394 / 425
【 滅び 】
迫られる選択
しおりを挟む
――テルティルト。
「おっけー」
再びサイアナの聖杖が迫る。今度は突き。先ほどの反省からだろう。
そして、そうする事はわかっていた。
サイアナの聖杖が魔王を捕らえる。円柱形の先端は確かに魔王に命中し、背後の壁に叩きつける。
それは叩き潰すというべきか。魔王はプレス機に掛けられた人形のように潰れ、背後の壁――いや、ドアは根元から外れ廊下に弾け飛ぶ。
「よしっ!」
サイアナの足元から全裸の相和義輝が廊下へと飛び出した。同時に、ぺっちゃんこになっていた魔王――魔王服がそれに続く。
外骨格とマントを利用して、魔王は先に後ろから抜けていたのだ。身に纏う粉塵で視界が悪かったのも幸いした。サイアナが潰したのは抜け殻だったのだった。
「やりますわね」
サイアナからすれば、魔王とは死者を惑わす悪魔の長。この位の姑息さが無くては張り合いがない。
だが逃がすわけにもいかない。ここで決着をつける為、地響きを立てて廊下へと飛び出した。
◇ ◇ ◇
「いや無理無理。どうすんだよあの怪物」
魔王としての俺が言うのもなんだが、勝つ算段が思い浮かばない。
もしかしたら、彼女を知らなかったら思いついたのかもしれない。
しかし、俺はあの水中服の中身を知っている。優し気で、自信に溢れ、可愛らしい女性だった。正道を行くタイプの人間だと断言できる。正直に言えば、殺したくはない……。
「というかテルティルト、人間ってあそこまで強くなるものなのか?」
確かに中身を知っているだけに戦いたくはない。俺が初めてこの世界の朝を迎えた時――得体の知れなかった俺に、優しく声をかけてくれた女性でもある。
そしてティランド連合王国と戦った時には、初めて明確に死を覚悟させてくれた人物だ。苦手意識も捨てきれない。
とはいえ、それとこれとは少し話が違う。彼女が普通の人間であったのなら、俺はここで戦わない選択をすることが出来る。力でねじ伏せるという選択だ。
しかし現実として、そんな余裕はない。むしろ追い詰められている。魔王がだよ。
「あんな人間は見たこと無いわねー」
「まあ、あんなのばっかりだったら、とっくに魔族は滅んでいるな」
曲がりくねった狭い通路。こちらは再びテルティルトを纏って逃げ回っているが、サイアナを引き離せない。
向こうは壁にぶつかるたびに、それを歪ませ、裂き、それでも勢いを緩めない。
「生き物って不思議ね」
「ん……何がだ?」
「わたし達のように姿や生き方を変えるわけでもないのに、いつの間にか出来ない事がとが出来るようになっている。行けない場所に行き、暮らせない場所で生活している。すごいなーと思う」
「そうだな。生命は逞しいよ。環境に合わせた進化とかよくいうけど、そんなのじゃなく、ただ凄いんだ」
そう、生き物を完璧に管理したり制御したりなんかは、結局は無理な話だ。
だけど完璧じゃなければそれも可能だ。魔族領はそうやって賄われてきたのだから。
いつかはその管理の世界から旅立つ日が来る。そして更なる高見を目指すのだろう。
でも今は、その時じゃない。いつか来るその日まで……人類が世界の真実を受け入れられるまでに成熟するまでは、維持しなければいけない。守らねばいけない。そう、決めたのだ。
「それは良いけど、先ずこの状況ねー」
「だよな」
まあ、グルグルとループする陸上トラックではない。すぐに終わりがやってくる。
走る廊下の先は完全な袋小路。そして目の前は扉が一つ。
ここまでの全ての扉は無視してきた。何せ構造が分からない。迂闊に入ったら個室でしたなんて事になったらシャレにならないからだ。
しかしここは未知の生物が作った謎建築ではない。人間が、兵器として建造したものだ。こういった先にあるのは当然――
扉を開けて中に入る。予想通り、そこは階段だった。しかも狭い! 天祐だ!
