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トゥートゥーツーツー!4、LIKE。
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再び形を失っていた私が世界を取り戻していく。
もしかしたら、死んだあとはこうやって色々な場所を巡りまわるシステムなんじゃないだろうか。私はぼんやりとした思考の中で、そう思った。
私は自分の形をはっきりと取り戻し、世界を見回した。
セミ男がいる。
何を言っているのかわからないだろうけど、私も状況を受け入れられず混乱している。一つ一つ、また世界を認識していこう。
まず、セミ男がいる。
セミ男とは、身体が人間で成人男性の大きさ。頭だけがセミの生き物だ。服装から男だと判断した。メガネをかけている。現場からは以上だ。
ここはドライブスルー?セミ男は小さな窓口に頬杖をつき、私は車で横付けしていた。私の注文を待っているのだろうか。何屋だここは?
これは困った。謎すぎるよノウネムよ。
「ミン・ジジッ!早く注文してくれぃ。俺っちは短命でね!チャッチャとしてくんないと死んじゃうよっ!ジジッ!」
セミ男は頬杖をついていないほうの手の人差し指を窓口のカウンターにトントントントンとしながら言った。
セミだから短命なの?身体は人間だけど、寿命はセミなんだ。頭を抱えたくなるほどの数の疑問の中から、私はチャッチャと一つの質問をすることにした。
「短い命とわかっているのに、なぜあなたは働いているの?」
なぜ自分のためだけに命の時間を使わないのか。
働く、とは自分の命の時間を他者に売る事だと思う。命の時間の対価にお金を貰う、そういうシステムだ。
自分の命の時間の持ち分が少ないのならば、その時間の希少性は上がるだろう。とても高くその命は取り引きすべきだ。このようなドライブスルーの窓口仕事に時間を費やすのではなく。
そもそもすぐに死ぬのならば他者を無視したっていいじゃないか!自分の好きに遊びまわるは良し、どんな犯罪もやったって死んだら罪からオサラバだ。
「ジジジジッ!質問一丁ォ!まいどゼミィ!!」
まいどゼミて。
まいどるり子。・・・。思ってみたかっただけ。
「ミン・ジジッ!俺っちはここで働いている俺っちが好きなのさ。客商売だが、俺っちは俺っちのためにここにいる。生まれて一番最初に好きになったものでもある!!ジジッ!だからアンタにゃあ悪いが、俺っちの好きなように働かせてもらうよッ!ジジジジッ!!」
悪くはないよ。犯罪をやったってと思っていた私に比べれば、このセミ男はとても真っ当だ。
・・・。私は死んでしまった後だけど、私は私のまま。意識がある。亡くなっても無くなれないシステムのこのあの世で、せっかくなら私も好きなように過ごしたいな。いつまで私は私のままでこのあの世にいられるのかはわからないけれど。
ん?このセミ男もすでに死んでいるのでは?・・・。まだこのあの世のシステムはわからない事だらけだ。
『トゥートゥーツーツー!るり子さん!!』
ノウネムだ。
『トゥートゥーツーツー!セミ男さんに注文をしたんだから、お代を支払わなきゃねっ!ツーツーツー!』
お代?対価か。あの世の通貨なんて持ってないよノウネム。セミ男に聞いてみよう。
「あの、お代はどうしたら良いですか?」
「ジジジジッ!質問一丁のお代は俺っちからの質問一個に答えてもらう事でのお支払でッ!ジジジッ!!」
あの世の店のやり取りがそういうシステムなのか、それともこのセミ男が好きに働いているからこういうやり取りになっているのかはわからないが、私はセミ男の質問を受けるしかなさそうだ。
でもお代としてでなくとも私はこのセミ男からの質問は受けただろう。
生まれてから自分の好きに生きているこのセミ男を私は好きだ。
「ミン・ジジッ!じゃあ質問するよッ!ミーンミーン!
アンタが生まれて一番最初に好きになったものって何だミンッ!!」
何だミンて。
・・・。何だったろうミン・・・。
思い出せないな。でも今答えるのだとしたら。
「セミ男さん、あなたの生き方がとても好きよ。」
「ジッ?!ジジジジジッ!!!!」
セミ男は照れているのだろうか。
私も釣られて照れてきた。思えば今まで誰かに好きだなんて言った事はなかった。LOVEもLIKEも。今回はもちろんLIKEである。
セミ男は死ぬまでここで働くのだろう。
私の好きな存在がこの世界にいるという事は、なんだかいいな。
こういう存在がたくさん世界にあれば、私は自殺などしなかっただろう。
『トゥートゥーツーツー!!るり子さん!いい雰囲気なところゴメンなさいねっ!』
誤解だノウネム。LIKE。LIKEのほうの好きだ。
『トゥートゥーツーツー!好きに生きるって、好きなものを見つけるって事なのかもねっ!トゥートゥートゥー!!!るり子さん、じゃあ次へいくよ!!トゥートゥートゥートゥー!!!!』
そうノウネムが言うと、セミ男とドライブスルー窓口と私と乗っていた車は全部まっ白なとてつもない光に包まれた。まっ白なモノとして、私たちはみんなまざって無くなってしまった。
「まいどゼミィ!!」
まっ白な中で、セミ男の声が響いた。
もしかしたら、死んだあとはこうやって色々な場所を巡りまわるシステムなんじゃないだろうか。私はぼんやりとした思考の中で、そう思った。
私は自分の形をはっきりと取り戻し、世界を見回した。
セミ男がいる。
何を言っているのかわからないだろうけど、私も状況を受け入れられず混乱している。一つ一つ、また世界を認識していこう。
まず、セミ男がいる。
セミ男とは、身体が人間で成人男性の大きさ。頭だけがセミの生き物だ。服装から男だと判断した。メガネをかけている。現場からは以上だ。
ここはドライブスルー?セミ男は小さな窓口に頬杖をつき、私は車で横付けしていた。私の注文を待っているのだろうか。何屋だここは?
