トゥートゥーツーツー

覇道たすく

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トゥートゥーツーツー!2、NO NAME。

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 形を失っていた私が世界を取り戻していく。それは、私と世界がバラバラにわかれていくようだった。チッ!私は死ねなかったのか・・・。
 世界は、本当に気持ちがわるい。そう思う。だが何よりも私自身が一番気持ちがわるい。
 確固たる決意と強い嫌悪感で、私は自分の人生を終わらせられると思っていた。結局、最後にもう一人のワタシの声なんかがきこえてくる始末。できないならできないと、そう思ってよ。海岸までの交通費がもったいなかったな・・・。

 私はベッドに寝かされていた。病院か・・・。ぼんやりとした思考の中で、真っ先にそう思った。

 (アハハ・・・!)
 (ウフフフ・・・。)

 私の頭からきこえていた声ではない、子どもの笑い声がする。何人もの子どもが私の寝ているベッドのまわりにいるようだ。

 私は自分の形をはっきりと取り戻し、世界を見回した。

 菩薩(ぼさつ)がいる。

 何を言っているのかわからないだろうけど、私もこの状況を受け入れられず混乱している。一つ一つ、世界を認識していこう。

 まず、菩薩(ぼさつ)がいる。

 子どもだと思っていた声の主たちは、幾人?幾神?の菩薩(ぼさつ)様たちだった。
 これは逝った。逝けたよ頭の中のワタシ。
 菩薩(ぼさつ)様たちは私のまわりをぐるりと囲んで、笑って私を見ていた。とりあえず、菩薩(ぼさつ)様たちの細かな認識はまた後にしようと思う。

 私の寝ていたベッドは仏閣の装飾のような絢爛豪華な作りをしていて、蓮の華をかたどったデザインだった。色は金やらピンクやら緑やら・・・。神様仏様が寝るのはこういうベッドなのだろうと思えた。
 しかしそんなベッドが置かれているこの場所は、あきらかに病室を思わせた。私の寝ていたベッドとは違う、質素なベッドが10ほど並んでいた。病室にしては広い部屋。何かの施設?あまり養護施設のような所へは行ったことがないからよくわからないけれど。
 質素なベッドに座っている菩薩(ぼさつ)様もいる。
 
 地獄には悪魔や鬼がいるはず。いや、逝ったことがないからよくわからないけれど。菩薩(ぼさつ)様たちがいるのだから、ここは天国なのだろう。自殺をしても天国に行けるものなのだろうか。

 私はそんな事を考えながら、だんだんガッカリしてきていた。

 私は私が気持ちがわるいのだ。死しても、私は私のまま。意識がある。これでは逝った意味がない。なんだ、亡くなっても無くなれないシステムだったのか。あの世が気持ちがわるいのかはまだわからないけれど。

 『ザザッ!・・・トゥートゥーツーツー!トゥートゥーツーツー!・・・聞こえますかぁ?トゥートゥーツーツー・・・!』

 また私の頭の中からワタシが話しかけてきた。

 『トゥートゥーツーツー!梶るり子さんっ。トゥートゥーツーツー!お返事を!』

 「はいはい!何よ!アナタのおかげさまでこうして死ねて、天国にいるわ。アナタの役目は終わったのじゃなくて?」

 あの世に来てまで自問自答の別人格であるワタシの声をきくなんて、おかしな話。死の間際の迷いからきた幻聴と思っていたけれど、死の中でこの声がきこえるというこの現象はある結論を示していた。

 『トゥートゥーツーツー!お返事ありがとう、るり子さん。トゥートゥーツーツー。』

 若い女の子の声は、あの世でも変わらず確かに私の頭から発せられている。生きている時にきこえたよりも10倍気持ちがわるい。菩薩(ぼさつ)様たちにはこの声がきこえているんだかいないんだか、ずっと笑ってこちらを御覧になっている。

 「・・・ねぇ、アナタ。名前は・・・?」

 私はワタシと思っていた声の主に確認をした。アナタは、私ではない・・・?

 『トゥートゥーツーツー!わたっしの名前?わたっしの名前かぁ。トゥートゥーツーツー。じゃあ、ノウネムとでも呼んで!』

 のうねむ・・・?NO NAME?名無しってこと?・・・名前を聞いた意味はなかったようだ。依然として、ノウネムは謎の存在のまま。しかし、私が思いつける名前ではない。そんな感覚から、ノウネムは私ではなく別の存在だと確認できたとしよう。

 『トゥートゥーツーツー!そんな事よりるり子さん、まわりの菩薩(ぼさつ)様たちをもっとよく見てみてよ!』

 私はノウネムに促され、菩薩(ぼさつ)様たちの細かな認識を再開した。
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