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【 未来と希望 】
最後の防壁 後編
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浮遊城ジャルプ・ケラッツァの通信士が、震える声で叫ぶ
「強行偵察隊から連絡。敵浮遊城予定通り進軍中」
その声と共に、作戦室に緊張が走る。
空は次第に暗くなり、戦いが近づいていることを示していた。
それに合わせ、リッツェルネールの前に設置された全体図に模型が配置される。
既に相手は白き苔の領域を越え、残る距離は100キロ程度。暗くなるとほぼ同時に戦闘開始と予想されていた。
「北西から進軍中の亜人たちのも変化は無い。西から来る氷の竜も同様だ」
ケインブラが情報を基に、敵の配置図を動かしてゆく。
迷宮の森と亜人の領域からは大量に亜人達が移動しており、その多くが集合しながらこちらに向かってきていた。
彼らがまとまって時間を合わせて行動するなど、ほんの数年前までは考えられなかった事だ。
そしてそれは他の地域から進行して来る魔族達も同様だ。示し合わせたように歩調を合わせて近づいて来る。
「どいつもこいつも、時間に律儀な連中ですね。いつから魔族ってのは、ああなったのやら」
「全ては魔王が元凶だ。今度こそ必ず倒す! 我等が倒すのだ!」
ケインブラが拳を握り締め作戦机を叩く。物に当たっているのではなく、行き過ぎた気合を発散させているのだろう。
「まあそれはともかく――」
そんなケインブラの気合を受け流しながら、ミックマインセが尋ねてくる。
「ここに布陣して良かったんですか? いやいや、地上部隊が邪魔すぎるでしょ。いっその事、ティランドやハルタールなんかは、先に魔族の地上部隊にぶつけといても良かったのでは? 拡散させた方が、向こうも安心できるでしょう。きっと今思ってますよ、あの城の連中は、いざとなったら自分たちごと撃つつもりだぞってね」
その辺りの事は、リッツェルネールにも当然分かっている。
地上部隊に囲まれているせいで、浮遊城の行動圏内は精々直系50キロメートル圏内程度しかない。それはまるで、一か所が開いた闘技場の様にも感じられた。
「向こうが明確にアイオネアの門を目指している以上、ここを防衛しなければどうにもならないからね。万が一も許されない。そうだろう?」
まあその通りだとミックマインセも思う。
浮遊城が自由に動けるという事は、その分だけ地上はスカスカともいえる。魔族の部隊がいつ抜けて来るか分からない。
相手の浮遊城と戦っている間にアイオネアの門を突破されでもしたら、その時点で負けといえる。数は関係ない。門が突破されたという事実が何より需要だからだ。
一度でも突破されたという既成事実が出来てしまえば、もう人類は未来を信じることは出来ない。そうなってから取り返しても意味はないのだ。
だから地上部隊は、いわば大型獣を遅らせるための罠。もし相手が突破するのなら浄化の光で焼く。
ミックマインセに言われるまでもない。リッツェルネールは最初からその予定だ。
そしてそれは、地上に展開していブル体も知っている。お互い、その覚悟は出来ているのだった。
「ティランド連合王国右翼から連絡。亜人の群れと戦闘開始!」
「同じく左翼からも連絡。軍隊蟻の群れが出現!」
「どちらも予想通りだな。予定通り対処を。それと望遠図を出してくれ」
「10キロメートル地点だ」
そう言ってケインブラが出してきたのは、闇夜に光る青白い幾つもの光。敵浮遊城の光だ。
「まだ撃たないんですか?」
「有効だと思うかい?」
「そこまで馬鹿だったら苦労はないですね。向こうも撃っては来ないでしょう」
10キロも離れていたら、出力ロスが大きすぎる。届けばいいというものではないのだ。
撃てる数が無限出るのならそれもいいだろう。しかしそうもいかない。
実際、浮遊城同士で致命打を与えようと思ったら、最低でも5キロ。出来れば3キロ圏内での焼き合いとなる。
だがそれも――、
「向こうの性能次第ではあるね……」
こればかりは情報が不足しすぎて判断は出来ない。
だが推定では、相手の浄化の光の威力は人類側の浄化の光を上回る。
今以上の駒はなく、時間も状況も戦略戦術を許さない。出来るのは単純な力のぶつかり合いだ。
「機関最大。これより迎撃戦を開始する!」
リッツェルネールの指示を受け、浮遊城の巨体がゆっくりと動き出す。
「ああそうだ。飛甲騎兵と……キスカの方はどうなっている?」
「ラウは完調ですね。ただ支援の関係で殆ど出してしまいましたからね。搭載は400騎だけです。まあ整備中のもありますんで、実働は320騎くらいですか」
「その辺りは分かっているよ。準備の確認さ。場合によっては、直ぐに出ることもあり得る」
「了解です。再度魔導炉は確認させておきましょう。それとキスカ殿の方は終わってますよ」
「なら彼女はもう城外へ送り出してくれ。外の方が仕事は多いだろう」
「ではそちらも――」
