この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

迫られる選択

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 ――テルティルト。

「おっけー」

 再びサイアナの聖杖鈍器が迫る。今度は突き。先ほどの反省からだろう。
 そして、そうする事はわかっていた。

 サイアナの聖杖が魔王を捕らえる。円柱形の先端は確かに魔王に命中し、背後の壁に叩きつける。
 それは叩き潰すというべきか。魔王はプレス機に掛けられた人形のように潰れ、背後の壁――いや、ドアは根元から外れ廊下に弾け飛ぶ。

「よしっ!」

 サイアナの足元から全裸の相和義輝あいわよしきが廊下へと飛び出した。同時に、ぺっちゃんこになっていた魔王――魔王服がそれに続く。
 外骨格とマントを利用して、魔王は先に後ろから抜けていたのだ。身に纏う粉塵で視界が悪かったのも幸いした。サイアナが潰したのは抜け殻だったのだった。

「やりますわね」

 サイアナからすれば、魔王とは死者を惑わす悪魔の長。この位の姑息さが無くては張り合いがない。
 だが逃がすわけにもいかない。ここで決着をつける為、地響きを立てて廊下へと飛び出した。




 ◇     ◇     ◇




「いや無理無理。どうすんだよあの怪物」

 魔王としての俺が言うのもなんだが、勝つ算段が思い浮かばない。
 もしかしたら、彼女を知らなかったら思いついたのかもしれない。
 しかし、俺はあの水中服の中身を知っている。優し気で、自信に溢れ、可愛らしい女性だった。正道を行くタイプの人間だと断言できる。正直に言えば、殺したくはない……。

「というかテルティルト、人間ってあそこまで強くなるものなのか?」

 確かに中身を知っているだけに戦いたくはない。俺が初めてこの世界の朝を迎えた時――得体の知れなかった俺に、優しく声をかけてくれた女性でもある。
 そしてティランド連合王国と戦った時には、初めて明確に死を覚悟させてくれた人物だ。苦手意識も捨てきれない。
 とはいえ、それとこれとは少し話が違う。彼女が普通の人間であったのなら、俺はここで戦わない選択をすることが出来る。力でねじ伏せるという選択だ。
 しかし現実として、そんな余裕はない。むしろ追い詰められている。魔王がだよ。

「あんな人間は見たこと無いわねー」

「まあ、あんなのばっかりだったら、とっくに魔族は滅んでいるな」

 曲がりくねった狭い通路。こちらは再びテルティルトをまとって逃げ回っているが、サイアナを引き離せない。
 向こうは壁にぶつかるたびに、それを歪ませ、裂き、それでも勢いを緩めない。

「生き物って不思議ね」

「ん……何がだ?」

「わたし達のように姿や生き方を変えるわけでもないのに、いつの間にか出来ない事がとが出来るようになっている。行けない場所に行き、暮らせない場所で生活している。すごいなーと思う」

「そうだな。生命はたくましいよ。環境に合わせた進化とかよくいうけど、そんなのじゃなく、ただ凄いんだ」

 そう、生き物を完璧に管理したり制御したりなんかは、結局は無理な話だ。
 だけど完璧じゃなければそれも可能だ。魔族領はそうやって賄われてきたのだから。
 いつかはその管理の世界から旅立つ日が来る。そして更なる高見を目指すのだろう。
 でも今は、その時じゃない。いつか来るその日まで……人類が世界の真実を受け入れられるまでに成熟するまでは、維持しなければいけない。守らねばいけない。そう、決めたのだ。

「それは良いけど、先ずこの状況ねー」

「だよな」

 まあ、グルグルとループする陸上トラックではない。すぐに終わりがやってくる。
 走る廊下の先は完全な袋小路。そして目の前は扉が一つ。
 ここまでの全ての扉は無視してきた。何せ構造が分からない。迂闊に入ったら個室でしたなんて事になったらシャレにならないからだ。
 しかしここは未知の生物が作った謎建築ではない。人間が、兵器として建造したものだ。こういった先にあるのは当然――

 扉を開けて中に入る。予想通り、そこは階段だった。しかも狭い! 天祐だ!
 位置を考えると、恐らく艦首の方。結構上へと延びる艦橋があった。そこだろう。
 これまでの廊下や扉、階段も重甲鎧ギガントアーマーは十分通れるサイズだった。
 ある意味当然だろう。攻防ともに、あれは戦いで使用されるのだ。通行できなければ意味がない。
 しかしここは無骨な骨組みがもろに見える狭い階段。おそらく非常階段だ。ここから上へも下へも行けそうだ。
 サイアナは追ってこない。ここで籠城する手段もあるが、そうしない事は分かっているのだ。
 そう、何もしなければこの地上戦艦は人間の世界へと到着する。俺達を乗せて。

「ブリッジへ行きたいが、多分そこへは重甲鎧ギガントアーマーも行けるな。さて、先回りされるかもう別の要員が行っているか……どちらにしても上から動きを止めるってのはダメだな」

 なら動力室の破壊か。地上戦艦これは浮遊城と違って、浮遊機関を壊しても自壊しない。普通に地面に落ちるだけだ。
 浮遊城あれとは違い、下が着地を前提とした形に作られている。多分間違いは無い。
 まあその後に修理して動くようになるかは別だ。だけど、立場は変わる。
 今度は向こうが籠城するかを決めなければならないわけだ。

「とにかく、下へ行こう」
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