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【 未来と希望 】
旅路
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眠い……しかしそろそろ起きないといけない気がする。
だけど、俺はいったい何をしていたんだっけ……あまり思い出せない。
「起きたかな、魔王」
「エヴィアか。いつ眠ったんだっけ? というか、これからは確か賢者に名前を変えたような……」
ここは硬い石の台。天井はアーチ状の石造り。
他には何もない殺風景な部屋。だけど、ここが重要な場所だと俺は知っている。
「今はいつだ? あれからどの位経ったんだ?」
「2316年かな。空の魔王は全部使っちゃったけど、最初に溶け込んだ分はようやく戻ったよ。起きない可能性はあったけど、可能性は残されているってテラーネが言ってたよ」
言われてハッとなり、意識を空に向ける。しかしそこには何もない。誰もいない。
――記憶は? 意思は?
昔を思い出す――思い出せる。あの檻も、兵舎の不味いスープも、空を覆った魔王の魔力、人々の慟哭、決意、戦い……全てがハッキリと、暑さ寒さ、感触まで思い出せる。
だけど、それ以前が曖昧だ。魔王ではなく相和義輝と呼ばれていた頃、地球にいた自分の記憶。それはまるで映画で見たワンシーンのように遠く彼方、実態を持たない物語。
考えるまでもない。相和義輝であった頃の自分は、物語の1ページになったのだ。
「そうか……消えたのか」
かつて生きていた相和義輝。その本体は、空の魔力と共に消えた。
だけどこの体は違う。この体には、脳には、俺がこの世界で生きた記憶がしっかりと刻まれている。
ぼんやりと天井を見上げながら思う――この世界の人間になったのだと。
地球に生まれ、地球で育った相和義輝は消滅した。ここにいるのは、あの檻の中から始まった新たな相和義輝――いや魔王。
この世界に再びの生を与えられた、新たな存在だ。
他に皆にも会いたい。そうだ、先ずは名前が出たテラーネを――、
一瞬頭をよぎった懐かしい存在を、俺は一番身近に感じ取った。理由は不明だが、まだ魔王の権限が残っているからか。
「今魔王が考えたとおりかな。その体の材料はテラーネだよ」
朽ちて消えていくだけの肉体。もう魔人の技でも修理できないほど損傷した体。
完全に失われるまでそれなりの時間はあったとはいえ、そう長くはなかったはずだ。確か見積もりでは十数年が限界と聞いた。
それまでの時間でやり遂げたのか。
「しかしどうやったんだ? もう俺自身、無理だと思ったが」
「魔王の精子を使って――」
「いやもういい」
魔王と人を融合し、本能的に魔人を恐れない人間を作る。それがテラーネの目的だったはずだ。
その為に俺と魔人の間で子を作る為にあの体になった。そして魔王と魔人の間にできた子供と人を融合しようとしていたわけだ。応えてやれなかったは心残りだったが、俺の意識がないうちにやりやがったのか。
だけどその応用か……結果として、俺は今こうして生きている。
「テラーネから伝言があるかな」
「聞かなくても分かるよ」
この細胞が言っている。もう魔王と魔人の融合は完了した。次は魔王と人間だ。後はよろしくと。
まあ、よろしくされても困るんだが。
「それで、みんなは?」
2000年以上……途方もない時間だ。常識的に考えたらもう誰もいない。完全に浦島太郎だろう。
だけど、少しだけ自信――いや、確信はあった。
「みんな待っているかな。いつ起きるか分からないからユニカはホテルだけど、プログワードやヨーツケールMk-II8号改なんかはこの外で生活しているよ。あ、ユニカはそろそろ待ち切れないとかんかんだよ。全ての魔人に号令をかけて、それでも目覚めなかった叩き起こせと言っていたかな」
「そいつはまた……」
その様子が簡単に想像できて怖さすらある。
「随分と待たせてしまったようだな。それじゃあ行こうか。久々に声を聴きたいよ」
この世界に寿命は無い。終わろうと思わなければ、時間はいくらでもある。そうだろう、先代魔王。
だから起きた時に確信した。もし計画が成功して、この世界が平和になっていたら、きっと皆は待っていてくれるのだと。
そして待っていてくれた。もうその意味を聞く必要は無い。
階段を降り、外に出る。
眩しい太陽に青い空。ここに来た時と、何も変わらない。
一つ違うのは暑さだろうか。今の季節は夏らしい。日差しが眩しく、海はあの時よりも更に青く深い。
そして、俺の目覚めを感じていたのだろうか。そこには続々と魔人達が集結していた。
懐かしい姿が沢山いる。遥かな時間の中、俺を待ち続けてくれたのか。
「皆に話を聞きたい。俺が寝ている間に何があったのか、全部教えてくれ」
魔人はいつでも興味津々だ。魔王を別世界から召喚するのも、彼等の知識を満たす為だ。
だけど今は俺が聞こう。俺もまた、今の世界に興味津々なのだから。
それが全て終わったら、出発しよう。
そして世界を旅してまわろう。俺は自由だ。そして時間はいくらでもあるのだから。
海鳥が鳴き、穏やかな風が吹く。不意に澄み渡る空から、何か声が聞こえた気がした。
――幸せかい? と。
「ああ俺は今、最高に幸せだよ」
ただ何もない青空に、俺は一言だけ呟いた。
だけど、俺はいったい何をしていたんだっけ……あまり思い出せない。
「起きたかな、魔王」
「エヴィアか。いつ眠ったんだっけ? というか、これからは確か賢者に名前を変えたような……」
ここは硬い石の台。天井はアーチ状の石造り。
他には何もない殺風景な部屋。だけど、ここが重要な場所だと俺は知っている。
「今はいつだ? あれからどの位経ったんだ?」
「2316年かな。空の魔王は全部使っちゃったけど、最初に溶け込んだ分はようやく戻ったよ。起きない可能性はあったけど、可能性は残されているってテラーネが言ってたよ」
言われてハッとなり、意識を空に向ける。しかしそこには何もない。誰もいない。
――記憶は? 意思は?
