この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

始動 後編

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「これ以上、俺を無能にするのか?」

「ここまでの短期間で、非常に激しい戦いを繰り広げてきました。特に我が国は魔王討伐……いえ、これは幻だったのですが、とにかく最後と思われた魔族領討伐戦に参加。その後はジェルケンブール王国との総力戦。そして今また魔族領への侵攻。もはや経験豊富な将兵も少なくなりました。長く続いた魔族領遠征により、名だたる将兵がもはやどれ程おりますか。先だっての大戦の国内への侵攻。あれにより、優秀な内務の人間もどれ程数を減らしたか。今後も時間が経てば数は幾らでも増えますが、質を増やすことは困難でしょう」

「ならばお前が残ればいい。古来より、長く生きた総指揮官は死してその位を譲るものだ」

「私はもう十分です。ここまで永らえただけでも望外なのに、こうして地位まで得ました。しかし、限界もまた見えました……」

 170センチ後半と、小柄なリンバートよりも背は高い。しかし、その見た目から受ける力強さは逆だ。何といっても厚みが違う。
 盛り上がった隆々たる筋肉のリンバートと違い、グレスノームは線が細い。病弱であった彼は、本質的に“肉”がつかなかった。
 それはこの世界においては、大きなコンプレックスでもあったのだ。

 それが解っているため、リンバートは何も言えなかった。
 結局のところ、人材不足は深刻だ。
 もちろん、一人や二人の才覚が世界に与える影響などたかが知れている。二人死んだところで、その地位は新たな二人が埋めるだけだ。
 だがあまりにも短期で入れ替えが続くと、質の低下は深刻なものになる。そして今、それは深刻な様相を見せ始めていた。
 社会事情を考えれば、どちらかは生き残るべきだというのは両者ともに共通した認識であった。




     ◇      ◇     ◇




 碧色の祝福に守られし栄光暦219年4月15日。
 空が明るくなると同時に、ムーオス自由帝国軍が各地で一斉に動きだした。
 その報告を魔人ボンボイルのテントの中で聞いた魔王相和義輝あいわよしきは、認識の甘さを思い知った。
 ここは白き苔の領域から南。もう肉眼でも、人間と魔族領の境の壁が見える。
 ムーオス自由帝国が活発に動き始めたと知らせがあった時点で、もう十分な準備はしていた……つもりではあったのだが。

「それで、どんな感じなんだ?」

「包囲され抵抗していた拠点から、一斉に東を目指して突撃していマースね。軍隊を先頭にして、全ての民間人も追随していまーす。まあ、動けない者は置いて行ったか、希望塚で焼いたようですねー」

「馬鹿な事を……」

 いや、それは予定外の事をした件に関してそう思っただけだ。
 包囲したまま座して死ぬだけ……それは彼等も知っていた。当然だ。
 だけど、自暴自棄になって突撃したところで何も変わらない。死ぬ時期が早まるだけだ。自殺といって良い。だから彼らは動けない。
 だからこそ、打開する時を待っていたのだ。当たり前だ。

「地上部隊までが動くとはね……考えが及ばなかった俺が愚かだったな」

 だが彼らの目論見は成功しない。多くの人間が屍を晒し、魔族の餌となるだろう。
 しかし魔族の数も無限ではない。統率もいい加減だ。人間の死骸を食べている内に、逃げおおせる者も出るだろう。
 その中に揺り籠の技術者が混じっていたら最悪だ。

「地図を出してくれ」

 床一面に真っ黒いヨーヌの体が広がり地図を作ると、その上にテラーネが幾つもの小石を置いて行く。
 長い逆三角形の上に置かれる小石群。結構な数だ。だが――、

「改めて見る限り、内陸の方は緊急の案件ってほどでもないな。それより国境付近だ。ヨーツケールMK-II8号改もいるんだよな?」

「ヨーツケールMK-II8号改は浮遊城イウヌ・ドスに向かうと報告があったよ」

「ここですねー」

 テラーネが国境付近に置かれた大きな石を指し、その横に蟹型に削った石を置く。器用だな。

「大抵のものは作れまーすよ。もっと時間があれば―、沢山作れますねー」

「いや、その辺りは拘らなくていい」

 しかし浮遊城に向かったという事は、かなめが一つ無くなったという事だ。他にも魔人がいるとはいえ、手薄になるのは否めない。
 生存者の一斉突撃を、果たしてどこまで防げるか……。

「ん?」

 珍しく、エヴィアが天井を見上げる。そこにあるのはボンボイルの顔ではあるが……。
 なんだろうか? 嫌な予感しかしねぇ……と思っていると、真顔でエヴィアがこちらを向き――、

「魔王に残念なお知らせかな。国境のコンセシール商国にいた人間の軍勢が動き出したよ。ティランド連合王国だったかな? 少なくとも5千万以上と報告が来たね」

 右てのひらで顔を抑え、天を仰ぐ。

「冗談だといってほしいよ……」

 今更ながら、それだけの人間が動くと言う事自体を想像できない。
 小国の人口に匹敵する数だ。それが一斉に、戦うために動く。
 地球では到底考えられないが、ここは違うのだ。目の前でやられている以上、受け入れて対応するしかない。
 そもそも――、

「億単位で人を殺している俺が言う事ではないな……。南下する。必要に応じて俺も戦う事になるな」

「魔人がさせないかな。大丈夫、信じてくれていいよ」

 真摯なエヴィアの瞳。だが何だろう……嫌なフラグが立った気がした。
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