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【 未来と希望 】
因縁
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連合王国左翼側。こちらも右翼側と布陣は変わらない。
全長およそ40キロメートル。手持ちの物資全てで作られた簡易バリケードには今、無数の巨大な白い蟻が張り付いていた。
多くは働き蟻で、サイズは約1メートル。その中に混ざる兵隊蟻は5メートルほどだ。
揺り籠により相当数のコロニーが殲滅させられたが、それでも未だに数千万匹が白き苔の領域に生息する。
今回は魔王の意向により、地上にはおよそ一千万匹が動員されていた。
対するグレスノーム・サウルスは、正規兵55万人に民兵がおよそ300万人。
奮闘はしているが、バリケードなどほぼ無意味だ。飛甲板であっても、悠然と彼らは登ってくる。
民兵部隊などまるで相手にならない。次々と殺され肉団子にされてゆくだけだ。
こちらの方面にも人馬騎兵は投入されており、またパナーリア・アル・ハーノノナート率いる装甲騎兵隊1000騎も参戦している。彼らのような機甲部隊は優勢に戦ってはいるが、数の違いは明らかだ。
だが――、
「敵の数が減っている?」
篝火に照らされた野戦司令部で、グレスノームは意外な報告を聞いていた。
戦っているのだから、当然相手にも損害が出ている。だがそんな事をわざわざ言いはしない。
「ハッ! 相当数の敵が引き返しているようだと前線から報告が入っています」
「どういうことだ?」
彼等は人を恐れない。装甲騎兵も、人馬騎兵にさえも平然と仕掛けてくる。逃げたとは考えられない。となれば、これは作戦か。
軍隊蟻を操っているのは間違いなく魔王だ。となれば、何等かの戦術によるものかもしれない。
だが一番肝心な事は――、
「それで戦況はどうなっている?」
「当初はかなり押されていましたが、なんとか戦線の維持は出来ています。今の所は大丈夫です」
「しかし、もし再び攻撃されたら危ういかと思われます」
意図はともあれ、現実には敵が退いたことはプラスに働いている。しかしその理由が不気味だ。
浮遊城に行くのであれば問題は無い。万でも億でも敵では無いだろう。
しかし後方に迂回されたら、左翼軍に追撃する余力はない。
戦況はどうなるか分からない。後方に控えるハルタール帝国軍にまで行かせるくらいなら……。
グレスノームの視線の先にあるのは、緊急用の通信機だ。いざとなったら浮遊城に連絡し、地上を一掃する。もちろん蟻共への足止めをするのは自分たちであり、その時は軍隊蟻などと心中という事になる。
「蟻の動きには細心の注意を払え。場合によっては、白き苔の領域内に入る必要があるやもしれぬ」
「了解いたしました!」
◇ ◇ ◇
魔人エンブスと浮遊城ジャルプ・ケラッツァの撃ち合いは数時間にも及んだ。
だが互に距離を取っての牽制であり、双方ともに致命打を与えられないでいた。
「え、軍隊蟻が?」
「地上に展開していた蟻たちは帰ったかな。どうする?」
どうすると言われても、というよりも……
「何があった?」
戦っているのに無意味な行動はしないだろう。そこには必ず意味がある。
人類側に、何か強力な殺虫剤のような物でもあったのだろうか?
