この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
417 / 425
【 未来と希望 】

変わる世界 前編

しおりを挟む
 碧色の祝福に守られし栄光暦219年7月6日。
 中央、忌憚なき意見を述べる部屋には、2大国の首脳が集まっていた。
 ティランド連合王国国王、カルター・ハイン・ノヴェルド・ティランドとハルタール帝国女帝、オスピア・アイラ・バドキネフ・ハルタールの両名である。

「あれから32日か……」

「うむ。どうだ、カルタ―よ。太陽というものは」

「そうだな……力強い、確かな生を感じる。作物の成長も著しいと報告があった。海も戻りつつあるようだが、ムーオスとジェルケンブールはな……」

「仕方あるまい。まだ予断を許さぬという事だの」

 ムーオス自由帝国は周知の事であったが、ジェルケンブール王国の崩壊も早かった。
 国土は未だ半分ほどは人間領だが、もう半分は完全に魔族に飲み込まれてしまっている。
 ジェルケンブール王族は誰とも連絡が取れず、おそらく血族は絶えたのではないかと噂されている。
 ここから大国を纏め上げるような傑物が登場するとは思えないし、現状ではその余地も無いだろう。
 今後どのように分裂するかは不明であるが、少なくとも大国としての地位は保てない。
 世界の意思決定は、ティランド連合王国とハルタール帝国に委ねられたという訳だ。

「それで、この状況はいつまで続くと見ている?」

 カルタ―は、今の状況は永続などとは見ていない。それどころか、魔王が死んだという点に関しても懐疑的だ。
 死んだという事は事実なのかもしれないが、それで終わりかといえばそうではない。事実、あれは知る限りでも2人目なのだ。今後、新たな魔王がポロポロと湧いて出てくる可能性は捨てきれない。

「その事であるがの……見せたいものがある」

 オスピアは小さな手で椅子の脇に置いていた鞄から書類を取り出すと、カルタ―へと渡す。

 ――どこかで魔族の動きでもあったか……?

 余り勿体ぶらずにひょいと渡された資料を見て、まあそんな程度の話かと思った。
 しかし、その中身を見て全身が硬直した。写真を食い入るように見つめ、手の震えが止まらない。

「場所は帝国の西部、ゼビア王国跡地であるの。特徴的な塔が見えよう。それは王都サニオにあった物だの」

 ゼビア王国。その名を知らぬカルタ―ではない。あの内乱は世界中を震撼させたのだ。
 あれからまだ1年と少し。にもかかわらず、そこは千年以上の間、放置されていた世界に見える。
 金属ドームを始めとしたすべての建物は一面苔と蔦に覆われ、大地にも足の踏み場もないほどに密集した植物が生えている。
 その中には、今まで見たことの無いものも多い。いや、ほぼ初見の植物ばかりだ。
 他に映るのは鳥や昆虫などの小動物。

「大型の獣などはおらぬの……いや、魔族と呼んだ方が良いか?」

「いや、構わねぇ」

 その辺りの呼び名など、ハッキリ言ってどうでもいい。大切な事は他に山ほどあるのだ。

「どのくらいの期間でこうなった? それと、生存者――目撃したものはいるのか?」

「それなりにいるが、数は多くはないの。新領域の誕生に巻き込まれたら、まず助かりはせぬ。目撃者の調書も取ってあるが、芳しくはないの」

「お手上げか……」

 これで新領域の誕生は2つ目となる。前回からかなり間が開いたが、それが限界なのだろうか? それとももっと早く連続で作れるのか? 
 天地創造を武器に使用されたらお手上げだ。それは誰もが持っている共通認識である。
 これが攻撃であるのなら防ぎようが無いだろう。しかし、状況はいささか異なる。

 今までは魔王の技と考えられてきたが、今回はそれとは違う。
 空は未だに晴れているし、ゼビア王国領といえば壁の内側。そこは人間世界だ。しかも強大な魔族の類は見られないという。

「まさかとは思うが、この新領域の誕生は魔族とは無関係の事か?」

 しかしそれも変だ。有史以来、新領域が誕生したなどという記述はない。
 それが今になって急に2つも誕生した。作為的なものを感じざるを得ない。
 だが分からない、何一つ。知識の無さを痛感し、嫌な汗が出る。

「それはまだはっきりとは言えぬの。だが、我等ハルタール帝国には、この可能性を予見する資料が残されておる」

「ほお――」

 カルターは一瞬、女帝の後ろに光を見た気がした。それはもちろん錯覚だが、それほどまでに欲しい情報だ。
 だがそんなものがあるのなら――と言いかけたが、口に出す前に無意味さを察した。
 これは新領域が誕生して初めて意味が生まれる情報だろう。何も起きないうちから『新領域が出現するかもしれない』と発表した所で、いたずらに人心を惑わすことにしかならない。

「だが真剣に研究する者もおらぬのでな、永らく放置されていた。だが研究自体は止めてはおらぬ。一人ではあるが、それを専門に研究し、今では賢者と呼ばれた男がおる。これは本人から直接話を聞いた方が良かろう――ブーニック」

 2人とは違うもう一人。名を呼ばれた書記官のブーニックは一礼して壁のボタンを押す。
 それは外へと通じる呼び鈴であった。




 ◇     ◇     ◇




 ――リリン。
 静かにしていなければ聞き漏らすような小さな音が鳴る。
 それが合図だったのだろう。今まで入り口を塞いでいた屈強な兵士達が、静かに道を開ける。

「どうやら出番の様だ。それじゃ、行ってくるよ」

「緊張しなくても大丈夫かな。エヴィアはここで待っているよ」

 扉の先は長い廊下。そしてその突き当りにはまた扉。白磁の道を思い出すが、さすがにここは建物の中だ。あれよりもずっと短い。
 静かに歩を進める。何一つ間違えることの出来ない綱渡り。緊張感で吐きそうだ。
 だけど同時に、天の俺達が言う。問題はない、失敗しても何とでもなると。
 やりたいようにやればいい――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...