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【 未来と希望 】
様々な分岐 後編
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数日後、中央議会。
大勢の前で、クラキア・ゲルトカイムは熱弁を振るっていた。
誰もがこの時を待ちわびていた。
肯定的な者も、否定的な者も、とにかく彼女の話を聞くところから始めなければいけないのだから。
「我々は根本から間違っていたのです。豊かな領域は魔族の世界、解除した荒れ地が人間の世界。いつから人は、こんな愚かな物語を信じてしまったのでしょう。私はあの戦いの後、人類の為に領域を見て回りました。そしてはっきりと分かりました。我々人類もまた、領域で生きられるのだと。そもそも、ジェルケンブールには豊かな領域があり、我等も海を利用してきました。今更な……本当に今更な事だったのです。なぜ今のような考えが蔓延してしまったのか? そう、それが領域を解除するという技術を得て、それが失敗だったと判った時、人は考えしまったのです。より良い世界よりも、自らの保身を! 失敗した事を認めないための物語を!」
実際にクラキアが回った領域は多くは無い。殆どの時間はラジエヴと共にあった。
だがそれは世の中を知らないという事ではない。ラジエヴに学び、最後は自分の目と肌で確認した。領域とはあくまで環境であり自然の形であると。
「しかし、そのジェルケンブール王国は魔族に滅ぼされたのではないか?」
「魔族領にはまだ多くの領域が残っている。そこが豊かであるというのなら、今が手にする好機ではないのか?」
「今魔族を刺激してどうするのだ。我等の支度が整うまで動くべきではない」
クラキアもまた王だ。こういった議会の纏まりの無さは重々理解している。
だがそれでも説得を諦めるつもりは無い。戦わなくていい世界……先王シコネフスであれば、それがどれほど困難であってもその道を進んだだろう。最後までその道を進み続けていたのだから。
生き残った自分の命に何か意味を見出すのなら、きっとその道を繋げる事なのだろう……。
次第に熱を帯びていく演説。
彼女の中には、今でもシコネフス・ライン・エーバルガットという英雄が生きている。
誰もが死ななければいけなかった。
効率的に、かつ満足な死に様を与えるのが権力をもつものの役割だった。
だが彼はそこから先を夢想した。
人は死ななければいけない。だが同時に、生きなければならない。
生きる意志を消してしまえば、人はただ死ぬために動き続けるだけの人形ではないか。
そんな世界は変える。変えなければいけないのだ。
その機会を今、自分は与えられている。
クラキアの演説が終わる頃、議会は完全に静まり返っていた。
◇ ◇ ◇
演説を終えたクラキアは、豪華な控えの間で休憩をとっていた。
4時間以上大声で話し続けたのだ。疲労困憊といったところである。
しかし姿勢を崩すことは出来ない。なぜなら、その目の前には小さな女帝がちょこんと座っていたからであった。
「ご苦労であったの。まあ見ての通り、議会はまだまだあのような状態であるの。民衆もまた、勝利と太陽にすっかり浮かれておる」
「あれで大丈夫なのでしょうか? その、女帝陛下はこの後の事は……」
「全て知っておるよ。まあ世界の大変革を前にすれば、あのような浮かれた議会など木っ端に吹き飛ぶであろう」
女帝の表情には、微かに笑みさえ浮かぶ。
元々一介の将軍であったクラキアは、オスピアと面識があるわけではない。
しかし女帝自体は人類に知らぬものが無いほど有名だ。その上で、これほど気さくな人物であった事は少々意外だった。
「それより、お主の人気は大したものよ。議会での地位は無くとも、発言力はとうに連中を超えておろう」
「いえ、そのような……」
元々彼女の人気は高かった。しかも死亡が確認さ荒れていない以上。生存は誰の目にも明らかな事だ。
だから人々は渇望した。希望の物語を。この絶望的な状態のなかでも、正気でいられるための英雄譚を。
そんな中で生まれた。”一人、魔族領で戦い続ける孤高の女王”――その神秘性は、希望に飢えた人々を魅了した。
そして今は、魔族領から生還した奇跡の女王である。しかも、一人で領域の調査を行ってきた先見の明。
何という行動力であろうか!?