それを確認しないと、もう一つの群れの方にも影響が出かねない。
「十分な肉を集め終わったから帰っただけかな。命令をすれば、もう一度行かせられるよ」
――あまりにも馬鹿々々しい理由だった。
ではあるが、逆に多少リラックスできた。殺し合いを命じている心が、少し和らいだといっても良いだろう。
「いや、それだけ十分にやってくれたって事だ。それならいいよ。問題はこちらだな」
多少の休憩を鋏ながらも撃ち合いは続いている。
双方決定打はないし、夜の間に決めるつもりは元よりない。とはいえ、数日掛けるつもりもやはり無い。
何処かで分かりやすい一撃が必要だ。
しかし戦場を思うがままに操る……そんな事、到底無理だといえる。戦力的に勝っているから何とかなるが、同じ規模だったら欠片も勝つ可能性がない相手だ。
だがそれでも、やらなければいけない。
「ヨーツケールMk-II8号改はどうだろう? ルリア――」
「はいはーい。今の所、予定通り移動中ですよー」
ふわりと現れる幽霊メイドのルリア。いつも消えているのは、おおかた外で生気でも吸っているのだろう。
プログワードもそうだが、ヨーツケールMk-II8号改にも死霊が数人張り付いている。彼らをいつどう使うか……それがこの戦いの鍵だ。
まあヨーツケールMk-II8号改は不死者語を理解していないが、それなりにハンドサインで通じるから大丈夫だろう。
◇ ◇ ◇
ヨーツケールMk-II8号改は、大きな金属板を担いで一人移動していた。形状は取っ手の突いた四角い鍋蓋に近い。
大きさは長さ10メートル、幅は8メートル程度。以前の巨大な姿であればはみ出てしまうが、今の大きさは6メートル程度にまで小さくなっている。あの揺り籠のせいだ。
しかしそのおかげで、今こうしてここにいられるといえる。
人類の魔族探知レーダーは、障害物があると機能しない。金属板や流水、分厚い地面などの先は探知できないのだ。
当然浄化の光を撃つ時は察知されてしまうが、その点は仕方がない。撃ったら素早く位置を変える。盾も使えば十分に防げるだろう。
目的は奇襲。ただ、近距離から致命打を狙うのではない。そんな事をして失敗したら、間違いなく死んでしまう。これは予想外の角度からの不意打ちが目的である。
相手の移動を制限させる事で、プログワードの一撃につなげる。それが魔王の立てた作戦であった。
「これは一度撃たれて知っているヨーツケールMk-II8号改だから頼めるんだが……」
魔王からそう直々に頼まれたヨーツケールMk-II8号改は、心ウキウキさせながら目的の場所に向かっていた。
かなりの危険が伴う任務である。しかしそれでも、魔王は自分を選んだのだ。過保護にされ、お飾りになるよりずっといい。刺激の無い生き方など、面白くもなんともないのだから。
そんなヨーツケールMk-II8号改に、近づく一騎の装甲騎兵があった。
左右両翼と浮遊城の間、浄化の光の射程圏外を警戒する部隊だ。
――コレハマズイ。
素早く擬態するヨーツケールMk-II8号改。それは完全に背景と同化し、肉眼で見る事は不可能だ。
しかし、巨大な鍋蓋は残る。
あからさまに怪しく斜めに立つ鍋蓋を見て、装甲騎兵の乗員はすぐさま連絡を入れた。
「敵影見えず。だが眼前に敵影あり。敵は透明、ないしは擬態。サイズ推定――」
その瞬間、装甲騎兵を鍋蓋が襲う。
強力な一撃を横合いから受け、吹き飛んだ装甲騎兵は潰れた缶のようだ。
しかしその最後の通信は、すぐに装甲騎兵全体を指揮するユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵にもたらされた。
――蟹かもしれない……。
それは直感とも願望とも言えない、実に曖昧な感覚であった。
リアンヌの丘での戦いを精査した結果、巨大蟹には高度な擬態能力があるかもしれないと目されていた。それが頭の片隅にあったのかもしれない。
「報告にあった位置は?」
「浮遊城北方17キロメートル。その先には連合王国右翼。ほぼ中央に位置しています」
「浮遊城に連絡を入れろ。それと全騎出撃、付いてこい! パナーリア将軍にも伝えておけ!」
同時に、装甲騎兵がふわりと浮かぶ。
銀色に彩られた、矩形の箱。左右には2門の大型の投射槍に弩を撃つ為の窓。左右に意匠された紋章は死神を表している。
それは1騎だけではない。偵察に出ている部隊を除き、全部で800騎。その内200騎は、前方にも大型の投射槍口を設置した商国の最新式である。
「さて、リベンジを果たさせてもらおうか」
ユベント率いる“死神の列”が、ヨーツケールMk-II8号改に向けて動き出したのであった。
◇ ◇ ◇
何故ユベントが“蟹”であると直感したのかは、誰にも分からない。
ただ単に、再戦を期待していた為にそう感じただけなのかもしれない。
だが確かに、ユベント率いる“死神の列”は移動する巨大な鍋蓋の姿を捉えていた。
