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【 滅び 】
光と共に 後編
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一瞬の閃光、そして叩かれるような強い衝撃と音。何があったのか考えるまでもない。だがどうする事も出来ない。
激しく渦巻く焼けた大気に翻弄され、ボンボイルの表皮が燃える。
それ程の威力、今までの物よりも確実に上だ。新型という奴だな。
そいつをここで失わせたことは大きい。その為にここまで来たと言っても過言ではないのだ。
しかし安堵など出来ない。想定していたより大きな威力。それがもたらすものは、当然想定外の災害だ。
ようやく収まった先に見えたのは、円形に焼けた真っ赤な大地と高々と登るキノコ雲であった。
辺りはもう暗くなっている。その暗闇の中に輝く赤い光は、まるで地獄の窯の様にも見える。
大地はマグマと化し、赤く光るキノコ雲から発する雷鳴が更なる不安をいやがおうにも煽る。
「エヴィア! ヨーツケールMK-II8号改!」
揺り籠が使われる可能性は理解していた。
当然、更なる改良型がある事も想像していなかったわけではない。
そんなものを開発している時間など与えはしなかったが、そもそも完成品の後に何の研究もしていないなど考えてなどいない。
それらを運ぶのが彼らの任務なのだろうが、おそらく追い詰められたら使ってくる。死なば諸共という奴だ。
しかし使うには制限がある。そう、高度だ。あれは十分な衝撃を与えない限り起爆しない。だらか空から落とすのだ。
ならばそれを阻止すればいい。
細心の注意を払ってここまで誘導し、一斉に浄化の光を使って攻撃する。
もし上空に留まれば、そのまま浄化の光で撃ち落とす。そして降下するのなら、揺り籠の脅威は無くなる。
そして彼等は想定通り、揺り籠を落とすのではなく低空へと逃れた。
そこまでは正しい。全て作戦通りだ。
だが肝心なところを失敗していた。十分な高度が無ければ揺り籠は使えない……そう思い込んでしまっていた。
「とにかく探さないと。エヴィアは何処だ!? 無事なのか!? ヨーツケールは?」
「――おう……きこ――魔王!」
今は忙しい。そう思うが、突然通信機から聞こえてきた声も無視できない。この声は――ユニカだ。
「どうした?」
「アン・ラ・サムが変なのを見かけたって。場所は魔族領よ。壁の北側」
「浮遊城ボルトニーカじゃないのか? それとも地上部隊――」
いや、状況的になぜ地上部隊が魔属領に入る?
確かに手薄ではあるが、それは相対的にという話だ。魔族領にも魔族――それも魔人がちゃんといる。実際、見つけてじゃないか。
いやでもそれも変か。普通の地上部隊であれば、変なものというだろうか?
今はそんなあやふやなものを気にしている場合では無いかもしれない。しかしこれは聞かなければいけない。そう本能が告げる。
「具体的にはどんなものだ?」
「ええと、300メートル近くて、船に近い形で、それで上には揺り籠が満載してあったって」
「300メートル級? それは浮遊城じゃないのか?」
端折られていたが――いや、端折ったって事は、間違いなくこの世界の常識的な移動手段。それは疑いようもなく飛行機関だろう。それにそれだけの巨体……。
「それは浮遊城ではないずい」
まるで察したように通信機に割り込んできた声。それはウラーザムザザだ。どうやら通信範囲に追い付いて来たらしい。
「ウラーザムザザ、詳しい事を教えてくれ」
「浮遊城とは仕組みも素材もちがうずる。あれに比べると、相当原始的ずな。浄化の光も搭載していないし、出来ないずら」
「いや、そういった事より……」
「人間は陸上戦艦と呼んでいるずぬ。重飛甲母艦よりは遅いずりが、浮遊式輸送板と同じくらいの速度は出せるずは」
「現在の位置は?」
「ケイ・ラグルの門を出て、まだそんなに移動してないって。目的地は多分だけど北の方かなって……」
――やられた。
何処まで計算していたのだろうか。その門の周辺にいた魔人達は、全員浮遊城について行ってしまった。
攻撃する魔人は勿論だが、他も物見遊山だ。あんな珍しいものに、興味を持たないはずがない。
そして多くの魔族も――特に知恵のあるようなやつも全部一緒だ。
他の壁の近い魔人や魔族は、全部南方へ移動済み。こちらはムーオスと、呼応して動いたティランド連合王国の抑えに回ったのだ。
今あの周辺にいる魔族は、魔族とは名ばかりの肉食獣や毒虫くらいしかいない。
そんな状況で、300メートル級の浮遊物体など止めようがない。
諦めるのか……? いや、それはあり得ない。
しかしここまで来てしまった。今から引き返して、果たして間に合うのか?
エヴィアも探さなければいけない。ヨーツケールMk-II8号改の安否も気にかかる。
一つの巨大国家を滅ぼし、億単位の人間を殺し、その結果がこれか?