「強大な魔力反応感知! 前方より接近中!」
ミックマインセの返答を、通信士の高い声が遮った。
それがこの戦いの合図である事を、誰もが感じ取っていたのだった。
「強行偵察隊から連絡。敵浮遊城予定通り進軍中」
その声と共に、作戦室に緊張が走る。
空は次第に暗くなり、戦いが近づいていることを示していた。
それに合わせ、リッツェルネールの前に設置された全体図に模型が配置される。
既に相手は白き苔の領域を越え、残る距離は100キロ程度。暗くなるとほぼ同時に戦闘開始と予想されていた。
「北西から進軍中の亜人たちのも変化は無い。西から来る氷の竜も同様だ」
ケインブラが情報を基に、敵の配置図を動かしてゆく。
迷宮の森と亜人の領域からは大量に亜人達が移動しており、その多くが集合しながらこちらに向かってきていた。
彼らがまとまって時間を合わせて行動するなど、ほんの数年前までは考えられなかった事だ。
そしてそれは他の地域から進行して来る魔族達も同様だ。示し合わせたように歩調を合わせて近づいて来る。
「どいつもこいつも、時間に律儀な連中ですね。いつから魔族ってのは、ああなったのやら」
「全ては魔王が元凶だ。今度こそ必ず倒す! 我等が倒すのだ!」
ケインブラが拳を握り締め作戦机を叩く。物に当たっているのではなく、行き過ぎた気合を発散させているのだろう。
「まあそれはともかく――」
そんなケインブラの気合を受け流しながら、ミックマインセが尋ねてくる。
「ここに布陣して良かったんですか? いやいや、地上部隊が邪魔すぎるでしょ。いっその事、ティランドやハルタールなんかは、先に魔族の地上部隊にぶつけといても良かったのでは? 拡散させた方が、向こうも安心できるでしょう。きっと今思ってますよ、あの城の連中は、いざとなったら自分たちごと撃つつもりだぞってね」
その辺りの事は、リッツェルネールにも当然分かっている。
地上部隊に囲まれているせいで、浮遊城の行動圏内は精々直系50キロメートル圏内程度しかない。それはまるで、一か所が開いた闘技場の様にも感じられた。
「向こうが明確にアイオネアの門を目指している以上、ここを防衛しなければどうにもならないからね。万が一も許されない。そうだろう?」
まあその通りだとミックマインセも思う。
浮遊城が自由に動けるという事は、その分だけ地上はスカスカともいえる。魔族の部隊がいつ抜けて来るか分からない。
相手の浮遊城と戦っている間にアイオネアの門を突破されでもしたら、その時点で負けといえる。数は関係ない。門が突破されたという事実が何より需要だからだ。
一度でも突破されたという既成事実が出来てしまえば、もう人類は未来を信じることは出来ない。そうなってから取り返しても意味はないのだ。
だから地上部隊は、いわば大型獣を遅らせるための罠。もし相手が突破するのなら浄化の光で焼く。
ミックマインセに言われるまでもない。リッツェルネールは最初からその予定だ。
そしてそれは、地上に展開していブル体も知っている。お互い、その覚悟は出来ているのだった。
「ティランド連合王国右翼から連絡。亜人の群れと戦闘開始!」
「同じく左翼からも連絡。軍隊蟻の群れが出現!」
「どちらも予想通りだな。予定通り対処を。それと望遠図を出してくれ」
「10キロメートル地点だ」
そう言ってケインブラが出してきたのは、闇夜に光る青白い幾つもの光。敵浮遊城の光だ。
「まだ撃たないんですか?」
「有効だと思うかい?」
「そこまで馬鹿だったら苦労はないですね。向こうも撃っては来ないでしょう」
10キロも離れていたら、出力ロスが大きすぎる。届けばいいというものではないのだ。
撃てる数が無限出るのならそれもいいだろう。しかしそうもいかない。
実際、浮遊城同士で致命打を与えようと思ったら、最低でも5キロ。出来れば3キロ圏内での焼き合いとなる。
だがそれも――、
「向こうの性能次第ではあるね……」
こればかりは情報が不足しすぎて判断は出来ない。
だが推定では、相手の浄化の光の威力は人類側の浄化の光を上回る。
今以上の駒はなく、時間も状況も戦略戦術を許さない。出来るのは単純な力のぶつかり合いだ。
「機関最大。これより迎撃戦を開始する!」
リッツェルネールの指示を受け、浮遊城の巨体がゆっくりと動き出す。
「ああそうだ。飛甲騎兵と……キスカの方はどうなっている?」
「ラウは完調ですね。ただ支援の関係で殆ど出してしまいましたからね。搭載は400騎だけです。まあ整備中のもありますんで、実働は320騎くらいですか」
「その辺りは分かっているよ。準備の確認さ。場合によっては、直ぐに出ることもあり得る」
「了解です。再度魔導炉は確認させておきましょう。それとキスカ殿の方は終わってますよ」
「なら彼女はもう城外へ送り出してくれ。外の方が仕事は多いだろう」
「ではそちらも――」
「強大な魔力反応感知! 前方より接近中!」
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