正に彼女こそが、我々の求めてきた人類の理想を体現した姿ではないのだろうか。
人類は新たな英雄を欲する。魔族に勝利し、魔王を打倒し、太陽を得た。しかしその最大の功労者は既に故人だ。故に、大々的に宣伝する新たな旗印を民衆は欲していた。
当然ながら、その裏にはオスピアやコンセシールなどいくつかの商国が動いている。
その甲斐あって、いまやクラキアの言葉は神の言葉にも等しい。全てが肯定され、否定など許されない雰囲気である。
「お主の全てに世界が注目しておる。そしてこれからの事を考えれば、人類には支柱となるよりどころが必要である。これからの働きに期待する。それと、何か必要なものがあれば何なりと言うが良い」
「有難きお言葉。必ずや、世界に平穏をもたらしましょう」
透明な何かが、二人の前にティーカップを置く。
魔人ラジエヴはクラキアに付いて来ていた。別に彼女の監視とかではない。命令され方からでもない。ただ単純な興味本位からである。
今ここにいる事に後悔はない。しかし、心は遠い空の下へと馳せる。もう会う事の無い、魔王の元へ。
大勢の前で、クラキア・ゲルトカイムは熱弁を振るっていた。
誰もがこの時を待ちわびていた。
肯定的な者も、否定的な者も、とにかく彼女の話を聞くところから始めなければいけないのだから。
「我々は根本から間違っていたのです。豊かな領域は魔族の世界、解除した荒れ地が人間の世界。いつから人は、こんな愚かな物語を信じてしまったのでしょう。私はあの戦いの後、人類の為に領域を見て回りました。そしてはっきりと分かりました。我々人類もまた、領域で生きられるのだと。そもそも、ジェルケンブールには豊かな領域があり、我等も海を利用してきました。今更な……本当に今更な事だったのです。なぜ今のような考えが蔓延してしまったのか? そう、それが領域を解除するという技術を得て、それが失敗だったと判った時、人は考えしまったのです。より良い世界よりも、自らの保身を! 失敗した事を認めないための物語を!」
実際にクラキアが回った領域は多くは無い。殆どの時間はラジエヴと共にあった。
だがそれは世の中を知らないという事ではない。ラジエヴに学び、最後は自分の目と肌で確認した。領域とはあくまで環境であり自然の形であると。
「しかし、そのジェルケンブール王国は魔族に滅ぼされたのではないか?」
「魔族領にはまだ多くの領域が残っている。そこが豊かであるというのなら、今が手にする好機ではないのか?」
「今魔族を刺激してどうするのだ。我等の支度が整うまで動くべきではない」
クラキアもまた王だ。こういった議会の纏まりの無さは重々理解している。
だがそれでも説得を諦めるつもりは無い。戦わなくていい世界……先王シコネフスであれば、それがどれほど困難であってもその道を進んだだろう。最後までその道を進み続けていたのだから。
生き残った自分の命に何か意味を見出すのなら、きっとその道を繋げる事なのだろう……。
次第に熱を帯びていく演説。
彼女の中には、今でもシコネフス・ライン・エーバルガットという英雄が生きている。
誰もが死ななければいけなかった。
効率的に、かつ満足な死に様を与えるのが権力をもつものの役割だった。
だが彼はそこから先を夢想した。
人は死ななければいけない。だが同時に、生きなければならない。
生きる意志を消してしまえば、人はただ死ぬために動き続けるだけの人形ではないか。
そんな世界は変える。変えなければいけないのだ。
その機会を今、自分は与えられている。
クラキアの演説が終わる頃、議会は完全に静まり返っていた。
◇ ◇ ◇
演説を終えたクラキアは、豪華な控えの間で休憩をとっていた。
4時間以上大声で話し続けたのだ。疲労困憊といったところである。
しかし姿勢を崩すことは出来ない。なぜなら、その目の前には小さな女帝がちょこんと座っていたからであった。
「ご苦労であったの。まあ見ての通り、議会はまだまだあのような状態であるの。民衆もまた、勝利と太陽にすっかり浮かれておる」
「あれで大丈夫なのでしょうか? その、女帝陛下はこの後の事は……」
「全て知っておるよ。まあ世界の大変革を前にすれば、あのような浮かれた議会など木っ端に吹き飛ぶであろう」
女帝の表情には、微かに笑みさえ浮かぶ。
元々一介の将軍であったクラキアは、オスピアと面識があるわけではない。
しかし女帝自体は人類に知らぬものが無いほど有名だ。その上で、これほど気さくな人物であった事は少々意外だった。
「それより、お主の人気は大したものよ。議会での地位は無くとも、発言力はとうに連中を超えておろう」
「いえ、そのような……」
元々彼女の人気は高かった。しかも死亡が確認さ荒れていない以上。生存は誰の目にも明らかな事だ。
だから人々は渇望した。希望の物語を。この絶望的な状態のなかでも、正気でいられるための英雄譚を。
そんな中で生まれた。”一人、魔族領で戦い続ける孤高の女王”――その神秘性は、希望に飢えた人々を魅了した。
そして今は、魔族領から生還した奇跡の女王である。しかも、一人で領域の調査を行ってきた先見の明。
何という行動力であろうか!?
正に彼女こそが、我々の求めてきた人類の理想を体現した姿ではないのだろうか。
人類は新たな英雄を欲する。魔族に勝利し、魔王を打倒し、太陽を得た。しかしその最大の功労者は既に故人だ。故に、大々的に宣伝する新たな旗印を民衆は欲していた。
当然ながら、その裏にはオスピアやコンセシールなどいくつかの商国が動いている。
その甲斐あって、いまやクラキアの言葉は神の言葉にも等しい。全てが肯定され、否定など許されない雰囲気である。
「お主の全てに世界が注目しておる。そしてこれからの事を考えれば、人類には支柱となるよりどころが必要である。これからの働きに期待する。それと、何か必要なものがあれば何なりと言うが良い」
「有難きお言葉。必ずや、世界に平穏をもたらしましょう」
透明な何かが、二人の前にティーカップを置く。
魔人ラジエヴはクラキアに付いて来ていた。別に彼女の監視とかではない。命令され方からでもない。ただ単純な興味本位からである。
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