位置を考えると、恐らく艦首の方。結構上へと延びる艦橋があった。そこだろう。
これまでの廊下や扉、階段も重甲鎧は十分通れるサイズだった。
ある意味当然だろう。攻防ともに、あれは戦いで使用されるのだ。通行できなければ意味がない。
しかしここは無骨な骨組みがもろに見える狭い階段。おそらく非常階段だ。ここから上へも下へも行けそうだ。
サイアナは追ってこない。ここで籠城する手段もあるが、そうしない事は分かっているのだ。
そう、何もしなければこの地上戦艦は人間の世界へと到着する。俺達を乗せて。
「ブリッジへ行きたいが、多分そこへは重甲鎧も行けるな。さて、先回りされるかもう別の要員が行っているか……どちらにしても上から動きを止めるってのはダメだな」
なら動力室の破壊か。地上戦艦は浮遊城と違って、浮遊機関を壊しても自壊しない。普通に地面に落ちるだけだ。
浮遊城とは違い、下が着地を前提とした形に作られている。多分間違いは無い。
まあその後に修理して動くようになるかは別だ。だけど、立場は変わる。
今度は向こうが籠城するかを決めなければならないわけだ。
「とにかく、下へ行こう」
「おっけー」
再びサイアナの聖杖が迫る。今度は突き。先ほどの反省からだろう。
そして、そうする事はわかっていた。
サイアナの聖杖が魔王を捕らえる。円柱形の先端は確かに魔王に命中し、背後の壁に叩きつける。
それは叩き潰すというべきか。魔王はプレス機に掛けられた人形のように潰れ、背後の壁――いや、ドアは根元から外れ廊下に弾け飛ぶ。
「よしっ!」
サイアナの足元から全裸の相和義輝が廊下へと飛び出した。同時に、ぺっちゃんこになっていた魔王――魔王服がそれに続く。
外骨格とマントを利用して、魔王は先に後ろから抜けていたのだ。身に纏う粉塵で視界が悪かったのも幸いした。サイアナが潰したのは抜け殻だったのだった。
「やりますわね」
サイアナからすれば、魔王とは死者を惑わす悪魔の長。この位の姑息さが無くては張り合いがない。
だが逃がすわけにもいかない。ここで決着をつける為、地響きを立てて廊下へと飛び出した。
◇ ◇ ◇
「いや無理無理。どうすんだよあの怪物」
魔王としての俺が言うのもなんだが、勝つ算段が思い浮かばない。
もしかしたら、彼女を知らなかったら思いついたのかもしれない。
しかし、俺はあの水中服の中身を知っている。優し気で、自信に溢れ、可愛らしい女性だった。正道を行くタイプの人間だと断言できる。正直に言えば、殺したくはない……。
「というかテルティルト、人間ってあそこまで強くなるものなのか?」
確かに中身を知っているだけに戦いたくはない。俺が初めてこの世界の朝を迎えた時――得体の知れなかった俺に、優しく声をかけてくれた女性でもある。
そしてティランド連合王国と戦った時には、初めて明確に死を覚悟させてくれた人物だ。苦手意識も捨てきれない。
とはいえ、それとこれとは少し話が違う。彼女が普通の人間であったのなら、俺はここで戦わない選択をすることが出来る。力でねじ伏せるという選択だ。
しかし現実として、そんな余裕はない。むしろ追い詰められている。魔王がだよ。
「あんな人間は見たこと無いわねー」
「まあ、あんなのばっかりだったら、とっくに魔族は滅んでいるな」
曲がりくねった狭い通路。こちらは再びテルティルトを纏って逃げ回っているが、サイアナを引き離せない。
向こうは壁にぶつかるたびに、それを歪ませ、裂き、それでも勢いを緩めない。
「生き物って不思議ね」
「ん……何がだ?」
「わたし達のように姿や生き方を変えるわけでもないのに、いつの間にか出来ない事がとが出来るようになっている。行けない場所に行き、暮らせない場所で生活している。すごいなーと思う」
「そうだな。生命は逞しいよ。環境に合わせた進化とかよくいうけど、そんなのじゃなく、ただ凄いんだ」
そう、生き物を完璧に管理したり制御したりなんかは、結局は無理な話だ。
だけど完璧じゃなければそれも可能だ。魔族領はそうやって賄われてきたのだから。
いつかはその管理の世界から旅立つ日が来る。そして更なる高見を目指すのだろう。
でも今は、その時じゃない。いつか来るその日まで……人類が世界の真実を受け入れられるまでに成熟するまでは、維持しなければいけない。守らねばいけない。そう、決めたのだ。
「それは良いけど、先ずこの状況ねー」
「だよな」
まあ、グルグルとループする陸上トラックではない。すぐに終わりがやってくる。
走る廊下の先は完全な袋小路。そして目の前は扉が一つ。
ここまでの全ての扉は無視してきた。何せ構造が分からない。迂闊に入ったら個室でしたなんて事になったらシャレにならないからだ。
しかしここは未知の生物が作った謎建築ではない。人間が、兵器として建造したものだ。こういった先にあるのは当然――
扉を開けて中に入る。予想通り、そこは階段だった。しかも狭い! 天祐だ!
位置を考えると、恐らく艦首の方。結構上へと延びる艦橋があった。そこだろう。
これまでの廊下や扉、階段も重甲鎧は十分通れるサイズだった。
ある意味当然だろう。攻防ともに、あれは戦いで使用されるのだ。通行できなければ意味がない。
しかしここは無骨な骨組みがもろに見える狭い階段。おそらく非常階段だ。ここから上へも下へも行けそうだ。
サイアナは追ってこない。ここで籠城する手段もあるが、そうしない事は分かっているのだ。
そう、何もしなければこの地上戦艦は人間の世界へと到着する。俺達を乗せて。
「ブリッジへ行きたいが、多分そこへは重甲鎧も行けるな。さて、先回りされるかもう別の要員が行っているか……どちらにしても上から動きを止めるってのはダメだな」
なら動力室の破壊か。地上戦艦は浮遊城と違って、浮遊機関を壊しても自壊しない。普通に地面に落ちるだけだ。
浮遊城とは違い、下が着地を前提とした形に作られている。多分間違いは無い。
まあその後に修理して動くようになるかは別だ。だけど、立場は変わる。
今度は向こうが籠城するかを決めなければならないわけだ。
「とにかく、下へ行こう」
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる