、紆余曲折があり、7.62ミリM1918軽機関銃を修理して、分屯地で使うことになった。

 レーダーの再稼働準備を進めている。阿修羅大佐の動きがわからず、また奪われたT-34メンターの所在もわかっていないので、空襲を警戒してのことだった。
 スカイパークは、阿修羅大佐を“マロちゃん”と呼んで小バカにしているが、その一方で恐れてもいた。

 真藤瑛太は、40フィートコンテナを改造した通信傍受室の設置に忙しかった。無線の傍受は、周囲の状況を知るために非常に有効で、善良な生存者とそうではない生存者(生人)の区別もある程度できる。
 直線で65キロ離れている分屯地と協力すれば、三角測量によって無線の発信源も探知できる。
 阿修羅大佐に限らず危険な生人は少なくない。脅威を事前に探知するには、この仕事は重要だった。
 高原、スカイパーク、分屯地は、拠点間通信では自衛隊の暗号化されたデジタル無線機を使っていた。
 しかし、自衛隊の無線だけでは足りず、民間の無線機も多用している。
 この頃には、拠点を出る場合は無線の携帯が義務付けられていた。大出力化などの改造も行っている。
 それら全体が瑛太の仕事だった。

 この通信傍受室は奇妙な場所にある。

 空港の近くには小規模な産廃の処分場があり、それを埋め立ててアスファルトで舗装し、H鋼製の土台に回収してきたコンテナ倉庫を置いて、商店街を作った。
 擬似的ではあるが消費生活ができる。なお、商店主の多くは、本業が別にあったり、労働の大半が免除される15歳以下や子育て中の女性が運営するケースが多い。

 そんな楽しい場所に無線傍受室がある。

 女性の声だった。昼の12時を少し過ぎている。
[メーデー!
 メーデー!
 メーデー!
 襲われている。誰か助けて!
 尾花沢市上空付近!
 戦闘機に攻撃されている!]

 DHC-6ツインオッター双発輸送機は、超低空をジグザグで飛行している。地上で2機が破壊され、残った1機で空に逃げた。
 彼らはいままで、空に逃げることで生き延びてきた。空へは、誰も追ってこなかった。
 しかし、追われている。このままでは、撃墜されてしまう。
 ツインオッターのパイロットは、河川敷の広場のような草地に強行着陸することにした。着陸して、飛行機から離れられれば、何人かは生き残れると考えた。

 パイロットは救援を求めたが、応答があるとは思っていなかった。
[あんた、どこにいる]
 パイロットは回避で手一杯。応答なんてできない。コパイ(副操縦士)が代わる。
[たぶん、最上川沿い。山形市の西南。
 このままでは撃墜される。河川敷に降りる]
[いや、飛んでいろ!
 簡単には落とされない。
 我々から、救援を出す!]

 別な通信が入る。
[離陸した。
 15分で着く。その付近で、ぐるぐる回っていろ!]

「信じられないよ!」
 パイロットが叫ぶ。
 コパイが「俺もだ!」と同意。
 客室は、急旋回するたびに悲鳴が響いている。

 京町光輝は不思議なものを見ていた。かつては美田だったであろう草地の上空で、2機の飛行機が急上昇や急旋回をしながら、追いかけあっている。

 安川恭三が「俺のメンターで悪さすんな!」と怒鳴る。アエルマッキSF-260ウォリアのほうがわずかに優速で、旋回性能はほぼ互角。
 ウォリアの両翼が赤く光る。

 ツインオッターが、河川敷に降りる。

「姉さん、どうするの?」
「行ってみよう。
 助けが必要かも」
「うん、姉さんの命令に従うよ」

 安川恭三は、メンターの垂直旋回に追及するために歯を食いしばっていた。凄まじいGが身体にかかる。
 メンターは右旋回に入るが、機体性能ではこの機動についていける。だが、再度垂直旋回かインメルマンターンでもされたら、恭三の身体がもたない。
 それと、ウォリアではメンターに対して、垂直機動では対抗できないこともわかった。
 それでも、メンターを追い払った。
 ツインオッターは、ゾンビ事変以前はむつみ飛行場と呼ばれていた最上川の河原に着陸していた。飛行場ではあるが、ただの草原だった。いまは草が伸び放題のただの草原。偶然なのか、計画通りなのかはわからないが、無事に着陸できた。
 軽のハイトワゴンが近付いているが、アエルマッキSF-260ウォリアに銃弾は残っていない。地上でどうにかしてもらうしかない。

 裕貴と光輝が道路にクルマを止め、着陸した飛行機に駆け寄る。
 2人が銃を持っているので、胴体側面のドアから降りてきた女性が子供を抱きしめ、男性が跪いて両手を頭に載せる。
「撃たないでくれ!
 武器はない!
 降伏する」
 裕貴が走り寄りながら叫ぶ。
「何もしません!
 心配で来ただけです!
 怪我していませんか?」

 パイロットは着陸の際に機体が壊れるほどの衝撃を覚悟したが、意外と穏やかな着陸だった。
 離陸前に4人が撃たれ、2人が死亡、1人が軽傷、1人が重症。
 だが、重傷者はどうにもならない。客室では、誰もが泣いている。

 パイロットが無線で、礼を伝える。
[ありがとう。
 助かった]
 瑛太が確認する。
[全員無事か?]
[いえ、1人が重症。
 手当のしようがないでしょ。こんな状況じゃ]
[わかった。
 医者を送る。
 そこでそのまま待て]
[え?
 お医者さん?
 ……が、いるの?]

