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【 未来と希望 】
浮遊城vs浮遊城 後編
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――追い返すことが不可能であれば、短期決戦しかないか……。
リッツェルネールとしては不本意だが、あるものでやりくりするしかないのは毎度の事だ。
心から満足できる戦力を指揮できたことなど、ただの一度としてありはしないのだ。
「向こうの様子は?」
「浄化の光は有効ではないようですね。ただ向こうの浄化の光の損害も深刻ではないです。思ったよりも、性能はこちらに近いようですよ」
「それは助かるね」
暗闇の中、互いに幾筋もの光が走る。しかしお互いに致命傷ではない。
ゆっくりと近づき、また離れながら手の内を読んでいるといった状況であった。
「やっぱ近づかないとダメか。まあ、当たれば終わりとは思っていなかったけどね」
魔人エンブスの中で、魔王は考えていた。
同じ戦力の場合、正面から戦ったらどうにもならないだろう。
相手は専門家。こちらはド素人。やりたいことはエヴィアやテラーネが実に正確にやってくれるが、こいつらはそれが正しいかどうかは判断してくれない。
いや少し違うか。正解なんてものが、そもそもないのだ。
「少し後退して相手の動きを見る。あちらの飛甲騎兵は?」
「浮遊城の後ろに控えているかな。まだ来る様子はないよ」
「ならいい。目は離さないようにな」
あれはこちらを誘うために出したのか、それとも別の意図があるのか……。
まあ考えても分からない事に頭を使っても仕方がない。
「他の皆は大丈夫かな?」
各方面で皆が戦っている。
戦えと命じながら、無事を祈るのもおかしなものかもしれない。
ではあるが、出来れば無事に再開したいものだ……。
◇ ◇ ◇
互いの浄化の光による応酬は、暗闇の中に眩しく光る。
その様子は浮遊城からだけでなく地上の偵察隊からも撮影され、世界中に拡散されていった。
リアルタイムとはいかないが、それなりには早い。そしてこの情報は、一切の検閲を受けず世界中に流された。
都市圏では次々と記事が刷られ、印刷場の出口で待ち構えていた民衆との間で激しい奪い合いまで起こっている。それはまるで暴徒の様だ。だがそれだけ注目されているといえる。
既に四大国最大規模であったムーオス自由帝国は、魔族と戦い滅びた。この一戦の結果次第では、次は自分たちなのだ。
そしてその一挙手一投足に注意を払っていたのは、遠方の人々たちだけではない。
全軍右翼、リンバート・ハイン・ノヴェルド・ティランド率いるティランド連合王国軍55万人は、数十倍にも及ぶ亜人の群れと交戦中であった。
円形に布陣する外周部には即興のバリケードが張られ、この日の為に用意された人馬騎兵が駆逐する。
バリケードの内側には粗末な兵装の民兵団が待機。戦力としての期待はされていないが、足止めにはなる。最悪の場合は彼らごと浄化の光で焼くのも作戦の内だ。
「浮遊城の様子はどうだ?」
「連絡では五分五分ですね。まだお互いに大きな動きは無いようです」
「そうか……まあリッツェルネールに期待するしかあるまい」
しかし浮遊城が落ちたらそもそも終わり。中央の戦いの結果が、そのまま自分たちの結果に直結するのだ。
そんな彼らの上空に、美しい死神が飛来する。
篝火と投光器に照らされたエメラルドの煌めき。
サイズは尾を入れても20メートル程。ここ魔族領で出会う大型魔族の中では、決して大きい方ではない。
だがその美しさ、気高さ、そして感じる魔力は彼らの魂を押しつぶし、恐怖と絶望を撒き散らす。
「エ、翠玉竜……これが……」
彼等は義勇兵だ。たとえ装備は貧弱であっても、人類のために戦う心構えは出来ている。
だがこれは、最初の相手としては無理があっただろう。
それも1匹ではない。誰もが息を呑む。数百……いや、千を超える竜の群れ。
