この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

進行

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「……いきなりかよ!」

 嫌な予感をしながらテント……ではなくボンボイルから出ると、そこにはアン・ラ・サムが待ち構えていた。
 互いが互いの周囲を回る三つの玉。生物のような表情は無いが、なんとなくよろしくない情報を持って来たと推察できた。

「「「さすがですね、魔王。今あなたが考えた通りです」」」

「いや、そんなもの褒められても嬉しくねえわ。それで、何があった?」

「「「北方の人類軍が動き出しました。浮遊城もかなりの速度で移動中です」」」

「予想される目標位置は――あ、いや……自分で見た方が早いな」

 天に意識を動かし、地表を眺める。魔族領内にいる大勢の人類軍。それが現在、一つの領域に侵入中だった。
 そこは亜人の森。人類が迷宮の森と亜人の領域と呼んでいる場所だ。
 しかも浮遊城が攻略に参加している!? 冗談だろ?




     ◇      ◇     ◇




浄化の光レイ1番5番6番斉射」

「斉射開始!」

 玉座に座るリッツェルネールの指示を受け、浮遊城前面と左右の球体化あ眩しい光が放たれる。
 それはまるで光の剣。ワイパーのように左右に薙ぐと、大樹や大地が真っ赤に膨張し、轟音とともに弾け飛ぶ。

「見た目は派手だけど――」

 しかし、リッツェルネールは効果が薄い事を重々承知していた。
 確かに強力な兵器であり、十分な被害も出せる。しかし無限に放てるわけではない。
 供給される魔力には限界があるし、この世界の機械は便利な分デリケートだ。飛甲騎兵などもそうだが、案外と故障しやすい。
 実際、左に設置された4番と左後ろの8番は故障中で使用不能だ。

 範囲もまた同様にいえる。
 浄化の光レイの有効射程はおおよそ15キロメートル。
 兵器としては破格であるが、亜人森は300キロメートルを超える。地図全体から見れば、焼いた範囲などほんの一部だ。
 更に言えば――

「もう再生が始まっているな。迷宮の森とはよくいったものだ」

「白き苔の領域もそうですが、魔族領の植物は再生が早い。野菜になるものがあれば、良い金になりそうですね」

 不謹慎な発言をしたミックマインセを、通信士オペレーター席で情報を纏めていたケインブラがじろりと睨めつける。
 リッツェルネールとしては、同じ商人としてミックマインセに賛同していた。商人とはかくあるべきである。

「地上のティランド連合王国軍から連絡だ。当初の予定通り、左右からの侵攻を開始するとの事だ」

「それでいい。今の所、魔王に動きはない。だがどんな移動手段を持っているかも分からない相手だ。魔法魔術は魔族の範疇はんちゅう。各員、気を抜くなよ。準備出来次第、1番5番6番を再斉射だ」

 そう指示をするリッツェルネールの耳元で、ミックマインセが密かに囁きかける。

「魔王は来ると思いますか?」

「報告だと動きはなさそうだが、さて時間差タイムラグはあるし、観測はそこまで確実とも言い難い……ああそういえば、司祭殿に魔王の位置はきちんと教えたのかい?」

「一応は教えておきましたよ。しかしまあ、いなかったら文句の一つくらいは言われそうですね」

「その程度で済むのなら、幾らでも聞いてやればいいよ」




 ◇     ◇     ◇




 予定外の事態に、魔王相和義輝あいわよしきとしては厳しい選択を迫られていた。
 わずか数日で亜人が滅ぶようなことは無い。だが、彼らは鉄砲玉みたいなものだ。領域内に人間が侵入したとすれば、何も考えずに突撃するだろう――そして、それはきっと浄化の光レイの前。相手が相手だ、確実に誘導されてしまう。
 放置すれば、相当数が失われてしまう。

 しかしムーオスがまとまった行動をするとは予想外だった。しかも他の国がそれに連動している……いったいどれほどの情報を見逃していたのか。
 だがここで悔やんでいても仕方がない。
 亜人を見捨てることは出来ない。だが、今ここでムーオスの好きにさせる事は絶対に許されない。これは必須事項だ。

「エヴィア、テラーネ。お前たちの戦闘に関する知識や記憶を、他の魔人に伝達できるか?」

「人間が学ぶより早いけど、それでも数十日はかかるかな。一夜漬けは役に立たないって誰かが言ってたよ」

「だよな……そんな訳でテラーネ、頼むわ」

 エヴィアとテラーネ、そしてテルティルトは、俺の為に戦闘技術を学んだという。それは個人戦のみならず、集団戦術なども含まれる。
 ある意味、俺が指揮するよりも確実だ。

