391 / 425
【 滅び 】
最凶の相手
しおりを挟む
間違いない、サイアナ・ライアナ。
今まで戦った連中も強い。とんでもなくだ。単なる力だけじゃない。背負っており使命。長い時を生きた人生。そういった重みも感じた。
それでも、彼女には到底及ばないだろう。全員でかかっても、勝てはしない。そんな異次元の強さを感じる。
「まあ、そんな所ですよ。お久しぶりですね。私の事は覚えておいでかな?」
「ふふ、もちろんですわ。ですが相変わらず、威厳はありませんのね」
「その点は反省材料としておきましょう」
「では――」
それで話すことは終わったと言わんばかりに、サイアナの聖杖が飛んでくる。
いや待て無理です。だがこちらだって、素直に殺されるわけにはいかない。
受けきるのは不可能でも、力の向きは変えられる。テルティルトで斜めに受け――、
ピンッ。それは弦を弾く様な高い音。
受けたテルティルトの刃は一撃で砕け、そのまま虚空へと消え去った。
「ぎにゃー!」
――いやいやいやいや、ふざけるな。下がるぞ、ウラーザムザザ! 無理だ。
だが、ウラーザムザザは動けなかった。もう既に相当な箇所が硬化している。自力での移動は無理だろう。
このまま放置すれば、もう二度と会うことは出来ない。
やるしかないか……。
――テルティルト、思い切り魔王って感じの姿にしてくれ。
「良いの?」
――ああ、やっちゃてくれ。
警戒するナルナウフ教団の前で、魔王の姿が変容する。
油絵の具の空からは渦を成して魔力の柱が降臨し、外骨格の肩や肘、膝からは鋭い針が生えてくる。
兜の左右からも湾曲した羊の巻き角がにゅるにゅると生え、口は裂け、そこからは何本もの牙が見える。
背中からはバサリと音を立て出現したのは、漆黒のマント。
そして額、胸、そしてマントには、燃える様に揺らめく魔王の文字。更には全身は粉塵を纏ったように赤くバチバチと爆ぜ、黒い煙が渦を巻きながらもうもうと上がる。
柄だけになった刀が再び伸びるが、それはもう刀という雰囲気じゃない。刃は勿論、背側にもサメの歯状の突起が生え、完全にチェーンソーの形状だ。
この姿をあえて例えるのなら……。
――多分チンドン屋だ。
変容した自分の姿は自分で見ることは出来ないが、テルティルトの趣味全開だ。相当に酷いと思われる。
しかし同時に、サイアナ以外の重甲鎧には明らかな動揺の動きが見られる。それなりに効いているらしい。
――テルティルト、どのくらい持つと思う?
「時間というよりどこまで引き出すかが問題かしら」
体が焼かれていく。熱い、そして何より痛い。ここから魔王の力を使えば、状況は悪化する一方だ。
とはいえ、ここで殺されるよりも遥かにマシだろう。こんな所で、志半ばで倒れるわけにはいかないのだから。
「さて……積もる話もあるのだろうが、君達も私と昔話をしに来たわけではあるまい。さっさと始めるとしようではないか」
その言葉を合図に、再びサイアナの重甲鎧が宙を舞う。見た目よりも遥かに軽快な動き。
だが見切れない程ではない。戦いの技量という意味では、マリクカンドルフの方が上だ。
右から来た聖杖を、背を逸らして躱す。死の予感とはまた少し違うが、先が読める。これは歴代魔王の経験によるものだろう。だがそこから先は、未知の領域だった。
避けた聖杖が揺り籠を打つ。躱しつつ態勢を整え、斬りかかるはずだった。
だが聖杖は数トンはゆうにある揺り籠を天高く舞い上げ、発せられた衝撃波が横合いから俺を打つ。
「――なに!?」
それはもう音とかそういった次元ではない。物理的な威力を伴った大気の打撃だ。
それでどうにかなるわけではないが、動きは止まる。止まってしまった。
間髪入れず、真上から振り下ろされた続けざまの一撃。当たれば間違いなく致命傷。明日は無い。
だが避けきれない!