「全軍攻撃を開始せよ! 僅かの油断もするな!」
ユベントの指揮の元、銀色の槍が暗闇を切り裂いて行く。それは数百もの輝きだ。
しかしそれが鍋蓋に当たるよりも早く、先頭の装甲騎兵が叩き潰される。
後続の投光器に照らされた姿は、玉虫色に輝く1匹の陸蟹。
大きさは6メートルほどで、背中からは関節部を含めれば8メートルを少し超す2本のマレットが生えている。
「将軍、蟹です。目標は蟹との連絡です」
「そうか。ようやくだな……」
掌と拳を、体の正面でバシッと合わせる。
先頭集団にいるとはいえ、ユベントの位置から直接見ることは出来ない。だからリアンヌの丘で戦った蟹である確証は無いし、むしろその姿を見たら違うと分かるだろう。
しかしこの時、この蟹は間違いなくあの時の蟹だとユベントの本能が告げていた。
◇ ◇ ◇
装甲騎兵の大きさは幅が4メートル。長さは約11メートルと、ヨーツケールMk-II8号改よりも大きく見える。
しかし中身がぎゅうぎゅうに詰まったヨーツケールに比べ、装甲騎兵はあくまで中に人が搭乗し、兵器を搭載した箱だ。ましてや、ヨーツケールは魔人である。
一瞬にして装甲騎兵に取り付くと、鋏を突き刺しマレットで叩く。
ドラムともシンバルともいえない金属を叩く音が響くと、後に残るのはべこべこに潰された装甲騎兵の残骸のみ。それが地面に落ちるよりも早く、次の装甲騎兵に移動している。
そもそもの速度が違う。それに加え、ここは投光器の明かりだけが頼りの闇の中。目視する事は困難だ。
「間違いない。あのでたらめな速さはあの時の蟹だ」
司令塔から必死に確認しようとするユベントであるが、闇の中を高速で動く相手をなかなか視認できずにいた。
一方、ヨーツケールMk-II8号改は久々に金属を叩きまくる快感に酔いしれていた。
魔王の指示を忘れるほどに……。
全長およそ40キロメートル。手持ちの物資全てで作られた簡易バリケードには今、無数の巨大な白い蟻が張り付いていた。
多くは働き蟻で、サイズは約1メートル。その中に混ざる兵隊蟻は5メートルほどだ。
揺り籠により相当数のコロニーが殲滅させられたが、それでも未だに数千万匹が白き苔の領域に生息する。
今回は魔王の意向により、地上にはおよそ一千万匹が動員されていた。
対するグレスノーム・サウルスは、正規兵55万人に民兵がおよそ300万人。
奮闘はしているが、バリケードなどほぼ無意味だ。飛甲板であっても、悠然と彼らは登ってくる。
民兵部隊などまるで相手にならない。次々と殺され肉団子にされてゆくだけだ。
こちらの方面にも人馬騎兵は投入されており、またパナーリア・アル・ハーノノナート率いる装甲騎兵隊1000騎も参戦している。彼らのような機甲部隊は優勢に戦ってはいるが、数の違いは明らかだ。
だが――、
「敵の数が減っている?」
篝火に照らされた野戦司令部で、グレスノームは意外な報告を聞いていた。
戦っているのだから、当然相手にも損害が出ている。だがそんな事をわざわざ言いはしない。
「ハッ! 相当数の敵が引き返しているようだと前線から報告が入っています」
「どういうことだ?」
彼等は人を恐れない。装甲騎兵も、人馬騎兵にさえも平然と仕掛けてくる。逃げたとは考えられない。となれば、これは作戦か。
軍隊蟻を操っているのは間違いなく魔王だ。となれば、何等かの戦術によるものかもしれない。
だが一番肝心な事は――、
「それで戦況はどうなっている?」
「当初はかなり押されていましたが、なんとか戦線の維持は出来ています。今の所は大丈夫です」
「しかし、もし再び攻撃されたら危ういかと思われます」
意図はともあれ、現実には敵が退いたことはプラスに働いている。しかしその理由が不気味だ。
浮遊城に行くのであれば問題は無い。万でも億でも敵では無いだろう。
しかし後方に迂回されたら、左翼軍に追撃する余力はない。
戦況はどうなるか分からない。後方に控えるハルタール帝国軍にまで行かせるくらいなら……。
グレスノームの視線の先にあるのは、緊急用の通信機だ。いざとなったら浮遊城に連絡し、地上を一掃する。もちろん蟻共への足止めをするのは自分たちであり、その時は軍隊蟻などと心中という事になる。
「蟻の動きには細心の注意を払え。場合によっては、白き苔の領域内に入る必要があるやもしれぬ」
「了解いたしました!」
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魔人エンブスと浮遊城ジャルプ・ケラッツァの撃ち合いは数時間にも及んだ。
だが互に距離を取っての牽制であり、双方ともに致命打を与えられないでいた。
「え、軍隊蟻が?」
「地上に展開していた蟻たちは帰ったかな。どうする?」
どうすると言われても、というよりも……
「何があった?」
戦っているのに無意味な行動はしないだろう。そこには必ず意味がある。
人類側に、何か強力な殺虫剤のような物でもあったのだろうか?