「亜人達に命令して、被害を押さえればいいのですねー」

「ああ。それと急行できる魔人にも連絡だ。亜人の森を守れ。但し――」

「浮遊城は落とすな、ですネー。了解でーすよ、魔王」

 そういうとテラーネの足元から泡立つ影が沸き上がる。魔人ヨーヌだ。
 その瞬間、一瞬にしてテラーネの姿は点となり見えなくなった。相当な速さである。
 そういえば、以前ユニカがヨーヌの乗って移動したと聞いている。いったいどんな感じだったのか、今度聞いてみようと思った。




 ◇     ◇     ◇




 碧色の祝福に守られし栄光暦219年4月15日。
 ムーオス自由帝国の国境東から、ティランド連合王国軍もまた一斉に進行を介した。
 侵攻ではなく進行だ。これは侵略では無いのだから。

 作戦開始は夜明けを待っての開始となった。
 夜の間に進む案もあったが、闇は魔族を利する。早く合流したいのは誰もが同意見だが、ここは逸っても仕方が無いだろう。

 ルートは、ムーオス自由帝国と隣接するランオルド王国からコンセシール商国までの3000キロを超える国境線の全て。
 総兵力は7400万人。前衛3000万人は全員浮遊式輸送板での移動となっている。
 主力部隊は大型武器に分厚い立派な鎧だが、その数はせいぜい300万人。他は一部だけの粗末な鎧や普通の武器となる。
 いくら戦闘国家であっても、魔族領侵攻戦の主力を務めてすぐに四大国同士の戦争。更には現在の主軸は、北方の魔属領に入っている状態だ。これ以上の兵装は望めないだろう。

 本来なら足手まといの民兵を大量に動員した理由は、やはり昨今の社会事情だ。
 なんとか現状維持の形を取りたいカルタ―であったが、結局民衆自身が求める形となったのだ――我らを死なせろと。


 こうして進軍を開始した連合王国軍であったが、ほどなくして熱烈な歓迎を受ける事になる。もちろん、相手は人類同胞でなはい。
 大地のあちらこちらには巨大な巣穴のような穴が開き、各所に数メートル級のフジツボのような貝が無数に並ぶ。
 彼等は近くに人間が来ると、まるで待っていたかのように襲い掛かった。
 巣穴からはゴカイやムカデのような蟲や蟹が飛び出し、フジツボのような魔族は半透明な触手を伸ばす。
 それに刺激されたのだろうか、くちばしに猛毒を持つ大型の肉食鳥が群れを成して飛来する。

「まるで魔族領じゃないか!」
「これほどまでに汚染されていたのか……」
「迎撃! 迎撃せよ!」


 各所で戦闘が始まった事を、カルタ―は本体中央に位置する浮遊式輸送板の上で聞いた。
 剥き出しの甲板上には簡単な風除けが設置されているが、天井は剥き出しだ。
 報告の聞きやすさや指示の出しやすさでは密閉型の装甲騎兵の方が上だが、どうしても乗れる人数には限りがある。あれは18人程度で満席だ。
 一方で、浮遊式輸送板なら通常で60人。機材を満載しても40人は乗れる。とはいえ、作戦規模を考えれば、これでも不足している。
 周囲には同様の浮遊式輸送板が隣接し、ここはさながら移動する中枢といった様子であった。


 前線では不慣れな将兵が苦戦していたが、カルタ―や側近は冷静に状況を分析していた。

しばし各隊の好きにやらせろ。実戦を知るにはいい機会だ。だが警戒は怠るなよ……いつ何が来るか分かったものじゃないからな」

「かしこまりました。各隊に通達! 予定通り、殲滅しながら進行せよ」

 カルタ―の命令を、参謀長のミューゼ・ハイン・ノヴェルド・ティランドが伝達する。

「とにかく蹴散らしながら進むしかねえな」

「領域解除の手間が無い分、行動は至ってシンプルです。ただ進むだけですね。ただ損害は……想定以上です。これほどまでに魔族が巣を作っているとは……」

「領域戦はそもそもそんなものだ。変わりゃしねぇよ」

 今までも様々な領域戦に参加してきた。ただひたすら武器を振るい、進む。
 戦っているだけの人生だった。それだけでよかった。なぜ、自分は生き残り、王などになってしまったのだろうか……。

 各隊の損害報告を聞きながらそんな事を考えていたカルタ―の下に、通信兵が読み上げる緊急電文の内容が響く。

「北部壁沿いを進んでいたロマジン王国軍が、浮遊城イウヌ・ドスを目視したとの事です!」

「どんな様子だ。地上部隊は追随しているか?」

「そ、それが…………」

 通信兵の目が、通信文とカルターの間を泳ぐ。
 一瞬期待したカルターであったが、それが朗報でない事は明白であった。
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