これは困った。謎すぎるよノウネムよ。
「ミン・ジジッ!早く注文してくれぃ。俺っちは短命でね!チャッチャとしてくんないと死んじゃうよっ!ジジッ!」
セミ男は頬杖をついていないほうの手の人差し指を窓口のカウンターにトントントントンとしながら言った。
セミだから短命なの?身体は人間だけど、寿命はセミなんだ。頭を抱えたくなるほどの数の疑問の中から、私はチャッチャと一つの質問をすることにした。
「短い命とわかっているのに、なぜあなたは働いているの?」
なぜ自分のためだけに命の時間を使わないのか。
働く、とは自分の命の時間を他者に売る事だと思う。命の時間の対価にお金を貰う、そういうシステムだ。
自分の命の時間の持ち分が少ないのならば、その時間の希少性は上がるだろう。とても高くその命は取り引きすべきだ。このようなドライブスルーの窓口仕事に時間を費やすのではなく。
そもそもすぐに死ぬのならば他者を無視したっていいじゃないか!自分の好きに遊びまわるは良し、どんな犯罪もやったって死んだら罪からオサラバだ。
「ジジジジッ!質問一丁ォ!まいどゼミィ!!」
まいどゼミて。
まいどるり子。・・・。思ってみたかっただけ。
「ミン・ジジッ!俺っちはここで働いている俺っちが好きなのさ。客商売だが、俺っちは俺っちのためにここにいる。生まれて一番最初に好きになったものでもある!!ジジッ!だからアンタにゃあ悪いが、俺っちの好きなように働かせてもらうよッ!ジジジジッ!!」
悪くはないよ。犯罪をやったってと思っていた私に比べれば、このセミ男はとても真っ当だ。
・・・。私は死んでしまった後だけど、私は私のまま。意識がある。亡くなっても無くなれないシステムのこのあの世で、せっかくなら私も好きなように過ごしたいな。いつまで私は私のままでこのあの世にいられるのかはわからないけれど。
ん?このセミ男もすでに死んでいるのでは?・・・。まだこのあの世のシステムはわからない事だらけだ。
『トゥートゥーツーツー!るり子さん!!』
ノウネムだ。
『トゥートゥーツーツー!セミ男さんに注文をしたんだから、お代を支払わなきゃねっ!ツーツーツー!』
お代?対価か。あの世の通貨なんて持ってないよノウネム。セミ男に聞いてみよう。
「あの、お代はどうしたら良いですか?」
「ジジジジッ!質問一丁のお代は俺っちからの質問一個に答えてもらう事でのお支払でッ!ジジジッ!!」
あの世の店のやり取りがそういうシステムなのか、それともこのセミ男が好きに働いているからこういうやり取りになっているのかはわからないが、私はセミ男の質問を受けるしかなさそうだ。
でもお代としてでなくとも私はこのセミ男からの質問は受けただろう。
生まれてから自分の好きに生きているこのセミ男を私は好きだ。
「ミン・ジジッ!じゃあ質問するよッ!ミーンミーン!
アンタが生まれて一番最初に好きになったものって何だミンッ!!」
何だミンて。
・・・。何だったろうミン・・・。
思い出せないな。でも今答えるのだとしたら。
「セミ男さん、あなたの生き方がとても好きよ。」
「ジッ?!ジジジジジッ!!!!」
セミ男は照れているのだろうか。
私も釣られて照れてきた。思えば今まで誰かに好きだなんて言った事はなかった。LOVEもLIKEも。今回はもちろんLIKEである。
セミ男は死ぬまでここで働くのだろう。
私の好きな存在がこの世界にいるという事は、なんだかいいな。
こういう存在がたくさん世界にあれば、私は自殺などしなかっただろう。
『トゥートゥーツーツー!!るり子さん!いい雰囲気なところゴメンなさいねっ!』
誤解だノウネム。LIKE。LIKEのほうの好きだ。
『トゥートゥーツーツー!好きに生きるって、好きなものを見つけるって事なのかもねっ!トゥートゥートゥー!!!るり子さん、じゃあ次へいくよ!!トゥートゥートゥートゥー!!!!』
そうノウネムが言うと、セミ男とドライブスルー窓口と私と乗っていた車は全部まっ白なとてつもない光に包まれた。まっ白なモノとして、私たちはみんなまざって無くなってしまった。
「まいどゼミィ!!」
まっ白な中で、セミ男の声が響いた。
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