この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 未来と希望 】

殲滅戦 その3

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 部下の不平に対し、そうは簡単ではないとリーヴェブッフは考えていた。
 浄化の光レイで攻撃するという事は、当然ながら相手に近づくという事だ。それはつまり、相手からも攻撃される事に他ならない。
 特にドラゴンのいる右翼は問題だ。
 地上部隊など、もはや風前の灯火。そんな所に飛び込めば、浮遊城は魔族の浮遊城とドラゴンに挟撃される形となってしまう。

 とはいえ、事情を理解する事は動かない事と同意ではない。こちらが何もしなくても、相手は動く。対処はせねばならない……。

「敵が抜けてくるとすれば右翼だ。左翼は浮遊城に任せる。両方を通す程、あの男は愚かではあるまい」

 その言葉と同時に、数人の将軍が一斉に立ち上がり、通信兵は指示を送る。
 それは各隊の通信機を通して伝達され、数分後には人の足音が地鳴りのように響く。
 後方部隊は殆どが徒歩である。もうこれ以上後退する事はあり得ないのだから。使える浮遊式輸送板は、全て前線か負傷兵を運んで帰還中である。

 全軍が右への迎撃態勢にシフトする。その滑らかさは、他の物が見れば驚嘆に値しただろう。
 ティランド連合王国軍でも、これ程見事に軍容を変える事は難しい。それ程の手際だ。
 ただひたすら東の果てで訓練に明け暮れた、それこそ精鋭中の精鋭。
 だがその移動音に混ざり、何かが地面を掘る音が響く。それは地上に出た瞬間まで、誰にも気付かれる事は無かった。




 ハルタール帝国本隊の左後方に、スパイセン王国10万の将兵が布陣していた。
 指揮を執るのは現国王代理のリーシェイム・スパイセン。
 本来ならば王の地位にあるべき立場ではあるが、それが嫌で、代理王を立てては隠棲を決め込んでいた。
 ところがその代理王であるクラキア・ゲルトカイムは行方不明。しかも死亡が確認できていない。王位継承を示す宝玉は、今も一切の輝きを放っていないのだ。

「隠居王様、ハルタール帝国は右翼の後詰に回ったようです」

 そう報告してきた部下を、金色の瞳で睨み返す。
 別に悪口ではないが、名誉な事とも言い難い。
 スパイセン王国はハルタール帝国に属する国だ。勝手に王位を変えることは許されない。
 死亡後は速やかに引き継ぎが成されるが、逆にいえば死なない限りはなかなか頭のすげ替えは許されないのだ。
 結果として、現在の国王は依然クラキアだが、実質的な王位に就くのはリーシェイムと面倒な事になっている。
 本家の王が代理王の代理となる複雑な状況だが、更に彼は一度王位を継いだ経験がある。
 非常に稀な事態であるが、この場合の王の呼び名は隠居王と定められていた。

 ――誰がいつ決めたのやら……。

 標準語では普通だが、スパイセン語では極めて侮辱的な発音であった。
 当たり前だが部下達もそれを理解しており、頭の中では笑いをこらえるのに一苦労だ。
 別に彼が嫌われているといったわけではない。むしろ、統治に外交、軍事まで幅広い才能を発揮しており、やる気があるなら是非国王にしたいという国民も多い。
 だが名は体を表すのが世の習い。どうしても言葉に引きずられてしまう。

 ではあるが、それ以上にクラキアの評価が上がっているのが原因だった。
 今も魔族領の何処かで、一人戦い続けている孤高の女王。その名声は世界中で囁かれており、国内ではもう完全に既成事実だ。

「どちらにせよ、我等は待機だ。いつでも動けるようにしておけ」

 ゆっくりと立ち上がると、白の全身鎧フルプレートがガシャリと鳴る。
 長身で豊かな背筋を持つが、下半身は少々細くアンバランスな体系だ。
 現在兜は付けておらず、肩近くで切りそろえた金髪と、シャープで鋭い顔つきが見て取れた。

 ――とっととクラキアを見つけて交代したいところだが……。

 しかしそれが望み薄な事も十分理解している。おそらくもう死んでいて、何らかの可能性で継承が正しく行われていないだけだろう。
 そう申請はしているが、中央はお役所仕事であり、しかも今はそんな事に関わっている暇がない。
 軽くため息をつきながら空を見上げる。
 この戦いを終えても、永遠に戦いは続く。命ある限り……そして人がある限り。
 先代の代理王、 シコネフスはそんな世界を変えようともがいていた。
 可能な限り人類同士で争わず、命を大切にする。だがそうして増えた命の居場所には限りがある。
 それを魔族領遠征で消化しようと主張した彼は、隣国の国王であるククルスト・ゼビアと激しく対立した。
 ククルストは『人は人で殺し合えば良い。魔族を巻き込むべきではない』という考えだったのだから。
 その両者のどちらが正し方のか、あるいはどちらも間違っていたのか……。
 分かる事は、双方が死んだ今となっては、どちらも過去の話というだけだ。

「俺達は生き残る。そして、ゆっくりとよりよい世界を築いていくさ」

 そう呟いたリーシェイムの前に、その巨体は大地を突き破り、間欠泉のように現れた。
 先端は青白いセミの幼虫の様な丸々とした姿。だがそこから続くのは、長大なムカデの形だ。

 声も無い、言葉もない。ただただ、茫然とリーシェイムは立ち尽くす。
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