この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 未来と希望 】

殲滅戦 その4

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 白い鎧に縦一本の金ライン。魔人スースィリアの記憶の片隅に残っていた、懐かしい記憶。
 だが、そんな感傷は魔人プログワードには無い。
 あの頃の思い出は、云わば物語で読んだ程度の記憶。何一つ、体験したという実感がないのだ。
 そうでなければ、わざわざ姿形を変えていき直す意味がない。
 もっとも、魔王やその関係者には対してはそうはならないが。




 目の前に突如出現した巨大な魔族。その体表に、パリパリと稲妻が走る。

「全く……くだらない結末だ。クラキアよ、本当に生きているのなら、後は任せたぞ」

 最後までプログワードから目を逸らさぬまま、リーシェイム・スパイセンは雷光に消えた。




 戦場に煌いた雷光、そして耳をつんざく雷鳴。人類は知っている。それが何なのかを。
 彼等が知る最強の魔神、通称“ムカデ”が現れたのだ。

 焼けた地面から上がる煙と蜃気楼。その向こうに、巨大な影が見える。そして、その根元から湧き出す小型の魔族達。
 魔王が用意したもう一つの群れ。新たな軍隊蟻一千万匹の襲撃が始まったのだった。



 スパイセン王国軍はほぼ密集して布陣していた。
 まだ後衛であり、当分戦闘は無いと思われていたからだ。それが完全に裏目に出た。
 円形上に広がった無数の雷撃が、兵達を討ち焼き焦がす。

「スパイセン王国軍ほぼ壊滅! 残存兵も蟻の襲撃を受けています!」

「まさか地中から後ろに出るとはな。確かに報告にはあったが、今ここに出るとは誰にも予想しえまい」

 リーヴェブッフ将軍の陣は動いていない。ただ全体が右前方に移動したため、全軍としては左翼後方に位置する形となった。
 敵が出現したのは、まさにその後方にあったスパイセン王国軍陣地。
 ハルタール帝国本陣は、突如として後方に予想外の難敵を抱える事にいなってしまったのだ。

「それで、様子は?」

「巨大ムカデと共に現れた大量の軍隊蟻は、そのまま後方の民兵団に向け動き出したとの事」

「我等を無視し、そのままアイオネアの門へか……奴らめ、一気に突破するつもりか!?」

 非武装の民兵団など、軍隊蟻の相手にもならない。
 しかしハルタール帝国軍は、右翼を突破して来るであろう亜人や竜、首無し騎士デュラハンに備えたばかり。
 状況的にも布陣の速度的にも、もはや手遅れとも思われる。
 だが――

「全部隊に通達。アイオネアの門を死守する」

「しかし右翼の後詰は――」

「ミルクス隊に任せよ。止められる時は、どの道その時である。今は何より、門が大切だ」

 例え”ムカデ”や軍隊蟻が強かろうが、壁もまた最強の防壁だ。
 長く放置すれば突破もされようが、そう簡単に陥ちるものでもない。

「進軍!」

 轟音を鳴らし、百万を超す将兵が再び動く。しかし、急に一部の部隊の動きが止まる。
 そこには、リーヴェブッフの本陣も含まれていた。

「ぬああああああ、な、なんだこれはあぁぁぁ!」

「魔族が! どこから!」

 彼らの腰にしがみつく、透明な無数の手。それは修復された鉄花草てっかそうの領域に棲む沼地の精霊だ。
 彼らは人を傷つけることは出来ない。その代わり、精霊の中でも特に干渉されない種類だ。
 出来る事は人を驚かせる事と――、

「ぐ、ぬうう――」

 力が抜け、膝をつく。辺りの兵士達は既に、大地に倒れ込んでいる状態だ。
 それは魔王である相和義輝あいわよしきをも辟易とさせた、魔力を吸い取る力。

 人間の武器も鎧も、魔力が無ければ重すぎて使えない。
 民兵程度の武器や革の鎧ならまだしも、重装備の正規兵にとっては魔力を失った鎧など超重量の拘束具に過ぎない。
 形状によっては命にも関わる。

「状況は? どのくらいの範囲に及んでいる?」

 既に完全に地に伏しながら訪ねるが、答えられるものはいない。
 誰一人として動けない。本陣は皆、重武装をしていたのだから。

 終わった――本当に終わってしまったのか?
 ハルタール帝国軍の将が。人類最後の砦を死守すべき立場の人間が!?
 自らの命を大切だなどと思った事は無い。死はいつも隣にあり、自らの半身のようなものだった。
 しかし今、岩の様な顔から涙があふれ出る。何も出来ぬまま終わるこの身に。
 敬愛すべき女帝の信頼を裏切ってしまった非才さに。

「女帝陛下……オスピア様……申し訳ありません……」

 全てを諦め歯を食いしばった眼前で、光と共に大地が炸裂した。




「どうよ! 見ました? 見ましたわよね? やっぱりわたくし、盾に魔力を送るなんて地味な仕事は似合いませんのよ」

「いや待ちなさい! 今何やらかしましたか!? み・か・た・に・何したの?」




 リーヴェブッフの眼前で輝いた光は、味方に撃つなど考えられない程に強力な炸裂魔法。燃え上がった炎が爆発し、周囲を吹き飛ばす。
 唖然とするその視線の先に、浮遊式輸送板に乗った集団がいる。
 何かを話しているが、遠くて内容までは分からない。
 一人、おそらく指揮官らしいのは女性。風になびく金色の長髪。それに孔雀の紋章が付いたレオタード金のフレンジが付いた豪奢なマント。
 ただ松葉杖をつき、衣装の上から血の滲んだ包帯が幾重にも巻かれている。
 負傷兵だろうか……しかし――、
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