――ここが使い処だ。
魔王の力を全力で引き出す。そしてその魔力はテルティルトも自由に使う。互いに強大な力で強化され、俺は――俺達はサイアナの聖杖を正面から受け止めた。
骨まで響く強力な一撃。受け止めたテルティルトの刀はガチガチと震え、俺の体が悲鳴を上げる。
「ごめ……むり……」
「だよな……」
絶体絶命。だが幸いと言って良いのだろうか? 突然足元の床が陥没し、俺達は下の階層に落下した。
「司祭様!」
「ご無事ですか?」
20センチはある金属の床が陥没した時、サイアナは咄嗟に後ろに下がっていた。
「問題ありませんわ。それより――」
言いながら、残った床をメキメキと外す。空いた穴は小さく、そのままでは通れないからだ。
そんな作業をしながら残った目玉の悪魔を――と指示しようとしたが、いつの間にかずるりと目の前の穴を通って落ちていった。
驚くよりも呆れ、クスリと笑う。その優し気な笑みは、正に聖母の様だ――が、
「ふふ……今まで人々を惑わしてきた悪魔たちですものね。あのくらいの逃げ足が無くては拍子抜けですわ。1班は甲板を維持。飛んで逃げられないように。2班、3班は階段から下を制圧なさい」
「聖母様は?」
「ここから追跡します。それと人間に出会っても、それはもう人ではないと心得ましょう。全て神の元へ」
物騒な言葉を残し、床板を剥がす作業に取り掛かったのだった。
今まで戦った連中も強い。とんでもなくだ。単なる力だけじゃない。背負っており使命。長い時を生きた人生。そういった重みも感じた。
それでも、彼女には到底及ばないだろう。全員でかかっても、勝てはしない。そんな異次元の強さを感じる。
「まあ、そんな所ですよ。お久しぶりですね。私の事は覚えておいでかな?」
「ふふ、もちろんですわ。ですが相変わらず、威厳はありませんのね」
「その点は反省材料としておきましょう」
「では――」
それで話すことは終わったと言わんばかりに、サイアナの聖杖が飛んでくる。
いや待て無理です。だがこちらだって、素直に殺されるわけにはいかない。
受けきるのは不可能でも、力の向きは変えられる。テルティルトで斜めに受け――、
ピンッ。それは弦を弾く様な高い音。
受けたテルティルトの刃は一撃で砕け、そのまま虚空へと消え去った。
「ぎにゃー!」
――いやいやいやいや、ふざけるな。下がるぞ、ウラーザムザザ! 無理だ。
だが、ウラーザムザザは動けなかった。もう既に相当な箇所が硬化している。自力での移動は無理だろう。
このまま放置すれば、もう二度と会うことは出来ない。
やるしかないか……。
――テルティルト、思い切り魔王って感じの姿にしてくれ。
「良いの?」
――ああ、やっちゃてくれ。
警戒するナルナウフ教団の前で、魔王の姿が変容する。
油絵の具の空からは渦を成して魔力の柱が降臨し、外骨格の肩や肘、膝からは鋭い針が生えてくる。
兜の左右からも湾曲した羊の巻き角がにゅるにゅると生え、口は裂け、そこからは何本もの牙が見える。
背中からはバサリと音を立て出現したのは、漆黒のマント。
そして額、胸、そしてマントには、燃える様に揺らめく魔王の文字。更には全身は粉塵を纏ったように赤くバチバチと爆ぜ、黒い煙が渦を巻きながらもうもうと上がる。
柄だけになった刀が再び伸びるが、それはもう刀という雰囲気じゃない。刃は勿論、背側にもサメの歯状の突起が生え、完全にチェーンソーの形状だ。
この姿をあえて例えるのなら……。
――多分チンドン屋だ。
変容した自分の姿は自分で見ることは出来ないが、テルティルトの趣味全開だ。相当に酷いと思われる。
しかし同時に、サイアナ以外の重甲鎧には明らかな動揺の動きが見られる。それなりに効いているらしい。
――テルティルト、どのくらい持つと思う?
「時間というよりどこまで引き出すかが問題かしら」
体が焼かれていく。熱い、そして何より痛い。ここから魔王の力を使えば、状況は悪化する一方だ。
とはいえ、ここで殺されるよりも遥かにマシだろう。こんな所で、志半ばで倒れるわけにはいかないのだから。
「さて……積もる話もあるのだろうが、君達も私と昔話をしに来たわけではあるまい。さっさと始めるとしようではないか」
その言葉を合図に、再びサイアナの重甲鎧が宙を舞う。見た目よりも遥かに軽快な動き。
だが見切れない程ではない。戦いの技量という意味では、マリクカンドルフの方が上だ。
右から来た聖杖を、背を逸らして躱す。死の予感とはまた少し違うが、先が読める。これは歴代魔王の経験によるものだろう。だがそこから先は、未知の領域だった。
避けた聖杖が揺り籠を打つ。躱しつつ態勢を整え、斬りかかるはずだった。
だが聖杖は数トンはゆうにある揺り籠を天高く舞い上げ、発せられた衝撃波が横合いから俺を打つ。
「――なに!?」
それはもう音とかそういった次元ではない。物理的な威力を伴った大気の打撃だ。
それでどうにかなるわけではないが、動きは止まる。止まってしまった。
間髪入れず、真上から振り下ろされた続けざまの一撃。当たれば間違いなく致命傷。明日は無い。
だが避けきれない!
――ここが使い処だ。
魔王の力を全力で引き出す。そしてその魔力はテルティルトも自由に使う。互いに強大な力で強化され、俺は――俺達はサイアナの聖杖を正面から受け止めた。
骨まで響く強力な一撃。受け止めたテルティルトの刀はガチガチと震え、俺の体が悲鳴を上げる。
「ごめ……むり……」
「だよな……」
絶体絶命。だが幸いと言って良いのだろうか? 突然足元の床が陥没し、俺達は下の階層に落下した。
「司祭様!」
「ご無事ですか?」
20センチはある金属の床が陥没した時、サイアナは咄嗟に後ろに下がっていた。
「問題ありませんわ。それより――」
言いながら、残った床をメキメキと外す。空いた穴は小さく、そのままでは通れないからだ。
そんな作業をしながら残った目玉の悪魔を――と指示しようとしたが、いつの間にかずるりと目の前の穴を通って落ちていった。
驚くよりも呆れ、クスリと笑う。その優し気な笑みは、正に聖母の様だ――が、
「ふふ……今まで人々を惑わしてきた悪魔たちですものね。あのくらいの逃げ足が無くては拍子抜けですわ。1班は甲板を維持。飛んで逃げられないように。2班、3班は階段から下を制圧なさい」
「聖母様は?」
「ここから追跡します。それと人間に出会っても、それはもう人ではないと心得ましょう。全て神の元へ」
物騒な言葉を残し、床板を剥がす作業に取り掛かったのだった。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました
ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる