この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 未来と希望 】

殲滅戦 その2

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 左翼を率いるグレスノームからの要請は、当然リッツェルネールにも届いている。
 彼は部隊を下げる事はせず、その場に留まって戦う事を選んだ。
 それはある意味予定通り。そうして魔族を押さえている内に、自分達ごと浄化の光レイで薙ぎ払えというのだ。
 リッツェルネールは人命を軽視はしないが重視もしない。大切なのは効率と結果だ。
 効率だけを追い求めても、最終的に敗北しては意味がない。
 だが結果だけを求めた所で、次に繋げるものを残せなければやはり意味はない。
 微妙なバランスの中、思案を巡らせる。そして――

「さて、どちらに行ったものかな」

「それは貴様が決めることだ」
「どちらにせよ、向こうの浮遊城も――いや浮遊城と呼んでいいモノかは分からなくなりましたが、そろそろ動き出すころではないでしょうか。決めるなら早い方が良いでしょう……あ、いや」

「なにかあったかい?」

 ミックマインセの下に、警護隊の一人が慌ててやってくる。
 トップ3の作戦会議中に飛び込んでくるのだ。よほどの事態なのだろう……。




 ◇     ◇     ◇




 左翼が精霊による攻撃を受けていた時、右翼のティランド連合王国軍にもまた、精霊による攻撃が開始されていた。
 先陣を切ったのは首無し騎士デュラハンの群れ。数は3千騎。百万単位の人類軍に比べ、その数は微々たるものだ。
 しかし彼女らからすれば、人間など赤子に過ぎない。音もなく、姿さえ見えない襲撃に気が付いたのは、数万人がたおされてからの話だった。

 辺りがぼんやりと明るくなり、闇の世界が晴れていく。この時すでに、ティランド連合王国軍右翼は突破されていた。
 見えない敵から背後から襲撃され、連合王国軍精鋭にも動揺が走る。

「問題無い、数は少数だ。それよりドラゴンの方が問題だろう」

「人馬騎兵隊が対応していますが……」

「もたせろ。それでこちらの首無し騎士デュラハンである死神の列ユベントの戦況は?」

「蟹を相手に多くの損害を出していますが、同時に抑える事には成功しています」

 参謀の一人が務めて明るく報告するが――、

「つまりは時間の問題という事だろう。まあ仕方あるまい、首無し騎士デュラハンには俺が出よう。どうせもう遊軍は無い。ここは任せる」

 その口から、言葉だけでなく白い息も同時に漏れる。
 急速に冷え、全身に悪寒が走る。それは心身両面から来る凍え。

「これが例のやつか。クソが!」

 渦を巻くような突風が吹き荒れ、黒い前髪と軍服の襟が白く凍る。
 兵達を凍らせる強烈な冷気。その先から来る者たちが何であるかは、当然リンバートも知っている。

「浮遊城のリッツェルネールに連絡を入れろ。我等は最後の抵抗に入る。後の事は任せたとな」

 それは事実上の攻撃要請だ。
 人類の為、魔族と共に浄化の光レイで焼かれる事を選択したのであった。



 左右の戦線が崩壊する中、ハルタール帝国は浮遊城の動きに注目していた。
 彼らが布陣するのは全体の後方、アイオネアの門近く。ここを抜かれたら全てが終わりだ。
 総兵力は正規兵170万人。他にも200万人の民兵団がいるが、彼等は設営から補給、医療、そして警備や偵察、機械修理など様々な作業に従事する民間人が主である。直接戦闘に参加する事はまずない。
 門を中心とした壁沿いには土や木で作られた駐屯地バラックが並び、それは細長い街の様だ。

 指揮するのは、ハルタール帝国元東方軍副隊長であったリーヴェブッフ・エヴィンカイン。
 2メートル近い長身に、丸い岩石のような筋肉を持つ。顔つきもまた岩石のようであり、傍目には岩の巨人を思わせる。
 その見た目に反さず寡黙で冷静。オスピアの信頼も厚く、現魔族領駐屯部隊の総大将である。
 しかし魔族領最大の戦力――それも戦力比で言うのなら99:1程の開きがある浮遊城の指揮官はリッツェルネールである。
 圧倒的な戦力に世界的な名声。世界中の誰もが、事実上リッツェルネールを指揮官として見ていた。
 その事を十分理解しているが、本人に気にする素振りは無い。気になるのはただ一つ。この戦いの結果だけだ。

「両翼のティランドはどうなっている」

 洞窟から聞こえてくるような太い声が、吹きっ晒しの指揮所に響く。
 指揮所と言っても、周囲を布の膜で覆っただけ。そこに持ち運び便利なパイプ机が置かれ、リーヴェブッフほか十数名の参謀や将軍が机を中心に座っている。
 椅子だけは金属製の豪華なものだが、これは鎧を着たまま座っても大丈夫なようにするためだ。
 指揮中は比較的軽装なティランド連合王国に対し、この国は全員が肉厚の全身鎧フルプレートに身を包み、巨大な武器も脇に置いている。
 全員が面壁も降ろしており、見た目は恐ろしいほどにシュールだ。

「左右とも崩壊が始まっています」
「報告によれば、首無し騎士デュラハンや霧の巨人が現れたとか」

「浮遊城はどちらに対応しているか?」

 質問しながら、金属のグローブで兜の顎を撫でる。
 まるで意味のない行為だが、これは癖のようなものだ。

「動きはありません。未だ魔族の浮遊城と交戦している模様」
「撃ち合いながらでも片方を殲滅すればよかろうに」
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