この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

最凶の相手

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 間違いない、サイアナ・ライアナ。
 今まで戦った連中も強い。とんでもなくだ。単なる力だけじゃない。背負っており使命。長い時を生きた人生。そういった重みも感じた。
 それでも、彼女には到底及ばないだろう。全員でかかっても、勝てはしない。そんな異次元の強さを感じる。

「まあ、そんな所ですよ。お久しぶりですね。私の事は覚えておいでかな?」

「ふふ、もちろんですわ。ですが相変わらず、威厳はありませんのね」

「その点は反省材料としておきましょう」

「では――」

 それで話すことは終わったと言わんばかりに、サイアナの聖杖鈍器が飛んでくる。
 いや待て無理です。だがこちらだって、素直に殺されるわけにはいかない。
 受けきるのは不可能でも、力の向きは変えられる。テルティルトで斜めに受け――、

 ピンッ。それは弦を弾く様な高い音。
 受けたテルティルトの刃は一撃で砕け、そのまま虚空へと消え去った。

「ぎにゃー!」

 ――いやいやいやいや、ふざけるな。下がるぞ、ウラーザムザザ! 無理だ。

 だが、ウラーザムザザは動けなかった。もう既に相当な箇所が硬化している。自力での移動は無理だろう。
 このまま放置すれば、もう二度と会うことは出来ない。
 やるしかないか……。

 ――テルティルト、思い切り魔王って感じの姿にしてくれ。

「良いの?」

 ――ああ、やっちゃてくれ。




 警戒するナルナウフ教団の前で、魔王の姿が変容する。
 油絵の具の空からは渦を成して魔力の柱が降臨し、外骨格の肩や肘、膝からは鋭い針が生えてくる。
 兜の左右からも湾曲した羊の巻き角がにゅるにゅると生え、口は裂け、そこからは何本もの牙が見える。
 背中からはバサリと音を立て出現したのは、漆黒のマント。
 そして額、胸、そしてマントには、燃える様に揺らめく魔王の文字。更には全身は粉塵をまとったように赤くバチバチと爆ぜ、黒い煙が渦を巻きながらもうもうと上がる。
 柄だけになった刀が再び伸びるが、それはもう刀という雰囲気じゃない。刃は勿論、背側にもサメの歯状の突起が生え、完全にチェーンソーの形状だ。
 この姿をあえて例えるのなら……。

 ――多分チンドン屋だ。
 変容した自分の姿は自分で見ることは出来ないが、テルティルトの趣味全開だ。相当に酷いと思われる。
 しかし同時に、サイアナ以外の重甲鎧ギガントアーマーには明らかな動揺の動きが見られる。それなりに効いているらしい。

 ――テルティルト、どのくらい持つと思う?

「時間というよりどこまで引き出すかが問題かしら」

 体が焼かれていく。熱い、そして何より痛い。ここから魔王の力を使えば、状況は悪化する一方だ。
 とはいえ、ここで殺されるよりも遥かにマシだろう。こんな所で、志半ばで倒れるわけにはいかないのだから。

「さて……積もる話もあるのだろうが、君達も私と昔話をしに来たわけではあるまい。さっさと始めるとしようではないか」

 その言葉を合図に、再びサイアナの重甲鎧ギガントアーマーが宙を舞う。見た目よりも遥かに軽快な動き。
 だが見切れない程ではない。戦いの技量という意味では、マリクカンドルフの方が上だ。
 右から来た聖杖鈍器を、背を逸らして躱す。死の予感とはまた少し違うが、先が読める。これは歴代魔王の経験によるものだろう。だがそこから先は、未知の領域だった。
 避けた聖杖鈍器が揺り籠を打つ。躱しつつ態勢を整え、斬りかかるはずだった。
 だが聖杖鈍器は数トンはゆうにある揺り籠を天高く舞い上げ、発せられた衝撃波が横合いから俺を打つ。

「――なに!?」

 それはもう音とかそういった次元ではない。物理的な威力を伴った大気の打撃だ。
 それでどうにかなるわけではないが、動きは止まる。止まってしまった。
 間髪入れず、真上から振り下ろされた続けざまの一撃。当たれば間違いなく致命傷。明日は無い。
 だが避けきれない!

 ――ここが使い処だ。

 魔王の力を全力で引き出す。そしてその魔力はテルティルトも自由に使う。互いに強大な力で強化され、俺は――俺達はサイアナの聖杖鈍器を正面から受け止めた。
 骨まで響く強力な一撃。受け止めたテルティルトの刀はガチガチと震え、俺の体が悲鳴を上げる。

「ごめ……むり……」
「だよな……」

 絶体絶命。だが幸いと言って良いのだろうか? 突然足元の床が陥没し、俺達は下の階層に落下した。




「司祭様!」
「ご無事ですか?」

 20センチはある金属の床が陥没した時、サイアナは咄嗟とっさに後ろに下がっていた。

「問題ありませんわ。それより――」

 言いながら、残った床をメキメキと外す。空いた穴は小さく、そのままでは通れないからだ。
 そんな作業をしながら残った目玉の悪魔を――と指示しようとしたが、いつの間にかずるりと目の前の穴を通って落ちていった。
 驚くよりも呆れ、クスリと笑う。その優し気な笑みは、正に聖母の様だ――が、

「ふふ……今まで人々を惑わしてきた悪魔たちですものね。あのくらいの逃げ足が無くては拍子抜けですわ。1班は甲板を維持。飛んで逃げられないように。2班、3班は階段から下を制圧なさい」

「聖母様は?」

「ここから追跡します。それと人間に出会っても、それはもう人ではないと心得ましょう。全て神の元へ」

 物騒な言葉を残し、床板を剥がす作業に取り掛かったのだった。
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