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【 未来と希望 】
最後の防壁 前編
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浮遊城ジャルプ・ケラッツァでは、リッツェルネール、ケインブラ、ミックマインセの三名が地図を確認している最中であった。
「状況に間違いはないんだね?」
「間違いはない。現在アイオネアの門から南南西1500キロメートル地点。13時間後には白き苔の領域に侵入し――」
「38時間後には苔の領域を抜けてアイオネアの門近郊に到着と」
「そこから門までは僅か250キロ。白き苔の領域内には布陣できないから、ここが最終防衛線となるね」
ここは浮遊城基部にある予備作戦室。言い方を変えれば第四艦橋くらいの場所だ。
相手が浄化の光を撃ってくることがほぼ確定な以上、あんな如何にもな弱点で指揮など取ってはいられない。
広い部屋の中央には長机と作戦地図が置かれ、リッツェルネール、ケインブラ、ミックマインセの三人がそれを囲む。
壁沿いには前8人、左右に6人、背後に4人の通信士。それにサポートで走り回る予備の通信士が10数人。
更に加えて、4人の武官が待機する。そのうち一人はマリッカ・アンドルスフであった。
「向こうが速度を変えない限り、暗くなってすぐに戦闘か」
「どうする? 魔族相手に夜戦など命とりだ。ましてやこんなものを相手に――」
ケインブラが机に写真をぶちまける。
それは飛甲騎兵が撮影した巨大浮遊物体の姿。
菱形の幾何学的なフォルムに反した生物的な皮膚。サイズは300メートルを超えており、
ジャルプ・ケラッツァとほぼ同等の大きさだ。
周囲には翼竜であったり翼を持つ魚であったりと、多数の飛行生物の姿が見える。
そしてまた、下に幾筋も広がる土煙は地上にも多数の生物がいる事を示していた。
「魔族領も活発ですよ。新領域から多数の翼竜、それに翠玉竜らしき群れが出てきたそうです。進路上にいたユーディザード王国はほぼ壊滅という報告が来ています」
「あの国も翠玉竜とは奇縁だね。残存は?」
「ほぼ無い。もう組織としては機能しないだろう。今の王は誰だったかな……確か昨日、ルフィエーナ・エデル・レストン・ユーディザードが王になったと思ったが」
「戦力外ならいいさ。望むなら故郷に帰らせてやるといい」
今は一人でも多くの戦力が必要ではないのか? とケインブラは思うが、口には出さなかった。
既に人類と魔族の関係は最終局面に入っている。どちらかが滅びるか、そんな状況だ。
ここで戦うのも故郷で戦うのも、そしてどこで死のうとも、もうあまり変わりは無いだろう。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦219年6月13日夕刻。
浮遊城ジャルプ・ケラッツァの配置は完了していた。
アイオネアの門から100キロメートル。ここが人類と魔族との最前線。
実際には海岸線から大量の魔族が入り込んでいる。だが世界の耳目は今、この場所に集中していた。
東はともかく、海岸から上がってくる魔族に対しては北も中央も優勢だという事が大きい。
余裕があるから、他に目を向けることが出来る。
そして何より、やはり魔族領こそが人類にとって最大の敵なのだ。そこに明確なシンボル――魔族の浮遊城が攻めてくる。
それを防衛するのは稀代の天才軍略家、無血独立のリッツェルネールだ。
ここが敗れれば、東部の支柱を失う事になる。もはや、魔族領から侵入する敵を止めることは出来ないだろう。
「各部隊の配置、完了しました」
|リッツェルネールは地図を見ながら、通信士のリンダに対し静かに頷いた。
浮遊城左右40キロメートル地点にはティランド連合王国軍。
右翼にリンバート・ハイン・ノヴェルド・ティランド。左翼にグレスノーム・サウルスがそれぞれ55万人で布陣する。
それらの正規軍の他に、300万人を超える民兵隊が加わっている。彼らはティランド連合王国人ばかりではない。魔王軍迫るの報を受け、自発的に各地から集まってきた義勇兵であった。
そしてそれらの集団から少し離れ、浮遊城側にハーノノナート公国装甲騎兵隊がそれぞれ千騎配備された。
これは、地上から浮遊城に接近する魔族をギリギリまで防ぐための遊撃隊としてであった。
浮遊城後方50キロメートル地点には、ハルタール帝国軍を中心とした北方国軍170万人が控える。
こちらにも200万人を超える民兵が追加で控えているが、両翼位比べれば少ない。
というより、こちらの民兵は補給に救護といった部隊だ。
全体として、浮遊城の左右後方を囲む円を描くような形に布陣する。
だがいずれの部隊も浮遊城の視認距離外であり、同時に射程外だ。
元々、地上部隊と浮遊城は互いに援護し合う関係ではない。なんといっても戦力比が違い過ぎる。
地上部隊の役割は、敵を足止めして時間差を作る事である。
いくら強いといっても、浄化の光の砲門数にも発射できる回数にも限りがあるからだ。
全ての敵を、同時に浮遊城に向かわせるわけにはいかない。
日が暮れれば、魔族の浮遊城がやってくる。そんな中、ティランド連合王国大将のリンバートは、静かな高揚に包まれていた。
恥を忍んでここまで生きながらえて来たが、その甲斐はあった。
これはまさに決戦といえるだろう。そこに立つことは、まさに人類の誇りだ。それをティランド連合王国の代表として成す。産まれてきたことを、これほどまでに感謝した事は無い。