それを確認しないと、もう一つの群れの方にも影響が出かねない。
「十分な肉を集め終わったから帰っただけかな。命令をすれば、もう一度行かせられるよ」
――あまりにも馬鹿々々しい理由だった。
ではあるが、逆に多少リラックスできた。殺し合いを命じている心が、少し和らいだといっても良いだろう。
「いや、それだけ十分にやってくれたって事だ。それならいいよ。問題はこちらだな」
多少の休憩を鋏ながらも撃ち合いは続いている。
双方決定打はないし、夜の間に決めるつもりは元よりない。とはいえ、数日掛けるつもりもやはり無い。
何処かで分かりやすい一撃が必要だ。
しかし戦場を思うがままに操る……そんな事、到底無理だといえる。戦力的に勝っているから何とかなるが、同じ規模だったら欠片も勝つ可能性がない相手だ。
だがそれでも、やらなければいけない。
「ヨーツケールMk-II8号改はどうだろう? ルリア――」
「はいはーい。今の所、予定通り移動中ですよー」
ふわりと現れる幽霊メイドのルリア。いつも消えているのは、おおかた外で生気でも吸っているのだろう。
プログワードもそうだが、ヨーツケールMk-II8号改にも死霊が数人張り付いている。彼らをいつどう使うか……それがこの戦いの鍵だ。
まあヨーツケールMk-II8号改は不死者語を理解していないが、それなりにハンドサインで通じるから大丈夫だろう。
◇ ◇ ◇
ヨーツケールMk-II8号改は、大きな金属板を担いで一人移動していた。形状は取っ手の突いた四角い鍋蓋に近い。
大きさは長さ10メートル、幅は8メートル程度。以前の巨大な姿であればはみ出てしまうが、今の大きさは6メートル程度にまで小さくなっている。あの揺り籠のせいだ。
しかしそのおかげで、今こうしてここにいられるといえる。
人類の魔族探知レーダーは、障害物があると機能しない。金属板や流水、分厚い地面などの先は探知できないのだ。
当然浄化の光を撃つ時は察知されてしまうが、その点は仕方がない。撃ったら素早く位置を変える。盾も使えば十分に防げるだろう。
目的は奇襲。ただ、近距離から致命打を狙うのではない。そんな事をして失敗したら、間違いなく死んでしまう。これは予想外の角度からの不意打ちが目的である。
相手の移動を制限させる事で、プログワードの一撃につなげる。それが魔王の立てた作戦であった。
「これは一度撃たれて知っているヨーツケールMk-II8号改だから頼めるんだが……」
魔王からそう直々に頼まれたヨーツケールMk-II8号改は、心ウキウキさせながら目的の場所に向かっていた。
かなりの危険が伴う任務である。しかしそれでも、魔王は自分を選んだのだ。過保護にされ、お飾りになるよりずっといい。刺激の無い生き方など、面白くもなんともないのだから。
そんなヨーツケールMk-II8号改に、近づく一騎の装甲騎兵があった。
左右両翼と浮遊城の間、浄化の光の射程圏外を警戒する部隊だ。
――コレハマズイ。
素早く擬態するヨーツケールMk-II8号改。それは完全に背景と同化し、肉眼で見る事は不可能だ。
しかし、巨大な鍋蓋は残る。
あからさまに怪しく斜めに立つ鍋蓋を見て、装甲騎兵の乗員はすぐさま連絡を入れた。
「敵影見えず。だが眼前に敵影あり。敵は透明、ないしは擬態。サイズ推定――」
その瞬間、装甲騎兵を鍋蓋が襲う。
強力な一撃を横合いから受け、吹き飛んだ装甲騎兵は潰れた缶のようだ。
