この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

司祭たちの死闘

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「い、いでで……」

 見上げると、そこには天井に空いた穴。あそこから落ちたのだ。
 よく見れば結構旧式な感じはある。だがそれにあのパワーが加わったとしても、この分厚い床板は外れないだろう。
 おそらく、フレーム全体が歪むような激しい戦闘があったのだ。
 何と戦ったのかは知れないが、その出会いには感謝するしかないな。

 と、目の前にウラーザムザザも落ちてくる。潰れてあちこち固まった目玉。よく見れば左に付いていた翼も無い。もうボロボロだ。

 そして上から聞こえてくるギギギギという金属音。
 重甲鎧ギガントアーマーが通るには狭いため、こじ開けているのだ。
 水中服の様な頭に取り付けられた水晶の覗き穴からは、優しそうな、そして楽しそうな鈍色にびいろの瞳がこちらをしっかりと見据えている。
 うん、あれは殺る気マンマンだ。

「とにかく移動しよう」

 そういって立ち上がろうとした途端、前のめりに床に崩れ落ちる。
 あれ――? 右足に感覚が無い。確かについているし自由には動くが、意識しないとしっかり動かない。
 あの一瞬でここまで壊れたのか……。

「このままだと、もう長くはもたないと思うわー」

「俺も同意だ。だけど、見逃してくれる相手じゃないよ。それよりウラーザムザザ」

 声をかけようとしてぎょっとする。もうピクリとも動かない。完全に固まってしまっている。
 だが、死んではいない。微かにだが文字は見える。

 ――もうそのまま動くなよ。俺が必ず対処する。

 上では床板が剥がされ、人が上下する金属音が反響している。おそらく階段からだろうが、ここは直接繋がってはいないようだ。
 だが出入り口の無い密閉空間など無いだろう。とにかく今は、何とか機会を伺うしかない。

「武器は何とかなるか?」

「今直してる」

 先ほど受け止めた時、いともあっさり曲がっている。相当なパワーだ。本当に人間か? 一体どうやったらあんなものと戦えるのか。
 この部屋から出口は一か所だけ。とにかくその先だ。廊下のような狭い場所なら、あのパワーも完全には生かせないだろう。

 だが、金属が叩かれるような凄まじい背後から轟音が響く。
 一瞬だが、ビクっと首をすくめてしまった。音の主は、考えるまでもない相手だ。
 ここで決着を付けられるのか? いや、付けられないなら死ぬしかないが……。

チェーンソーをもう一本作っておいてくれ。目立たないようにな」

「少し時間が掛かるわー」

「……頑張るよ」




 ◇     ◇     ◇




 甲板上では、第1班6名が見回りを開始していた。当然、全員が水中服の様な重甲鎧ギガントアーマーを装着している。
 その指揮官を務めるのはオブマーク司教。普段はサイアナの副官をしている。
 今回はサイアナ司祭だけではなく、他の司祭も多く含んだ精鋭部隊だ。実際彼の元には、テレミーレ司祭とライファウン司祭という2名の司祭がいる。
 通常の儀式であればこの様な逆転現象は起こらない。宗教はある意味、軍隊より更に階級制がハッキリしているのだ。
 だが今回は軍事行動である。その為、総指揮官がサイアナに一本化され、その結果副官であるオブマーク司教がそのまま副官を務めているのだった。

「オブマーク殿。ここでただ待つというのも退屈なもの。我等もまた後部ハッチから中に入り、挟み撃ちにするのはいかがか?」

 そう提示したのはテレミーレ・ワトシ司祭。水中服の様な重甲鎧ギガントアーマーの中に、みっちりと肉が詰まっていると錯覚させるほどの美貌の士である。

「確かにその通りですわね。幸い司祭が2人、司教が4人。いっそ、ここは3手に分けても良いかもしれません」

 合わせて同意したのはライファウン・ユーカヴィー司祭。
 丸々としてはち切れそうなテレミーレ司祭と違い、こちらは戦場が長く引き締まった体形だ。
 ただどちらも、今の外見上は二人とも同じである。
 そこに更に同じ形のオブマークが加わると、傍目はためにはコミカルだ。もっとも、彼等を知るものはそんな目で見ることは出来ないが。

 オブマークとしては、実際に彼女らと、お付きの司教二人行かせてしまっても良いと思っていた。
 とはいえサイアナの命令は絶対である。優しく麗しい司祭様ではあるが、ここで命令違反によって魔王を取り逃がしたらどうなるか分からない。

「まあまあ、お二人とも。獣は追い込みが肝心といいます。おそらくサイアナ様らによって、悪魔はここに戻って来るでしょう。我等の役目はまさにその時。どうぞここは待機でお願いします」

 そう言いながら、オブマークは手にした聖杖を握りしめる。二人の司祭、そして三人の司教も同様だ。
 彼等の周りにあった死体。それがゆっくりと動き出したからであった。
 ナルナウフ教にとって、死者の魂を地に還すことはもっとも尊き行いだ。だがなかなか機会に恵まれない。だからどうしても、死者を見るとそちらに目が行ってしまう。
 これは、軍人ではないオブマークも同じであった。
 だから全てはたまたまの偶然。運の良し悪しと言って良いだろう。

 ライファウン司祭と、その背後に控えていたミラ司教の体が縦に裂ける。それはまるで、何本もの爪で斬り裂かれた様に、一瞬で。
 同時に、オブマークの後ろにいた二人の司教の首が飛ぶ。まるでちぎった様に……いや、磁石か何かで引っ張られた様といった方が良いだろうか。

 ――しまった!?

 一瞬で魔力を更に込める。ライファウン司祭と自分オブマークは似たような魔力量だ。その彼女が防げなかったものを、自分がそう易々と防げるものではない。
 それは分かっていても、素直に死ぬわけにはいかないのが人のさがというものだ。

 そして彼の前に、巨体がゆっくりと舞い降りる。
 この世界の人間は知らないが、棺のような細長い亀甲型。とはいえ、その大きさは10メートル。人が入る棺とはスケールが違う。
 蓋の所に付いているのは、まるで聖衣を纏ったような女性の顔の彫刻だ。
 左右には真っ白な、光の反射によっては銀色にも見える鳥の翼が生えている。右に三枚、左に四枚。司祭らを切り裂いたのはそれだろう。両方の翼からは血がポタポタと滴り落ちていた。
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