いや、まだ止まれない。止まってはいけない。
魔王の上空、ほぼ真上にあった極彩色の雲に鮮やかな色が指す。それはほんの一角だが、暗闇の中に輝くそれはガス雲の向こうに透ける月の様。
そこから魔力は渦を成し、真っ直ぐに魔王の元へと下り始めた。
激しく渦巻く焼けた大気に翻弄され、ボンボイルの表皮が燃える。
それ程の威力、今までの物よりも確実に上だ。新型という奴だな。
そいつをここで失わせたことは大きい。その為にここまで来たと言っても過言ではないのだ。
しかし安堵など出来ない。想定していたより大きな威力。それがもたらすものは、当然想定外の災害だ。
ようやく収まった先に見えたのは、円形に焼けた真っ赤な大地と高々と登るキノコ雲であった。
辺りはもう暗くなっている。その暗闇の中に輝く赤い光は、まるで地獄の窯の様にも見える。
大地はマグマと化し、赤く光るキノコ雲から発する雷鳴が更なる不安をいやがおうにも煽る。
「エヴィア! ヨーツケールMK-II8号改!」
揺り籠が使われる可能性は理解していた。
当然、更なる改良型がある事も想像していなかったわけではない。
そんなものを開発している時間など与えはしなかったが、そもそも完成品の後に何の研究もしていないなど考えてなどいない。
それらを運ぶのが彼らの任務なのだろうが、おそらく追い詰められたら使ってくる。死なば諸共という奴だ。
しかし使うには制限がある。そう、高度だ。あれは十分な衝撃を与えない限り起爆しない。だらか空から落とすのだ。
ならばそれを阻止すればいい。
細心の注意を払ってここまで誘導し、一斉に浄化の光を使って攻撃する。
もし上空に留まれば、そのまま浄化の光で撃ち落とす。そして降下するのなら、揺り籠の脅威は無くなる。
そして彼等は想定通り、揺り籠を落とすのではなく低空へと逃れた。
そこまでは正しい。全て作戦通りだ。
だが肝心なところを失敗していた。十分な高度が無ければ揺り籠は使えない……そう思い込んでしまっていた。
「とにかく探さないと。エヴィアは何処だ!? 無事なのか!? ヨーツケールは?」
「――おう……きこ――魔王!」
今は忙しい。そう思うが、突然通信機から聞こえてきた声も無視できない。この声は――ユニカだ。
「どうした?」
「アン・ラ・サムが変なのを見かけたって。場所は魔族領よ。壁の北側」
「浮遊城ボルトニーカじゃないのか? それとも地上部隊――」
いや、状況的になぜ地上部隊が魔属領に入る?
確かに手薄ではあるが、それは相対的にという話だ。魔族領にも魔族――それも魔人がちゃんといる。実際、見つけてじゃないか。
いやでもそれも変か。普通の地上部隊であれば、変なものというだろうか?
今はそんなあやふやなものを気にしている場合では無いかもしれない。しかしこれは聞かなければいけない。そう本能が告げる。
「具体的にはどんなものだ?」
「ええと、300メートル近くて、船に近い形で、それで上には揺り籠が満載してあったって」
「300メートル級? それは浮遊城じゃないのか?」
端折られていたが――いや、端折ったって事は、間違いなくこの世界の常識的な移動手段。それは疑いようもなく飛行機関だろう。それにそれだけの巨体……。
「それは浮遊城ではないずい」
まるで察したように通信機に割り込んできた声。それはウラーザムザザだ。どうやら通信範囲に追い付いて来たらしい。
「ウラーザムザザ、詳しい事を教えてくれ」
「浮遊城とは仕組みも素材もちがうずる。あれに比べると、相当原始的ずな。浄化の光も搭載していないし、出来ないずら」
「いや、そういった事より……」
「人間は陸上戦艦と呼んでいるずぬ。重飛甲母艦よりは遅いずりが、浮遊式輸送板と同じくらいの速度は出せるずは」
「現在の位置は?」
「ケイ・ラグルの門を出て、まだそんなに移動してないって。目的地は多分だけど北の方かなって……」
――やられた。
何処まで計算していたのだろうか。その門の周辺にいた魔人達は、全員浮遊城について行ってしまった。
攻撃する魔人は勿論だが、他も物見遊山だ。あんな珍しいものに、興味を持たないはずがない。
そして多くの魔族も――特に知恵のあるようなやつも全部一緒だ。
他の壁の近い魔人や魔族は、全部南方へ移動済み。こちらはムーオスと、呼応して動いたティランド連合王国の抑えに回ったのだ。
今あの周辺にいる魔族は、魔族とは名ばかりの肉食獣や毒虫くらいしかいない。
そんな状況で、300メートル級の浮遊物体など止めようがない。
諦めるのか……? いや、それはあり得ない。
しかしここまで来てしまった。今から引き返して、果たして間に合うのか?
エヴィアも探さなければいけない。ヨーツケールMk-II8号改の安否も気にかかる。
一つの巨大国家を滅ぼし、億単位の人間を殺し、その結果がこれか?
いや、まだ止まれない。止まってはいけない。
魔王の上空、ほぼ真上にあった極彩色の雲に鮮やかな色が指す。それはほんの一角だが、暗闇の中に輝くそれはガス雲の向こうに透ける月の様。
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