トゥートゥーツーツー

覇道たすく

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トゥートゥーツーツー!1、CHOICE。

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 海と砂浜の境界線がなくなっている。
 黒い空間にぽつんと私は立っていた。
 ここは海岸だ。その証拠にさざ波の音で海はその存在アピールを決してやめないし、なにより海くっっさい。海に溶け込んだ魚の死骸や海藻や街のエキスがにおい立ってきているのだろう。
 景色は際限なく黒いだけ。風も黒い。
 私はここへ、私の生の境界線も無くそうとやって来ていた。
 海と砂浜と風と私。全部黒い。まっ黒なモノとして、みんなまざって無くなってしまおうよ。

 『ザザッ!・・・トゥートゥーツーツー!トゥートゥーツーツー!・・・聞こえますかぁ?トゥートゥーツーツー・・・!』

 「なッ、何?」

 無線機から聞こえるようなノイズまじりの信号音と共に、誰かの声がきこえる。説明が本当に難しいのだけれど、その声は私の頭からきこえていた。近くに無線機があるという存在アピールはなく、その声は確かに私の頭から発せられている。
 骨伝導音を初めて体験した時よりも100倍気持ちがわるい。

 『トゥートゥーツーツー!梶るり子さんですね?トゥートゥーツーツー!お返事を!』

 私の名前を呼ぶその声の主は、若い女の子のように思えた。

 『トゥートゥーツーツー!自殺っしょ?るり子さん、自殺しようとしてるよね?』

 チッ!その単語を頭に浮かべずに文学的に酔ったまま死にたかったのに、なんて邪魔な幻聴だろう!

 「何よ!幻聴!!私の頭から消えて無くなれ!」

 黒い空間で私は叫んだ。叫びも黒に溶けていった。

 『トゥートゥーツーツー!お返事ありがとう、るり子さん。トゥートゥーツーツー。』

 人が死ぬ間際とは、その人にしか体験できないものだと思う。だから今、普通に生きていたんじゃあ体験できない現象の中に私はいるんだ。
 私は本当に死ぬんだな。そう思った。

 『トゥートゥーツーツー!死ぬのはOK!!わたっしは止めないよ!トゥートゥーツーツー!なぜわたっしの声がるり子さんにきこえるかと言うと、これはチャンスなの!』

 「ハァ?」

 なんだそれは。最近流行りの死の時にあって生まれ変わるか復讐のチャンスを与えられるような都合の良い夢物語かよ。私は死の間際の現象を信じない。これはただの脳の興奮物質が起こしている幻だ。
 物語ならここらへんでわかりやすく私の死ぬ理由が語られるのだろうが、自殺にそんなわかりやすい理由があるなんて思わないでほしいね。へそ曲がりの天の邪鬼。曲がりに曲がってぐちゃぐちゃになったから、まっさらな黒に溶けておだやかに無くなりたい。そう思ってここへ来たのだ。

 「アナタは私でしょ?!私の幻聴!まだ私に死の覚悟が完全にできてないからこんな幻聴をきくんだね。」

 もっと絶対的な黒を。生を閉じるのだ。

 『トゥートゥーツーツー。せんたくを。トゥートゥーツーツー。』

 せんたく?・・・洗濯?

 『CHOICE(チョイス)。トゥートゥーツーツー。選択を。』

 選択?何を今さら私は選ぼうというのか。私はなにより死を選んでいるというのに。

 『トゥートゥーツーツー。いく?いかない?2つに1つ。トゥートゥーツーツー。るり子さん、選択を。』

 いく?・・・逝く?って事?それならば逝くに決まっている。私よ、覚悟するんだ。

 「逝くに決まってるじゃない!」

 『トゥートゥーツーツー!!!オーケィ!聞き届けました。トゥートゥートゥートゥー!!!!』

 そう頭の中のワタシが言うと、海と砂浜と風と私は全部まっ白なとてつもない光に包まれた。まっ白なモノとして、私たちはみんなまざって無くなってしまった。
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