グレスノームも同じ気持ちであろうか……80キロの彼方に布陣する弟の事を思う。
そしてまた、実際に同じことをグレスノームは考えていた。
「状況に間違いはないんだね?」
「間違いはない。現在アイオネアの門から南南西1500キロメートル地点。13時間後には白き苔の領域に侵入し――」
「38時間後には苔の領域を抜けてアイオネアの門近郊に到着と」
「そこから門までは僅か250キロ。白き苔の領域内には布陣できないから、ここが最終防衛線となるね」
ここは浮遊城基部にある予備作戦室。言い方を変えれば第四艦橋くらいの場所だ。
相手が浄化の光を撃ってくることがほぼ確定な以上、あんな如何にもな弱点で指揮など取ってはいられない。
広い部屋の中央には長机と作戦地図が置かれ、リッツェルネール、ケインブラ、ミックマインセの三人がそれを囲む。
壁沿いには前8人、左右に6人、背後に4人の通信士。それにサポートで走り回る予備の通信士が10数人。
更に加えて、4人の武官が待機する。そのうち一人はマリッカ・アンドルスフであった。
「向こうが速度を変えない限り、暗くなってすぐに戦闘か」
「どうする? 魔族相手に夜戦など命とりだ。ましてやこんなものを相手に――」
ケインブラが机に写真をぶちまける。
それは飛甲騎兵が撮影した巨大浮遊物体の姿。
菱形の幾何学的なフォルムに反した生物的な皮膚。サイズは300メートルを超えており、
ジャルプ・ケラッツァとほぼ同等の大きさだ。
周囲には翼竜であったり翼を持つ魚であったりと、多数の飛行生物の姿が見える。
そしてまた、下に幾筋も広がる土煙は地上にも多数の生物がいる事を示していた。
「魔族領も活発ですよ。新領域から多数の翼竜、それに翠玉竜らしき群れが出てきたそうです。進路上にいたユーディザード王国はほぼ壊滅という報告が来ています」
「あの国も翠玉竜とは奇縁だね。残存は?」
「ほぼ無い。もう組織としては機能しないだろう。今の王は誰だったかな……確か昨日、ルフィエーナ・エデル・レストン・ユーディザードが王になったと思ったが」
「戦力外ならいいさ。望むなら故郷に帰らせてやるといい」
今は一人でも多くの戦力が必要ではないのか? とケインブラは思うが、口には出さなかった。
既に人類と魔族の関係は最終局面に入っている。どちらかが滅びるか、そんな状況だ。
ここで戦うのも故郷で戦うのも、そしてどこで死のうとも、もうあまり変わりは無いだろう。
◇ ◇ ◇
碧色の祝福に守られし栄光暦219年6月13日夕刻。
浮遊城ジャルプ・ケラッツァの配置は完了していた。
アイオネアの門から100キロメートル。ここが人類と魔族との最前線。
実際には海岸線から大量の魔族が入り込んでいる。だが世界の耳目は今、この場所に集中していた。
東はともかく、海岸から上がってくる魔族に対しては北も中央も優勢だという事が大きい。
余裕があるから、他に目を向けることが出来る。
そして何より、やはり魔族領こそが人類にとって最大の敵なのだ。そこに明確なシンボル――魔族の浮遊城が攻めてくる。
それを防衛するのは稀代の天才軍略家、無血独立のリッツェルネールだ。
ここが敗れれば、東部の支柱を失う事になる。もはや、魔族領から侵入する敵を止めることは出来ないだろう。
「各部隊の配置、完了しました」
|リッツェルネールは地図を見ながら、通信士のリンダに対し静かに頷いた。
浮遊城左右40キロメートル地点にはティランド連合王国軍。
右翼にリンバート・ハイン・ノヴェルド・ティランド。左翼にグレスノーム・サウルスがそれぞれ55万人で布陣する。
それらの正規軍の他に、300万人を超える民兵隊が加わっている。彼らはティランド連合王国人ばかりではない。魔王軍迫るの報を受け、自発的に各地から集まってきた義勇兵であった。
そしてそれらの集団から少し離れ、浮遊城側にハーノノナート公国装甲騎兵隊がそれぞれ千騎配備された。
これは、地上から浮遊城に接近する魔族をギリギリまで防ぐための遊撃隊としてであった。
浮遊城後方50キロメートル地点には、ハルタール帝国軍を中心とした北方国軍170万人が控える。
こちらにも200万人を超える民兵が追加で控えているが、両翼位比べれば少ない。
というより、こちらの民兵は補給に救護といった部隊だ。
全体として、浮遊城の左右後方を囲む円を描くような形に布陣する。
だがいずれの部隊も浮遊城の視認距離外であり、同時に射程外だ。
元々、地上部隊と浮遊城は互いに援護し合う関係ではない。なんといっても戦力比が違い過ぎる。
地上部隊の役割は、敵を足止めして時間差を作る事である。
いくら強いといっても、浄化の光の砲門数にも発射できる回数にも限りがあるからだ。
全ての敵を、同時に浮遊城に向かわせるわけにはいかない。
日が暮れれば、魔族の浮遊城がやってくる。そんな中、ティランド連合王国大将のリンバートは、静かな高揚に包まれていた。
恥を忍んでここまで生きながらえて来たが、その甲斐はあった。
これはまさに決戦といえるだろう。そこに立つことは、まさに人類の誇りだ。それをティランド連合王国の代表として成す。産まれてきたことを、これほどまでに感謝した事は無い。
グレスノームも同じ気持ちであろうか……80キロの彼方に布陣する弟の事を思う。
そしてまた、実際に同じことをグレスノームは考えていた。
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