悲鳴も上がらない。ただ、武器が落ちる音が響く。
そんな絶望に打ちのめされた人々に向け、翠玉竜が白いガスを放出した。
それは蒸気となった水銀。今度は別の意味で悲鳴が上がらない。上げられない。バタバタと、まるで糸の切れた人形のように倒れて行く。
その様子を見た後方の兵達が崩れそうになる――その瞬間だった。
「怯むな! ここが人類の最前線。貴様らは、望んでこの地に来たのだろう!」
戦場に響く声はロイ・ハン・ケールオイオンのもの。そして闇を裂いて現れたのは真紅の騎体。それは彼の為に用意された人馬騎兵であった。
もはやマリセルヌス王国に軍隊と呼べるものは無い。ケールオイオンの血族も、もはや自分唯一人。だがそれでも、彼は戦場に立った。
代理王も返上し、新たな国王はアスターゼンとなった。彼も共に来ると言って聞かなかったが、まだマリセルヌスの血族に国家を率いるほど信頼されている傑物はいない。当面は代理王が必要だ。
それが解っていても、ロイには戦う場が必要だったのだ。
アスターゼンもまた、それを認めるしかなかった。
「我等に続け、勇士たちよ! 一人の力で敵わぬとも、十人でやればいい。それでもだめなら百人で行けばいい。死を恐れるな! 目の前にいるのは死ではない。栄光なのだ!」
人馬騎兵の長柄戦斧が翠玉竜を打つ。
だがさすがに龍だ。その一撃で倒せるものではない。だが鱗が一部、弾けて飛んだ。
それは投光器に照らされ、美しく輝きながら落ちていく。
――傷つけた!?
――いける。
――人類はやれる。
――戦えるんだ! 戦うんだ!
一度は落とした武器を拾う。目の前の敵を睨めつける。そうだ、あれは魔族。竜とはいえ魔族なのだ。人類に倒し得ぬはずがないではないか。そうやって、人は進んできたのだ。
「突撃せよ! 目を潰せ! 足を掴め! 人馬騎兵の為に、少しでも奴らの動きを封じよ!」
そうだ。幾ら強くとも、精々20メートルだ。掴んでしまえばいい。埋めてしまえばいい。個人の武器が通らなくとも、我等の巨兵が敵を討つのだ!
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」」
士気を取り戻した民兵団が一斉に翠玉竜の群れに襲い掛かった。
リッツェルネールとしては不本意だが、あるものでやりくりするしかないのは毎度の事だ。
心から満足できる戦力を指揮できたことなど、ただの一度としてありはしないのだ。
「向こうの様子は?」
「浄化の光は有効ではないようですね。ただ向こうの浄化の光の損害も深刻ではないです。思ったよりも、性能はこちらに近いようですよ」
「それは助かるね」
暗闇の中、互いに幾筋もの光が走る。しかしお互いに致命傷ではない。
ゆっくりと近づき、また離れながら手の内を読んでいるといった状況であった。
「やっぱ近づかないとダメか。まあ、当たれば終わりとは思っていなかったけどね」
魔人エンブスの中で、魔王は考えていた。
同じ戦力の場合、正面から戦ったらどうにもならないだろう。
相手は専門家。こちらはド素人。やりたいことはエヴィアやテラーネが実に正確にやってくれるが、こいつらはそれが正しいかどうかは判断してくれない。
いや少し違うか。正解なんてものが、そもそもないのだ。
「少し後退して相手の動きを見る。あちらの飛甲騎兵は?」
「浮遊城の後ろに控えているかな。まだ来る様子はないよ」
「ならいい。目は離さないようにな」
あれはこちらを誘うために出したのか、それとも別の意図があるのか……。
まあ考えても分からない事に頭を使っても仕方がない。
「他の皆は大丈夫かな?」
各方面で皆が戦っている。
戦えと命じながら、無事を祈るのもおかしなものかもしれない。
ではあるが、出来れば無事に再開したいものだ……。
◇ ◇ ◇
互いの浄化の光による応酬は、暗闇の中に眩しく光る。
その様子は浮遊城からだけでなく地上の偵察隊からも撮影され、世界中に拡散されていった。
リアルタイムとはいかないが、それなりには早い。そしてこの情報は、一切の検閲を受けず世界中に流された。