 薬師昌子に促されて南川響子が4人乗りのセスナ172Sに乗せられる。
「私は内科医で、外科じゃない!」
「そんなの関係ないでしょ。
 医者は医者なんだから!」
「加納さんのほうが!」
「千晶さんはヘリで来る!
 先生は私と一緒に行く!」
「もう、強引なんだから!
 こんな世界、嫌いよ!」
「それは同感」

 セスナ172Sが離陸し、むつみ飛行場跡に向かう。

「お医者様なんですか?
 彼を助けてください!」
「医者だけど、内科で。
 とにかく応急処置をします」
「私たちの飛行場で、外科に強いあやしい看護師が待っています。
 安請け合いはしませんが、希望を持ちましょう」
 昌子が農道に着陸したセスナ172Sを指さす。
「あの飛行機に乗せます。手伝ってください」
 サングラスをかけた女性パイロットが反対する。
「ツインオッターのほうが大きい。
 それに飛べます。
 彼も楽なはず。
 近くなんでしょ。15分飛べばいいんでしょ。私たちも連れて行って!」

 昌子が上空で待っていると、ツインオッターが離陸する。大きな双発機だが、セスナ並みの滑走距離で離陸できる。

 ツインオッターがスカイパークに着陸する。
 大勢が出迎え、重軽傷者2人が病院に運ばれる。
 重傷者は出血が多く、輸血のために献血が呼びかけられた。真藤瑛太も応じたし、篠原七美も献血の列に並んだ。
 誰もが、自分のこと、家族のこととして対応していた。

 ツインオッターには12歳以下が6人乗っていた。このグループはカフェに連れて行かれ、取り急ぎの食事をさせた。
 ナポリタンだった。
 何日も十分な食事ができなかったと聞いたからだ。13歳以上にも一呼吸遅れたが、食事が用意される。
 ご飯、マスの切り身の燻製を炙ったもの、大根サラダ、山菜の味噌汁だった。

 食事が用意されると、お膳を見た彼らが泣き出してしまった。決して高価な食材ではないし、見かけもよくない。
 なのに、彼らは泣いた。
「ご飯と汁物だけでも、いまでは奇跡だよ」
 まとめ役の女性が涙を流しながら呟いた。

 このグループは、ツインオッターの機体はエプロン(駐機場)に、メンバーはターミナルビルの1階会議室で待機してもらう。
 食事も会議室だった。
 カフェでもてなされた子供たちには、2人の成人が同行した。

 当然だが、スカイパークはツインオッターグループを警戒していた。どういう出自でどこから飛んできたのかまったくわかっていないからだ。

 裕貴と光輝は、ほとんど成り行きで、ツインオッターに便乗してスカイパークにやって来た。
 嵩張る荷は、寝具くらいしかなかった。捨てたのは軽のハイトワゴンだけ。
 裕貴はスカイパークにやって来た判断を誤りではないかと、やや悩んでいた。気持ちは、光輝のために早く離れたかった。
 だが、光輝が穏やかな顔をしている。いままでは、常時緊張していなければならなかったが、ここではそんな必要はない。
 どうすべきか、彼女は迷っていた。

 光輝は、星の村に向かった子たちが気になっていた。一般的な感情としては心配しているのだが、光輝に自覚はない。

「姉さん、無線を借りて、星の子(星の村の子)たちに連絡してもいい?」
「応答はないと思うよ。
 警戒しているだろうから」
「それでもいいよ。
 俺たちが逃げ切ったと知ったら、参考になるんじゃないかな」
「この場所、スカイパークのことは言っちゃダメだよ」
「どうして?」
「ここのヒトたちは、親切なだけのヒトじゃない。自分たちの存在を秘密にしているはず」
「そうなんだ?
 無線を貸してもらえても、ここのことは言わないよ。姉さんの命令は守る」