しかしその最後の通信は、すぐに装甲騎兵全体を指揮するユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵にもたらされた。
――蟹かもしれない……。
それは直感とも願望とも言えない、実に曖昧な感覚であった。
リアンヌの丘での戦いを精査した結果、巨大蟹には高度な擬態能力があるかもしれないと目されていた。それが頭の片隅にあったのかもしれない。
「報告にあった位置は?」
「浮遊城北方17キロメートル。その先には連合王国右翼。ほぼ中央に位置しています」
「浮遊城に連絡を入れろ。それと全騎出撃、付いてこい! パナーリア将軍にも伝えておけ!」
同時に、装甲騎兵がふわりと浮かぶ。
銀色に彩られた、矩形の箱。左右には2門の大型の投射槍に弩を撃つ為の窓。左右に意匠された紋章は死神を表している。
それは1騎だけではない。偵察に出ている部隊を除き、全部で800騎。その内200騎は、前方にも大型の投射槍口を設置した商国の最新式である。
「さて、リベンジを果たさせてもらおうか」
ユベント率いる“死神の列”が、ヨーツケールMk-II8号改に向けて動き出したのであった。
◇ ◇ ◇
何故ユベントが“蟹”であると直感したのかは、誰にも分からない。
ただ単に、再戦を期待していた為にそう感じただけなのかもしれない。
だが確かに、ユベント率いる“死神の列”は移動する巨大な鍋蓋の姿を捉えていた。
「全軍攻撃を開始せよ! 僅かの油断もするな!」
ユベントの指揮の元、銀色の槍が暗闇を切り裂いて行く。それは数百もの輝きだ。
しかしそれが鍋蓋に当たるよりも早く、先頭の装甲騎兵が叩き潰される。
後続の投光器に照らされた姿は、玉虫色に輝く1匹の陸蟹。
大きさは6メートルほどで、背中からは関節部を含めれば8メートルを少し超す2本のマレットが生えている。
「将軍、蟹です。目標は蟹との連絡です」
「そうか。ようやくだな……」
掌と拳を、体の正面でバシッと合わせる。
先頭集団にいるとはいえ、ユベントの位置から直接見ることは出来ない。だからリアンヌの丘で戦った蟹である確証は無いし、むしろその姿を見たら違うと分かるだろう。
しかしこの時、この蟹は間違いなくあの時の蟹だとユベントの本能が告げていた。
◇ ◇ ◇
装甲騎兵の大きさは幅が4メートル。長さは約11メートルと、ヨーツケールMk-II8号改よりも大きく見える。
しかし中身がぎゅうぎゅうに詰まったヨーツケールに比べ、装甲騎兵はあくまで中に人が搭乗し、兵器を搭載した箱だ。ましてや、ヨーツケールは魔人である。
一瞬にして装甲騎兵に取り付くと、鋏を突き刺しマレットで叩く。
ドラムともシンバルともいえない金属を叩く音が響くと、後に残るのはべこべこに潰された装甲騎兵の残骸のみ。それが地面に落ちるよりも早く、次の装甲騎兵に移動している。
そもそもの速度が違う。それに加え、ここは投光器の明かりだけが頼りの闇の中。目視する事は困難だ。
「間違いない。あのでたらめな速さはあの時の蟹だ」
司令塔から必死に確認しようとするユベントであるが、闇の中を高速で動く相手をなかなか視認できずにいた。
一方、ヨーツケールMk-II8号改は久々に金属を叩きまくる快感に酔いしれていた。
魔王の指示を忘れるほどに……。
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