昔を思い出す――思い出せる。あの檻も、兵舎の不味いスープも、空を覆った魔王の魔力、人々の慟哭、決意、戦い……全てがハッキリと、暑さ寒さ、感触まで思い出せる。
だけど、それ以前が曖昧だ。魔王ではなく相和義輝と呼ばれていた頃、地球にいた自分の記憶。それはまるで映画で見たワンシーンのように遠く彼方、実態を持たない物語。
考えるまでもない。相和義輝であった頃の自分は、物語の1ページになったのだ。
「そうか……消えたのか」
かつて生きていた相和義輝。その本体は、空の魔力と共に消えた。
だけどこの体は違う。この体には、脳には、俺がこの世界で生きた記憶がしっかりと刻まれている。
ぼんやりと天井を見上げながら思う――この世界の人間になったのだと。
地球に生まれ、地球で育った相和義輝は消滅した。ここにいるのは、あの檻の中から始まった新たな相和義輝――いや魔王。
この世界に再びの生を与えられた、新たな存在だ。
他に皆にも会いたい。そうだ、先ずは名前が出たテラーネを――、
一瞬頭をよぎった懐かしい存在を、俺は一番身近に感じ取った。理由は不明だが、まだ魔王の権限が残っているからか。
「今魔王が考えたとおりかな。その体の材料はテラーネだよ」
朽ちて消えていくだけの肉体。もう魔人の技でも修理できないほど損傷した体。
完全に失われるまでそれなりの時間はあったとはいえ、そう長くはなかったはずだ。確か見積もりでは十数年が限界と聞いた。
それまでの時間でやり遂げたのか。
「しかしどうやったんだ? もう俺自身、無理だと思ったが」
「魔王の精子を使って――」
「いやもういい」
魔王と人を融合し、本能的に魔人を恐れない人間を作る。それがテラーネの目的だったはずだ。
その為に俺と魔人の間で子を作る為にあの体になった。そして魔王と魔人の間にできた子供と人を融合しようとしていたわけだ。応えてやれなかったは心残りだったが、俺の意識がないうちにやりやがったのか。
だけどその応用か……結果として、俺は今こうして生きている。
「テラーネから伝言があるかな」
「聞かなくても分かるよ」
この細胞が言っている。もう魔王と魔人の融合は完了した。次は魔王と人間だ。後はよろしくと。
まあ、よろしくされても困るんだが。
「それで、みんなは?」
2000年以上……途方もない時間だ。常識的に考えたらもう誰もいない。完全に浦島太郎だろう。
だけど、少しだけ自信――いや、確信はあった。
「みんな待っているかな。いつ起きるか分からないからユニカはホテルだけど、プログワードやヨーツケールMk-II8号改なんかはこの外で生活しているよ。あ、ユニカはそろそろ待ち切れないとかんかんだよ。全ての魔人に号令をかけて、それでも目覚めなかった叩き起こせと言っていたかな」
「そいつはまた……」
その様子が簡単に想像できて怖さすらある。
「随分と待たせてしまったようだな。それじゃあ行こうか。久々に声を聴きたいよ」
この世界に寿命は無い。終わろうと思わなければ、時間はいくらでもある。そうだろう、先代魔王。
だから起きた時に確信した。もし計画が成功して、この世界が平和になっていたら、きっと皆は待っていてくれるのだと。
そして待っていてくれた。もうその意味を聞く必要は無い。
階段を降り、外に出る。
眩しい太陽に青い空。ここに来た時と、何も変わらない。
一つ違うのは暑さだろうか。今の季節は夏らしい。日差しが眩しく、海はあの時よりも更に青く深い。
そして、俺の目覚めを感じていたのだろうか。そこには続々と魔人達が集結していた。
懐かしい姿が沢山いる。遥かな時間の中、俺を待ち続けてくれたのか。
「皆に話を聞きたい。俺が寝ている間に何があったのか、全部教えてくれ」
魔人はいつでも興味津々だ。魔王を別世界から召喚するのも、彼等の知識を満たす為だ。
だけど今は俺が聞こう。俺もまた、今の世界に興味津々なのだから。
それが全て終わったら、出発しよう。
そして世界を旅してまわろう。俺は自由だ。そして時間はいくらでもあるのだから。
海鳥が鳴き、穏やかな風が吹く。不意に澄み渡る空から、何か声が聞こえた気がした。
――幸せかい? と。
「ああ俺は今、最高に幸せだよ」
ただ何もない青空に、俺は一言だけ呟いた。
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