 京町光輝は、真藤瑛太を無線傍受室に尋ねた。
 鋼製のドアをノックする。
「開いてるよ!」
 光輝が入る。
「あのぅ、真藤さんは?」
「俺」
「京町光輝です。
 飛行機で来ました」
「あぁ、阿修羅大佐に狙われたヒトたちね。
 無事でよかった」
「阿修羅大佐……、ですか?」
「笑っちゃうだろ?
 本名じゃないけどね。
 それにしても、頭悪そうだよね。
 で、用件は?」
「無線を使わせていただけませんか?」
「目的は?」
「仙台の北にいた頃、出会ったヒトたちがいます。全員ではないのですが、多くが星の村に向かいました。
 彼らがどうなったか知りたいし、姉が無事なことを知らせたいのです」
「相手が無線をもっていたとしても、応答するとは思えない。
 発信地を探知されたら、悪いヤツらが襲うかもしれないからね」
「それでもいいです。
 でも、無線を使ってもいいんですか?
 ここでは?」
「俺たちを襲うヤツなんているか?
 こんな凶暴なグループを。
 頭が悪いマロちゃんだけだろうね。
 それに、ここは無線を発信するための基地なんだ。設営の当初はね」
「マロちゃん?」
「葛城雪麻呂。
 あなたたちを襲った阿修羅大佐のことだよ」
「僕と姉さんは襲われていないんです。
 飛行機が不時着したんで、助けよとしただけで……。成り行きで、スカイパークに来ました」
「そうか。
 この無線を使ってくれ」
「使い方、教えて」
「送信はこのボタンを押す。
 受信はボタンを放す。
 電話みたいに同時に双方向通信はできない」
「わかりましたった。
 話しを聞いていて、伝えてはいけないことがあったら注意してください」
「あぁ、そうするよ」

 光輝が通信を始める。
[京町光輝だ。
 ちゃんと名乗らなかったかもしれない。
 仙台の北でのこと。
 俺と姉は、いまは安全な場所にいる。
 きみたちはどう?
 応答しなくてもいい。危険だから。
 伝えたかったんだ。一期一会だから]
 光輝が送信を終える。
 瑛太が微笑む。
「無難な内容だけど、いいメッセージだった」
 光輝が「ありがとう」とはにかむ。

 期待していなかったから、突然に感じる。
[京町光輝!
 無事でよかった。俺たちも全員無事だ!]

「驚いたな」
 瑛太は心底驚いていた。無線を発信したが、ごく短時間。これでは、発信方向を探知できない。
 応答したが、先方は強かだった。

 分屯地では以前から、ごく近くから電波が発信されていることに気付いていた。そして、その発信源は分屯地の存在に気付いていない。
 分屯地も電波を発信しているが、至近の発信源は、電波の方向や強弱までは探知できないらしい。あるいは、そういった概念がないか。

 光輝が辞去した直後、分屯地からスカイパークに自衛隊のデジタル通信を使った連絡が入る。
[無線の発信源は、南または南西方向、距離は10キロ以内。たぶん、5キロ以内。分屯地の半径5キロ以内に生存者グループがいる]

 数日後、真藤瑛太は京町光輝を尋ねる。迷ったが、彼の友人たちの居場所を伝えることにした。
 彼の部屋には姉の裕貴がいた。
「京町さん。
 わかったことがある」
 裕貴は驚いていた。光輝を変人扱いせず、友人として接する同年代の人物がいることに。
「真藤さん?」
「きみの仲間だけど、別な拠点から半径5キロ圏内にいる。
 南か南西方向……」
「その拠点って、どこにあるの?」
「ここからはかなりの距離がある。
 詳しくは言えない」
「5キロかぁ。
 訪ねることはできないかなぁ」
「その拠点に行けばね。
 その場所の名前とか、知ってる?」
「知っているけど、言えない。
 ごめんなさい」
「いや、用心は大事だよ。
 俺たちは善人じゃないからね。生存者から略奪をしないだけ。
 俺たちが接触したことで、彼らの平和を乱してしまうかもしれない」
「いや、そんなことはないと思います。
 食糧の確保がたいへんなんですよ」
「そうだね。
 食料の確保はたいへんだ。
 命がけだし、そろそろ缶詰も食べられなくなるし……」
「缶詰にだって、賞味期限と消費期限があるし、早ければ2年、普通は3年、最長でも5年。缶を開けて、プシュッとならなければ腐っていない、ことは知っていますけど」
「コメもボチボチ……」
「ヤバいですよね」

 裕貴は光輝と瑛太の会話を不思議なものを見聞きするように眺めている。
 光輝が普通に会話している。
 瑛太が誘う。
「仕事、探してる?」
「俺僕が仕事?」
「あぁ、人手が足りないんだ。
 機械いじり、得意かなって?」
「電子工作なら……。
 自作パソコンとか……」
「イヤじゃなければ、明日から来てくれる?」
「ありがとう……、だけど、僕、ヘンなヤツですよ」
「俺もヘンなヤツだよ。
 世界がこんなにならなければ、ただのヘンなヤツだ。
 スカイパークには、ヘンなヤツしかいないよ。陽人によれば、高原のはぐれものばかりらしい。
 だけど、変人だからって、悪人じゃない。
 それに、一期一会の仲間のことがわかるかもしれない」
「姉と相談していいですか?」
「あぁ」
 裕貴は瑛太を信頼したかった。
「やってみたら?」
「いいの?」
「もちろん」
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「明日から行きます。
 よろしくお願いします」 
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