都市圏では次々と記事が刷られ、印刷場の出口で待ち構えていた民衆との間で激しい奪い合いまで起こっている。それはまるで暴徒の様だ。だがそれだけ注目されているといえる。
既に四大国最大規模であったムーオス自由帝国は、魔族と戦い滅びた。この一戦の結果次第では、次は自分たちなのだ。
そしてその一挙手一投足に注意を払っていたのは、遠方の人々たちだけではない。
全軍右翼、リンバート・ハイン・ノヴェルド・ティランド率いるティランド連合王国軍55万人は、数十倍にも及ぶ亜人の群れと交戦中であった。
円形に布陣する外周部には即興のバリケードが張られ、この日の為に用意された人馬騎兵が駆逐する。
バリケードの内側には粗末な兵装の民兵団が待機。戦力としての期待はされていないが、足止めにはなる。最悪の場合は彼らごと浄化の光で焼くのも作戦の内だ。
「浮遊城の様子はどうだ?」
「連絡では五分五分ですね。まだお互いに大きな動きは無いようです」
「そうか……まあリッツェルネールに期待するしかあるまい」
しかし浮遊城が落ちたらそもそも終わり。中央の戦いの結果が、そのまま自分たちの結果に直結するのだ。
そんな彼らの上空に、美しい死神が飛来する。
篝火と投光器に照らされたエメラルドの煌めき。
サイズは尾を入れても20メートル程。ここ魔族領で出会う大型魔族の中では、決して大きい方ではない。
だがその美しさ、気高さ、そして感じる魔力は彼らの魂を押しつぶし、恐怖と絶望を撒き散らす。
「エ、翠玉竜……これが……」
彼等は義勇兵だ。たとえ装備は貧弱であっても、人類のために戦う心構えは出来ている。
だがこれは、最初の相手としては無理があっただろう。
それも1匹ではない。誰もが息を呑む。数百……いや、千を超える竜の群れ。
悲鳴も上がらない。ただ、武器が落ちる音が響く。
そんな絶望に打ちのめされた人々に向け、翠玉竜が白いガスを放出した。
それは蒸気となった水銀。今度は別の意味で悲鳴が上がらない。上げられない。バタバタと、まるで糸の切れた人形のように倒れて行く。
その様子を見た後方の兵達が崩れそうになる――その瞬間だった。
「怯むな! ここが人類の最前線。貴様らは、望んでこの地に来たのだろう!」
戦場に響く声はロイ・ハン・ケールオイオンのもの。そして闇を裂いて現れたのは真紅の騎体。それは彼の為に用意された人馬騎兵であった。
もはやマリセルヌス王国に軍隊と呼べるものは無い。ケールオイオンの血族も、もはや自分唯一人。だがそれでも、彼は戦場に立った。
代理王も返上し、新たな国王はアスターゼンとなった。彼も共に来ると言って聞かなかったが、まだマリセルヌスの血族に国家を率いるほど信頼されている傑物はいない。当面は代理王が必要だ。
それが解っていても、ロイには戦う場が必要だったのだ。
アスターゼンもまた、それを認めるしかなかった。
「我等に続け、勇士たちよ! 一人の力で敵わぬとも、十人でやればいい。それでもだめなら百人で行けばいい。死を恐れるな! 目の前にいるのは死ではない。栄光なのだ!」
人馬騎兵の長柄戦斧が翠玉竜を打つ。
だがさすがに龍だ。その一撃で倒せるものではない。だが鱗が一部、弾けて飛んだ。
それは投光器に照らされ、美しく輝きながら落ちていく。
――傷つけた!?
――いける。
――人類はやれる。
――戦えるんだ! 戦うんだ!
一度は落とした武器を拾う。目の前の敵を睨めつける。そうだ、あれは魔族。竜とはいえ魔族なのだ。人類に倒し得ぬはずがないではないか。そうやって、人は進んできたのだ。
「突撃せよ! 目を潰せ! 足を掴め! 人馬騎兵の為に、少しでも奴らの動きを封じよ!」
そうだ。幾ら強くとも、精々20メートルだ。掴んでしまえばいい。埋めてしまえばいい。個人の武器が通らなくとも、我等の巨兵が敵を討つのだ!
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